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権力系ホモ★グリス王国編
こんなの聞いてない
しおりを挟む真っ白なテーブルクロス。目の前に次々と並べられる銀食器。長い長いテーブルに一定の距離で置かれた金色の燭台とロウソク。
テーブルの中央…、一列に空いているスペースに料理が運ばれれば食事開始。好きなものを好きなだけ取るバイキング形式の食事だ。
何故なら俺が激辛ダメだから。……すまぬ料理人の方々。
俺が今いる食堂、映画ハリー◯ッターシリーズの某ホグワ◯ツ魔法魔術学校の中の広間を想像してくれたら分かりやすいと思う。
あれよりかは小規模だけど、部屋も椅子もテーブルも、充分に豪華だ。
そして席順は上座から見て、左にセキ、オウ、セイ、ロイ。右にカイル、俺、ルークさんになっている。
つまり俺の正面はオウだな。うむ、良き配置。
え? なんで図書室でインテリメガネについて話していた俺達が、もう食堂にいるのかって?
いや、図書室でどーのこーのって言ってても仕方がないしさ…。時間もちょうど良い感じだったし、夜ご飯にしようって事になりました!
やったね! ついに、ワーナーさんが憧れる王城の飯! 鍛治を生業とするドワーフのワーナーさんが、国を飛び出してまで料理人を目指すきっかけになった、例の料理!!
いやはや、楽しみですなぁ!
インテリメガネなんか、思考のすみっこにえいっ! ふぅ…、よしっ、忘れた! ご飯まだかなぁ~!
「コージ、すっごいウキウキしてんね! そんな顔してると、また誰かに惚れられちゃうよ~?」
「はははもう勘弁して。…でもさ、オウはワーナーさんのご飯、美味しいと思うだろ?」
「勿論! ワーナーの料理、ほんっと美味しいよね! ワーナーだけはコージの側にいる事を認めてやっても良いと思ってるよ!」
「お父さん? いや、過保護な兄かな? …で、そのワーナーさんが『今の俺の3倍美味い』って言うほどの料理だぜ? 楽しみにしない方がおかしいだろ!」
「ワーナーの料理の、3倍…! それって、すっごくすっごく美味しいって事だよね!? わぁ…!! 俺も超楽しみになってきた~!!」
「だろ~!」
きゃぴきゃぴきゃぴきゃぴ。
今の俺とオウは異世界のJKと言っても過言ではない。
…そう言えば流行ったなぁ、タピオカ。もちもちして面白かったなぁ。
「む、コージくん。料理が来たようだよ」
「わはー!」
くまさんお耳とお鼻をひくひくさせて、ルークさんが俺に告げた。途端にぶち上がる俺のテンション!
今の俺なら、高1の時に父さんにされた『赤ちゃんおにぎり』でさえも快く受け入れるだろう!
美味しいものの前では、可愛いもの扱いとて寛容な心で受け入れられる!
あ、『赤ちゃんおにぎり』知らない人はググってな。やふー派の人はやふってな。可愛いからな。
あれな、康太郎にやったらえらく気に入って、手でおにぎりの形を作ると、自分から顔を嵌めに来てたんだよ。
超可愛かった。
「お待たせ致しました。こちら、ラージニア大森林にて捕獲しましたポップウルフと、ベシャメラ迷宮より収穫しましたケピー草の煮込みでございます」
背筋シャッキーンな執事さんが説明し、数人の背筋シャキン執事さんと、たまにメイドさんがどんどん料理を運んでくる。
今、俺とカイルの間に巨乳な美しいメイドさんが入り込んで料理を置いたが、俺はお姉さんの巨乳を見詰めていられるような状態ではなかった。
俺の目は、料理に釘付けだった。
「………これ、ホントに料理…?」
オウがボソリと呟いた。けど、オウの言葉に眉をひそめる者はいない。
だって、オウの言葉が良い意味で言ったものだって、みんな理解しているから。
テーブルの中心にずらっと並べられた大皿たち。中華料理みたいに、備え付けのスプーンなんかで、個人の皿に取り分けて食べる。
…でも俺、そんな事出来ないかも知れない。
だってな、だってな! この料理たち、まるで芸術品なんだ…!!
ほら、例えば! ワーナーさんの料理はまだ、『あ、美味しそうな料理だ!』ってなるじゃん! 思うじゃん!?
でも、なんかこれ…。国立美術館とかに展示されていてもおかしくないって言うか…。むしろルーブル美術館に寄贈出来るレベルって言うか…。
気分的には、国宝を見ている感じ?
これにスプーンやフォークを入れて形を崩すなんて、俺には出来ない。
スープに浮かぶ油1つでさえ、俺のような平々凡々な子供が触れて良い代物ではないって、脳が警告している。
そうだよな、俺の脳。俺の心もそう言ってる。胃腸も『やめとけ』って言ってる。でも俺の味蕾は興味津々みたいだ。
「全ての食物に感謝と祝福を」
「「感謝と祝福を」」
ぽけーっと料理を見詰めていると、いつの間にか料理が全部運ばれたようで、カイルが感謝の言葉を述べた。
慌てて、俺もセキセイオウ達もそれに続く。
「…それで……、えーっと…、これ、どう食べれば…?」
「お好みの料理の、お好みの場所をお手元の食器に取り分け、お召し上がりください」
と、説明してくれたのは背筋シャッキーン執事さん。
ダンディだ。
でも、俺が聞いているのはそういう事ではない。
この芸術品をどうやって壊さずに食べるか、という事である。
流石のセキも、これにはむやみやたらと手を付けられないのか、困惑の表情で俺やセイ達の顔を伺っている。
オロオロしていて、ちょっと可愛い。
「芸術は破壊だッ」
グサッ
「あっ!」
「おぉっ! やるなロイ!」
中々手を付けない俺と古龍sを見て、ロイが取り分け用のナイフとフォークを握り…、目の前にあった巨大お肉に突き刺した!
ちなみにルークさんとカイルはワインを楽しんでいるご様子。この世界のルール的には、俺もワイン飲めるんだけど…俺はジュースです。
さっき、ルークさんとロイが、俺のグラスにワインを注ごうとした執事さんを必死に止めていた。
酒に関しては、俺、前科あるっぽいし、素直にジュースをゴクゴク頂きます。
いや、覚えてないんですけどね!!
と、俺がそんな事を考えている間に、ロイはナイフとフォークで巨大肉を切り分け…、切り、分け……??
しゅるしゅるしゅる…
「おかしい…。肉を切る音じゃないよアレ…」
「肉を切る際はナイフを前後に引きながら切るものと思っていたが、俺の勘違いか?」
「それで正解だよセキ。多分あれ肉じゃない。プリンだ」
「プリンか」
「プリンだな」
「間違いない」
「肉です」
勝手に結論を出しちゃった俺達。後ろに立っていた背筋シャキン執事さんに、突っ込まれちゃった。
「肉かぁ…」
「いーや俺は信じないね。あれプリンだって」
「オウ、認めるんだ。気持ちは分かる。だがあれは…」
「いやいやいや、あんなのが肉だなんてあり得ない。だったら俺、1万7千年生きて、何を見ていたって言うの? 俺の目節穴じゃん。だって俺知らなかったよ。あんな肉があるとかさぁ」
「大丈夫だオウ。落ち着け。恐らく世界序列10位以内とて知らぬ者ばかりだ。お前だけじゃない」
…なんか、セイとオウが言い合っている。というより、荒ぶるオウをセイが宥めている……。
……古龍も大変なんだね。
しゅるしゅる…そっ
ロイが肉を切り終わって、自分の皿に移す。俺に視線で『いる?』って聞いてきたけど、俺は首を横にふるふる。
まずはロイの反応を見ましょう。恐いから。
「あむっ」
ロイがなんの躊躇いもなく食ったぁーッ!!
すげぇぜロイさん! 流石だぜロイさん!!
そこにシビれる! あこがれるゥ! 略してシビあこ!!
「もぐもぐもぐ……」
「…ど、どう?」
「………………うっ」
「!?」
うめき声を上げたロイをよく見ると、汗だらっだらだった。微妙に震えてるし、ちょっと顔青い。
それを見て、肉に手を伸ばしてたセキがピタリと動きを止めた。
セイとオウもロイを凝視し、オウなんか『解毒は任せて』なんて言ってる。
でも、ロイの反応を見ると本当に毒を盛られたようにしか見えない。
なのに俺が焦っていない理由は、ルークさんとカイルが平然とワインを飲んで、パンをもぐもぐしているからだ。
2人が落ち着いているので、多分、大丈夫…だと……思うけど………。
「う、うぅ…」
「ろ、ロイ? どうしたんだよ、大丈夫かよぉ」
「う…うまい……」
「紛らわしいわ!!」
セキがぷんすか怒り出したが、何もなくて良かった。いや良くない。
あの感情表現の乏しいロイがここまで狼狽える料理…。ご、ごくり……。
「コージくん、恐れる必要はない。ここの料理はとても美味だ。初めての際は少々驚くかも知れないが、安心したまえ。私もマンハット殿も、同じ道を辿ってきた」
「でもですねルークさん。俺はワーナーさんの料理を食べた時に、一度仮昇天しちゃってるんですよ。で、その3倍の料理を食べたら、俺死んじゃうと思うんですよね」
「ふふふ、ここの料理で死人が出た事はないよ。別の症状は聞くが…、君が恐れているような事態にはならないだろう。さぁ、食べたまえ」
そう言って、クリームシチューのような料理を俺の皿によそったルークさん。
クリーミーで熱々とろとろで、人参のような野菜の鮮やかな色とか、柔らかそうなじゃがたんとか、煮込まれてもなお肉汁が光るブロックの肉とか…。
あ、匂いだけで幸せ。俺、シチュー系大好きだから余計に幸せ。
「う、う…」
目の前に出されて、スプーンも渡されて、ルークさんにもカイルにもロイにも古龍sにもじぃっと見詰められて、食べない訳にはいかないでしょう。
という事でコージくん、覚悟を決めて食べちゃいます!! ぱくっ!!!
「…ん? んん?」
もちゃもちゃ。もちゃもちゃ。
「んー…? うーん…」
もちゃ。もちゃもちゃ。
「…………んッ!? んんッ!! ん、んっ、んーーーー~~~~…ッッッ!!!!」
突然体を丸めて情けない声を上げた俺に、セキセイオウが乱暴に椅子から立ち上がって、テーブルをジャンプで飛び越え駆け寄ってきた。
しかし本来注意すべき主である俺は、顔を真っ赤にして涙目でガクガク震えていたし…。この時の俺は知らなかったのだが、ルークさんもカイルもニマニマして俺を見ていて、場は騒然とした。
ちなみにロイは『…まさか』って思っていたらしい。
セキ達が心配して、背筋シャッキーン執事さんが側に来る中、やっと感覚が戻った俺は、ビチャビチャで気色悪い下着の感触を堪えながら、小声で呟くしかなかった。
「あの……お手洗いどこですか…」
涙声だったのは放っておいてほしい。
********************
「さて、本日の反省点ですが」
俺は執事。王に仕える、名も無き執事。
…いや本当はあるけれど、執事に個性は不要なので今は控えさせてもらおう。
そして今、俺を含む12名の執事が、執事長に集められた。メンバー的に察しは付いているので、正直全員生きた心地がしないだろう。無論、俺もしない。
「みなさん、心当たりはありますね?」
執事長の隙のない、鋭い視線に誰も何も言えず、冷や汗を垂れ流しながら俯くしか出来ない。
「本日の18時33分。アヤマ様御一行がご夕食を摂られました。その際に、料理を口にされたアヤマ様が、達さられてしまいましたが…。それ自体、何も恥ずべき点はございません。ロドリゲス料理長の料理は、相性の良い者であれば稀に射精してしまう事もあり、過去に3名、アヤマ様と同様の反応をとられた方がいらっしゃったからです。アヤマ様が何か粗相をされた訳でも、落ち度があった訳でもございません。みなさんもそれは理解していらっしゃるかと思われます」
執事長の言う通り。アヤマ様は何も悪くない。
でも、恐らく知らなかったのだろう。初めてロドリゲス料理長の料理を食べる者の中には、射精してしまう者もいるという事を。
だから、あんなに顔を赤く染めて、恥ずかしそうな素振りを…あぁダメだ。考えるな俺。思い出すな俺…!
「幸いな事に、アヤマ様は気付かれておられませんでしたが…。セキ様やマンハット様方は、みなさんの汚ならしい勃ち上がったモノに気付かれ、大変に不快な思いをされました」
…そう、ここにいる執事は全員、あの時、あの食堂で、アヤマ様の表情と仕草、声のみで勃起してしまった者達なのだ。
「本当に、なんと愚かな…。私は失望しました。あの場で執事、メイド含め、殺されなかった事が奇跡のようです」
オーディアンギルドが一丸となって囲う少年。聖騎士団長が溺愛する少年。序列入りの古龍3体が従魔契約を結び、守り抜く少年。
その少年に欲情など…、俺だけでなく、親族もろとも殺されても文句は言えない。
田舎に暮らす両親の顔を思い浮かべ、拳をぎゅっと握り締める。
──ごめん、母ちゃん父ちゃん…。俺がうっかりアヤマ様に欲情しちまったあまりに……。
「無論、この事は国王に報告しなければなりません。厳しい罰則も覚悟していてください。……ですが…、ゼオ、ガラン、アガナ。貴方達は別です」
……?
あ、ちなみに俺の名前はガランな。
無個性が求められる執事として、名乗って良いものかと考えたが、まぁ執事長に呼ばれてしまっては仕方がない。
どうもガランです。20歳独身です。田舎の母ちゃんと父ちゃんを楽させる為に、王都に出稼ぎに来ました。執事歴2年の、いわゆるモブです。
そして今は命どころか親族丸ごとピンチ。胴と首のサヨナラまでカウントダウン開始。…と思ったが。
執事長…いや、セキ様らは俺にチャンスをくれたようだった。
「これはセイ様、マンハット様、アラウザ様からのご慈悲です。ゼオをセイ様のお部屋の。ガランをマンハット様のお部屋の。アガナをアラウザ様のお部屋の担当執事に任命します。心して取り掛かりなさい」
違った。チャンスじゃなかった。拷問だった。
********************
はぁい(* ̄∇ ̄)ノ
メルです。
お気に入り4500、ありがとうございます!!
そしてはい。また新たな登場人物。前々から考えていたんですが、登場人物紹介を①と②に分けようと思います。
①は攻め(候補)。②は脇役やモブさんなど。…とか計画しています。
大阪インテに行かれる方々。
恨みます。
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