異世界転移したんだけど周りが全員過保護なホモだった件

メル

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権力系ホモ★グリス王国編

番外編 君がいたクリスマス①

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※地球組のターン!!
※過去のお話です。
※番外編シリーズを読んでいないと分からない内容となっています。






おはこんばんにちは! 俺は阿山康治郎! 16歳のピッチピチな高校1年生!
そして今日はクリスマスイブッッ!!!

なんですけどバイトなんですよねぇ~俺。
いやぁ…。店長に『恋人いる?』って聞かれて素直に答えたのが運の尽きだった。普通にシフト入れられた。

半年前に入ったばかりだけど分かる。この時期は絶対に忙しい。
えぇ、数日前にテレビで放送された、『恋人の聖地』って所から1番近いファミレスですが何か?
毎年毎年、にゃんにゃんのおてても借りたい思いをするらしいです。先輩によると。

で、俺の高校は25日から冬休みで、24の今日は終業式だ。午前中で終わるから、バイトは14時から入ってる。

そして今は朝の7時15分。さっき、早朝シフトの先輩からラインが送られてきた。

『おい信じられるか…?まだ朝の7時なんだぜ…??』

メッセージと共に送られてきたその写真を見て、俺は今ベッドに倒れている。

「あっお兄ちゃん寝ちゃメ~~! つぶつぶスープ冷めちゃうよぉ~~!」
「康太郎…兄ちゃんは今、軽く絶望しているんだよ……」
「ぜつぼぉ? …んーと、ホイミッ!」
「…こうたろぉ~~~! 俺忙し過ぎて倒れちゃうよ~~~!! ぐるぐるホールを回りすぎてバターになっちまう~~~……」
「ばたー! あのねっママがパンにバター塗ってたよぉ! ほら行こ?」
「康太郎…兄ちゃんよりたっぷりバターのこんがりトーストが良いって言うのか…」
「ねぇ行こーよー! いっしょに食べよ~?」
「うーん控えめに言って天使」

康太郎を抱っこして、すりすりもちもち攻撃。気が済んで手を繋いだまま一緒にリビングに行くと、母さんがベーコンと目玉焼きをお皿に移していた。

「おはよ~。康太郎と顔洗ってきちゃって~!」
「あーい」

ぱたぱた忙しそうな母さん。小柄で、今日もほわほわ笑顔が素敵な自慢の母さんだ。康太郎が幼稚園に入ってからパートを続けていて、意外にもゴリッゴリのゲーマー。
母さんの部屋には俺よりも高い本棚が2つあって、どっちもゲームソフトでぱんぱん!
俺と康太郎も、たまにさせて貰うんだ。

康太郎と一緒に洗面器へ向かっていると、ネクタイをキチッと締めた父さんが歩いてきた。

「おはよう2人とも。今日は7時には帰れると思う…って、そうか、康治郎は勇輝くんのおうちに泊まるんだったね」
「うん、でもバイト終わったら着替えとか取りに1回戻ってくるから」
「お昼ご飯はどうするの?」
「勇輝たちとサイゼ!」
「分かった。じゃあ、これクリスマスプレゼント」

そう言われ、はい、と手渡されたのはなんと1万円札。驚いて父さんの柔和な顔を見詰めると、父さんがニッコリ微笑んで言った。

「ほら、康治郎ももう高校生だし、最近は友達と出掛ける事も増えただろう? だから、物より現金の方が良いんじゃないかって思ってね」
「で、でもちょっと多いような…」
「良いんだよ。本当は漫画をたくさん買ってあげようと思ったんだけど、最近はバイトも頑張ってるみたいだし。好きに使いなさい」
「ととと父さぁ~ん! ありがとぉ~!!」

感極まりぎゅってハグすると、父さんもニコニコでハグしてくれた。1人で顔を洗っていた康太郎も戻ってきて、よく分かっていないのだろうが、とりあえずハグ。

つまりはそう、うちの家族はハグが大好きで、仲が良いのだ。






「康治郎、今日のバイトは何時から何時まで? 明日はいつ帰ってくるの?」
「バイトは14時から19時まで! 明日は勇輝たちと夕方まで遊ぶ予定だから、18時くらいになるかも」
「そう。お泊まりのメンバーは勇輝くん以外にいるの?」
「もちゃもちゃ…ごくん。泊まるのは勇輝だけ! 明日、瀬戸と三島と合流して、映画とか観に行くの」
「クリスマスなんだから、多いんじゃない?」
「ちっちっち、父さん? この世には前売り券というものがございましてな?」
「事前に席を予約してたのか! やるなぁ」
「お兄ちゃん、なに観るのー?」
「はしっこぐらし。アナ雪2は康太郎と観に行くから、『泣く』って評判のはしっこぐらしにしたんだ」
「え? はしっこぐらしで泣くの…?」
「らしいよー」

朝ご飯をもぐもぐしながら、朝のコミュニケーション。大体、その日の予定や、いつ帰ってくるかを話して、俺は康太郎の口周りをふきふき。
コーンスープとパン屑と目玉焼きの黄身でべちゃべちゃだ。そんな康太郎も可愛いけど、もう10歳なんだし…と思っていたら、小学校ではキチンと食べられているようだ。
つまり、『お兄ちゃんが拭いてくれる』って思って、家ではこんな風にばくばく食べているという事である。つまりはすっごく可愛い。いくらでも拭いちゃう。

「あ、康治郎。学校行く時にあむにご飯あげてくれない?」
「んー!」

結構良い時間になってきたので、食器をシンクに置いて、2階にバッグを取りに行く。ハンガーに掛けてあった紺色ブレザーを着て、まだ綺麗なスクールバッグを引っ掴み、1階に降りて歯磨きしゃかしゃか。
朝ご飯を食べ終わったらしい康太郎が、廊下をぽてぽて歩いていたので、取っ捕まえて歯磨きさせる。
一緒にしゃかしゃか。みんなでしゃかしゃか。
冬休みに入った康太郎はのんびりしているが、俺はそうでもない。

そろそろ、勇輝が迎えに来るからだ。

歯磨きが終わったら口をすすいで、康太郎のお口チェック。しっかり磨けているのを確認出来たら、忘れ物がないか、バイトの制服はちゃんと持っているか、スクールバッグを覗き、家を出る。
玄関まで康太郎が見送ってくれるから、両手で康太郎のもちもちほっぺをむにぃって挟んで、鼻の頭にキスをして出発だー!
よしっ、今日こそ勇輝が来るより早く家を出れる…! と、思って玄関ドアを開けたら、目の前に笑顔を浮かべる勇輝の、厚い胸板があった。

「おはよう寝坊助! 今日もクソ寒いぞ」
「……オ、オハヨウゴザイマス…」
「あむに飯、やってねぇんだろ? 待っててやるからさっさとどうぞ?」
「……ア、アリガトウゴザイマス…」

俺氏、完全敗北…。あむにご飯をやる事すら言い当てられた…。
…しゃーない。勇輝はちょっと化け物染みているところがあるからな。来年こそ、勝とう。
そうと決まれば庭で丸まってるあむに、さっそくご飯を…、っと、その前に。

「母さぁーん、今日超寒いよー!! あむ入れてあげてー!」
「はぁーい。気を付けてねー」
「うん、行ってきまーす!」
「いってらっしゃーい」

キッチンにいるであろう母さんに大きな声で呼び掛けて、あむのご飯袋を取り出す。
途端にしっぽをぶんっぶん振り回して俺の周りをぐるぐるする、ゴールデンレトリバーのあむ。
3年前…。俺が13歳の時、康太郎が7歳の時に2人で拾ってきた子犬だったんだけど、いつの間にか巨人…じゃなかった。巨犬に育ちやがった。
康太郎くらいなら簡単に押し倒せる大きさだ。飛び掛かられたら、多分俺でも倒れるレベル。

「わんっ! わぁんっ!」
「はいはい落ち着けー。今あげるからな」

そう言って皿にドッグフードをバラバラと入れると、あむが大喜びで皿に顔を突っ込む。
……今のうちにひともふり…。

「康治郎くぅん? この寒空に下にいつまでも俺を放置するって事は、後で相応に暖めてくれるって事だよな? 例えば康治郎くんの体とかでさぁ?」
「うぐ…。むむむ、仕方ない…。いっぱい食えよーあむ~。後で母さんが家に入れてくれるからな~。康太郎を頼んだぞ」
「わふっ!」

あむにバイバイして、俺は道路で待っていてくれた勇輝にどーんっと突撃。勇輝、体デカいから簡単に受け止められるんですけどね。くそう。

「ブレザーとマフラーで康治郎の体温が分からねぇ…。手ぇ繋いで良い?」
「うーん、大通りに出るまでだぞ」


俺達は昔から、よく手を繋いでいた。
小学校高学年に上がった辺りで『あれ? 普通男同士の友達って手ぇ繋がないんじゃね?』と俺は思い、いつものように手を繋ごうとした勇輝にそれを告げたら『俺達は特別な親友だから良いんだ。人目を恥ずかしく思うのも分かるが、たかが人目っていう理由で康治郎と手を繋げなくなるなんて嫌だ』ってド直球に言われて、結局押し流された。
でもやっぱり恥ずかしいから、今は人通りの少ない道や場所でのみ、繋いでる。
俺も勇輝と手を繋ぐのは嫌ではないから、寒い日なんかは俺から手を繋ぐ事もある。

ただ手の大きさの違いを嫌と言う程に思い知らされるから、そこだけはちょっと嫌だ。




「じろちゃん、おはよう」
「ん? おぉー瀬戸! おはよー! ふへへ、鼻の頭が真っ赤だぞ!」
「じろちゃんも真っ赤だよ。ほっぺも真っ赤で、赤ちゃんみたい」
「むー…! ばぶぅ! 養え!!」
「あはは、良いよ。俺ん家おいで。可愛がってあげるから」
「えっ! …や、結構です。つぅか、今のセリフ、スケベみたいだぞw」
「否定はしないよ」
「キャーヘンターイ!!」

ふざけ合って、裏声を放ち歩く朝の通学路。ちらほら同じ制服の人達が見えてきて、大通りに出た。
勇輝の手を離し、ポケットに突っ込む。
右に勇輝。左に瀬戸がいて、真ん中に俺。
2人とも、おっそろしく身長高いから、気分的には連れて行かれる宇宙人だ。

「そう言えば、バイト19時に終わるんだったよな? ハートの噴水広場まで迎えに行くわ」
「えっ…。迎えはありがたいけど、あの『恋人の聖地』で男2人かよ…」
「リア充横目にイチャイチャしてやろーぜ!」
「何が楽しいんだよ」

…どうやら勇輝は本気らしい。
マジかぁ。なんだコイツ。どんだけ鋼メンタルなんだ…。同じ非リアとは思えぬ…。

「明日は10時にモール前集合だよね。てか、多分映画館もカップルで凄い事になると思うよ」
「前売り券買ってなくて観れなかったバカップルが、険悪な空気になって別れる所までセットだな」
「勇輝大正解。はしっこぐらしとアナ雪は話題性もあって、デートには持ってこいだもん。でも、マナー悪い奴もいるかもだから、じろちゃんは俺と勇輝の間ね」
「え? なんで俺?」
「康治郎がばぶたれみたいにひ弱そうだからガードしてやるんだよ」
「ひ弱なのは認めるからせめてばぶたれじゃなくて赤ちゃんって言えよ…! んー、でもありがと。三島は?」
「三島は自衛出来るっしょ」
「あー。あの見た目だし、普通は絡む奴もいないだろーなぁ。…つーか、2人とも変な想定してんだな」
「じろちゃんが大好きだからね」
「なんだそれw」

そんな話をしている内に、学校に到着!
うちの学校、一応進学校で通ってるけど、全国偏差値で言えば大体55程度。
だから特進科ってのがあるんだけど、俺も勇輝も普通科だ。そして何故か瀬戸も普通科。テスト毎回90点代キープしているのに。謎だ。

謎と言えばもう瀬戸の存在そのものが謎である。
だってIQ150。噂では、世界的頭脳集団、メンサのメンバーであるとも囁かれている。本人が否定も肯定もしないから、真実はいつも闇の中。
ただ、『じろちゃんにだけなら、成人した後に教えてあげる』と夏に言われているので、成人が楽しみだ。

さらにIQと関係あるのかは分からないけど、瀬戸は入学式の時から俺を知っていた。
入学式、勇輝と別れた瞬間に話し掛けてきて、『阿山康治郎くんだよね? 俺、瀬戸康隆。よろしく』って。
いやー…隣の中学校に、天才の瀬戸って奴がいるって噂は聞いてたから、まさかと思って確認したら本人でした。
何故俺の事を知っているのかって聞いたら、『受験会場で見掛けた。寒さで鼻を真っ赤にしてて印象に残ったから』だって。
印象に残ったか否かで友達を決めるとは…。常人と感覚が違うのだろうか。

と一時は思ったけど、話すうちに分かった。
天才とか言われてるし、実際天才なんだろうけど、瀬戸は普通に男子高校生だ。
下ネタで笑うし。


「ぅおっはよぉーお三方ぁーーー!! 今日もラブラブ三つ巴ですなぁーーぐ腐腐…」
「おはよう谷川。そして俺らを妄想に使うな。出演料取るぞ」
「同人誌の収益で良い?」
「ぐ、それはなんか嫌だ…」
「ついでに谷川、三つ巴は誤用ね」
「あらあら瀬戸くん今日も美形ねぐへへ。薄い本が厚くなるわぁ」
「そのいきなり始まる近所のおばさんの物真似、再現率高いよね。地味に」

お腐れ女子の谷川さんの萌えに使われ、教室に行く間に、友達の多い勇輝が色んな人から声を掛けられ、女子から恋してるビームを向けられる…。
もちろん勇輝と瀬戸がなァ!!
俺に向けられる視線なんて『は? 何アイツ』か『あのポジション羨ましい代われ』の視線だけ。両方という場合もある。泣いてなんかいない。

「阿山クンおっはーー!」
「おっはー三島ー!」

教室に到着してバッグを机の横に掛けたタイミングで、クラスメイトと話してた三島が駆け寄ってきた。
話すは当然、ゲームについて! 何故なら俺達はゲーマー友達だからであーる!

「阿山クン…イベントガチャ回しました…?」
「FLO以外は…」
「戦果をお伺いしても…?」
「ふふふ…、まぁまずはモンストアから見てくだされ…」
「…!? その不敵な笑みは…! …はぁッ!? イザナミとイザナギ出てんじゃん!! え、ちょちょ…、ジャック・ザ・リッパーも!? うわぁっサンタ・クロース! えぇぇぇぇ…☆5祭りじゃん…」
「50連引いて☆5、11体も出ちゃいましたー!」
「すげぇぇぇぇぇぇぇぇ」
「ちなみに三島は?」
「安定の爆死☆」
「知ってた☆」

ソシャゲできゃぴきゃぴ盛り上がる俺達。俺、ガチャで『来年の運使い果たしたんじゃね?』ってぐらい良いのばっかり引いた。
☆5もSSRも、クリスマスイベント期間に入ってから、一体何度見た事か…。

ふっ、運に愛される男は辛いぜっ…。



********************




「えー、大学受験というものは、今後の人生の道筋を決める重要な出来事でして、えー家族や友人と協力し合い、最大の敵である自分自身に、えー打ち勝つ事が大変重要です」

全校集会ではいつものように校長先生のありがたーーーい言葉を聞き流しながらうとうとする。多分みんなうとうとしてる。
俺や勇輝のクラスは体育館の一番はしっこに並んでいて、さらに俺達男子ははしっこ中のはしっこ。
隣には生徒指導の恐い先生や、ちょっと熱血が入ってる先生が生徒達を見張っていて、うとうとはしても居眠りは出来ない。私語も禁物だ。
間違っても目は瞑らないように校長のテカテカ頭を凝視するも、やっぱり眠い。
眠いもんは眠い。

……すぴょー。

「…阿山ぁ」
「ひぇっ!」

ドスの効いた声にぱちっと目を開けると、目の前に生徒指導の鬼瓦先生の超強面があった。
はるか後ろに並んでいる勇輝と瀬戸と三島のため息が聞こえた気がしたので、後でパンチしよ。

…いやしかし、しまった。
何度か怒ってる所見た事あるけど、ライオンも裸足で逃げ出すレベルで恐いんだよな、鬼瓦先生。ライオンは元々裸足だけどさ…。
こんな全校生徒が集まる場所で怒鳴られんのかな…。ヤだな、恥ずかしいな……。
そう思い、怒鳴り散らされること覚悟でうつむくも、掛けられたのは予想外の言葉だった。

「知ってるぜ。バイト大変なんだろ? キツイなら保健室行くか? 付き添ってやるが…」
「!? い、いえ。大丈夫です…。ごめんなさい…」
「何で謝ってんだよ。無理だけはすんじゃねぇぞ。何かあったらいつでも相談しろよ。これ渡しておくから」
「あ、あ、ありがとうございます…」

そう言われ渡されたのは、電話番号とメールアドレスが書かれた紙切れ。
あまりの対応に呆然としていると、鬼瓦先生は俺の頭をポンポンと撫でて、優しい顔付きのまま、別のクラスの列へ入って行った。


「高嶋ァァァァァァ!!! 寝てんじゃねェぞゴラ貴様ァァァ!!!」

直後に聞こえた鬼瓦先生の怒声。
ただ恐いだけじゃなく、ちゃんと各生徒の事情を把握した上で叱っているのなら、すごい先生だなぁ…なんて思ったけど、やっぱり恐かった。
周囲の生徒も先生も、俺と高嶋への対応の差に愕然としているらしく、次第にざわつきが大きくなっていく。

とりあえず高嶋に合掌。





********************



キーンコーンカーンコーン

「きりーつ。れーい」
「さよーならー」
「はいはいさいなら。あ、待て阿山ー」
「ぉぎゃあっ」

LHRが終わって、勇輝と瀬戸と三島と一緒にサイゼへ行こうと教室を出ようとした俺のバッグを、担任の先生が掴んで引き留めた。
思わず赤ちゃんみたいな声が出て、勇輝が笑いながら『ばぶたれ』と呟く。
…今日の俺、マジ赤ちゃん……。

「お前期末の数学の点数、ギリギリだったの覚えてるよな」
「わはは何の事だか」
「しらばっくれんなー。冬休み補習な」
「そんなっ!? え、いつですか…!?」
「あー…、30までならいつでも良いから。どうせお前だけだし、俺も年内は毎日いるし」
「俺だけーっ!?」
「ははは、うちのクラス、数学は優秀なんだよ」

諦めろ、と俺の頭をポンポンする先生。
いつも適当で、忘れ物とか遅刻にも甘くて、たまに授業止めて雑談とかしてくれて、俺としては大好きなおじさん先生。
でも、授業中に変な変化球指名してきたり、プリントの問題とか解けてないと、俺の机の前に座り込んで、ニヤニヤしながら『康治郎ちゃんにはまだ早かったかなー。ごめんなー。ほら、ここ解けるか? いんすうぶんかいって言うんだぞー』って超からかってくるから、そこは殴りたい。
あと、テスト期間中はよく無精髭を生やしていて、俺を見付けては捕まえて頬擦りしてくるんだ。
じょりじょりって。じょりじょり~って…。

「じゃ、俺もじろちゃんと補習行こっかな」
「…瀬戸、お前の人生に補習という文字はないだろ」
「いえ先生、俺…分からない所があるんです」
「……言うだけ言ってみろ」
「超関数のフーリエ変換なんですが」
「あ無理無理。俺、大学の範囲聞いただけで一昨日以前の記憶失うから」
「大丈夫です。俺と一緒に学び直しましょう」
「勘弁して」

良い笑顔で先生によく分からん教科書をぐいぐい押し付ける瀬戸と、それから逃げる先生…。
俺としては瀬戸が来てくれたら、教師が倍になって嬉しいんだけど…。
ところでちょうかんすうのふーりえへんかんって何? 美味しいの?

「じろちゃん、俺も補習行くから、日時決まったら連絡してね」
「うんっ!」

瀬戸大先生がいるならもう安心。意地悪な桜坂先生担任だって怖くない!

「じろちゃんも、せめて微分積分くらいは出来るようになろうね。教えてあげるから一緒に頑張ろ?」

………あれ、微分積分って確か数学Ⅲの内容では…?





「んで康治郎、結局補習かよ?」
「瀬戸&桜坂先生による悪夢の詰め込み補習…、27日に決定…」
「死なないでね阿山クン」
「骨は拾ってやるわ」
「肉と服も拾ってぇぇぇ」

学生の味方、サイゼでウマ辛チキンをもちゃもちゃ。
男子高校生×4の食欲はやっぱり並大抵のものではなく、あっという間にテーブルがお皿でいっぱいに。
特に勇輝と三島の食べる量がもうヤバくって、新人さんっぽいスタッフさんの顔色もヤバい。
同じファミレス店員仲間として申し訳ない…。ただでさえ、クリスマス・イブで忙しいのに…。ごめんね。

「つぅか、今日阿山クンって吉川クンの家に泊まるんだよね」
「うん。勇輝ん家、お父さんとお母さんいないらしいから」
「わぁ…、吉川クン、イタズラしちゃダメだよ?」
「善処するわ」
「……????」

勇輝たちが何を言っているのか、いまいち分からない。『どういう意味?』って顔を瀬戸に向けたら、『じろちゃんは何も知らなくて良いんだよ』って言われた。
…ここでも赤ちゃんかよぅ、俺は。

「…もう良いもん。俺パンチェッタピザ食べるもん」
「あ~拗ねんなよ康治郎。置いてけぼりにして悪かったな」
「阿山クンの身の為だからさ~! 怒らないで~」
「ふんだ。知らないもんね。聞こえないもんね」
「ごめんごめんじろちゃん。ほらパスタ美味しいよ? あーん」
「あーん…はむはむ。もちゃもちゃ。美味い!」
「あっ俺も! 康治郎あ~~ん」
「あ~~むっ。もちゃもちゃ…。素晴らしい!」
「阿山クン、はいあ~ん」
「あ~ん。もっちゃもっちゃ。最高!」

…なんて普通に食べちゃってるけど、これって餌付けでは?
俺、ペット扱いでは…??






「俺、いっぱいみんなの分食べちゃったし! あまつさえ奢ってもらうとか!! 流石に気が引ける!! えぇ流石に!!!」
「いーからいーから。あ、会計一緒で」
「はい」
「俺がまとめて払うから瀬戸と三島あとで俺に払えよ」
「はいはーい」
「お会計7623円になりまーす」
「1万からー…あ、23円あった」
「3等分で1人2541円だね」
「瀬戸さっすがー。暗算はえ~」
「俺も払うってぇーー!」
「4等分じゃ1905.75円になっちゃうよ」
「でも払うぅぅーーー!!!」

必死にバッグの中の財布に手を伸ばそうとする俺。そんな俺の両手を掴んでバンザーイって感じで上に上げる瀬戸。
そうこうしているうちに勇輝が会計を終わらせちゃって、三島が自分の分と、瀬戸の財布から瀬戸の分を勇輝に払っちゃった…。

「払うぅー払うぅー払うぅーー!!」
「なんかそういう鳴き声の動物みたいだネ」
「こら康治郎。あんまりワガママ言ってるとお尻ペンペンするぞ」
「えっひどい。…あれ!? 俺のこれワガママなの!!?」
「諦めなよじろちゃん。そんなに良い反応されちゃったら、明日の映画とかも出してあげたくなっちゃうよ」
「そっそれはダメ! ……うぅー…。ご馳走さまでした…」
「最初っからそう言えば良いんだよ」

ふふんとドヤ顔を見せる勇輝。
ムカついたので頬を膨らませれば、片手で両頬を潰され、『ぶぷっ』と口の中の空気が噴き出してしまい、勇輝も瀬戸も三島も笑って俺はプンスカ。
そしてそのままもちもちされた。解せぬ。





「じゃ、バイト頑張ってね。セクハラされたら遠慮なく相談してね。身内の弁護士、いつでも紹介出来るからね」
「男のセクハラ染みたスキンシップに瀬戸のおじちゃんの力借りないからね? みんなスキンシップだからね?」
「お尻触られてたじゃん」
「スキンシップだから!」

バイト先であるファミレス前。
俺はちょっと過保護な瀬戸を落ち着かせていた。
いやさ、確かにいきなりお尻触られるとビックリするけど、あれはみんな冗談のスキンシップだから! 1回お願いしたら、料理や食器を運んでいる時は止めてくれたから!
しかもみんな常連さんだから! みんな良く可愛がってくれてるから! 暇な時はいっぱいなでなでしてくれるから!

「男の尻なんて揉んでも何にもならないだろ? だから大丈夫! 女性店員さんには誰もしてないんだし!」
「……そう?」
「そう! つか俺もう行くな!」

実はさっきから気になってたけど、窓から見える店内ヤバい。そろそろ満席…あっ待ちが出た!
平日の13時30分なのに…。いつもは半分くらいなのにぃぃ…。

「行ってきまーす!」
「「「行ってらっしゃーい」」」


バイバイと3人に手を振って裏口から中に入ると、ちょうど先輩が休憩中だった。
朝、俺に写真を送って来てくれた先輩で、バイト仲間の中でも特に仲の良い先輩だ。キッチンだから金髪に染めていて、タバコを吸っている。
ワルって感じでカッコいい!!

「おはよーございまーす」
「おぉー康治郎、おはよーさん。表スゲーぞ」
「さっき見ましたよぉ…。もう待ちのお客さんいましたし」
「ヤベーな…。ぼさっと休憩してる場合じゃねーわ。早く戻らねーと店長にドヤされるわ。ホールは大慌てらしーぜ」
「うへぇ…」
「俺18時上がりだけどよ、18時半に20人来るんだと」
「死んじゃった♪」

魂の抜けた笑い声を出しながらくるくる回転する俺。先輩が『手遅れだったんだ…』って呟いて、俺の頭を撫でながらキッチンに戻っていった。
ノリ良いなぁ。大好き。

パパッと制服に着替えて、時間になるまでスマホをポチポチ。
ツイッターじゃ、フォローしている人が悩みを呟いていた。

なんか、男子高校生に恋しちゃったんだって。その人も男だから告白しても可能性は低いし、相手が未成年だから手が出せないらしい…。
でも相手はすっっっっごい男にモテていて、まだ恋人はいないみたいだけど、色んな男がその男子高校生を狙っていると…。なお、男子高校生は向けられている好意に気付いていない模様。
……あららぁ。男子高校生はノンケかぁ。なんか…ドンマイだなぁ。
頑張れ『√2』さん。俺、応援してるから!
…ん? ふむふむ、その男子高校生って、俺と同じ市内の高校に通っているのか!
なになに。身長165くらいで、ほっぺがもちもち。スキンシップが大好きで、撫でたり食べ物を与えれば大体懐く…。
ただし最強幼馴染ガードと天才腹黒ガードが付いていて、接触するのは非常に困難…。
…どこの少女漫画の世界の話だろう。

っと、そんな事してるうちにもう14時だ!
タイムカード押してレッツ労働!! 頑張ろう!!





********************




②は明日投稿予定です。
そしてこのお話、きっかり1万文字なんですよ。




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