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権力系ホモ★グリス王国編

はい復唱。おネコ様は神様です!

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庭園にて。
意図的に隠された道をずんずん進み、木々が生い茂る庭園の端っこまでやって来た。
俺は完全に冒険気分でワクワクだが、ルークさん達は…、うーん、のほほんとしている。
元々ルークさんはお花とか小物とかが大好きなプリティー熊さんだがら、綺麗な庭園を見て、のほほんってニコニコしてるのは分かる。
けどロイとセキは花見ても『花だ』みたいな感想しか持たなそう。
…なのに、なんでそんなにも微笑ましそうに俺を見ているのか。いやロイは無表情なんだけど。

「なんだよニヤニヤしちゃってさ」
「ごめんね。何だか近所を探検するちっちゃい子供を見てる気分で」
「むっ!」
「両手を大きく降ってずんずん歩くコージが愛いだけだ! 気にするな!!」
「むむっ!」

褒められてるのか貶されてるのか。
俺的にはちびっこ扱いされてプンスカだけど、セキセイオウからしたら俺赤ちゃん同然なんだよな~。
ロイも年上だし、そう思うのは仕方ない…か……?

「コージくん、見えてきたよ」
「お? あれは…、あずまや?」

ルークさんの指差す方向には、木々に隠されるようにしてポツンと白いあずまやが立っていた。
木漏れ日に晒されて、キラキラ神秘的な雰囲気だ。

俺達はそのままのそのそと近付いて、完全に木々の中に隠れてしまった。
誰かが探しに来ても、このあずまやを覗こうとしない限り、偶然見付けたなんて事は起きないだろう。
うん、良い隠れ場所だ。集会には持ってこいだな。

さっきの謎の小動物は…あ、いた。あずまやの奥に……。



ネコチャン!!!!!!!!!!




「む、小動物とは猫だったか。…おや」

ルークさんが冷静に呟いて、周囲を見回す。そしてニッコリと笑った。
牙が怖いとかは言っちゃダメだぞ。しょんぼりしちゃうからな。
俺はというと、追い掛けていたターゲットであろう白黒のネコチャンに内心大興奮で、ひたすら日向ぼっこしてるネコチャンを見詰めていた。
ネコチャンはええぞ…。

そんな俺が異変に気付いたのは、ロイが無言で俺の肩を叩いた時。
ネコチャンを視界から外す事を残念に思いながらロイの方に振り返ると、ロイは口をポカンと開けて、上を見ていた。その後ろでセキセイオウも上を見ている。
釣られて俺も上を向くと、もう耐えきれずに叫びそうになった。

ネコチャンがいっぱい。
山盛りのネコチャンが木の枝に乗って、俺らを見ていた。
多分30匹はいる。ネコチャンが30匹。俺は萌え尽きる寸前だ。

「ね、ネコチャン……。ネコチャンかわぃ…ねこちゃ……しゅき……」
「コージ。語彙力を失っている所悪いが、後ろにもいるぞ。囲まれてる」

セイの言葉にバッと振り向くと、10匹くらいのネコチャンがとことこ向かって来て、俺らに『にゃー』と鳴いた。
俺は泣いた。素晴らしい。やはりおネコ様は神だ。

いや俺別に猫派って訳じゃないのよ? 犬も猫も狐も狸も兎も熊もカピバラも大好きよ?
ただ…、なんて言うんだろう。猫に対しては極端に甘やかしたい欲が出ちゃうんだよな。
気まぐれネコチャンに振り回されたいんだよ。
なんてったって肉球がモチモチ。犬の肉球はザラザラで、大人になるとちょっとだけ硬くなるけど、猫は大人もモチモチサラサラ。
やっぱ肉球の違いはデカいよな。

あ、だからって猫が1番好きって訳じゃないからな?
犬には犬の良さがあるし、猫には猫の良さがあるし、カピバラは可愛い。
犬は親友として仲良くなれるけど、猫は…、ほら、あれだよ。女王様だよ。
犬ほどスキンシップは出来ないけど、そこがまた…たまらないって言うの?

つまり、ネコチャンしゅき…。

と、俺が萌え萌えキュンキュンになっていると言うのに、ロイのお顔は青い。
こんなに可愛いのに。

「どーしたの? アレルギー?」
「いや…、小動物とは言え、こんなに囲まれるとちょっと…、軽くホラー」
「えー!? こ、こんな可愛いのに…!? ネコチャンなのに!? もしかしてネコチャン苦手!?」
「そういう訳じゃないけど…、え? 普通に怖い気が…。あれ? 俺がおかしいの?」
「おかしくないよーロイ~。俺もちょい怖い。つか結構怖い。弱い小動物のクセになんだこれちょっと待ってわぁぁぁぁめっちゃ来ためっちゃ来た待て待て待てムリムリムリ登ってきたぁぁぁぁ」

更にネコチャン増援。オウとロイの体によじよじ登ってるし、俺の足元にも何匹ってすり寄ってきた。
ぐぅぅぅ、クソ。萌えだわ。これは萌えだわ。どうしたのネコチャン。甘えたいのネコチャン。可愛いねネコチャン。

よし、せっかくあるんだ。『全言語理解』、発動!!

『んだよオメーらぁ』
『にんげん、おやつちょーだい』
『なでなでしてもいいんだよー』
『だっこしろ~』
『コイツ顔こえー』

あぁ~ワガママかわいぃ~!! マイペースかわいぃ~~~!!!!
でも最後の子はあんまり言わないであげて…。ルークさん、意外と繊細なのよ…。
この『全言語理解』、耳にはにゃーにゃーとしか聞こえないんだけど、頭の中でにゃーが何を表してるか、理解できる感じ?
可愛さ限界突破ですわ~。
んじゃ、俺もお話させてもらいますかね!

『みんな、こんにちは~。ここで何してんの?』
『おっ! なんだオメー! 俺らの言葉わかんのか!』
『分かるんだぜ~。あそこのネコチャン追い掛けてきたんだけど、ここで集まって何してるの?』

しゃがみこんで、ネコチャンと目線を合わせる。すると俺の周りにネコチャンが集まってきて…、ここが天国か?
俺とネコチャンがにゃーにゃー言い合う様子を見て、デレデレになってるルークさんの方は見ない。

『おしゃべりだよ。おやつくれるにんげんとか、ぽかぽかスポットとか、飼い主のグチとか、いろいろ~』
『そうなんだ! 可愛いねぇ~。……ん? 飼い主? 飼い主さんがいるの?』

右手でお腹を見せてくれたネコチャンをもふもふ撫でながら、左手で別のネコチャンののどをもふもふ撫でる。ゴロゴロ甘えちゃって、可愛いなぁ。
あ、ぺったんこになっちゃった。気持ち良すぎたのかな。ホンット可愛い。とろけても可愛い。
ネコチャンは液体です。

でも、飼い主がいるんだ? …まぁそうだよな。野良猫が王城の庭園をふらふら散歩してるとは考えにくいしな。
でも、こんな50匹近くのネコチャンを飼う人が城に…?
ここの城の人がみんな猫好きなだけ?
でもまぁ、こんな丸々ぽってりしたネコチャンを飼ってる人だからな! 良い人なんでしょう、きっと!
猫好きに悪い人はいない!


『えっとな、あ、アイツ! 俺らの飼い主!!』
「…コージくん、急いで『精神不干渉結界』を張りたまえ。私達全員に」


あ、はい訂正します。猫好きにも悪い人はいます。
例えばどこかのインテリメガネ魔導師団長とか。

「おやおや…、聞き慣れない鳴き声がすると思ったら、猫とお話していたのかな、コージ。図書室以来だね」

あずまやの奥、木の間から顔を出したのは、俺を洗脳して愛妻にしようとした、紫のアシンメトリーの愛妻欲しがり課金キャラ野郎…、インテリメガネだった。

ニッコリと笑うその姿は、本当にアニメキャラ顔負けだが、俺にとっては恐怖以外の何物でもない。
洗脳対策に『精神不干渉結界』を全員に張って距離を取ろうとしたが、お腹を見せてゴロニャンするネコチャンに腕をホールドされてしまい、仕方なく俺は両手でネコチャン達をもふもふしながらインテリメガネを軽く睨む。

緊張感が漂う時に、少年がインテリメガネをピリッと睨みながら、しゃがんで両手は高速なでもふ。
端から見たら結構シュールだ。




********************



ー地球 日本ー


「吉川くんがいなくなった?」

北海道、某空港。
最近暖かくなってきたとは言え、19時を過ぎれば外は暗い。この墨汁を垂らしたような闇には、土砂降りの雨も含まれていた。
おかげで外はまさに一寸先は闇である。
空港の人のざわめきにも負けない雨音が、電話先で困ったように報告する瀬戸くんの声を掻き消そうとしている。
ぼんやりと光る滑走路を見詰めながら、雨と雑音の中から瀬戸くんの声をより認識しようと、強くスマートフォンを耳に押し当てる。

強烈な春の嵐に苛まれ、東京行きの便に搭乗する筈だった私は、空港で足止めを食らっていた。

『柿沼先生の所に連絡とか来てませんか? 1ヶ月程前…、春休みに入った直後に消えたと推測されているのですが』
「いや、私の所には何も。…1ヶ月前って、結構経ちますね。捜索届けは」
『勇輝の両親が出しました。父親は1年の単身赴任中で、母親は医者としてアメリカに。家には勇輝だけだったようです』
「それは…、自殺の線は?」
『クリスマスの日にじろちゃんが俺達の夢に出てきましたよね。あれ以来、勇輝も立ち直ったと思い、両親も家を空けたらしいです。実際、勇輝はじろちゃんが死んじゃう前に戻ったようでした。自殺したとは俺も思いたくないですし、警察も自殺ではないと』

待合室に置かれたテレビから、気象予報士の高い声が聞こえてくる。
明日明け方まで、嵐は続くと。
後ろに座っていた若い女が、真っ赤な口紅を小さなバッグから取り出したのが、窓に反射して見えた。

「……それで、どこに行ったのか、検討は」
『それがまったく。じろちゃんの家、どこにあるか分かりますよね』
「中学の時は担任だったから、引っ越してなければ」
『勇輝の家はじろちゃんの家の隣なんですが、駅方向に行けば途中で公園があります。ですが公園の監視カメラに勇輝は写っていなかった。あの道を通る以上、カメラに写らないのは不可能です』
「うん、確かに」

椅子の背にもたれ掛かって白い天井を見詰め、康治郎くんのお家周辺を思い出す。
康治郎くんに心を奪われた直後から、康治郎くんが3年生に上がるまでの間は、よくストーカー染みた事をしていたものだから、あそこらの地理は完璧だ。
防犯カメラの位置も把握している。
隣の家が吉川くんだったのも覚えている。
家庭訪問に行った時は、康治郎くんの家に吉川くんが。吉川くんの家に康治郎くんがいた。
彼らの親密さにはよく嫉妬していたな。

しかし今は康治郎くんを求め続ける仲間に過ぎない。彼は康治郎くんを失くした人達の中で、最も危うかった。
また康治郎くんの小さい頃の写真を見せて貰う為にも、何かしらに巻き込まれてなければ良いが…。

『駅方向ではなく、商店街の方向へ向かった時、道中マンションが建っているのは知っていますか』
「…あぁ、茶色の15階建ての」
『それです。あのマンションはオートロックで、エントランスとゴミ捨て場に監視カメラが設置してありました』
「……写っていなかったんですか?」
『はい。最後に会ったのは俺ですが、俺と別れた後の日付から現在まで、全部調べました。マンションのカメラも、公園のカメラも、駅のカメラも、コンビニのカメラも全部、日付を遡って調べました。でもどこにも写っていなかった』
「…消えたんですか」
『えぇ、煙のように』

なんだかホラー染みた展開になってきた。
この嵐と不気味に光る蛍光灯も合わせて、雰囲気は抜群だ。
吉川くんの家から、公園とマンションの前を通らずにどこかへ行くのは不可能である。
それこそ、塀を伝ったり屋根に登ったりしなければ、どこかに行くには…。
あるいは、監視カメラに写る前の道路で車に乗ったか。

『不審な自動車も写っていませんでした。勇輝は相当鍛えていたみたいなので、誘拐も考えにくい』
「うん、身代金要求とかが無ければ誘拐は…。私が犯人なら吉川くんはまず狙いませんね」
『……柿沼先生、今どこにいるんですか?』

少しの沈黙の後、瀬戸くんが尋ねてきた。
空港アナウンスで離陸の目処が立ったと、柔らかな女性の声が空港に響いた。
天候の変化は仕方がないと分かっている。分かってはいるが、一刻も早く帰りたい身としては多少の苛立ちを抱えてしまうものだ。
スタッフの者に当たったりはしない。いい大人だから。
アナウンスと共に安堵したかのような声が待合室に響き、各々が荷物を持って立ち上がる。
後ろの女もファンデーションをポーチに直し、目に優しくないピンク色のキャリーケースに手を掛け、脱いでいた赤いハイヒールをしゃがんで履き直した。

「親戚の葬式で北海道にいます。今から飛行機で帰りますよ」
『この天候で飛ぶんですか? こちらもですが、そちらもかなりの悪天候ですよね?』
「えぇ、少し足止めを食らいましたが、何とか飛ぶようです。もう搭乗するので、後は帰ってから話しましょう」
『分かりました。…あぁ柿沼先生、最後に少し』
「はい?」

チケット確認の列に並ぼうとして、足を止める。
ピンク色のキャリーケースを持った女が、私を追い越して列に並んだ。
遠くの空が一瞬光り、家族連れの男の子が母親の足にしがみつくのが視界の端で見えた。
天候は先ほどより悪化している気がする。とうとう滑走路の光も見えなくなった。

『勇輝が消える前に俺に言ったんです。【俺はそろそろ呼ばれるから、よろしくな】って。他にも【他の奴も何人か康治郎の所に行くみたいだ】って。勇輝はもしかしたら、自分か消える事を知っていたのかも知れないんです。今の所、三島、奥野、谷川、杉山とは連絡が取れていますが、樹さんと華原さんは既読も付かず、電話にも出ません。ですから、気を付けてください』
「………分かり、ました」

一瞬、動揺しながら列に並び、瀬戸くんに礼を告げて通話を切る。
チケットを見るスタッフは見るからに疲れており、若い女はイライラしていた。
遠くの空はやはり墨汁のような闇で、光った稲妻は私を歓迎しているようだった。



********************




「堕ちた」
「は?」

ファストフード店で集まった俺達。
白いテーブルを3つ合わせて、奥野と谷川と杉山をソファー側に。俺と三島は白い椅子に座り、勇輝の事について話す予定だった。
が、じろちゃんの事しか考えないアホ勇輝を茶化す集まりは、勇輝とじろちゃんの元担任の訃報を知らせるものになってしまった。
ハンバーガーを齧る杉山の手と口が止まった。

「柿沼先生が搭乗してた北海道発の飛行機が、昨日の夜、墜落した」
「……マジ?」

谷川が震えた声でジュースを置く。
奥野は顔を青くして俯いた。
スマホを操作していた三島はゲーム中だったにも関わらず、電源を切って呆然と俺を見る。

「それって…今朝のニュースの」
「うん。直接的な原因は巨大な落雷らしいけど、昨夜は横風も酷かった。通常なら余裕で欠航になる筈の風速だったのに、何故か飛んで、そんまま墜落。乗員乗客の安否不明。でも多分全滅」
「………………………」
「航空会社はパイロットの判断ミスだって言ってるけど、そのパイロットももう死んでるだろうし。…これで二人、いなくなった」
「………………………」
「樹さんと華原さんとは連絡が取れない。二人の実家とかに確認したけど、帰ってきてないって」

通夜のような空気だった。
樹さんと華原さんの安否は分からないが、次々と死んでいる。消えている。
他人事ではない。俺達だってそうなる。
じろちゃんの仕業ではない。じろちゃんが俺達を殺そうとする訳がない。
きっと、じろちゃんの面倒を見ているって言う神の仕業だ。
じろちゃんに会わせる為に、勇輝をこの世から消して、柿沼先生の乗った飛行機を墜落させた。
まるで邪神だが、勇輝もじろちゃんに会いたがっていたし、柿沼先生もじろちゃんに酷く執着して、完全に立ち直ってはいなかった。
言ってしまえば、両者とも死にたがっていたんだ。

俺は多分死なない。じろちゃんに、凄い新事実を解明して、教えてあげるって約束したから。
奥野も谷川もまだ死なない。2人は生きたがってる。生きがいを見付けて、それを楽しんでいる。
杉山は死ぬだろう。じろちゃんに意地悪して構って貰う事を生きがいにしていたような男だ。今死んでも未練なんてない。
三島は…、分からない。立ち直ってはいない。しかしゲームという生きがいはある。じろちゃんに執着して、今すぐ死にたがっている訳じゃない。

…なんて、予測立ててみるけど、俺には神の考えている事なんて分からない。
じろちゃんに関係のある人はみんな殺すかも知れないし、何か他に基準があるのかも。
ただ、勇輝が消えたのも、柿沼先生が死んだのも事実だ。

死ぬのは怖くない。
じろちゃんに会えるのなら本望だ。

ねぇ勇輝。じろちゃんといるの?
柿沼先生も一緒?
もしそうなら、ホントに羨ましいよ。俺もそっちに行きたい。
……でも、俺は動物学と海洋学と天文学を極めなきゃだからさ。
俺が死んだ時は、また遊んで、話して、一緒にいてね。




********************



色々あって気が狂いそ~~~~~!!
図々しくて申し訳ないけど言います。
感想くださ~~~~い!!!!!(白目)




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