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足腰ガクブル★死神の吐息編
あの状況で腰を抜かさなかった俺の根性すごくね?
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※残酷表現が含まれます。
********************
その日は、雨だった。
いつものように読書しつつ、仕事をしているガレを待っていると、狐さんが慌てた様子で部屋に駆け込んできた。
珍しくノックもせずに、肩で息をしている状態だ。
「狐さん…? どうしたんですか?」
「コー…ジさ…!! げほっ…! 説明は後で…!! とにかく…!! 早く逃げますよ!!」
「え? あっ? ……はい?」
狐さんの焦りように思わず返事をしてしまい、狐さんに手を掴まれて廊下を全力ダッシュ。
狐さんのスピードに付いて行けず、半ば引っ張られるような形になっても、狐さんはまったく減速しない。つまり、それほどの緊急事態という事が分かった。
……でも、こういう時にはガレが来そうなのに…。
狐さんは秘密の出口の1つに向かっていて、何故だか団員の人達は1度も見掛けない。
流石に不気味になって走りながらキョロキョロしていると、遠くの方で金属音が聴こえた。僅かだが怒声も含まれていて、俺は自然災害から魔族の大群が押し寄せて来ているという、ありとあらゆる可能性を考える。
…まさか、と考えていると、狐さんが急ブレーキをかけ、俺は狐さんの背中に鼻を強打するという無様な事態に……。だ、だ、ダサくねーもん! 俺はとある可能性について危惧してたんだよ…!
「ぐぇ…! う…狐、さん…?」
秘密の出口の真ん前。
涙目で鼻を押さえながら1歩後ずさると、目の前に黒いバンダナの男…ミゲルさんが立っているのが見えた。
何やら険しいお顔をしていらっしゃりますが…。オーラも黒いって言うか…暗い? まるで性癖を大勢の前でカミングアウトしてしまった男子中学生のようだ…。
………ええ、そうです。若かりし頃の俺は、陽キャのノリに巻き込まれて性癖…しかもよりにもよって『獣姦』などと言うマニアックなものをクラスの中心で大暴露してしまったんです…。
男子には大爆笑され、女子には引かれ、担任だった男の先生には『もふかん同盟』なる謎組織に勧誘されて……加盟しました。
柿沼先生、今更ですが9月の会合参加出来ません。ごめんなさい。
「ミゲル! 丁度良かった…。コージさんを逃がすの手伝ってくれ!」
「……………………………」
俺が過去の過ち…いや、同志を見付けられた運命の刻(キラッ)を思い出し、柿沼先生に内心謝っていると、狐さんがミゲルさんに話し掛けた。
しかし、ミゲルさんは暗いオーラのまま狐さんと俺を交互に見たまま黙っている。
「…ミゲル? どうしたんだ?」
「………………………………………」
「……お前も外がどんな事になってるか知ってるだろ? 今はお頭が食い止めているが、いつここまで到達したっておかしくないんだ…! 急がないと…」
……やっぱり、か。
狐さんの言葉に、俺は確信した。
さっきの金属音は、剣のぶつかり合う音だ。
誰かが、何かの組織が、襲撃してきたのだ。敵対組織はあの組織以外にはいないと、ガレは言っていた。ならば……今ガレ達が戦っている相手は……恐らく、聖騎士。
「おいミゲル!」
「……………………悪い、コナー…。俺は手伝えないんだ……」
「!? 何言ってんだ!! あいつらはもうそこまで……。……待て。…まさか…お前……!!?」
「…コナー……、盗賊の癖にお前は良い奴だよな…。だから、頼む。コージさんを俺に渡して、黙って東に逃げろ。そっちなら包囲網も手薄だ。…運が良ければ……」
「待て…。待て待て待て待て!! 嘘だろ…!!? そんな…!! ずっと、騙してたのか…!!?」
「…ああそうだ。騙していた。それは悪かったと思っている。が、コナーは俺の大切な友人で、コージさんは俺の命の恩人だ。…言うことを聞いてくれ…。助けたいんだ…!」
…………んー………えーっと?
会話の内容から察するに……ミゲルさんは裏切り者? つまり聖騎士の一員なのか…?
……あ、そう言えば昨日逃げた方がどうのこうのって言ってたような…。
あれは近々聖騎士が襲撃してくっから気を付けとけよ? っていう忠告だった…?
「…………………信じて、たのに…………」
狐さんが泣きそうな顔になって、カタカタと震えている。
……当然、ショックだよなぁ…。俺の目から見ても、2人は本当に仲が良かったし…。
俺にとっての勇輝みたいなモンで……。
俺あいつに裏切られたら1ヶ月は部屋から出られないと思う。
そう考えると……うわぁ…辛い………。
「…………コージさんは渡さないし、俺も…逃げない…」
「!! コナー…!」
「もう黙れ!! お前は俺の…俺達の敵だ!!」
感情的に言い捨てた狐さんが、腰に差してた剣を抜き、ミゲルさんに向けた。
殺意を向けられたミゲルさんはと言うと、一瞬哀しそうな顔をした後、覚悟を決めたように1歩進み出た。
……え、ちょ、ちょっと待てよ…。何するつもりだ…? まさか、ここで殺し合うのかよ…!?
「コナー…。外には500もの聖騎士がいる。いくらお頭…いや、ガレ・プリストファーと言えど、大勢の手練れの聖騎士相手じゃそろそろ限界の筈だ。ここに騎士達が来るのも時間の問題だろう。俺が連れて行けば、コージさんはまだ『誘拐された被害者』で済むが、手枷も足枷も無く盗賊と一緒にいる所を見られれば最悪コージさんまで罰せられる可能性だってある…。……それでも戦うと言うのか?」
「俺の仕事はお頭の命令に従って、コージさんを安全地帯まで避難させる事だ!!!」
「……ああ、そうかよ…!!」
一瞬の事だった。
俺が狐さんに『絶対防御』を張る隙も無く、一瞬で勝敗は決まった。
一気に踏み出したミゲルさんに驚いた狐さんは1歩後退し、剣を威嚇用の構えではなく、実戦用の構えに持ち直そうとした。
しかしミゲルさんは更に距離を詰めて狐さんの肩をガシッと掴み、そのまま押し倒す。
狐さんは勿論抵抗するが体格の良いミゲルさんには通用せず、ミゲルさんに何かの葉っぱを鼻と口に当てられ、そのまま意識を失った。
「狐さん……!!」
慌てて駆け寄り揺さぶるも、狐さんは眉間にシワを寄せたまま目を覚ます気配は無い。
「意識を失っているだけです。コージさん、コナーを聖騎士に見付からない所まで運ぶので手伝って頂けませんか? ……あ、逃げようなんて考えない方が身の為ですよ。コージさんに暴行するつもりはありませんが、コナーのように気絶させて連れて行く事くらいはしますので」
ミゲルさんの言葉に、後ろにいるのは今の俺にとって敵だ、と再確認する。
いつもの「~っす」という口調が取り払われ、今のミゲルさんには軽さが見られない。
…それでも、狐さんの身を安全な場所に移そうとしたりする所に優しさが垣間見えるのは…性根は、良い人だからなのだろう。
「………分かりました」
突然襲ってきたり、殺したりはしないと思うので大人しく従った方が賢明。反抗するのは得策じゃない…。そう判断して、ミゲルさんと一緒に狐さんの身体を隠し通路に寝かせた。
「……じゃ、付いてきてください。コージさんは被害者として説明しますので、ガレ・ プリストファーと恋人関係にあった事はどうか内密に」
「……恋人じゃないけど、分かりました」
「…え? …あ、そうなんですね」
…やっぱり勘違いされていたか……。
ガレが当然の如く旦那面すんのが原因だと思うけど…止めてくれるとは思えね~…。
そんな事を考えながら、俺はミゲルさんに付いて行く。
拠点内は静かだが、たまに怒声や金属音、詠唱の声などが聴こえてきて、誰かが命を懸けて戦っている事がジワジワと理解出来てきた。
「……あの、ミゲルさん。ガレは……」
恐る恐る尋ねると、ミゲルさんはチラリと俺の顔を見て、小さく応えた。
「………さぁ。ガレ・プリストファーは俺が知っているだけでもレベル80越え10人相手に戦っています。生存は諦めた方が良いですよ」
「……え…………?」
ミゲルさんの応えに、俺は唖然とした。
……ガレのレベルは83。同格か、それ以上かの10人と戦っていて、もしかしたら既に死んじゃっているかも知れない。
そう理解して冷や汗が一気に出てきた。
「でも、広間の方から騒音が聴こえてますので……まだ生きてるかも……って、え!? コージさん!!?」
制止するミゲルさんの声も耳に入らない程、俺は必死に走った。
__ガレが、ピンチだ。
早く行かないと、早く『絶対防御』を張らないと…!
いや、焦るな俺。俺には蘇生魔法がある。暗黒魔法師の攻撃で死んでない限り、俺の力で生き返らせる事が出来る…!
何にしろ、急がなくちゃ…!!
走れコージ。邪知暴虐な聖騎士を許すな。友であるガレヌンティウスを救うのだ…!!
バァン!!
…勢い良く開けた広間の扉の向こうは、まさに地獄絵図だった。
死屍累々。屍山血河。阿鼻叫喚。
ホラーゲームや深夜アニメ、海外のスプラッタ映画でしか見た事ないような光景がそこには広がっていた。
錆びた鉄のような匂いとあっちこっちに飛び散った血飛沫に腰を抜かしそうになるが、ガレの事を思い出し、気合いで堪える。
…正直、泣いてチビりそうだった。
死体を踏まないように奥へ進むと、聴こえてきた金属音と詠唱の声。
ガレがまだ生きている事に希望を見出だしながら駆け足で音の発生源まで近付く。
そして、更にもう少し進んだ所に、ガレはいた。
生きていた。
立って、剣を振るっていた。
しかし身体中傷だらけで、満身創痍。
ガレが戦っていたのは、1人の長髪の男。白い鎧を身に纏い、細長い剣を急所に向けて放っている。
速すぎてあまり見えないが、ガレはかなり疲れているようで、なんとか長髪の剣を受け止めているという危うい状況。
俺はすぐに『絶対防御』を展開し、ガレの身体に纏わせた。
ガレが一瞬驚いた様子で剣を止め、長髪がその隙にガレの首に剣を突き刺そうとし…弾かれる。
「なっ…!!? 結界だと…!!」
長髪が数メートル後ろに飛び退き、狼狽えたように立ち尽くして…俺を見付ける。
「…子供?」
その言葉に息を整えていたガレがバッと俺を見て、嬉しそうな笑みを浮かべた。
……無事、とまではいかないけど、間に合ったようで良かったよ。感動の再会だ。熱い抱擁を交わそうぞ! …とは勿論言えず、ガレに微笑み返す事しか出来ない。
「……お前が、コイツに結界を張ったのか?」
…しまった。結界を張ったら即刻隠れるべきだった。今から隠れても…うん遅いな。
動けず黙っていると、長髪はそれを肯定と受け取ったのか、額に青筋を立ててズンズンと近付いてきた。
ジズの加護があるし、大丈夫だとは思うけど…念には念をと、自分にも『絶対防御』を張った。
…てか今まで張って無かったのはちょっと危なかったかな…。
キィィィ…ン!
「っ!!」
強烈な金属音が響く。
ガレが近くの死体と化した騎士の手から剣を奪い取り、長髪にぶん投げたのだ。
長髪はギリギリ自分の剣で受け止め、凪ぎ払う。おかげで吹っ飛んだ剣がぐゎっちゃん! と大きな音を立てて転がり、俺はビクついた。
「クソの処理は俺の仕事なんでね」
にこやかに笑うガレだが、今はその笑顔が恐い。
クソ呼ばわりされた長髪は俺に向けたのとは比じゃないぐらいの殺気をガレに飛ばす。だが流石ガレ。まったく怯んでないし、むしろ中指を立てて煽っている。
………異世界でもそれが侮辱の意味なのは変わらないのか…。
怒った長髪が何やら詠唱を始めて強力な魔法を作り出しガレに放つが、ガレは当たる直前も後も余裕綽々。
当然だ。だって『絶対防御』だもん。人間を遥かに凌ぐ魔族の強大な攻撃でさえ破られた事は無いのだ。
人間で使えるのは、俺を除けば世界にたった1人だけ。その人も、1度使うと魔力が枯渇して数日は寝込むらしいし…。
ただ、俺に言える事はたった1つ……。
チート最高だぜヒャッハァー!!
********************
はぁい(* ̄∇ ̄)ノ
シリアスを無理矢理ねじ曲げる系軟体動物のメルです。
お気に入り、2200到達だぜヒャッハァー!!オメーらマジサンキューな!!
……すみません本当にありがとうございます!!作者はただ今喜びの舞を踊っております。いつかコージにも踊らせたいと思います。
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その日は、雨だった。
いつものように読書しつつ、仕事をしているガレを待っていると、狐さんが慌てた様子で部屋に駆け込んできた。
珍しくノックもせずに、肩で息をしている状態だ。
「狐さん…? どうしたんですか?」
「コー…ジさ…!! げほっ…! 説明は後で…!! とにかく…!! 早く逃げますよ!!」
「え? あっ? ……はい?」
狐さんの焦りように思わず返事をしてしまい、狐さんに手を掴まれて廊下を全力ダッシュ。
狐さんのスピードに付いて行けず、半ば引っ張られるような形になっても、狐さんはまったく減速しない。つまり、それほどの緊急事態という事が分かった。
……でも、こういう時にはガレが来そうなのに…。
狐さんは秘密の出口の1つに向かっていて、何故だか団員の人達は1度も見掛けない。
流石に不気味になって走りながらキョロキョロしていると、遠くの方で金属音が聴こえた。僅かだが怒声も含まれていて、俺は自然災害から魔族の大群が押し寄せて来ているという、ありとあらゆる可能性を考える。
…まさか、と考えていると、狐さんが急ブレーキをかけ、俺は狐さんの背中に鼻を強打するという無様な事態に……。だ、だ、ダサくねーもん! 俺はとある可能性について危惧してたんだよ…!
「ぐぇ…! う…狐、さん…?」
秘密の出口の真ん前。
涙目で鼻を押さえながら1歩後ずさると、目の前に黒いバンダナの男…ミゲルさんが立っているのが見えた。
何やら険しいお顔をしていらっしゃりますが…。オーラも黒いって言うか…暗い? まるで性癖を大勢の前でカミングアウトしてしまった男子中学生のようだ…。
………ええ、そうです。若かりし頃の俺は、陽キャのノリに巻き込まれて性癖…しかもよりにもよって『獣姦』などと言うマニアックなものをクラスの中心で大暴露してしまったんです…。
男子には大爆笑され、女子には引かれ、担任だった男の先生には『もふかん同盟』なる謎組織に勧誘されて……加盟しました。
柿沼先生、今更ですが9月の会合参加出来ません。ごめんなさい。
「ミゲル! 丁度良かった…。コージさんを逃がすの手伝ってくれ!」
「……………………………」
俺が過去の過ち…いや、同志を見付けられた運命の刻(キラッ)を思い出し、柿沼先生に内心謝っていると、狐さんがミゲルさんに話し掛けた。
しかし、ミゲルさんは暗いオーラのまま狐さんと俺を交互に見たまま黙っている。
「…ミゲル? どうしたんだ?」
「………………………………………」
「……お前も外がどんな事になってるか知ってるだろ? 今はお頭が食い止めているが、いつここまで到達したっておかしくないんだ…! 急がないと…」
……やっぱり、か。
狐さんの言葉に、俺は確信した。
さっきの金属音は、剣のぶつかり合う音だ。
誰かが、何かの組織が、襲撃してきたのだ。敵対組織はあの組織以外にはいないと、ガレは言っていた。ならば……今ガレ達が戦っている相手は……恐らく、聖騎士。
「おいミゲル!」
「……………………悪い、コナー…。俺は手伝えないんだ……」
「!? 何言ってんだ!! あいつらはもうそこまで……。……待て。…まさか…お前……!!?」
「…コナー……、盗賊の癖にお前は良い奴だよな…。だから、頼む。コージさんを俺に渡して、黙って東に逃げろ。そっちなら包囲網も手薄だ。…運が良ければ……」
「待て…。待て待て待て待て!! 嘘だろ…!!? そんな…!! ずっと、騙してたのか…!!?」
「…ああそうだ。騙していた。それは悪かったと思っている。が、コナーは俺の大切な友人で、コージさんは俺の命の恩人だ。…言うことを聞いてくれ…。助けたいんだ…!」
…………んー………えーっと?
会話の内容から察するに……ミゲルさんは裏切り者? つまり聖騎士の一員なのか…?
……あ、そう言えば昨日逃げた方がどうのこうのって言ってたような…。
あれは近々聖騎士が襲撃してくっから気を付けとけよ? っていう忠告だった…?
「…………………信じて、たのに…………」
狐さんが泣きそうな顔になって、カタカタと震えている。
……当然、ショックだよなぁ…。俺の目から見ても、2人は本当に仲が良かったし…。
俺にとっての勇輝みたいなモンで……。
俺あいつに裏切られたら1ヶ月は部屋から出られないと思う。
そう考えると……うわぁ…辛い………。
「…………コージさんは渡さないし、俺も…逃げない…」
「!! コナー…!」
「もう黙れ!! お前は俺の…俺達の敵だ!!」
感情的に言い捨てた狐さんが、腰に差してた剣を抜き、ミゲルさんに向けた。
殺意を向けられたミゲルさんはと言うと、一瞬哀しそうな顔をした後、覚悟を決めたように1歩進み出た。
……え、ちょ、ちょっと待てよ…。何するつもりだ…? まさか、ここで殺し合うのかよ…!?
「コナー…。外には500もの聖騎士がいる。いくらお頭…いや、ガレ・プリストファーと言えど、大勢の手練れの聖騎士相手じゃそろそろ限界の筈だ。ここに騎士達が来るのも時間の問題だろう。俺が連れて行けば、コージさんはまだ『誘拐された被害者』で済むが、手枷も足枷も無く盗賊と一緒にいる所を見られれば最悪コージさんまで罰せられる可能性だってある…。……それでも戦うと言うのか?」
「俺の仕事はお頭の命令に従って、コージさんを安全地帯まで避難させる事だ!!!」
「……ああ、そうかよ…!!」
一瞬の事だった。
俺が狐さんに『絶対防御』を張る隙も無く、一瞬で勝敗は決まった。
一気に踏み出したミゲルさんに驚いた狐さんは1歩後退し、剣を威嚇用の構えではなく、実戦用の構えに持ち直そうとした。
しかしミゲルさんは更に距離を詰めて狐さんの肩をガシッと掴み、そのまま押し倒す。
狐さんは勿論抵抗するが体格の良いミゲルさんには通用せず、ミゲルさんに何かの葉っぱを鼻と口に当てられ、そのまま意識を失った。
「狐さん……!!」
慌てて駆け寄り揺さぶるも、狐さんは眉間にシワを寄せたまま目を覚ます気配は無い。
「意識を失っているだけです。コージさん、コナーを聖騎士に見付からない所まで運ぶので手伝って頂けませんか? ……あ、逃げようなんて考えない方が身の為ですよ。コージさんに暴行するつもりはありませんが、コナーのように気絶させて連れて行く事くらいはしますので」
ミゲルさんの言葉に、後ろにいるのは今の俺にとって敵だ、と再確認する。
いつもの「~っす」という口調が取り払われ、今のミゲルさんには軽さが見られない。
…それでも、狐さんの身を安全な場所に移そうとしたりする所に優しさが垣間見えるのは…性根は、良い人だからなのだろう。
「………分かりました」
突然襲ってきたり、殺したりはしないと思うので大人しく従った方が賢明。反抗するのは得策じゃない…。そう判断して、ミゲルさんと一緒に狐さんの身体を隠し通路に寝かせた。
「……じゃ、付いてきてください。コージさんは被害者として説明しますので、ガレ・ プリストファーと恋人関係にあった事はどうか内密に」
「……恋人じゃないけど、分かりました」
「…え? …あ、そうなんですね」
…やっぱり勘違いされていたか……。
ガレが当然の如く旦那面すんのが原因だと思うけど…止めてくれるとは思えね~…。
そんな事を考えながら、俺はミゲルさんに付いて行く。
拠点内は静かだが、たまに怒声や金属音、詠唱の声などが聴こえてきて、誰かが命を懸けて戦っている事がジワジワと理解出来てきた。
「……あの、ミゲルさん。ガレは……」
恐る恐る尋ねると、ミゲルさんはチラリと俺の顔を見て、小さく応えた。
「………さぁ。ガレ・プリストファーは俺が知っているだけでもレベル80越え10人相手に戦っています。生存は諦めた方が良いですよ」
「……え…………?」
ミゲルさんの応えに、俺は唖然とした。
……ガレのレベルは83。同格か、それ以上かの10人と戦っていて、もしかしたら既に死んじゃっているかも知れない。
そう理解して冷や汗が一気に出てきた。
「でも、広間の方から騒音が聴こえてますので……まだ生きてるかも……って、え!? コージさん!!?」
制止するミゲルさんの声も耳に入らない程、俺は必死に走った。
__ガレが、ピンチだ。
早く行かないと、早く『絶対防御』を張らないと…!
いや、焦るな俺。俺には蘇生魔法がある。暗黒魔法師の攻撃で死んでない限り、俺の力で生き返らせる事が出来る…!
何にしろ、急がなくちゃ…!!
走れコージ。邪知暴虐な聖騎士を許すな。友であるガレヌンティウスを救うのだ…!!
バァン!!
…勢い良く開けた広間の扉の向こうは、まさに地獄絵図だった。
死屍累々。屍山血河。阿鼻叫喚。
ホラーゲームや深夜アニメ、海外のスプラッタ映画でしか見た事ないような光景がそこには広がっていた。
錆びた鉄のような匂いとあっちこっちに飛び散った血飛沫に腰を抜かしそうになるが、ガレの事を思い出し、気合いで堪える。
…正直、泣いてチビりそうだった。
死体を踏まないように奥へ進むと、聴こえてきた金属音と詠唱の声。
ガレがまだ生きている事に希望を見出だしながら駆け足で音の発生源まで近付く。
そして、更にもう少し進んだ所に、ガレはいた。
生きていた。
立って、剣を振るっていた。
しかし身体中傷だらけで、満身創痍。
ガレが戦っていたのは、1人の長髪の男。白い鎧を身に纏い、細長い剣を急所に向けて放っている。
速すぎてあまり見えないが、ガレはかなり疲れているようで、なんとか長髪の剣を受け止めているという危うい状況。
俺はすぐに『絶対防御』を展開し、ガレの身体に纏わせた。
ガレが一瞬驚いた様子で剣を止め、長髪がその隙にガレの首に剣を突き刺そうとし…弾かれる。
「なっ…!!? 結界だと…!!」
長髪が数メートル後ろに飛び退き、狼狽えたように立ち尽くして…俺を見付ける。
「…子供?」
その言葉に息を整えていたガレがバッと俺を見て、嬉しそうな笑みを浮かべた。
……無事、とまではいかないけど、間に合ったようで良かったよ。感動の再会だ。熱い抱擁を交わそうぞ! …とは勿論言えず、ガレに微笑み返す事しか出来ない。
「……お前が、コイツに結界を張ったのか?」
…しまった。結界を張ったら即刻隠れるべきだった。今から隠れても…うん遅いな。
動けず黙っていると、長髪はそれを肯定と受け取ったのか、額に青筋を立ててズンズンと近付いてきた。
ジズの加護があるし、大丈夫だとは思うけど…念には念をと、自分にも『絶対防御』を張った。
…てか今まで張って無かったのはちょっと危なかったかな…。
キィィィ…ン!
「っ!!」
強烈な金属音が響く。
ガレが近くの死体と化した騎士の手から剣を奪い取り、長髪にぶん投げたのだ。
長髪はギリギリ自分の剣で受け止め、凪ぎ払う。おかげで吹っ飛んだ剣がぐゎっちゃん! と大きな音を立てて転がり、俺はビクついた。
「クソの処理は俺の仕事なんでね」
にこやかに笑うガレだが、今はその笑顔が恐い。
クソ呼ばわりされた長髪は俺に向けたのとは比じゃないぐらいの殺気をガレに飛ばす。だが流石ガレ。まったく怯んでないし、むしろ中指を立てて煽っている。
………異世界でもそれが侮辱の意味なのは変わらないのか…。
怒った長髪が何やら詠唱を始めて強力な魔法を作り出しガレに放つが、ガレは当たる直前も後も余裕綽々。
当然だ。だって『絶対防御』だもん。人間を遥かに凌ぐ魔族の強大な攻撃でさえ破られた事は無いのだ。
人間で使えるのは、俺を除けば世界にたった1人だけ。その人も、1度使うと魔力が枯渇して数日は寝込むらしいし…。
ただ、俺に言える事はたった1つ……。
チート最高だぜヒャッハァー!!
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