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ツンデレガチ勢★聖騎士団編

番外編 聖なる日の奇跡①

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※番外編です。
※見なくても支障はありません。多分。コージが可愛がられてたってことさえ分かればOKです。


********************



気が付くと、俺は白い空間にいた

「!? ……あれ、ここって……」
「康治郎」

見覚えのある白い空間に響いた、聞き覚えのあるイケボ。俺がバッと振り返ると、そこには金色に輝くトロフィーが……。

…って、ゼロア!?
え、なに。うそ。ここにいるってことは、俺また仮昇天しちゃったの?
ここに来るまでの記憶があやふやなんだけど……。えーと、えーと、何があったんだっけ?
……確か、カイルの部屋でエロ本を探してたんだっけ……? うん、そうだ。そこまでは覚えてる。

「ソチラでは創造祭と言ったな。地球ではこの日をなんと言う?」

へ? クリスマス?

「ああ、そうだ。今日はクリスマスだ。ソチラでは、人間の暮らす世界が創造された日とされている。この日、子供は私の使者に扮した親からプレゼントを貰う。そこはクリスマスと同じだな」

ほへぇ…。
……ん? そんで何で俺がここにいることになるの?
多分、ゼロアが呼んだんだよね?

「うむ。せっかくだからな。プレゼント、要らぬか?」
「クリスマスプレゼント!? いるいるいる!」

…って反射で答えちゃったけど、ゼロアが俺にクリスマスプレゼント……?
え、なんで?

「……私が親代わりだからだ。今、康治郎のいる世界では15歳で成人だが、親代わりとして1度も贈り物が無いのは気分的に嫌だった」

そ、そうですか…。……ん、でも、すっげー嬉しい。ゼロアが親代わりなんて、心強い事この上ないしな。

「…そうか。嬉しい事を言ってくれる。…さて、康治郎への贈り物だが、どうせなら私にしか出来ない事をしようと思う」

ゼロアにしか出来ない事? へぇ、何だろ。すっごい力使う事とか?

「そうだ。……元いた世界で家族以外の会いたい人を10人選ぶが良い」

……会わせて、くれるのか?

「うむ。夢の中でだが」

…家族は、ダメなんだ……。

「……………すまないな」

………いや、良いんだよ! 康太郎なんて、俺が死んで特に悲しんでるだろうし、ここで中途半端に会ったら立ち直りが遅くなるよな!!

「……………………」

えーっと、10人かぁ…。
まずはやっぱり、親友の勇輝(♂)! 次に…IQ150の天才☆瀬戸くん(♂)でぇ…、『もふかん同盟』仲間の柿沼先生(♂)とも会って、異世界に獣人がいるって話したいなぁ~! 後は…お腐れ女子の谷川(♀)に、ホモに求婚されてるって言ってみたい! それと、腹黒奥野(♀)の入れ知恵のおかげでワーナーさんのクビを阻止出来たんだし、お礼言っときたいな。陽キャで唯一話し掛けれてた三島(♂)ともちょっと話したい。あっ、高校受験の面倒見てくれたんだし、樹先輩(♂)と華原先輩(♀)にも挨拶しとかなきゃ。………うぅん、迷う…。クラスのアイドルと1回で良いからお話したい…。でも聖さん(♀)と対面してまともに声が出せるかどうか……。………後、プチいじめっ子の杉山(♂)とも、話しとくか。


………うんっ、この10人で決まり!

「あい分かった。話せる時間は1人につき、5分程度だ。大切に使うんだぞ」

5分かー。よし、まずはお礼、その後『俺は元気にやってます』、最後にお別れ。完璧!

「では行くぞ。順番はランダムだ」


そう言って、ゼロアがふっと消えた。
それでも相変わらず変化の無い白い空間にちょっと退屈していると、後ろからペタペタと足音。
振り替えると、桃色のセーターに茶色のぶかぶかズボンを履いた少女がいた。



●奥野


「……奥野」

「!!! ……阿山?」

俺が声を掛けると、奥野は驚愕の表情で駆け寄って来た。
お、おおぅ。すげーな奥野…。俺死んだ人が夢に出てきたら怖がっちゃうかも知れねーのに…。

「………本物…な、わけ、ないか……。あーやだやだ…夢にまで見ちゃうなんて……」

「ほ、本物ですよー。奥野さーん…」

「……じゃあ…、何かあたしの知らない情報教えて」

「えっ、えーっと…、あ、俺んち、犬飼ってたんだよ。『あむ』っていうゴールデンレトリバー!」

「………確かに、知らないわ。起きたら知ってそうな人に聞いてみる」

「お、おう……」

………………………………。
沈黙が続き、俺をじぃっと観察していた奥野が、目に涙をじわじわと溜めていき、俺がぎょっとしたのもつかの間。すごい勢いで色々聞かれた。

「あんた、なんで死んだりしたのよ!!」

「大変だったんだから!! みんなみんな泣いて、しばらく…っていうか今も教室どんよりしてんだから!!」

「あんたの親友様なんか見てるこっちが可哀想なぐらいズタボロになっちゃって、なんで…! なんでぇ…っ!」

親友様……勇輝、そんなに悲しんでくれてるのか…。……ちょっと、嬉しいかも。

「えと、今は時間が無いんだ。で、多分これが最後になるから、お礼と現状報告とお別れしようと思って」

「はぁ!? ふざけんじゃないわよ!! お別れなんて…そんな、一方的に!! ちゃんと天国行けたんでしょうね!! 地獄で毎日死にそうですとか言われたら許さないから!!」

…あれ…、奥野、結構良い奴……。なんか俺まで泣けてきちゃった。……ぐすっ。

「…俺な……、異世界で別の人生送ってんだ。そんで、変人に囲まれながらも楽しく暮らしてんだよ。奥野の、『相手を説得したければ弱味に漬け込め』ってアドバイスでな、大切な人がクビにならずに済んだんだ。奥野…、ありがとな」

俺の頬に、涙がツーって流れた。対する奥野は涙ボロッボロで、いつもの余裕綽々って表情は完璧崩れ去っている。

「あっそう! 楽しそうで幸せそうで何よりだわ!! 他にも色々世渡り術教えてあげたでしょ! 上手く活用しないと追っ掛けてジャイアントスイングからのバックドロップかましてやるから!!」

「……聞くからに痛そうなんだが」

「プロレス技よお馬鹿!!」

やっぱり阿山は阿山ね、と奥野がくすっと笑った。
……そろそろ時間だ。お別れを、しなければ。

「……奥野、今までありがとう。お前なら高身長高学歴高収入の男捕まえるって夢、きっと叶うぜ!」

「当たり前じゃない! 絶対叶えてみせるわ! ……あんたも、幸せに暮らしなさいよ…。後、あんたの親友様にも会ってあげなさい!」

「勿論!! ………じゃ、元気でな。俺の事、忘れんなよ」

「忘れられる訳がないわ。クリスマスの夜に化けて出るなんて馬鹿みたいな真似、曾孫にまで語ってあげる。…阿山こそ、忘れないでね」

「俺だって忘れられる訳がない! 大切な友達だから」

「…そう、嬉しいわ。……さよなら、阿山」

「ああ。さよなら、奥野」



●樹先輩

ふっと消えた奥野に寂しさが込み上げるも、ゴシゴシ(ノ_<。)と涙を拭った。次の人に会った時、その人への涙を流したいからな。
そして現れたすらりとした長身の、眼鏡の青年。
現在、大学1年生の、樹先輩だった。

「樹せんぱーい!」

「……!! 康治郎!!!」

俺を俺と認識した途端にぎゅっと抱き付いてきた樹先輩。独り言で『ゆめ? 夢だよな…、ああでも、夢でも良いや。康治郎…、また、会えた…』ってブツブツ呟いている。
俺に受験勉強を教えてくれた時もそうだった。
中学の問題をどうやって分かりやすく教えるか、ブツブツ呟いて、一緒に教えてくれていた華原先輩に背中をバシバシ叩かれていたのだ。
俺は奥野に話した事を樹先輩にも話し、一応本物と認めて貰えた。

「異世界? そこ、どうやったら行けんの?」

「うー…ん、多分、運命に逆らって死んだら…って、来るつもりなんですか絶対ダメっすよ!! 来るとしてもちゃんと生を全うして、生まれ変わって来てください!」

「えー、そん時は康治郎もおじいちゃんになって死んでるかもじゃん」

「それでもダメ! 大体、華原先輩はどうするんですか!?」

「一緒に来てもらうけど。康治郎がいるって分かったら絶対来るでしょ~」

「アッ、来そう…」

そう、樹先輩と華原先輩は、恋人同士なのだ。付き合い始めたと知った時はリア充滅べェ…ってなったもんだが、尻に敷かれる樹先輩を見たら…恋人はしばらく良いかなって思った。

「……でも…そっかぁ~、康治郎、異世界に行っちゃったのか~………」

涙目でしょんぼりと肩を落とす樹先輩の背中をぽんぽんすると、また抱き付かれた。しかも頭なでなでされた。

「……俺と華原ね、大学卒業したらさっさと就職して籍入れて子作りに励んで…って決めてたんだよ」

「…? 何でですか?」

「康治郎が俺達の子供として生まれて来てくれるかも知れないって思ったから」

「…………」

「俺の大好きな康治郎が、俺の大好きな華原の腹から産まれてくれるなんて、想像しただけでも幸せでずっとニヤけてて、華原にキモいって言われちゃったw」

「…………いつき、せんぱい…」

「俺ねぇ、華原に振られたら、康治郎襲って犯して無理矢理だけど俺の恋人になってもらおうって考えてたんだよ? 華原じゃパンチの威力が強すぎて俺死ぬからさ、華原と同じくらい大好きで愛してて俺より非力な康治郎なら、イケるかなって。康治郎、超優しいし、最終的には受け入れてくれそうでさ」

「………先輩」

「……なぁ、なんで死んじゃったんだよ」

悲痛な顔で、樹先輩は泣いていた。

「お別れって何だよ。見守ってくれんならまだしも、異世界に飛ばされて、もう2度と会えないのかよ?」

俺を抱き締める力が、ぐぐっと強くなった。

「嫌だ。愛してんのに。戻ってきてよ」

ボロボロ溢れ出ている涙が、俺の肩を濡らしていく。
悔しそうに、心底悔しそうに泣く樹先輩を、俺はただ黙って抱き締め続けた。



「……樹先輩。俺も、樹先輩の事、愛してます。だから、泣き止んで。ずっと、愛してるから。異世界でも、どこでも、樹先輩と華原先輩の事、愛してるから」

「う、ぅ…ふ、うっ…、ん、はぁ…、ずぴっ、愛して、なかったら、呪ってやる、からな……ふ、ぅっ、死んで、ズズッ…、どこまで、も…追い掛けて、や、る…」

「もし、先輩が亡くなって、まだ俺に会いたいって思ってくれてたら、きっと異世界に転生出来ると思いますよ。先輩の好きな剣と魔法の世界です! 男が圧倒的に多くてホモも圧倒的に多いっすけど、慣れたら楽しいところです」

「ぜった、い、行く! ん…、ふ…ぐすっ。だから、長、生き、しろ…」

「そう簡単に死んでやる気は無いですよぉ。待ってますね、……樹くん」

「…!! …うん、頑張って、早く、死ぬ。だか、ら、一時的に、ぐすっ、さ、よなら……康治郎」

「…はい、さようなら」



●三島

びっくりしたぁ…。まさか樹先輩がホモ…いや、バイだったなんて…。
前の俺なら固まってただろうけど、今の俺にはちょっとだけホモ耐性が付いてるからな。むしろ嬉しいんだ! 見知らぬイケメンより樹先輩!
…………ゼロアに頼んだら、樹先輩と華原先輩、こっちに転生させてもらえるかなぁ。2人共大好きだから、また会いたい…。
と、色々と考えているうちに、次の人が来たようだった。

「…え……あ、やまクン…!? 阿山クン!!」

くるっと振り替えると、目元まで伸びた明るい茶髪の一見ヤンキー、三島がいた。
三島も奥野、樹先輩と同様、全力で駆け寄って来て、ペタペタと俺の体を触りまくる。
三島は見た目こそ怖いが、優しくて面白くて、生前はゲーム友達でもあった。
そして、事情を軽く説明して…。

「…いくつか言いたい事あるんだケド…」

「お、う? どうぞ?」

俺が言いたい事とやらを促すと三島はほとんど見えない眉毛を吊り上げて奥野と同じような事を怒鳴り出した。

「なんで死んだわけ!?」

「いやね、嬉しいよ? わざわざ異世界からお別れに来てくれたとか有頂天過ぎてそんまま天まで昇っちゃいそうだけどさ、吉川(勇輝)クン、今ヤバいかんね!!?」

「え…? 勇輝が?」

「自殺未遂!! しかも2回も!!!」

「はぁ!!?」

「キミが居なくなってマジヤバい…ヤバくなったんだよ!! 髪の毛真っ白!! 今は必ず誰かを側に置くようにしてんけど、まだ自殺諦めてないみたいだし!?」

「な……なんで…」

「授業中当てられても答えないどころか教科書すら出してない! ノートも取ってない! 髪真っ白でも学校だけは毎日来てボーッとキミの席ばっか見てるから、クラスの誰もキミの死から立ち直れてない!!」

「…………」

「頼むよ阿山クン…。俺のところに挨拶に来てくれて超嬉しいけどさ、あいつのところにも行ってあげてよ…」

「……ああ、行く予定だ」

「…そかそか、良かったぁ…」

三島が、ほっとしたようにため息を吐いた。
……勇輝が、自殺未遂…。俺が思った以上に悲しんで、ちょっと叱らなきゃいけない事にまで手を出してたなんて…。嬉しいけど悲しいよ…。

「……でさ、ちょっと気になってたんだけど…」

「おう?」

「………異世界ってさ…、どんなとこ? やっぱ魔法とかあんの?」

「……ふふふ、良いだろう…! 語ってあげますとも!! 俺の華麗なるチート能力を!!」

やっぱり、そこら辺ちゃんと聞いてくる辺りは、ゲーオタの三島だ。将来はゲームに携わる仕事に就きたいって言ってたっけ。
だから、ちゃんと語って披露してやる。
それで5分のうちのほとんどを使っちゃったのは、俺達らしいなって思った。

「すっげー、マジでそんな世界あるんだ!!」

「あるんだぜこれが!!」

「やべぇ、死ぬのちょっと楽しみになってきちゃったw」

「…もし転生したら、コージ・アヤマって探してみろよ。チートで改革起こせてたら名前も知られてるだろうしな!」

「モチロンww楽しみにしとくよ!」

「……今までありがと、三島。お礼と言っちゃなんだが、パズドラマとモンストア、後、白猫プロジェクター(ゲーム)の俺のセーブデータやるよ。パスワードは○●○●、メアドは知ってるよな」

「マジでーー!!? レベル1000越えのセーブデータ3つを!? 俺に!? 阿山大明神様ーッ!!」

「サーバーに漂い続けるよりは使ってもらった方が俺も嬉しいしな!! 後生崇め奉れよ!! …………じゃ、元気でな」

「うっす!! チート無双、頑張ってな!!」



●聖さん

さっぱりとしたお別れで、俺的には気楽で楽しくて未練の無い終わり方だった。三島ならきっと、俺と夢で会ってセーブデータ譲って貰った事を面白可笑しく周りに語ってくれるだろう。
さて、次は誰かな…と正面を向いて、俺はピシッと固まった。

「…ひ、ひじりさ…」

「………! 阿山くん…? 阿山くんなの…?」

ふんわりとした肩までの黒髪に、ぱっちりお目目が特徴的なこの素晴らしきお方は…クラス1…、いや、学校1の美少女、聖さんです!
優等生で皆に優しくて俺の好きな人だったんだけど…畏れ多くて近付きすら出来ませんでしたよええ。

「…あ…、…ぅ…、そ………の……」

あっダメだ金魚みたいに口ぱくぱくしか出来ねぇ…。大好きな聖さんの前だっていうのに…情けない……、ぐすん。

「私、夢…見てるのかな…」

「…ち、…ち…が…………」

「………夢なら良いよね…、本当の事、言っちゃっても…」

違うって伝えられなかった。そして聖さんが1歩前に進んで…。
ふっ、フローラルな香りが!! ……って、本当の事? ………ま、まさか……告白…!?

「私ね、阿山くん」

どきどき。どきどき。

「本当は…貴方に嫉妬してたの」

「…………」

…………。

「えっ嫉妬?」

「うん…。私ね、勇輝くんが好きなの」

…12月25日、コージくん、失恋しました…。
………うわぁぁぁぁぁぁん……なんで、よりにもよって勇輝なんだよぉ…! 相手が天才の瀬戸とかならまだ諦めもつくっていうのにぃ…!! なんでっ! あんなっ! スポーツしか取り柄のないようなっ! 奴をぉぉ!!

「でも、勇輝くんね…、貴方にしか興味が無いようだった。私がいくらアプローチして、カラオケなんかに誘っても、勇輝くんの口からはこうじろーが、こうじろーが、ばかり出てきて…。貴方が死んで、………不謹慎だけど、ちょっと嬉しかった。これで勇輝くんも周りに目を向けてくれるはずって思ったから…」

……泣きそう。

「けれど、実際は違った。勇輝くん、すっごく変わっちゃった。世の中全部ゴミだって顔して、阿山くんの残香にすがり付いてなんとか生きてる状態なの。貴方のご両親から貰った、貴方の私物も毎日学校に持ってきて、触ったり頬擦りしたり…。クラスメイトがちょっと貴方の机に触っただけでも激怒して殴りかかっちゃうくらいだから、もうすぐのクラス替えの時なんて、どうなるか想像したくない…。」

おうおう勇輝、悲しんでるところ悪いが気持ち悪いなお前。何俺の私物に頬擦りしてんだよ。
うーん、でも聖さんの話が本当なら、何とか説得して前を向かせなきゃだよな。………俺に出来るか?

「お願いします、阿山くん。私の夢に出てくるくらいなら、勇輝くんの夢にも出てあげて。もう彼に振り向いて貰おうなんて思わないから、彼を元に戻してください…。お願いします」

見惚れてしまうような仕草で、聖さんが頭を下げた。

「えっ、うん…、はい。分かりました…」

「…良かった……。夢でも、嬉しいよ」

はぅぅ…! 微笑みマジ天使!!
やっぱり言おう! 失恋しちゃったけど、伝えるだけ伝えとこう!!

「あ、の、聖さん…」

「??」

「ずっと…、受験会場で見た時から、好きでした。ってもう失恋しちゃってるけどね…あはは…」

「!!!」

聖さんが驚愕の表情を浮かべたところで、5分が経って聖さんが消えた。
…伝える事は、出来たんだ。これも良しとしよう!



●華原先輩

見付けたのは、少し茶色がかった、くびれくらいまでの長い髪。

「華原先輩!」

「……康治郎くん?」

清楚な水色のワンピースを着た華原先輩…綺麗だなぁ。うぅっ……樹先輩が羨ましいィ…!!

「あっ、本物ですよ! 樹先輩とも会ったから、起きたら確認してください!」

「……………うん、でも……『銅の酸化についての化学反応式を答えよ』」

「えっ」

「康治郎くんの苦手だった化学反応式、受験の時しっかり叩き込んだんだから、すぐに解けて当然よね」

「えーと、『2Cu+O2→2Cuo』!!」

「……正解。本物ね」

相変わらず突然問題出すのが好きだなぁ、この人。もう高2なんだから、そのくらいは解ける、なんて言ったら今度はもっと難しい問題を出されそうなので、黙っとこ。

「…私と樹の子供として、生まれてくれるのかしら?」

「あ…、すみません、華原先輩。俺、異世界で別の人生歩んでるんです。だから、そっちで生まれる事は出来なくて…」

「その異世界、どうやったら行けるの?」

「樹先輩も同じ事聞いてきましたよ…。来ようとしたら危ないから、教えませんっ!」

「チッ」

「舌打ち!?」

そして俺は、粗方説明した後に、ばっと頭を下げた。さっきの聖さんの綺麗な仕草に比べたら、酷いものだろう。

「今まで、ありがとうございました!!」

「……もう会えないみたいな言い方ね」

「……………」

「そう…会えないのね…」

悲しそうな、寂しそうな表情と声で、華原先輩が呟いた。

「樹にも同じ説明を?」

「はい、滅茶苦茶泣いてました」

「…でしょうね。起きた時が大変だわ。あ、私達ね、今同棲してるの。私の志望校を盗み見た樹が無理矢理私と同じところに来てね、康治郎くんもうちの大学に連れて来ようとしてたみたい」

「……偏差値60越えは俺には無理っすよ」

「そうだろうと思ったから、康治郎くんが3年生になったら、私達の家に引きずり込んでミッチリ教える予定だったの。樹としてはそのまま3人でルームシェアってしたかったみたいだけど」

「………………」

「…もう叶わないのね」

「……………ごめんなさい」

俺が謝ると、華原先輩が優しく俺の頭を撫でてくれた。
これは、難しい問題が解けた時なんかにしてくれていた仕草で、うるっときた。

「…康治郎くんのせいじゃないわ。それに…今、楽しいんでしょう?」

「……はい」

「それなら良いのよ。……元気でね、康治郎くん」

「…華原先輩こそ、お元気で」







********************



目を覚ますと、そこは見慣れた場所だった。

「うぇぇぇぇぇん……ごうじろぉぉぉ……」

見慣れないのは、隣でみっともなくぐすぐす泣き喚く、私の愛しい人。
やっぱり、あの康治郎くんは本物だったらしい。
もう会えないという悲しみに、胸がずきんずきんと痛み出すけれど、ぐっと涙を堪える。

「………樹」

「! かはらぁぁぁ!! おねが、い!! 俺と心中してぇぇぇぇ……」

「………心中したら、康治郎くんに会えるの?」

「死んでっ、ひっく…神様にお願い、したらぁ…康治郎の、いる世界、行けるかも、って……」

樹の言葉を聞きながら、私はティッシュを取って樹の液体まみれの顔をごしごしと拭く。

「………そんな事したら、康治郎くん、きっと怒るわよ。良いの? 嫌われても」

「うっ!? ぜ、ぜっだい嫌だぁぁぁぁぁ……」

「私もよ。本当は今すぐ会いたいわ。抱き締めて、キスをして、康治郎くんの笑顔を見たい。……だからこそ、彼の幸せを願って、自然に死ぬまで待ちましょう」

「………………う゛ん」

康治郎くん…。優しい貴方の事だから、私達の為を思って自殺を止めたんでしょう?
でも、残念ね。私達はそんな事でへこたれるような根性してないの。
何年…何十年かかっても、必ずそっちに行って、貴方に会うわ。
私達の大切な後輩…。

逃がしてなんて、やらないんだから。





********************


はぁい(* ̄∇ ̄)ノ
メルです。


ハッピークリスマース!
という事で、いつもだったら書かないような番外編を書いてみました。
けど長くて2つに分ける事にしました。
プレゼント気分で読んで頂けていたら幸いです。
後々出てくる人もいるので、誰か予想してみてはいかがでしょうか!
多分すぐに分かりますけど!

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