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権力系ホモ★グリス王国編

修羅場とか無理ポヨ

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お城の一角、人が10人くらい入れる会議室。俺は綺麗な木製のテーブルを挟んで、王国騎士団長と向き合っていた。
テーブルは大きな正四角形で、右にはセキ。左には顔の怖いロイが座っている。
『弟はやらん!!』って言われると思っていたのに、俺を威圧するような空気は微塵もない。むしろ、ロイが騎士団長を威圧しているように感じる。
無表情兄弟の喧嘩(?)、超こわい。

「……単刀直入に申し上げましょう。アヤマ様、貴方をお慕いしております。どうかお側に置いてくださいませんか」
「……えーっと、まぁそれはちょっと想定してたんで、別に驚くとかじゃないんですけど…。その……兄弟的にマズくないっすか」

ちょっと分かってはいた。強面だし体デカいし凄く強いし無口だし、初対面の時はビビったけど、見た目通りの怖い人じゃない。多分、シャイなんだと思う。
好意に関しては、目線や雰囲気で何となく分かるもんだ。ヤンデレズに求婚されてから分かるようになったんだけどな。
だから王国騎士団長が俺に告白してきても、驚きはない。覚悟はしていた。

だけど問題が1つある。そう、王国騎士団長がロイの兄ちゃんって事だ。
つまり兄弟間での、コージ・アヤマ争奪戦が幕を開けてしまった。
何というか………スッゲェ申し訳ない。俺のせいで仲良い兄弟が対立してしまった。罪悪感で胃がキリキリ舞だ。
うぅ……。こんな場合、俺は一体どうしたら良いんだろう……。どっちか一方を選べば、もう仲直りは出来ないかも知れないし、かと言って、煮え切らないままって言うのもなぁ。
やっぱり、どっちもお断りって言うのが最善なのかなぁ。でもさ、仮に断ったとして、ロイと気まずくなって話せなくなるのは本当に嫌なんだ。
俺、ロイの事、友達として大好きだから。セッセしても良いって思えるくらいにはライクだから。
だからロイと気まずくなる可能性のある『どっちもフる』って選択は、あんまりしたくない。かと言って、どっちかを選べば、兄弟の関係が決定的に壊れちゃう。

………う、う、うぉあ~~~~~ッッッ!!!! 誰か助けてェーーーーーッッッッ!!!!!

「……………………酷いよ。応援するって言ってくれたのに。兄さんが相手じゃ、勝ち目なんてないのに。……嫌い、だいっ嫌いだ!!! このクソ野郎!!!!」

ガタッ

「ロイ…、ロイ待て。聞いてくれ」

あっあっあっあっ! ロイの鉄仮面がちょっと崩れた!! 誰がどう見ても怒ってる!! てかロイ、そんな激しい口調出来たんだね!?
いやいやいやどっどどどどうしよう!? あのロイが! 仮面能面鉄仮面のロイが!! 眉毛を動かして怒鳴ってる!!! 机に手をバァンってついて、大声で!! 普段怒らないからギャップで超こえェ!!!
あう……お、落ち着けロイ~! そんな顔すんなよ~! 俺、ロイの兄ちゃん選んだりしないぜー!? ロイも選ばないけど……。

「なんで…なんでよりによってコージを! 兄さんなら、兄さんの力があれば、世界中の綺麗な人と結婚出来るだろ…!? なんでコージを! なんで、俺の好きな人を……!!」
「落ち着けロイ…。座って、話を聞いてくれ」
「うるさい!! 全部を持って生まれたのに、まだ欲しがるなんて…!! 俺は何も持てなかったのに!!!」

今にも泣き出しそうな、絶望した声音で叫ぶロイ。悲しみと怒りがひしひしと伝わってきて、俺は悪くない筈なのに、すっごく申し訳なく思えてきた。

オーディアンギルドで、色んな冒険者さんから、色んな噂を聞いた。ロイ本人からも、おしゃべり程度で聞いていた。




ロイが生まれたのは、『英雄一家』で有名なビーターさんの家。

お爺ちゃんは『英雄、ニコラス・ビーター』。世界中で悪さをしていた上位魔人5体を倒した、人類の英雄。
お父さんは『伝説のS級冒険者、ラドルフ・ビーター』。危険度10、適正レベル100以上の、超危険なダンジョンをいくつも渡り歩いて、神話級の武具防具、お宝を山ほどゲットしてきた。
兄ちゃんは『人類初の世界序列入り、アルバート・ビーター』。ある日いきなり、序列3位の天使族始祖…世界の管理者の1人がやってきて、世界序列100位に認める事を世界中に宣言した。

お母さんがロイを妊娠した時、国中が沸き立った。次はどんな凄い子が生まれるんだろうって。どんな伝説を作ってくれるんだろうって。
でも、生まれたロイは病弱だった。
今でこそ、1発殴ったら30発殴り返してきそうな無表情バーサーカーではあるけど、子供の頃はしょっちゅう熱を出していたらしい。
お爺ちゃんも、お父さんも、兄ちゃんも、今は離婚しているお婆ちゃんとお母さんも、ロイを可愛がった。
初めてビーター家に生まれた『子供らしい子供』なんだから、当たり前だ。5歳で既に化け物染みていたっていう、お父さんや兄ちゃんとは似ても似つかない、よわよわな子供。俺が家族の立場でも、可愛がったと思う。

だけど、ロイを歓迎したのは家族、だけ。
上位魔人100体くらいをぶっ飛ばす子供を想定していた国と世間は、ロイの誕生を祝福しなかった。
勿論、表立って言う人はいない。ビーター家を敵に回す発言は、みんな避ける。
ヒソヒソ、ヒソヒソって、陰口をいっぱい言われたらしい。それはロイが魔法学校に入ってから、顕著になった。
身分の低い人達は、英雄一家のロイにゴマをスリスリ媚び媚びして、身分の高い人達は、ロイにわざと気付かれるように、酷い事を言ったりしたらしい。
うん、サイテーだ。特に酷い事を言った人達は、多分人間じゃない。

確かにロイは、お父さんや兄ちゃんに比べると弱いかも知れない。
でも、今のロイはA級冒険者だ。冒険者全体の中でも数%しかいない、強い冒険者だ。兄ちゃん達と比べれば、人類の99%が弱い。
ロイは、熊の横に立つマッチョマンだ。
熊に目を奪われてマッチョマンが小さく見えるけど、単体で見ればマッチョマンもデカいだろ? それと同じだ。
ロイは充分強いんだ。ちょっと、過度に期待されただけ。

ロイは、世間からの冷遇で受けたダメージを、家族からの愛情で埋めていた。
ダメージと愛情はバランスが取れていた。ダメージが今より少しでも多ければ、ロイの心は壊れていたし、愛情が少しでも多ければ、もっと自信家になっていたと思う。
つまり、バランスが取れていたから、ロイは中傷や冷遇に耐えられたんだ。

でも、たった今、そのバランスが崩れた。
大好きな兄ちゃんが、自分の好きな人(俺)を奪おうとしてる。信じてた兄ちゃんが、自分が好きだって知ってるのに、目の前で俺に告白した。
大好きな家族に、信じてた兄に、支えてくれた人に、裏切られた。その絶望は計り知れない。
俺に置き換えてみると……、勇輝か、康太郎かな。好きな人を勇輝か康太郎に奪われるって考えると……ムムム、幸せになって欲しい。ちょっと悲しいけど、大好きな女の子と大好きな親友か弟がお付き合いするなら、俺、全力で応援しちゃう。
でもロイはヤンデレだからなぁ。ガチだもんなぁ。


「コージ……、コージは、俺を捨てないよな? 兄さんを選んだりしないよな…!? おれ…、俺コージに捨てられたら……!!」
「ももももちつけロイ! ダイジョーブだから!! 捨てないし選ばないから!!」
「選んで頂けないのですか?」
「騎士団長さんはちょっと黙ってて!」

不満そうに口を挟んだ騎士団長は置いといて……、まずはこの情緒ぐちゃぐちゃなロイをどうにか落ち着けなければ。
そうと決まればギュッとハグだな! ハグはええぞ。癒されるぞ。
ぎゅ~っとな。

「よしよーし、はいひっひっふー! ロイは心配性だよなぁ。そんな焦らなくても、俺はずっとここにいる予定だぜ。逃げも隠れも捨てもしないって!」
「ホント? 嘘じゃない?」
「嘘じゃない嘘じゃない。てかさぁ、ロイは俺のこと、『ロイの兄ちゃんの方が強いから、兄ちゃん選ぶわ! ロイバイバーイ』って言うような奴だと思ってるわけ?」
「は? コージは絶対にそんなこと言わない」
「おぉう強火…。でもマァ、そうだろ? 俺が友達として大好きなロイを捨てる訳ないだろ?」

そう言ってニッカリ笑ってみせると、俺の背中に回された腕の力が抜けた。
表情(そんなにないけど)から察しても、とりあえずは落ち着いたみたいだ。安心して甘えん坊モードなロイのスリスリ攻撃を受け入れつつ、今度は騎士団長の方に向き直る。
騎士団長は、ちょっと羨ましそうにこっちを見つつも、大人しく座っていた。

「えっと…、騎士団長さん」
「どうかアルバートと」
「アッはいアルバートさん」

あ、口角がちょっと上がった。無表情気味ではあるけど、ロイよりは分かりやすいな。
でも、何回か会話をした程度の仲だし、どこで好きになられたかも分からん。まだちょっと不安定なロイを刺激しないように、丁重にお断ろう!
さぁ、唸れ俺の話術!!!



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