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権力系ホモ★グリス王国編
5000記念 腐った貴族に鉄槌を!
しおりを挟む「貴様には見所がある。他の私兵共は色ぼけのようだが、貴様はコージの真の魅力に気付いた。だから見逃してやる。俺はあの盗賊頭ほど冷酷でもないからな」
「な、何を」
「黙って見ておけ。見て呉れに騙された阿呆共の末路だ。他人事ではないぞ」
銀髪の男はそう言って小窓を指差した。覗くと先ほどの仮眠室を盗み見る事が出来るようだ。
銀髪の圧力に負けて恐る恐る顔を近付けると、ディバナ子爵の腹に股がる少年が見えた。
他の者達も、それぞれが私兵に股がったり、ベッドに押し倒されたりしている。
本来ならここからはお楽しみの時間なのだろうが、どうもそうとは思えない。
私兵には半裸の者もいるのに、もてなす側の者は誰1人、1枚も脱いでいないのだ。
子爵の顔がこれまでにない程とろけている。このままでは少年は娶られて孕まされるだろう。
…が。
「じゃあみんな、行くぞ~」
少年が声を掛けた。色男やそばかすの青年、表情と目の死んだ青年たちがそれに応える。
ディバナ子爵も私兵も首を傾げるばかりだ。
ディバナ子爵はともかく、私兵は何を呆けているんだ。あきらかにおかしいのに。
知らせたいが、背後の男が恐ろしい。一言でも発そうものなら首をねじ切られそうだ。
少年の表情から微笑みが消え、右手で拳を握った。他の者達も拳を握り、腕を振り、脚を上げる。
ようやく私兵が異変に気付いたが、もう手遅れだ。
「せーのっ」
ぺちんっドスッバキャッメリィグチュッボキボキボキ
少年はディバナ子爵の頬を殴った。ぺちんと。殴っちゃった。
子爵を殴ったって言うのも衝撃だが、俺は少年のパンチを合図に始まった地獄絵図から目を離せなかった。
体が固まってしまっていたからだ。
そばかすの青年はトートの腹を殴り、髭を生やした男はロージャの脚を関節とは反対側に折り曲げ、表情と目の死んだ青年はタストの股間を蹴り上げ、赤髪の青年はネットの両目を指で潰し、青髪の青年はクァーマナの両膝を拳骨で叩き潰し、ベージュの髪の青年はラツールの指を纏めて握り潰し、危険な雰囲気の色男はカリスの玉を踏み潰した。
大絶叫が部屋に響く。腹を殴られたトートはしばらく蹲っていたが、回復したのかすぐに剣を抜き、斬りかかろうとしたが、それもリイサスという男に踵落としを食らわされて昏倒した。
「ひ…、ひぃ…!!」
「腰抜けめ。俺の気が変わらなければお前の両肩を握り潰していたんだぞ」
小窓から飛び退き、壁に背を当てて銀髪の男を見上げる。男は呆れたように俺を一瞥して、仮眠室への扉を開いた。
仮眠室にはまだ絶叫と悲鳴とうなり声が響いていて、耳を塞いで泣いてしまいたい気持ちでいっぱいだ。
「来い。貴様を見逃したのは俺の独断だ。改めてコージに許可を貰わねばならん」
「な、なんでこんな事するんだ…! 子爵と、その私兵にこんな真似を…! このギルドが一体どうなるか……」
「子爵ごときがなんだって? 厚かましくコージと同衾させろと言ってきたんだぞ? コージの一言でお前と家族の命運が決まるのだから、精々機嫌を取れ」
…誰だ?
ディバナ子爵を、子爵ごときなんて言ってしまうとは、それだけの力がこの男にはある。
どこかで見た顔だ。声も聞いた事がある。
確か───、教会。そう、教会だ。俺は正教会の信者だから、週1の休日は教会に祈りに…。
……聖騎士だ。巡回に来た聖騎士の中に…。
「……聖騎士の、」
「…ディバナ子爵は私兵まで極楽とんぼかと思っていたが…。……もしや正教会の信徒か?」
「あ、あぁ。毎週、トロートの教会で祈ってる」
「なんだ、ならば殺さなくて正解だったな」
「み、みんな殺すつもりなのか!!」
「しまった、口が滑った。コージには内緒だぞ」
…そうか、そうか。
ディバナ子爵も私兵も最終的には殺すつもりなんだ。でも、この化け物達を纏めてる少年は知らない。
なら、ならば。
何とか少年に伝えられれば、みんな助けられるかも知れない。
正直ディバナ子爵はどうでも良いが、同僚はみんな良い奴だ。すごく良い奴ばっかりだ。だらしないけど、こんな、殺されなきゃいけないような奴らじゃないから。
銀髪の男に立ち上がらされ、仮眠室へ背中を押される。部屋ではまだ同僚が泣いて呻いていて、この惨状を作り出した張本人達は平然と話し合っていた。
「つーか一発食らわせてやるって話だったろ! なんで半数の人がどこかしら潰されてんだ!!」
「一発とはつまり一撃だろう! 関節潰すのも股間潰すのも一撃だろう!!」
「古龍流一撃の定義なんて分かるか! ビンタとかパンチとかキックとかだと思ってたのに! なんでほぼほぼ再起不能なんだよ! 普通に流血騒動だよ!!」
「まぁまぁ、コージ。お色気作戦は楽しかったでしょ?」
「……まぁ、うん。最初にジャックさんが『色仕掛けでやっちまうかwww』なんて言い出した時にはどうなるかと思ったけど、あは~んうふ~んなみんなを見るのは楽しかった」
「なんだよ~コージくんだって爆笑で手順考える時ノリノリだったじゃねーかよ~。リイサスさんもワーナーもロイも盗賊頭も古龍も、全員で腹抱えて涙流して考えた作戦だろ?」
「どこかのウブな聖騎士団長サマはドン引きだったがなァw」
「カイルには俺の裸見ないでも、色気出せるようになって欲しいよね…」
「どんな教育方針だw」
「と言うかコージくん、とっても素敵だったよ! もはや神々しさまで出ちゃってた!!」
「いやぁ~出ちゃってましたか~。えへへ」
「普段は子犬と子猫を足して2で割ったような感じなのにな」
「それ褒めてる? 褒めてないよな? うわっちょっガレ! なんだよいきなり!」
「おーよしよ~し。コージは可愛いなァ~。すぐに撫でたくなっちまう」
「もう…。あっセキ! リイサスさんも…、ワーナーさんまで!! ………いや止めろとは言ってませんけど? だが尻は揉むな!! 誰だ今尻を揉んだ奴は!!」
──大混乱だ。
まず、まず、古龍ってなんだ。古龍? あの古龍か?
じゃあ、そこの赤髪の青年は古龍? いやまさか。なんで古龍がこんなところに。
でもやっぱり、全部演技だったのか。見事に騙された。こんなに美しい人達が色仕掛けしてきたんだから、多分誰でも騙されるんだろう。
というか、待て。聖騎士団長? 誰が? この、銀髪の男が?
嘘だろ? 聖騎士団長なんて、普通は王都にいるはずだ。そんなまさか。だって。いやでも、このオーラは。絶対に敵わない雰囲気はもしかして。
「コージ。この男は教会の信者だ。お前の神々しさも見抜けていた。取り敢えず見逃したが、コージが望むならば他の者と同じくどこかしら潰すが」
「潰さんでよろしい! つかぶっちゃけ私兵の人達は悪くないし、ディバナ子爵への仕返しを邪魔されなきゃなんだって良いんだよ」
「分かった。貴様、この事はくれぐれも内密にな。話せば自分と家族の首が飛ぶぞ」
「こ、殺さないでください」
「だから見逃してやると言っている。さっさと出て新しい職でも探せ」
少年が、全員が俺を見ている。銀髪の男たちは早く出ていけと言わんばかりの視線だが、少年だけは柔らかで申し訳なさそうな表情だ。
すがるとすれば少年だ。周りが怖いが、少年の目の前じゃ手は出せないだろう。
ただ、何も知らないふりをして、懇願を。
「私兵は…ソイツら殺さないでください…。お願いします殺さないでください…。お願いしますお願いします。殺さないでください。良い奴らなんですお願いします、うぅ……」
少年に向かって精一杯の土下座をして、最後は涙声になってしまった。
私兵として情けない限りだが、この場で俺のプライドなんて屁の突っ張りにもならない。
「え、え? 大丈夫ですよ。ちょっと乱暴な事しちゃいましたけど、殺すつもりは…」
「お願いします。ディバナ子爵の行いを見て見ぬふりをしていた事はいくらでも謝罪致します。お願いします殺さないでください…」
「……………なぁ、殺さないんだよな?」
俺の普通ではない様子に気付いたのか、少年が色男と赤髪の青年に視線を向けた。
あぁ、良かった。気付いてくれた。
2人の顔から表情が消え、少年をじぃっと見詰めている。少年は2人の気迫に負ける事はなく、むしろ沈黙が続くに連れ、少年の顔が険しくなる。
「おい。ガレ、セキ」
「…………………」
「…カイルも、セイもオウも。ロイ、ジャックさん、リイサスさん…。……ワーナーさんは…、隠し事とか苦手なんですね…」
「うっ…」
少年が無表情を保てなくなったそばかすの青年に近寄る。そばかすの青年が冷や汗をかき、目線を逸らした。
あまりにも分かりやすい。
「ワーナーさん。みんなで殺すつもりだったんですか」
「………ごめん、コージ」
「なんで? 殺すなって言いましたよね」
「お、れは…、その」
「………………ワーナー、さん」
「う、う、うぅ…。ごめんなさ…。ごめんコージ…」
「…コージ、それくらいにしといてやれ。俺が応える」
青い髪の青年が少年とそばかすの青年の間に入って、そばかすの青年を庇った。
そばかすの青年は今にも泣きそうで、リイサスという美形は眉間を押さえている。
「あぁ、コージの言う通りだ。殺すつもりだった。カイルとコージの判断で見逃したそこの私兵以外は、帰らせた後に死神の吐息の者達が暗殺する手筈だったんだ」
「………なんで?」
「俺とセキとオウで脅かすのは良い。だが、度の過ぎた恐怖はヒトの神経を殺す。恐怖を感じる感覚がショートし、なりふり構わず復讐に来る可能性もゼロでは無い。…というか、恐らくコージはその一種だ」
「俺が? 恐怖を感じる感覚ってのがショートしてんの?」
「あぁ。コージは事故で死んだ経験があるだろう。自覚は無いかも知れないが、その経験のせいで『死』に対する恐怖心がまったく見られない」
「…そんな事ないだろ」
「話を聞いていたならば分かる。死神の吐息の拠点で、聖騎士団が押し寄せてきた時。死体がゴロゴロと転がる部屋に入っても、泣きも喚きも腰を抜かしもせずに真っ先にガレの所に駆け付けたそうだな」
「……あれは、ガレが死んじゃうかもって思ったから」
「俺たち古龍と出会った時もだ。いくら『絶対防御』があるとは言え、スキルが欲しいが為に古龍と対話を試みるなど、通常のヒトならばしない。するとすれば筋金入りの度胸の持ち主くらいだが、コージがそうとはとても思えない」
「うーん地味に失礼」
「コージは『死』に対する恐怖心が無い。もしくは薄い。同様に、過度な恐怖を与えられた脆弱なヒトは、壊れてしまう可能性がある。だから、変に復讐など企まれないうちに、殺しておく必要があるんだ」
「…………………」
言い分は、分かる。理解出来る。
そういう奴は地元で見てきた。治安の悪い場所だったから、そういう奴らが流れて来ていた。
だから、青髪の青年の言う事は正しい。多少頭の回る者ならみんなそうする筈だ。
だが、少年は納得しなかった。
「理由は分かった。でも、殺しちゃダメ」
「…コージ、良い子だから聞いてくれ。仕方がないんだ。リイサスを脅迫し、コージと同衾しようとした罪はとても重い。コージが許せても、俺達は許せないんだ。分かってくれ」
「なぁセキ。多分、俺とセキ達じゃ仕返しのやり方が違うんだと思う」
「…? 仕返しのやり方?」
「えーっとね、俺は後悔してほしいんだよ。俺だって、リイサスさんのお尻を狙ったこのオヤジに心底ムカついてんの。だからこの先、一生後悔してほしい」
「…後悔するかなど、分からないではないか?」
「そこはまぁ、頑張るんだよ。うーんというか…、言い方悪いし、なんか悪役みたいだけどさ、生き地獄を味わって欲しいんだ、俺は」
「おおう。思ったより怖い事を言うんだな!」
「だってさぁ、死ぬなんて誰でも出来るじゃん。『死は救済』なんて言う奴もいるくらいだし。だけど死ぬまで後悔するのは全員が経験する事じゃない。だから俺は後悔させたい。いつだって自分のやった事を死ぬまで悔いれば良い」
───ゾッとした。
壁にすり寄りブルブルと震えるディバナ子爵を生ゴミを見るような目で見下ろす少年。
その様子を見て、完全に腰が抜けた。
俺の勘違いだった。少年は甘くなどない。
ディバナ子爵も同僚も、例え生かされても今日の事は一生忘れられない筈だ。
それを見越して、痛みを引きずって残りを生きろと。
俺達はまだ致命傷を負った訳ではないが、きっと致命傷を負ったとしても生かされるんだ。
トラウマになっても殺してくれない。殺して欲しくなる程の痛みを与えられても死なせてくれない。
そう考えれば、全員をさっさと暗殺しようとした彼らよりも、脚を反対側に折られた痛みを。男の象徴を潰された痛みを。後遺症を一生抱えて生きろと言う少年の方が、よほど残酷ではないのか。
今回は目を潰されたり、両膝を潰されたりとその程度で済んだが、もしも全身の皮を剥がされていれば。もしも四肢を切断され、1人では何も出来ないような状態にされていれば。
それでも少年は生きろと言うのか。
まさに生き地獄を味わえと。
「なるほど。コージは殺す事を罰としていないんだな」
「うん。生きて苦しめって思っちゃうな。……性格悪いかな」
「いいや。コージは怒っているのだろう? その考えは間違っていないし、人間らしい。正しいさ。とても美しいよ」
「お、大人の余裕…! さすがセキ! ………いやおじいちゃんの余裕?」
「コージ? 泣いてしまうぞ?」
少年と赤髪の青年の会話。茶番を挟んだように見えたが、多分これが日常での会話なのだろう。
今や少年にすがる気など起きない。むしろ、これ以上苦しめるのならば殺してくれと。
逃げられはしないのだ。
古龍と呼ばれた青年と聖騎士団長がいる。
他の者も…、比較的小柄な目と表情の死んだ青年にさえも、俺は敵わない。
今はまともに剣すら握れないだろう。
「ん~、俺はコージが生かしたいって思うんなら従うよ~」
今まで同僚達の側で何かをしていたベージュの髪の青年が、声を上げた。
「…良いの?」
「うん。だって俺の主はコージだしぃ、例えコイツらが復讐に来たとしても一撃で葬れる自信があるもん。絶対に守れるんだから、コージの好きにすると良いよ」
「オウ…、ありがとう」
「良いよ良いよ~! それに、俺もちょっと甘かったもんね~。脅迫してきただけだし、コージの同衾も未遂だし。だからサッパリ殺してあげようと思ったけど、コージはもっと苦しめたいんでしょ?」
「うん」
「出資を止める~とか脅迫程度に抑えておけば良かったものを。リイサスに手を出す事がコージの逆鱗だったみたいだから、可哀想だけどたっぷり脅して生かしてやるよ。セキとセイもそれで良いでしょ」
「むぅ…」
赤髪の青年は難しげな表情だ。
短絡的そうな容姿なのに少年に危害が及ぶ可能性は万に一つでも潰しておきたいようである。
逆に青髪の青年はベージュの髪の青年の言葉に頷いた。
「構わんだろう、セキ。俺のスキルを使う」
「…あぁ、『支配』と『生殺与奪』か」
「そうだ。明確な敵意を持った時点で殺す。レジストは不可能だ」
「ならばそうだな、構わない! さぁコージ、あと説得すべきはガレとリイサスのみだぞ!」
赤髪の青年の笑顔と言葉に少年が明らかに安堵し、色男とリイサスと言う男に向き直った。2人はそれぞれ腕を組んだり両手を腰に当てて少年をじっと見詰める。
「……なぁコージ。コージが心底キレてんのは分かった。要はアレだろ、コイツらを苦しめたいんだろ。じゃあウチが請け負う。思い付く限りの残虐な方法で苦しめて最後は殺すから、コージの判断でコイツらを苦しめる必要はねェ。な? だから俺に任せて、コージはワーナーの飯を食って、好きな本を読んで、熊野郎の耳をもふもふして、ベッドに入るべきだ」
「……前々から思ってたんだけど、ガレって俺をそういう系から遠ざけたがるよな。聖人か何かと勘違いしてないか?」
色男の幼子を説得するような言葉に、少年が眉を潜めて言葉を返した。
色男は優しい笑顔のままだ。説得を続けるつもりなのだろう。
「ちげェのか? 神の愛し子だろ?」
「たまたまゼロアが気に入ってくれたおかげで凄そうな称号貰えたけど、俺は15の子供だ。あ、えっと、精神は17だけど」
「まだガキだ。こっちの世界ははえーよ」
「そろそろ独り立ちする年頃のガキだ。色んな事を経験して失敗して、自分の道を見付けて行くんだ。そんで周囲の大人は酷い道に進まないように見守ってあげるんだ。…ってじいちゃん言ってた!」
「良いじいちゃんだな。でもダメだ」
「じいちゃんの教えが通じない…だと…!?」
少年が世界の終わりのような顔をした。
恐らくじいちゃんの教えとやらにかなり頼ってきたのだろう。
が、会話を聞いていれば色男の心情も察する事が出来る。経験させるには危ない道だし、後戻り出来ない可能性もある。
大切だからこそ、過保護に、いつまでも無垢に。
「分かるだろ? 汚れて欲しくないんだ…」
「汚れて欲しくないって…」
「いいかコージ。コージは俺の神様だ。神を汚したくないのは当然で、神を守ろうとするのも当然だ」
「…ふーん、神様とセッセすんだ」
「セックスも出来る神様なんだよ。サイコーだろ?」
せ、セックス…。してるのか。
いや当然か。こんな可愛い少年を周囲が放っておく筈がない。
色男は表情こそ優しく余裕に見えるが、足元は落ち着きがない。
説得に必死なようだった。
少年はと言うと、時折俯いたり唇を尖らせたりして色男の話を聞いていた。
少し黙ったから色男の説得が成功してしまったか、と緊張したが、少年はパッと顔を上げ、色男に言い聞かせるよう言葉を繋げた。
「………ガレ。残念だけど、俺は人間だよ。みんなを俺から奪おうとする奴は自分の手で罰したい。今回はリイサスさんが寝取られそうになったけど、ガレでもセキでもジャックさんでもロイでも、誰が奪われそうになっても俺は奪おうとする奴を許さないし、取り戻す為ならそっちの世界に行く。…付き合ってもないのに嫉妬とか馬鹿らしいけど、俺もみんなが大切だからさ」
「…俺らを自分のものにしておく為に人をも殺せると?」
「ヤな言い方すんな。…でも、簡単に言うとそういう事になる…のかな。あ、みんなが自分の意志で俺から離れていった場合を除く、けど…」
「そんな場合、永遠に来ないから安心しな。…コージ、分かってくれ。自分の子供に残酷な真似をさせたいとは思わないだろ。愛の種類は違うかも知れないが、俺もコージに残酷な事をさせたくねェんだよ」
「親に人殺しを肩代わりして欲しいと思う子供もそうそういない。少なくとも俺は、ガレに汚れ仕事を押し付けるような真似は絶対にしたくない。分かるよな」
「…………」
力強くそう言った少年に、色男はポカンと呆けた。
しばらくそうして諦めたかのように大きなため息を吐く。
説得は失敗。色男は血塗れのベッドに座り、呻いていたクァーマナの腹を一発殴った。まるで八つ当たりのように。
両膝を潰されたクァーマナは丸まる事も出来ずに泣いている。
「………殺しはダメだ。それはまだ俺がやる」
「…分かった。ありがと、ガレ」
「コイツら帰したら存分に仕置きだからな。抜かず10連発と8時間耐久、どっちが良い?」
「ガレ、鬼…?」
少年の優勢はどこへやら、ほの暗い笑みを浮かべて両手をワキワキと動かす色男に少年は青ざめて後ずさった。
少年には悪いが、これで俺達が生き延びられる可能性が見えて来た。
同僚達にとって、生きた方が良いのか死んだ方が良いのかは置いておいても、希望が見えたのは確かだ。
少年が最後に説得すべき、リイサスという男に向き直る。
男は困ったような表情で少年を見詰めていた。
「古龍達が絶対な安全を約束出来るのなら、俺は構わないよ。ただ…、俺のせいでコージくんが手を汚すのは…」
「リイサスさんのせい? 俺の為ですよ。今回の一件でリイサスさんがモテる事は分かりましたし、こうでもしないと俺の怒りが収まらないんです」
「コージくんは言い換えるのが上手だね。分かったよ。殺さない。子爵には生き地獄を見せよう。脅しは予定通り、古龍達と盗賊頭で良いかい?」
「はい!」
少年の元気良い返事に息を吐き出した。
安心するべきか否か。子爵が酷い目にあう事は間違いない。だが私兵は、俺は、同僚達は。
「……俺達って、想像以上にコージくんに愛されてるんだなぁ…」
「なんだ過保護野郎。今さら気付いたのかよ」
「うるさいぞ盗賊頭。コイツらを帰した後に慰めて貰うのは俺なんだからな」
「あ?」
「当然だ。俺はこの豚野郎に尻を狙われたんだから、コージくんも真っ先に所有印を付けに来る筈だろ。そうじゃなくても俺がお誘いすればお前は後回しだろう」
「ムカつく~~~~」
そんな会話が聞こえたが、それより気になるのは俺達の処遇だ。
助けを求めるように少年を見詰めるが、少年は泣きそうになっていたそばかすの青年を慰めるようにハグしていて、目と表情が死んでいる青年が構って欲しそうに服を引っ張っている。
もはや話は終わった空気で、俺は背後に立つ聖騎士団長を見上げた。
「…コージには内緒だと言った筈だが。よくもコージに悟らせたな」
「ど、同僚が殺される所を黙って見過ごせと…!?」
「そうして貰った方が助かったが、まぁ貴様を罰する事はないから安心しろ」
「え…、見逃してくれるのか…?」
「自身の危険を省みず仲間を助けようとした貴様の行動は、教会の教えに沿った素晴らしいものだ。個人的にはぶん殴りたい所ではあるが、罰するつもりはない」
「…………………」
どれだけ恐ろしくても、聖騎士団長と言う事だろうか。一先ず、自分への危機が去った事を実感して肩を下ろした。
「コージ。私兵共はどうする」
「へ? うーん…。子爵ほどじゃなくても、ちょっとくらい脅した方が良いよな。そこの人以外はちょろっと脅して解散で良いんじゃねぇ?」
「分かった。……という事だ。コイツらは殺さないから今度こそ帰れ」
「ま、待っていてはいけないのか…」
「待っていてどうなる? 本来ならば関係者以外は立ち入り禁止のギルドだ。入会希望者でもない者は立ち入る事が出来ない。早く出ていけ」
───入会希望者?
……そうか。そうだ。その手があった。
どうせ職は失うんだ。それなら、彼らの身内になった方が良いに決まってるよな。
********************
「そう言えば、脅かすのってセキ達に完全に任せちゃったけど、どうやったの?」
「………知りたいか?」
「…遠慮しとく……」
にやっと笑ったセキを見て何やら恐ろしい気配を察知。聞かない方が賢明な気がしたから、失禁しながら走って行ったディバナ子爵の背中を黙って見送る。
これに懲りたら、もう悪い事はしないで欲しいな。
「ディバナ子爵と私兵達には俺のスキルを掛けた。敵意や殺意を抱けばすぐに殺すから、危険はない。大丈夫だ」
「そっか。ありがとうセイ」
「構わん。それより、ワーナーは大丈夫か。かなり辛そうだったが」
「うん、泣かせちゃった。だから戻ってもっと慰めないと」
「……コージは俺達が奪われそうになれば、誰であってもこうして怒ってくれるのか?」
「もちろん。みんな大好きだもん」
「そうか。嬉しい事を言ってくれるな」
「…みんなも、俺が奪われそうになったら怒るだろ? それと同じだよ」
俺がそう言うと、セキとセイが笑った。
「コージは案外嫉妬深いんだな。良い事を知った」
「良い事…なの?」
「あぁ。愛されている事をより実感出来る」
「むむっ…。恥ずかしいからあんまり言うなよ」
「ふふ、コージは可愛いな。さぁ戻ろう。ワーナーも慰めねばならんし、ガレとリイサスが争って…。……む?」
「…あれ、あの人……」
カウンターでリイサスさんと男の人が話してた。
鎧を脱いでいたので一瞬分からなかったけど、やっぱりあの男の人だ。
見逃した、唯一の私兵さん。
…何でまだギルドにいるんだろう? 逃げなかったのかな?
「何してるんだろ」
「…うむ、入会希望らしいな」
「え!? …え? 冒険者になるってこと?」
「そのようだな。子爵を見限ったようだ。賢い選択だな」
「へぇ~。頑張って欲しいな」
「あぁ。コージをどうこう、という訳でもなさそうだ」
呆れたような様子のリイサスさんに頭を下げてお願いする男の人。リイサスさんが1人の職員さんを呼んで、何かを話している。
と、職員さんが男の人に手を差し出して、握手した。どうやら何かが決まったらしい。
男の人も安心したような顔で、職員さんから説明を受けている。
私兵さんを恨んでる訳じゃないから、ぜひとも頑張ってほしい。
と、ガレがスタスタやって来た。
さっきはちょっと言い争ったけど、結局は納得してくれたし、子爵のオッサン達を生かす事にも頷いてくれたんだ。
いつもいつも、迷惑かけちゃってるんだよな~。
「おうコージ。それで、抜かず10連発と8時間耐久、どっちが良いか選んだか?」
「うえぇぇ勘弁してぇ…。……が、ガレ」
「あん?」
「ほっぺ…」
血…? 多分、血がほっぺに…。ベトォって……。
「………おっと」
慌てて血を布で拭いて、またニコニコするガレ。
そんな綺麗な笑顔見せても誤魔化せないからな?
「…ガレさん? 何したの?」
「何も?」
「ガレ?」
「……誰1人殺してねェよ。潰した所を治してちょ~っとヘソを弄り回しておさらばしただけだ。小便垂らしてバカみてェに走って逃げてたの、見ただろ?」
「なんだ。もぉ~ビックリした~」
「はは、わりィ」
軽く謝って俺の頬にキスするガレ。
今はこんなに男前だけど、子爵のオッサンと私兵達を誘う時はホントどこの淫魔だろうって思ったくらいだ。
やっぱ盗賊頭にでもなるとハニートラップが上手くなるんだろうか…。
いやでもジャックさんもかなり上手かったな。逆にワーナーさんとカイルはカチコチだった。
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そう言えばカイルは…、あの私兵さんに何か言ってんな。いや、元私兵さんで、今から冒険者になるんだっけ。
教会の信者らしいし、そういうお話なのかな。
まぁとりあえず、ワーナーさんとロイの所に…。
バターンッ
「今しがた半狂乱になって駆けて行くディバナ子爵とすれ違ったのだが…。何かあったのかね? コージくんとリイサスの尻は無事かね?」
おっ、ルークさんのお帰りだ!
もふもふしながら事情を説明するしかないけど、また一悶着ありそーな予感。
ワーナーさんとロイに構いに行くのはもうちょっと後になりそうだなぁ。
結局。
その日の夜はリイサスさんに迫られて大層盛り上がってしまった挙げ句、次の日にばガレの家に引きずられ、抜かず15連発をキメてしまった。
5連発多いのは、リイサスさんと先にセッセしたから、その分のお仕置きらしい。
俺、リイサスさんの尻を守る為に頑張ったのにさ、みんな、俺の尻に優しくないんだよな。
だから俺は癒しを求めて狐さんをもふもふしに行くのだ。
あっ狐さんみっけ!!!
********************
はぁい(* ̄∇ ̄)ノ
メルです!
お気に入り5000、本当にありがとうございます!!
これを書いている時は既に5200なんですけどね!はい!!遅れてごめんなさい!!亀なもんでして!!!
5200ありがとうございます!!凄い勢いですね!!
さて、読者様にご相談です。
作中でグロ表現が何度かありますよね。
ガレの人体拷問講座~★も含め、今回の一撃シーンや、だいぶ前にもグロシーンを書いちゃってます。
攻めらが総じてヤンデレな以上、コージを付け狙うモブおじさん達の排除に、どうしても拷問やら殺害やら、残酷な事をする場合があるんですが…。
ガッツリ書くつもりはありません。グロよりエロを書きたいからです。
ですが、もしもグロを大幅カットしたいという読者様が圧倒的に多ければ、今後そういったシーンを短縮して、
「ん? モブおじさん? あぁ、良い奴だったよ」
みたいな感じに濁す事も考えています。
希望がある方はコメントにお願いします。
ない方もコメントお願いします。
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これは、ちょっとしたおじさんイジメを受けながらもマイペースに旅に同行する荷物番のおじさんと、世界最強の力を持った勇者様のお話。
無気力、性格破綻勇者様 ✕ 平凡荷物番のおじさんのBLです。
不憫受けが書きたくて書いてみたのですが、少々意地悪な場面がありますので、どうかそういった表現が苦手なお方はご注意ください_○/|_ 土下座!
召喚された美人サラリーマンは性欲悪魔兄弟達にイカされる
KUMA
BL
朱刃音碧(あかばねあおい)30歳。
ある有名な大人の玩具の開発部門で、働くサラリーマン。
ある日暇をモテ余す悪魔達に、逆召喚され混乱する余裕もなく悪魔達にセックスされる。
性欲悪魔(8人攻め)×人間
エロいリーマンに悪魔達は釘付け…『お前は俺達のもの。』
【R18】【Bl】王子様白雪姫を回収してください!白雪姫の"小人"の俺は執着王子から逃げたい 姫と王子の恋を応援します
ペーパーナイフ
BL
主人公キイロは森に住む小人である。ある日ここが絵本の白雪姫の世界だと気づいた。
原作とは違い、7色の小人の家に突如やってきた白雪姫はとても傲慢でワガママだった。
はやく王子様この姫を回収しにきてくれ!そう思っていたところ王子が森に迷い込んできて…
あれ?この王子どっかで見覚えが…。
これは『【R18】王子様白雪姫を回収してください!白雪姫の"小人"の私は執着王子から逃げたい 姫と王子の恋を応援します』をBlにリメイクしたものです。
内容はそんなに変わりません。
【注意】
ガッツリエロです
睡姦、無理やり表現あり
本番ありR18
王子以外との本番あり
外でしたり、侮辱、自慰何でもありな人向け
リバはなし 主人公ずっと受け
メリバかもしれないです
病んでる愛はゲームの世界で充分です!
書鈴 夏(ショベルカー)
BL
ヤンデレゲームが好きな平凡男子高校生、田山直也。
幼馴染の一条翔に呆れられながらも、今日もゲームに勤しんでいた。
席替えで隣になった大人しい目隠れ生徒との交流を始め、周りの生徒たちから重い愛を現実でも向けられるようになってしまう。
田山の明日はどっちだ!!
ヤンデレ大好き普通の男子高校生、田山直也がなんやかんやあってヤンデレ男子たちに執着される話です。
BL大賞参加作品です。よろしくお願いします。
11/21
本編一旦完結になります。小話ができ次第追加していきます。
ヤンデレ化していた幼稚園ぶりの友人に食べられました
ミルク珈琲
BL
幼稚園の頃ずっと後ろを着いてきて、泣き虫だった男の子がいた。
「優ちゃんは絶対に僕のものにする♡」
ストーリーを分かりやすくするために少しだけ変更させて頂きましたm(_ _)m
・洸sideも投稿させて頂く予定です
平凡な研究員の俺がイケメン所長に監禁されるまで
山田ハメ太郎
BL
仕事が遅くていつも所長に怒られてばかりの俺。
そんな俺が所長に監禁されるまでの話。
※研究職については無知です。寛容な心でお読みください。
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