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権力系ホモ★グリス王国編

なんか真面目な展開になって参りました

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ー帝国某所ー


「それで…勇者達の能力はどうだ?」
「あぁはい。6人中4人は正直言って使えませんね。特にナナ・ハシモトはスキルが2つしかありませんし、シュンスケ・コジマはよりにもよって祈願属性の1属性のみ。捨て駒が妥当でしょう」
「……使える2人は?」
「ユーキ・ヨシカワとケンゴ・ダイドウジです。今はまだレベルが低い為、前線に送り込むのは不可能でしょうが、成長すれば歴代の勇者達を軽くしのぐかと。ユーキ・ヨシカワは魔王に匹敵する可能性も充分に」
「今回の召喚は成功だな。いつも通り、母国に帰る方法は敵地にしかないとでも言って戦わせろ」
「はい。…ですが、その」
「なんだ」

「今回の戦争で主戦力になりそうなユーキ・ヨシカワとケンゴ・ダイドウジですが、どちらも厄介でして」
「厄介ぃ? たかが平和ボケした国のガキに何を…」
「ケンゴ・ダイドウジは札付きのワルだったようで、とにかく横暴です。既に3人の兵士が重症で、メイドを部屋に押し込み楽しんでいますが…」
「放っておけ。親元を離れて寂しがっているただの悪ガキだ。上手いこと漬け込んで戦争に引っ張り出せば古龍と相討ちくらいにはなってくれるだろ」
「え、えぇ。ですがユーキ・ヨシカワはそうでもなく…。……親や母国を恋しがっている様子はありません。むしろこの世界にいると言うコージ・アヤマに大変執着しているようで…。異世界への帰還も娼婦の誘惑も富も名誉も、まったく耳に入っておらず、どう扱って良いやら…」
「……………それはまた、厄介だな……」






********************






「たったら~! い~ね~!」

思い立ったが吉日。
四次元ポケット、ではなく、祈願魔法で生み出したのは育った状態の稲! を3株!!
中学生の頃、自由研究で茶碗一杯の米は稲2.5株って調べたからな! ちょっと多めに3株出したぜ!
やってて良かった、自由研究。

「これがコメか?」
「あー、えっと、精米って言って、この皮みたいなのをムキムキするんだ。そうすると白い生米が出てきて、それを炊くと、食べられる米の完成!!」
「ほぉー…。坊主、これ貰って良いか? 上手く出来たら食わせるからよ!」
「……!!! うん!! お願いおっちゃん!!」

料理人魂が刺激されたのか、目をキラキラ輝かせて稲を掴むおっちゃん。
ぜひとも頑張って、俺に美味しいお米を食べさせて欲しい。その為なら俺、何株でも出しちゃう!!

「ロドリゲス料理長、時間です」
「おっと…。じゃ、またな坊主! 新食材の提供、ありがとよ!!」
「うん! ばいばーい!」

おっちゃんが立ち去って、もぐもぐタイム再開! …と思ったけど、何かみんなの顔が暗い。
ま、おっちゃんに嫉妬したって所かな。流石にセクハラされた時はビビったけど、話したくらいでいちいち嫉妬されるのは面倒だなぁ。
念願の米が食べられるかも知れないんだから、ヤンデレ達には目を瞑ってもらいましょう。

「…コージの母国料理の話だから、と口を挟まないでいたが…、何なのだアイツは。言葉遣いも態度もまるでなっていない。その上コージを『坊主』呼ばわりだと? 本当にアレが王室料理長なのか?」
「うむ! それは俺も思ったぞ! この城に仕える者は大抵が執事長のような口調であったが、あの者はまるでガレと俺を足して2で割ったような口調だったな!」
「カイル…、セキまで…! 良いだろ、親しみやすいだろ!」

俺は思うんだよ。やっぱそれなりの立場ならそれなりの口調を使うべきだけど、おっちゃんみたいな人がいても良いんじゃねーかってね!
異端って言っちまえばそれまでだけど、おっちゃんみたいな人も居てくれた方が、身分が低い身としては嬉しいよなぁ。

「………これ以上のライバルは勘弁して欲しい所だ。既に宰相と第一王子が堕ちている。王国魔導師団長と王国騎士団長も怪しい。彼らが本気でコージくんを手に入れようとすれば、古龍殿らの武力行使か、コージくんを連れて他国に高飛びするしか…!」

あわわわ…落ち着いてヤンデレ熊さん。
大丈夫だよ、俺オーディアンギルドが大好きだから。もし王子様たちに迫られても、オーディアンギルドに残るよ。
まぁ、いくら王子様でも立場ってモンがあるからね。第一王子だから、次期王様でしょ?
こんな得体の知れない異世界の子供と、結婚させる筈がないわな。

「…コージ。言っておくが、お前はこの世界に急激な発展と新たな勢力図をもたらす中心人物だ。同じ異世界人でも、勇者達とは比べ物にならない力を持っている。既に勢力均衡は破られたと言っても過言ではない。何としてでも縛り付けて、一生飼い殺しにするのがグリス王国にとっては最善と言える。…第一王子の正妻にでもすれば、他国とて手出しはできん」
「カイルさんの言う通り。宰相さんや俺の兄さんも、権力的には上位に食い込むけど、やっぱり王家に迎え入れた方が国としては確実だし。そうでもしないと、もしもコージの力がバレちゃった時、世界中、100前後の国々でコージ争奪戦が始まるからね。それプラス、魔族や亜人までコージを狙い出す可能性だって充分。…だから、多分もう案は出てると思うよ。コージを第一王子か現国王の妃にして、グリス王国のみでコージの力を独占する案」
「………………………………………………」

絶句。
聞いていてあり得ない話じゃないって分かって、さらに絶句。絶句も絶句。五言絶句。なんちって。
とかふざけてる場合じゃねぇ。俺、冗談抜きでお姫様になっちゃうかも知れねぇ。
でも、俺はちんこの付いた立派な男の子だから、お姫様とか絶対にイヤだ。ずっと冒険者をしていたい。

青ざめて何も言えなくなった俺の気持ちを察してくれたのか、セイとオウが背中と頭を撫でてくれた。
それでちょっとは気持ちが落ち着いたものの、この問題は俺1人じゃ解決出来ない。
どうすれば、囲われお姫様エンドを回避出来るのか…。

「……コージの意志を今一度確認しておく必要があるな。執事長、午後の予定は全て中止で頼めるか。コージの体調が良くない」
「えぇ、勿論です。お部屋で休まれますか? それとも、会議室を手配致しましょうか?」
「会議室だ。…すまんな」
「いえいえ、とんでも御座いません」


優しいニッコリ笑顔のセバスさんのお気遣いで、俺達は城の端にある、今はあまり使われていない会議室に移動した。
程よく狭くて、壁には黒板が設置されてある。内緒話にはもってこいだ。

「飲み物と軽食を持って参ります。その後は緊急時以外、我々は立ち入りませんので、何かあれば外の執事にお声掛けください」
「セバスさん、ありがとうございます」
「いえいえ。どうぞ、ごゆっくり」

クッキーとカップケーキ、ジュースや水、アルコールを置いて、最後の執事さんが出て行った。
ガランさんが心配そうに俺を見詰めていたが、手を振る余裕なんて無い。

カイル達が想定している事態は、俺が思っていた100倍は壮大なものだった。






********************




ー帝国某所ー



「あたしは橋本菜奈はしもとなな。17歳。高2だよ」

一般的な高校の制服を纏った女が、長い睫毛をバサバサと揺らして高い声を発した。
スカートが異様に短い。寒くないのか。
目に優しくない色のストラップをジャラジャラ付けた鞄を持っている。化粧は濃く、香水の匂いが鬱陶しい。
この女は、所謂ギャルだ。
頭は悪そうだが、誰に媚びるでもない。スーツの女と寄り添っている姿は、同性と仲良く出来る性格まで表している。

「…児嶋俊介こしましゅんすけ。19で、大学2年」

メガネを掛けた無愛想な男は、心理学を学んでいる大学生だった。
チェックシャツをジーパンにINという、何とも分かりやすい風貌だ。手には目の大きな萌えキャラがプリントされた紙袋が。
が、心理学を専攻しているだけあり、俺達を召喚した帝国の者に不信感を抱いているようだ。

山口京子やまぐちきょうこよ。26のOL」

ギャルの女…、橋本菜奈を慰めるように彼女の肩を抱くスーツの女は、ブラックかグレー会社に勤めるOLのようだ。
薄化粧で隈があり、肌も荒れている。スーツはよろよろで、パンプスも磨り減っているのが見て分かった。
今の現状にうんざりしているようだが、最年長としてしっかりしなくては、と言う意気込みが見られる。
真面目な性格のようだ。

「俺、大河内陸斗おおこうちりくと! 15歳で、中3! よろしく!!」

元気が良くて寝癖の酷い男は、見た目通り年下だった。
召喚された時には『俺TUEEEEEEEキターーー』なんて叫んでいたし、異世界や魔法の基礎知識はあるものと思って良いか。
まだ現実味を感じていないのか、目を輝かせてこの状況を楽しんでいる。

「あー…、大道寺健吾だいどうじけんご。18」

眠そうにアクビをしながら名乗ったのは、俺と同じくらいの体格の良い男。ピアスの数と目付き、格好やツーブロックの髪型から、まぁまともな人間ではないだろう。
大道寺健吾はそれだけ言うとソファーに寝っ転がり、橋本菜奈をじろじろと見る事に専念したようだ。
どうやら女好きらしい。

「吉川勇輝。17。高2」

最後は俺の自己紹介だった。
簡潔に伝えると、全員の年と名前が分かり安心したような様子の橋本菜奈が、山口京子から離れて近付いてきた。

「…えーと、勇輝クン? タメだよね? けーごなしで良いよね? 勇輝クンさ、あやまこーじろーって人、何なの? さっき言ってたでしょ?」
「……………現親友。将来的には恋人。片想いなんだが、次会えば絶対に恋人になってみせる。つか結婚する」
「…あー、勇輝クンって…ゲイ?」
「いや? 初恋が康治郎だっただけで、男が好きな訳じゃねーよ。触るならゴツい男より女の方が柔らかいだろ。触る気はねぇけど」
「なんだ、良かったぁー。あたし、ゲイに彼氏寝取られたことあってさー。でも勇輝クン、一途っぽいし、安心して話せるよー」

橋本菜奈はやはり裏表のない性格だった。
自分が非力だと自覚があるのだろう。勇者の中でも体格が良く、自分を性的な目で見ない俺と親しくしたいようだ。

「ゲイが嫌いなのか?」
「嫌いって訳じゃないよー。ただ、苦手意識って言うの?」
「まぁ慣れるだろ。この世界じゃゲイの存在は当たり前みてぇだし」
「え? マジで?w」
「康治郎と会った時に聞いたんだよ。男女比率、8:2らしいぜ?」
「は? オイ嘘だろ」

俺の言葉に反応したのは、橋本菜奈のパンチラを狙って眺めていた大道寺健吾だった。
児嶋俊介が後ずさるほど勢い良く飛び起き、俺に詰め寄ってくる。

「8:2? つまりそりゃ…、男が8割って事かよ!?」
「俺は康治郎にそう聞いただけだ。部屋の前に兵士がいただろ。聞けば分かる」

焦った様子の大道寺健吾は両開きの扉を乱暴に蹴り、外に立っていた兵士の胸ぐらを掴んで聞いた。
その様子に橋本菜奈や山口京子は勿論、児嶋俊介と、さっきまで元気いっぱいだった大河内陸斗まで俺の後ろに隠れて、大道寺健吾を怯えながら見詰めている。
せめて児嶋俊介くらいは年上として前に立って欲しいモンだ。

「落ち着いてください勇者様!!!」
「これが落ち着いていられるかぁぁぁぁッ!!! マジなのかよ!? マジで女が2割しかいねーのかよッ!!?」
「とにかく、落ち着いて!! 部屋にお戻り下さい!!!」
「うるせぇ答えろ絞め殺されてェのか!!!」
「……じょ、女性は確かに2割程しかおりませんが…!」
「…………………」

バキョッ

「あ、殴った」

兵士の答えを聞いて呆然と立ち尽くした大道寺健吾。しばらく項垂れた後、ノーモーションで兵士の顔面に拳を食らわせた。
真っ直ぐ後ろに倒れる兵士。鼻がグチャグチャだ。
大道寺健吾のその行為に橋本菜奈が悲鳴を上げ、駆け付けた兵士が事情を聞こうと近付いてはぶん殴る。
5人の兵士を殴り倒したくらいで、俺は大道寺健吾を止めようと近付いた。

「落ち着けよ。これ以上やるとマジで制圧されちまうぞ」
「…うるっせェ!!」

失意の中で振るう拳よりノロマな物はない。という事でサッと避ける。動体視力は良い方なんだ。
が、暴れられると困るので、『お前を押さえ込むなんざ朝飯前だわボケ』っつー警告を込めて、大道寺健吾の腕を絡め取り、捻り上げる。
大道寺健吾は悲鳴こそ上げなかったものの、歯を食いしばって、俺を睨み付けた。
しかしそれも長くは続かず、『分かったよ、もう殴らねぇ』と諦めたかのような声を発した。

「お前、ただのホモ野郎かと思ったら随分と強いじゃねーか。何かやってたのかよ?」
「習った事は無いが、自然とな…。うちの康治郎はバカみたいに可愛い癖にバカみたいに愛想振り撒くから、拉致ろうとするアホ共も一定数いたんだわ」
「はー…、男の何が良いんだか。やっぱ女だろ。……なのに2割って何だよ……。セックスの頻度落ちちまうじゃねーか」
「いくら女が少ないとは言え、お前は勇者だろ。ぶっちぎりでモッテモテの職業じゃねェか。女くらいホイホイ寄って来るっつーの」
「…ま、そうだな。お前もモテそうなツラしてんのになぁー。ホモとかもったいねー。女遊びとかしねぇのかよ」
「康治郎一筋なんで」







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