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権力系ホモ★グリス王国編

インテリメガネとエンカウント

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「あっちの棚にはラージニア大森林の調査記録。発見された動植物や、魔獣が記録されているよ。ガララ砂漠の調査記録もあるけど、少し面白みには欠けるかな。氷の大陸と、ジバ雪原の調査記録は隣の棚。大森林と氷の大陸は調査途中に強大な魔族と遭遇し、泣く泣く断念してあるけどね」

やっふぉぉぉいッッッ!! 知的好奇心ゴリッゴリ刺激されてるぜイェーーーイ!!!

アッ、『確認された魔人一覧』!? 素晴らしい!! こっちは『古代魔導具』!? ひぇっ『伝説の神獣と出現場所』!? 『女神教と正教会の関係と真実』ゥーーーーッッッ!!!

あ、正教会って言うのは、俺らがいつも『教会』って言ってるやつな!
あぁ…、ここが宝の山なんだ…。俺ここに永住したい…。

「これから好きな時に入って構わないよ。衛兵達は顔を覚えただろうし、他の衛兵にも名前を伝えておくから!」
「おおおおおうじさまぁ…!!」

思わず王子様にいつものノリで感謝してしまったが、王子様は嬉しそうに『うんっ!』て頷くだけだった。
んぐぅ、ちょっと可愛い。失礼なんだろうけど。

「あ、ただここの本の内容は不用意に外に漏らさないでね。コージくんだから大丈夫だとは思うけど、『魔人化計画』なんて外に出ちゃったらマズいから」
「それははい勿論!」

王子様にそう答えて本をペラペラ捲り、気になったページを読み読み…。王子様は隣の棚から本を引き抜いて、読み始めた。
…ように見えるが、瞳はチラチラ俺を見ているようだ。俺も王子様をチラ見していたから、目が合ってしまい、王子様が照れたように、はにかみ笑顔を見せた。
…可愛いな畜生。本当に第1王子か?
なんて思っていた次の瞬間。

ゴゴゴゴゴゴゴ…


「ッ!? コージく…!」
「うぇはっ!?」


俺の前にあった本棚がいきなり動き出し、王子様と俺の間に入って、俺達は離れてしまった。





********************



ドンッドンッ

「コージくん!! コージくん聞こえるか!!」

自分とコージくんを引き剥がすようにして現れた本棚を殴り、僕は叫んだ。
たった数十センチの障害物が出来ただけだと言うのに、向こう側からは何も聞こえない。
恐らく、僕の声も届いていないのだろう。
こんなのは、通常ではあり得ない。

ここは、中で何かが起きた際に衛兵達に声が届くよう、上は突き抜けになっている。だから当然、僕の声もコージくんに届く筈であり、コージくんの声も僕に届く筈であった。
状況だけ見ると、コージくんが僕から離れる為に魔法で本棚の移動装置を動かしたという事も考えられなくはないが、異世界人で城にも、この閲覧レベル4の部屋にも初めて入るコージくんがそれを知っていたのか疑わしい上に、コージくんは動き始めた本棚を見て、吃驚したような表情と声を上げた。
何も知らなかった証拠である。

しかし、これはかなりマズい状況だ。
衛兵達は、僕とコージくん以外は誰も来ていないと話していた。
にも関わらず本棚が動き、僕とコージくんを離した。恐らく誰かの意思が介入している。
狙いは分からない。一体誰なのかも。

ここを見張る衛兵は、隠密系スキルを見破れるレベル70以上の人間が集められている。
それすら突破する実力者…。あるいは、部屋の中に抜け道がある?
これは非常にマズい。
コージくんの方は一体どういう状況だ?
傷付けられれば当然許せないが、古龍達がどういう行動を取るか分からない。最悪、国が滅びる。
古龍達に『安全だ』なんて言っておいて、この有り様とは。コージくんが結界を張ってくれていて、良かった。

とにかく、急いでこの本棚を移動させなければ、手遅れになってしまう気がしてならない。

「衛兵!! L4-GGを移動させろ!!! 急げ!!!」

コージくんのような、権力者に媚びない者は本当に珍しいんだ。
それに、あの容姿であの性格にあの能力。大切な者達を守る為ならば、軍事利用される事すら厭わない度胸。

絶対に手に入れる。
古龍達や聖騎士団長に比べると力不足なのだろうが、僕だってコージくんを守りたい。

次期王として、1人の男として。コージくんだけは絶対に。




********************




「えッちょ…、王子様!? 王子様ー!?」

なんという事でしょう。俺の前にあった本棚が突然、俺と王子様の間にドッスンと移動したではありませんか。
なんという事をしてくれたのでしょう。あれだけ『1人になるな』と言っていたリイサスさんを裏切ってしまったではありませんか。
ごめんちゃいリイサスしゃん…。ゆるちて…。

鬼のような形相を浮かべる脳内リイサスさんと、ちょっと呆れた様子の脳内カイルに脳内スライディング土下座。

…いやでも、これ俺、悪くなくね?
悪いのこの棚じゃん。この野郎。本棚じゃなかったら殴ってるかんな!

それにしても、静かだ…。
本棚の上に空間があるから、王子様の声とか聞こえる筈なのになー。
でも、王子様の仕業じゃない事は確かだ。だって俺に手を伸ばしてたもん。
と、すると一体誰が…? 衛兵さんは俺達以外いないって言ってたけど…。じゃあ誰よ?

カツン…カツン……

足音だとぅ!? 絶対誰かいらっしゃいますやん。ちょっと俺微妙にコミュ障なんですけど。初対面で向き合ってお話とか無理なんですけど。
『はじめましてこんにちは! コージ・アヤマです!』とでも言えばOK? とりあえず名乗っとけ精神で大丈夫?

カツン……

本棚迷路の奥から現れたのは、高級そうな青い外套を纏ったメガネの男性だった。
インテリ系って言うの? 紫色の長い、アシンメトリー…だっけ。その髪型してる。
クソかっこいい。身長10センチで良いからちょうだい?
つーか服もかっこいいな! 175以上じゃないと似合わない服だ…。ネトゲの課金衣装みたいぃ…。異世界にメガネってあるんだな。

あぁそうそう、課金って本当にキリが無いんだよな…。バイト始めてからはちょくちょくしてたけど、ほんっとうに素晴らしい衣装やアイテムが多くて…。運営も微妙なラインで課金促してくるからさ! ついポチっちゃうんだよな…。
それに日本イベント多過ぎない? ハロウィンイベント終わったらクリスマスイベントでそれ終わったら年越しイベントとかさぁ。ふざけてるよな。多宗教国家ありがとう。おかげで毎月のように楽しかったです。

「第1王子を虜にしているようだったから、どんな計算高い奴かと思えば…。拍子抜けしたよ。容姿だけの子供じゃないか」

……カッチーン。
何こいつ。嫌い。交流と言える交流すらしてないけど、もう分かった。こいつ嫌いだ!
確かにさ、王子様と付き合える中身は持ち合わせてないだろうけどさ、それ直接本人に言っちゃう?
思うのは自由だぜ? でも、俺とこいつ以外のいない空間で、わざわざ声に出して言うってところからもう悪意しか見えない。
インテリはインテリでも、意地悪な方のインテリだったか。


………いやいや、イラッときてつい嫌いとか思っちゃったけど、この人も何かイヤな事があって、ムシャクシャしてたのかもな。
それに、ここにいるって事は閲覧レベル4を読めるような偉い人って事。
そんな偉い人から見れば『なんかよく分からん子供がこの国の未来を担う第1王子を堕として閲覧レベル4にまで侵入しやがった』としか思えないよな。

あれ? 悪いの俺じゃね?
ごめんインテリ。嫌いとか思ってごめん。

「…素晴らしい容姿だな。第3王子辺りとならば誰も文句は言わなかっただろうに…。第1王子相手ならば相応の教養も身に付けなければならない。そして、君は高望みし過ぎたせいで、僕のようなゲスの愛妻にされてしまうんだよ」

───……???
OK。今のインテリのセリフを整理してみよう。

『素晴らしい容姿』。
ツッコミたいがスルーで良い。
『第3王子辺りとならな誰も~…』。
第3王子までいるのね? まぁ良いだろう。次。
『第1王子相手ならば相応の教養も~…』。
その通りだと思う。大正論だ。文句なし。次。
『高望みし過ぎたせいで』。
インテリの勘違いだ。俺は第1王子など狙っていない。次。
『僕のようなゲスの』。
自覚あるんだな。次。
『愛妻にされてしまうんだよ』。
………?????

最後のセリフなんだ?
アイサイって…愛妻、だよな。え? 俺インテリの妻になんの? で、インテリは俺を愛する妻にしてくれんの?
『性奴隷にされて~』とか『肉便器にされて~』なら分かるよ? でも愛妻って何?
あ…、このインテリ、俺が世界序列91位の赤古龍の愛妻候補って知らないのか…。
あぁ~、俺の正体も名前も知らない、と…。で、容姿を見て愛妻決定?
は? なんだその狂った思考回路。
と言うか、俺が大人しく結婚してやるとでも思ってんのか?

「君、名前は?」
「……コージ・アヤマですケド…」

一応名乗ったが、警戒心はMAX。だって愛妻にされちゃうかも知れないのだ。
……愛妻にされちゃうかもって何それウケるんですけど。
と、俺が1人内心つぼっていると、インテリが急に接近してきた。
驚いて後退りしようとするも、後ろは本棚。気分は追い詰められたウサギだ。
足ダンすっぞ!

「コージ、僕の瞳は何色か分かるかな?」
「瞳…って…、あ、青色じゃ……ッ!?」


バキィィィ…ン……コンッカンッ…コロコロ…


色を問われ、インテリの瞳を視認した途端、目を通して、頭に何かが流れ込んで来る感覚が俺を襲った。熱い何かは恐怖と一緒に俺の奥の奥まで侵入しようとしていて、俺は体が動かせなかった。しかし、それは何かの破壊音と共に、消え失せる。
ハッとして音の発生源…、俺の手首に視線をやると、ジャックさんから貰ったブレスレットがなくて、床にはブレスレットの残骸と思わしき物が。

「………妨害魔導具…」

インテリの驚いたような声に、俺は慌てて結界を張った。

『精神不干渉結界』。
その名の通り、精神への干渉魔法やスキルが一切無効になる、ありがたい結界。

何故この結果を張ったのかって?
………あのブレスレットは、ジャックさんから貰ったお守りだ。ただの綺麗なブレスレットじゃない。
ジャックさんは昔、旅の途中で助けた裕福な商人から、これを貰ったって言ってたけど…。普通はそんなにほいほい手に入れられるものでもない。

これは、所有者に掛けられた洗脳を1度だけはじいてくれる魔導具だ。
これが四散するように壊れた時は、洗脳を仕掛けられた時。

つまりこのインテリ野郎、俺を洗脳しようとしやがった。

「精神不干渉結界…? コージは結界属性だったのか。……チッ、厄介な」
「な、なんで洗脳なんて…」
「言っただろう? 愛妻にするんだよ」

あ~~~~~~なるほどねはいはいはい。愛妻にする為に洗脳ねはいはい。これはまた歪んだ愛だなぁ。
…でも、本当に洗脳されなくて良かった。前にジャックさんに洗脳を掛けられそうになった時とは大違いだ。あの時は自力で振り払えたけど、今回のは桁が違う。
自力で抵抗出来るレベルじゃない。ブレスレットが無ければ、ころっと洗脳されて愛妻にされちゃってた。

……別にそんな凶悪な事される訳じゃないんですけどね。某古龍や某聖騎士団長や某ギルマスや某盗賊頭が怖いんですわ。

結界を張ったとは言え、このインテリ野郎と2人きりという現状は変わらない。
やろうと思えば、このインテリに攻撃出来ない事もないんだが…、ここは閲覧レベル4の貴重な書物が集まった部屋。カイルは許可したけど、攻撃魔法を使うのははばかられた。
ので、助けを呼ぶに決定。目指すは1番近くにいるであろう王子様だ。

「おっ、王子様、王子さまぁッ!」
「………………チッ。仕方がないか…。機会を見て出直すしか…」
「王子さまぁーーッ!!」
「……ージく…! コージくん!!」
「…!!! 王子様っ」

スピーカーのボリュームを上げるように、やっと聞こえた王子様の声。
内心、超絶焦っていたから正直安心した。…多分、声にも焦りが出てたと思うけどな!

ゴゴゴゴ……

やっと動き出してくれた本棚。
ふはは、第1王子様のご登場よ! インテリめ、捕まえてくれるわー!
…と思ったらインテリがいないだとぅ!? は!? どこに逃げたよこの愛妻欲しがりインテリメガネーッ!!

アッ鑑定しとけば良かった!!!!!






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