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足腰ガクブル★死神の吐息編

驚愕の連続

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※軽いですが、グロ表現注意。


********************


「結界が…消えない……? まさか…暗黒魔法師ではないのか…?」

長髪がガレがピンピンしているのを見て、再び俺に顔を向けてきた。
……ん? 何で俺が暗黒魔法師じゃないって分かったんだ? いや暗黒魔法師でもあるけど、今は鑑定されても結界魔法師と慰安魔法師だからさ。
ガレが俺の疑問を察したのか、ニコニコと応えてくれた。

「今このクソが放った魔法は暗黒魔法の結界を打ち消す魔法なんだ。俺達も神聖魔法の結界を打ち消す魔法は撃てるが、どっちも滅茶苦茶魔力を使う。だがコージは暗黒属性じゃねェから今のは無駄撃ちだぜ?」

俺の疑問に応えてくれるのはありがたいけど……同時に長髪を煽るとは、さっすがガレ! 頭が良くて性根がクソだな!

「……チッ。おい、そこのガキ」

がっ、ガキィ!?
失礼な!! 見た目は15でも、中身は17なんだからな!! …………いや、17もガキか。でも他人…しかも初対面で言うとか聖騎士にあるまじき態度だな!!

「ガキ。お前は暗黒属性でもないくせに、何故盗賊などのクズに自ら成り下がる?」

クズ!? ガレはゲスだけど、クズじゃないぞ!!
……というか俺、盗賊団員と思われてるな。そこは否定しよう。

「俺は別に盗賊じゃない。拉致されてここに来た一般人だ」

俺の言葉に、長髪の整った顔が訝しげに歪んだ。

「…嘘を吐くな。一般人なら、コイツを助ける筈がない」

うにゃ…。言われてみればそうだ…。拉致被害者が加害者を助けるわけねぇわ…。じゃあ俺の言葉、説得力皆無じゃんか…。

「暗黒魔法師で無いのなら見逃してやろうと思ったが………下手に嘘を吐くのなら容赦せんぞ」

「お待ちください団長!! 彼は本当に一般人なのです……!!」

後ろから聴こえた声に振り向くと、息を切らしたミゲルさんがいて、俺の肩に手を置いてきた。
その瞬間、前方……もっと具体的に言うと、ガレの方向から寒気がしたのだが………ガレはミゲルさんが裏切り者だって気付いてなかったのかな…?

長髪がミゲル、とミゲルさんに声をかける。
あ、さらっと言ってたからついスルーしちゃったけど、この長髪が聖騎士団団長だったのね。余裕が生まれたら鑑定してみよう。

「………ならばお前が答えろ。何故このガキはガレ・プリストファーを助けた?」

「………彼は、コージ・アヤマ。容姿と人より魔力が多い事以外は、普通の心優しい少年です。彼は先日冒険者になったばかりで、初クエスト時にガレ・プリストファーに専属性奴隷として拐われました。しかし周囲の盗賊がそう簡単に彼を認める筈もなく、一部から嫌がらせを受けていたようです。精神的に衰弱した状態でガレ・プリストファーに毎晩愛され続ければ、情が生まれても仕方がありません」

「…………なるほど、ストックホルム症候群という訳か…」

長髪が納得したように頷いた。
……俺、ミゲルさんの中でそんな可哀想な事になって……る訳ねぇよな? もしかしなくても、庇ってくれてるんだろうな…。
ありがたやぁ~! ありがたやぁ~!

「………それに、彼は結界と慰安の2属性を持っています」

「…なんだと?」

「俺ともう1人の団員が、1度死にかけた所を彼に助けられています。かなりの重傷にも関わらず、傷跡さえ残さず治療されました。慰安魔法に関してはかなりの腕前かと」

「………………」

死にかけじゃなくて、本当に1回死んだんだけどね…。ミゲルさんはそれを解って言ってるのか…?
長髪が何かを考えるようにじぃっと俺を見詰めている。
………俺はその視線より、ミゲルさんに触られた事のガレのお仕置きセッセが恐いっす……。

「…………ミゲル。そのガキは連れて帰る。被害者兼重要参考人としてだ。傷付けず、馬車まで連れて行け。俺はコイツを片付ける」

「…はっ!」

えっ、待って! 俺また連れてかれるの? やだよガレと離れるの……。知り合いがミゲルさんしかいなくなっちゃうじゃん…!!
うわっ、ミゲルさん引っ張らないで…! どっ、どうにかしないと…!!
そうだ! せめて、聖騎士に殺された人達だけでも…!!

蘇生魔法!!

神聖魔法の神様! 生き返らせれる人だけでも生き返らせてください!! 盗賊だったとしても、みんな俺に親切にしてくれたんです…!

俺が顔に出さないよう、神聖魔法の神様に祈った時…。











_____……奇跡が、起きた。













床や壁、天井などに付着していた血飛沫が、動き出した。
それぞれが、それぞれの身体の元へ。盗賊、聖騎士関係無く血が戻り、傷が塞がっていく。
切断された腕は引き摺られるようにして持ち主の切断面にくっつき、あっという間に繋がった。
潰れた顔は、風船のように膨れていき、凛々しい顔立ちにまで戻った。
30秒も経った頃には、それまでの悲惨な光景の面影は無く、ただ男達が床で寝転がっているだけになった。

その場にいた俺とミゲルさん、ガレと長髪は絶句したまま動けず、何人かが目を覚まし始めた頃にやっと長髪が部下達の元へ駆け寄った。

あまりの事に、俺の思考もしばらくストップしてた。
ガレと目が合って、初めて疑問に思う。

「馬鹿な……。 暗黒属性の攻撃で死んだ者は蘇生魔法が効かないはずなのに……。……それに、一体誰が……」

ミゲルさんが、力無い声で俺の疑問を代弁してくれる。
…狐さんと、ミゲルさんに使った時は効かなかったのに。……俺の魔法で生き返ったんじゃないのか?

『いや、間違いなく康治郎が行った事だ』

最早驚かなくなったイケボが、脳内に響いた。
……ゼロア、どういう事だ? 俺は聖騎士の攻撃で死んだ盗賊達しか助けられないと……。

『………康治郎はいつか親しい者が死んだ時、暗黒魔法などの理由で生き返らせる事が出来ないと悟れば、私に助けを求めてくるだろう? 私としても、康治郎の願いは叶えてやりたい。だが、創造主である私が私情で干渉する事は、極力避けねばならん。ならばと、康治郎の能力を少し弄らせてもらった。詳しい事は後々説明していくが、蘇生魔法に関しては老衰以外の死因ならば、蘇生が可能になった。効果は心臓が止まってから1時間以内だ』

…そっ…か……。……うん、ありがとな…ゼロア。おかげで全員生き返らせる事が出来た。
正直、聖騎士については諦めてたから、すげぇ嬉しい。

『喜んでもらえたのなら良かった。後始末が大変だろうが、そこは頑張ってくれ』

ああ。
………ゼロア。本当にありがとう。

『…………フッ』

笑ったような声を最後に、ゼロアの気配は消えた。

いやぁ……嬉しい誤算だった。バレたら厄介だけど、犠牲者がいなくなって俺はすごくホッとした。

死んでいた人達は半数以上が起き上がっていて、戸惑いながらも相手を睨んでいる。それでも、再戦する様子は無い。
ガレが視線で「コージの仕業か?」と投げ掛けてきたので、曖昧に笑っておこう…。
ゆっくり話せるようになった時にでも話そう。ガレなら呆れながらも笑ってくれるだろうからな。

「団長!」

奇跡起こしの犯人は誰だとザワザワしている広間に、1人の聖騎士が飛び込んで来た。
盗賊、聖騎士達全員の視線がその男に向き、男はその光景にぎょっとして口を閉じる。

「構わん。話せ」

長髪が促すと、男は言いにくそうにしながらも、報告を始めた。

「…死んでいた盗賊、聖騎士が次々と起き上がり、どこも混乱が広がっています!」

…結構広い範囲に効果が適応されたようだ。死者0名ってのが俺の理想なんだけど…、叶うかな?

「それと…南南東より、盗賊の援軍が押し寄せております! その数、およそ300!」

報告が始まってからシン…としていた広間に、再びざわめきが広まっていく。
このタイミングでの援軍は、聖騎士団にとって辛い事だと容易に想像出来た。

「……撤退だ! 全員、急いで戻れ!!」

少し考えた後、長髪が大声で叫んだ。
その言葉に多くの聖騎士が動き出すが、盗賊達は何もせずにただ睨んでいるだけ。
うんうん、このまま何事も無く終わってくれよ…!

「何故です! この機を逃せば次がいつになるか…!!」

撤退していく聖騎士達に逆らって、長髪に詰め寄る数人の聖騎士。
長髪はそいつらの目をしっかりと見て、応えた。

「………それよりも、今は全員が生き返ったという奇跡の現象を生きて上層部に報告する方が優先だ。暗黒属性の死から人々を救う、未来への希望が見えたのだぞ。目先の手柄に囚われるな」

「…っ!!! …………分かりました…」

長髪の野郎……。ちょっと良い事言うじゃねぇか。人をガキ呼ばわりするあの性格は気に食わないが、悪い奴ではなさそうだな。

さて、俺もガレの所に行って、ある程度説明しなきゃなぁ……………………お? ミゲルさん……? 解放して頂けないんですか……?

「コージさん? なに騒ぎに乗じて逃げようとしてるんですか? 貴方はこっちですよ」

「……えっ!!? いやっ、俺、1人で帰れるからっ…!!」

「拉致された人が言うセリフじゃないの分かってます? 貴方は被害者兼重要参考人なんですから、逃がす訳にはいきませんよ」

ぐいぐい、ひょいっ

嘘だろお姫様抱っこ!?
がっ、ガレ!! 流石に助けて!!

「………ガレ・プリストファー。このガキは貰って行くぞ」

おいこんのクソ長髪!! 勝手に決めんな!! 俺はお前らなんかに付いて行かないぞ! ガレも何か言ってやってよ!

「…………………………ああ、好きにしろ。元々ただの性奴隷だったしなァ」

…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………え…………………?

ふん、とガレに背を向けて広間から出る長髪。最後に広間に残ったのは俺を抱き上げているミゲルさんで、ミゲルさんは団員達の批難の視線を身体中に浴びている。スパイだったんだから当たり前なんだけど。

でも、俺はそんな事に意識を向ける程余裕は無かった。ガレの言葉に打ちのめされて、今にも泣きそうだった。
ガレの周囲の団員達はガレの言葉に驚愕している。

ミゲルさんが俺を抱えたまま広間から出ようとする。俺が、最後に、と思いガレをチラ見すると……すっげぇ焦った顔で口パクしていた。

…………俺、読唇術とか知らないけど、ガレの言いたい事は伝わったよ。


『か・な・ら・ず・た・す・け・る・み・げ・る・か・ら・は・な・れ・る・な』





安心してちょっと涙出た。


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