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ツンデレガチ勢★聖騎士団編

さよなら青年!

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「すげ……」

期待通りの光景に、思わず声を出してしまった。
一番最初に目に飛び込んで来たのは、中世ヨーロッパを思わせる煉瓦で出来た建物達。耳に飛び込んで来たのは、大通りを行き交う大勢の人々が作り出す騒音。鼻腔に飛び込んで来たのは、肉が焼ける香ばしい匂いや、スパイシーな匂い。つまりは食べ物の匂いだった。
二重丸二重丸でも、中心部の方は標高が高くなっているらしく、遠くの壁の向こうに王城のようなものが見える。
大通りの両端では露店が立ち並んでいて、いかついおじさん達が道行く人々に肉や魚や果実を売り付けていた。
売り付けられる人々は、防具を身に付けていたり、剣を腰に差していたり、フードで顔を隠していたり……あ! 兎の獣人さんもいる!

まさに異世界! まさにファンタジー!!
ひゃっほい!! テンション上がりまくりだぜー!!

「おい、あまり顔を上げるな」

「仕方無いだろ初王都なんだからさ! おおっ! 牛!? 違う! バッファローだ! バッファローの獣人だ!!」

「………」

「なんだあの人でっか!! 3メートルはある!! …やっぱ牛乳か…? 牛乳を飲めばあそこまでなるのか…?」

「……はしゃいでしまうのも分からんでもないが今は俺の腕の中で大人しくしておけ。後日いくらでも案内してやる(だから他の奴ばかり見るな)」

……おや? 今副音声が聞こえたような…。
…というか、やっぱ目立ってんなぁ…。なるべく屈んではいるけど、めっちゃ見られてる…。大名行列…参勤交代ってこんな感じだったのかなー。街人は平伏してないけど。……うわあの人達道で五体投地してるよ…。

「…盲目的な信者達だ。一般人に迷惑なので控えるよう言っているのだが…」

「聖騎士に頭下げてどーすんだよ…」

「まったくだ…。我らが信仰しているのは創造主ゼロアだというのに…」

「………………なぁカイル。創造主ゼロアについて俺詳しく知らないんだけど…どういう神様なんだ?」

王族貴族達の居住区を守る、第2の壁が近付いてきた頃。
この世界でのゼロアの扱いについて、俺はカイルに質問した。教会に属するカイルなら、詳しく知ってるだろうと思って。

「…ふむ、そうか。普通は知らないのか…。良いだろう、教えてやる」

う、上から目線~! 教えてくれるのはありがたいけどちょっとムカつく~! そのドヤ顔、崩したい~!

「まず、創造主というのはだな…」

あ、これ絶対長くなるやつだ。ちくしょう。人選ミスったな。
何故か誇らしげに語り出したカイルを前に俺はそう察し、質問した事を後悔し始めた。と、その時…。

「……天使、さん…?」

第2の壁の少し手前。
若い男の声が聞こえた。男の声は明らかに俺に向けられたもので、しかも『天使』というあだ名は、オーディアンギルドで使われていたもの。
これらの情報から導き出される答えは…。

ちくたくちくたく…ピーン!

ギルドの人だ!!

「てっ、天使さん!」

どんどん進む聖騎士に、慌てた声の男が再度俺のあだ名を呼んだ。
さっきよりも近くなり、場所を特定。
声の先にいたのは…、サラサラな黒髪と眠そうな半目が目立つ、10代後半くらいの青年。

「ギルドの者です! 帰りましょう…!」

人混みを掻き分け俺の方へ近付いてくる青年。
カイルも気付いたのか、ピタリとジュラムを止めた。それに連動し、後ろの聖騎士達も続々と止まる。
多くの人が注目する中、青年は俺に手を伸ばした。
ギルドに帰れる可能性が高くなってきて、俺は咄嗟にその手を掴もうとして…。…多分、それがカイルを怒らせた。

ぐいっ

「わっ」

もう少しで掴めそうといった時に、俺はカイルに引っ張られ、不安定な体勢からジュラムにしがみついた。

「弾き飛ばされたくなければ道を開けろ!」

カイルの迫力ある怒声に、俺と街人達はビクつき、前方にいた人達はささっと道を開ける。
その途端、カイルはジュラムの腹を脚で一蹴りし、走らせた。
……って、ちょ~!? 俺帰りたいんですけど!? というかここ街中なんですけど!? まさかの全力疾走かよ!
ひえぇぇぇぇぇ! 速い速い速い速いぃぃぃ!! おぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃああああああああああ!!

「~!? …~~!! …~…~~!!」

青年が何かを叫んでいるが、風が空を切る音と、小さな悲鳴を上げて騒ぐ街人の声に遮られて聞こえない。
何よりカイルの鬼気迫る顔が恐くて降ろしてとか止めてとか言えそうにないっす…。ごめんよ青年。ルークさん達への報告、良い感じに濁してくれたら嬉しいっす…。聖騎士に惚れられて連れ去られたとかルークさんの堪忍袋の緒が切れそうな事は言わないでくれよ頼むから…。
カイルはジュラムを走らせたまま、第2の壁へ到着し、手早く手続きを済ませる。主に俺の。

「何か…身分を証明出来るものが無ければ、申請から承認まで時間がかかりますが…」

衛兵さんが不機嫌丸出しのカイルと目を合わせないようにしながら、俺に告げる。
身分を……あ、冒険者カード!

ありがとうリイサスさん! 今ここで役に立ちましたよ冒険者カード! カモンアイテムボーックス!

ぐにゃん

スキル『アイテムボックス』に開くよう念じれば、空間が歪んで、ぽっかりと宇宙色の穴が開いた。俺はそこに手を突っ込み、手前にあった冒険者カードを取り出す。欲しいものが近くに来るこの仕様、便利だなー。食べ物を取り出そうとしてゴブリンの死体なんかが出てきちゃったら嫌だもんな…。

「冒険者カードです!」

俺は安心して衛兵さんにカードを差し出した。差し出したんだけど、衛兵さんは呆然というか驚愕というかそんな表情で俺を見詰めていて……え? 俺何かした?

「………『アイテムボックス』……?」

衛兵さんと同じく驚愕の表情のカイルが呟いた言葉に、ハッとした。
そうだ…。『アイテムボックス』って国に1人いるかいないかの超貴重なスキルだってルークさん言ってた…。そりゃ驚くわ…。

「…そこの衛兵」

「はっ、はいぃ……!」

カイルが俺と衛兵さんの間に入り、衛兵さんを威圧しながら呼ぶ。
権力者であり、実力者のカイルに睨まれた衛兵さんは怯えているが、何とか返事をした。

「冒険者カードでこの者の身元は分かったはずだ。我々はもう行くぞ。それと、今見た事は全て忘れろ。万が一外に知られれば、最悪貴様の一族が罰せられる事もあるだろうからな」

「…っ!! はっ!!」

怯えてた衛兵さん。一族の事になった途端顔を引き締めて、カイルの言葉に頷いた。
うぅ…脅すような事を(カイルが)してしまって申し訳無い…。
こりゃあカイルからの尋問も避けられないだろうな…。うへぇ…。



********************




「…ナ……コ…ナー」

誰かが、俺を呼んでいる。

「……ナ…ー」

なんだろう。すごく、悲しい事があった気がする。

「…コ……ナー…」

大切な人を、失った気がする。

「コ…ナー」


大切な友達と…大切な子を。


「コナー」

「……お、かしら…?」

お頭の声に、俺は目を覚ました。
暗い隠し通路。そこに、俺は横たわっていた。

「…起きたか」

俺の隣にはお頭が疲れたような顔をして座っていた。
……あれ。俺、ここで何をしているんだろう…。今は何時だ…?
確か…聖騎士団が攻めてきて…お頭にコージさんを安全な場所まで連れて行くよう言われて……。……………そうだ。ミゲル…。あいつが………裏切って……!

「お、お頭! コージさんが…!! コージさんがミゲルに拐われて…!! あいつ、裏切って……!!」

「落ち着け」

全て思い出した俺は、焦ってお頭に宥められた。
……でも、なんだ…? この、お頭の落ち着きようは…? コージさんが拐われたというのに…。てっきり、暴れて壊して殺して…滅茶苦茶に荒れると思っていたのに。

「コージが拐われた事は知っている。俺の目の前で『誘拐被害者』として連れて行かれたからな…」

ため息を吐きながら、通路から出て広間に向かうお頭。俺はその後に付いて行く。

「え…? な、なんで…」

止めなかったんですか?
そう言う前に、お頭はさっさと広間に入ってしまった。
……コージさんを留めなかったお頭に驚愕し、俺は違和感に気が付けなかった。
廊下が、通路が、綺麗過ぎたのに。
とても戦いの後とは思えない程の綺麗さだったのに。

お頭を追って広間に入った時に、初めてその事に気が付いた。
広間には、この地下遺跡の拠点に在中の団員が集まっていたのだ。
誰も欠けていない。拐われたコージさんと、裏切り者のミゲル以外は。
お頭は既に団員達の中心にいて、俺が加わったのを確認してから静かに、けれどもよく通る声で話を始めた。

「これはコージの命に直結する問題なので他言無用だ。喋った奴は魂レベルで死ぬと思え」

た、ましいレベル…。……お頭は、コージさんを愛しているのかいないのか…。

「まず…死んだ奴らを生き返らせたのは、コージだ」

広間が一気にざわついた。
……生き返らせた? どういう事だ? 俺が気絶している間に、一体何が…?

「あいつには特殊な力がある。全ては明かせねェし、俺も把握しきれてねェがこれがクソ共に知られれば崇め奉られるか…、危険視され始末されるかだ。だから奪還すんぞ。異論は認めん。質問はあるか」

顔には出ていないが、口調から焦っているのが伝わってきた。
しかし…コージさんに特殊な力があったとは。普通ではないとは思っていたが、蘇生魔法を使えるなんて…。まさか、俺とミゲルを助けてくれたあの時も…? いや、それより今は状況を把握しなければ。

「あの、お頭…。俺、知らないんですが…聖騎士が攻めてきてから、何があったんですか?」

俺がそう質問すると、お頭が『あっ』というような顔をして、語りだした。
それは、ミゲルがコージさんを連れて行ってから、聖騎士が撤退するまでの1時間弱の事。
その内容は、驚くべきものだった。

「…………何故、止めなかったんですか?」

聞かずにはいられなかった。
お頭ならば、例え聖騎士が全員蘇生したとしてもコージさん1人くらいなら取り戻せたはずだ。
俺の問いに、お頭は複雑そうな表情をして俯いた。
分からない。何故コージさんを簡単に渡しておいて、取り戻そうとするのか。

「……俺の覚悟の問題だ…」

「…覚悟……?」

小さく呟いたお頭の言葉に、団員達が耳を傾けた。

「…あの状況で俺がコージを引き留めれば、俺にとってコージが大切な人だと知らせる事になる…。そうなれば、クソ共がコージを敵視する可能性だって出てくる。……俺は、コージをこっちの世界に引きずり込む覚悟が出来ていない。コージが拒めば、俺は頭の立場をさっさと譲ってコージと平和に暮らすつもりだったからな…」

そこにいた全員が耳を疑った。そして思い知った。本当に、お頭はコージさんが第1なのだと。

「…じゃあ、ミゲルの事は……?」

「最初から知っていた。あいつはある意味二重スパイだ。今は聖騎士として、コージを守っている」

だからか。だからミゲルをスパイだと知ってもなお泳がせていたのか。

「コージが自分で脱出する事も考えて、行動するのは3つの隊だ。1つ目は俺を含む王都の外で待機する隊。2つ目はコージを捜索・追跡する隊。3つ目は聖騎士の目を掻い潜りコージの逃亡を手助けする隊。最優先はコージの身の安全だ。なので『頭が一方的に惚れた相手を無理矢理取り戻そうとする団員』を装え」

今までに無いほどの人間らしいお頭の態度に、全ての団員が力強く頷いた。
俺達を助けてくれたお頭の願いならば、叶えたい。盗賊なのに親切にしてくれたコージさんを取り戻したい。
命を救ってくれたコージさんに、お礼を言いたい。


それは、その場にいた者全員の願いだった。






********************


遅れてごめんなさい…。ユルシテ…。





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