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足腰ガクブル★死神の吐息編

ガレの本性は…

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「…………気持ちは嬉しいけど、そんな事したら今俺を探し回ってるヤンデレ達が何するか…。ルークさんなんか職権乱用で何がなんでも見つけ出すだろうし…」

ガレからのお誘い。それはすごく魅力的に思えた。しかし、よくよく考えてみよう…。
オーディアンギルドはおよそ30000人で形成されている超大規模ギルド(普通は5000人前後らしい)。支部がいたるところにあり、関係者も世界各国に散らばっている。んで、そのギルドのトップが全力で人を探したとする……。………逃げ切るなんて無理だろ?
更に言えば、ガレは指名手配中の罪人。万が一、俺がルークさんに見付かれば、俺は監禁で済んでもガレは騎士団に引き渡される。そうなればガレは………。

「…ーーという事だから、俺にとってもガレにとっても良い事あんまりないぞ?」

ガレとの旅は楽しそうだが……、リスクが大きすぎるんだよな…。

「…………そうか、だが心配するな。オーディアンギルドは30000人だが、『死神の吐息』のメンバーは世界中に50000人程いる。俺が命令すればどうとでも動いてくれる奴らばかりだ。常にそいつらを使って警戒させておけば、見付かる事はない。無事に旅が出来る」

「う、うーん…、でもガレの部下をそんなふうに使うのはちょっと……」

「盗賊に言うのも何だが……良い奴らだ。悪さはするが俺への忠誠心は本物なので喜んで従う」

「い、いやいや、俺が気を使うって言うか……」

「じゃあ魔族領土か氷の大陸に行こうぜ。人間と友好的な関係を築きたいと考える魔族もいるし、氷の大陸には大古龍の城があるから生半可な奴じゃ行けねェ。だが、俺ら2人なら何とかなるだろ?」

うー……ん、んん…? ガレ、なんだか俺がルークさん達の所へ帰るのを阻止しようとしているような…。と言うか、連れて行こうとしてる……?

「で、でもお世話になったから…黙ってバックレるのは嫌だし……。それに、ワーナーさんのご飯を毎日食べに行くって約束しちゃった…。だから、俺帰らなくちゃ…」

「……………………………………………………そーか」

ガレの言葉に、周囲の温度が5℃くらい低下したように感じた。
……あれっ。ガレ、何か怒ってる…? 色気に含まれる危険度が増しているような気がするんだけど…。
…これは……俺にお仕置きをしようとしている時のリイサスさんの顔と同じだ! ん? てことは俺、お仕置きされんの?

「…………コージ、そろそろ地下遺跡の仮拠点に着く。俺の部下が大勢いると思うが、俺の大切な奴って言っとくから怯えんなよ?」

おっ、危険度が減った! さっきまでの半笑いガレだ!
良かったぁ…。実はちょっと怖かったんだよね…、不機嫌ガレの雰囲気。絶対零度の瞳と言うか…。「どう料理してやろうか」みたいな目で見られて…チビりそうになってたんだ…。

「余程の強面じゃない限り大丈夫だぜ! 多分!! つーかww大切な奴ってwwぜってぇ勘違いされるぞww」

「まぁそうだろーなwwでも大切な奴には変わりねェからな…。勘違いしてくれた方がコージを襲う奴がいなくて助かるだろ?」

「そーだな! これ以上犯されたくないしな!」

それからも談笑を続ける俺とガレ。
西の空に真っ赤な太陽が沈んで、この辺りは暗くなり始めている。
ガレは俺の手を引いて、急ぎ足で仮拠点まで行ってくれた。








…………そして、やっと見付けた地下遺跡。
幻想的だが、俺は感動もしていられない。

「………出来るだけこの方法は取りたくなかったが、コージが俺と一緒にいてくれないなら仕方ないよな…?」

そう言って妖艶に笑うガレ。
その足元に、手首を鎖で縛られて意識を朦朧とさせる俺がいた。












********************


フッ

「「!!?」」

ドジっ子コージくんが『惑わしの霧』に拐われて数時間。世界中のギルド関係者や知人友人に捜索依頼を出そうと、1度ギルドに戻った俺とルークの身体に張られていた『絶対防御』が消えた。

「結界が…!!」

結界魔法の結界は、本人の魔力量にもよるが結界魔法師が離れても十数時間は持つ。ましてやあのコージくんの結界だ。3日くらいなら余裕で持つだろう。それが、たった数時間で消えた。
結界が時間経過以外で消える時は、結界魔法師がそう望んだか、結界魔法師の意識が途切れたか…。

「コージくんも『絶対防御』は張っていた。死んだとは考えられない。おそらく、意識が途切れたのだ……! 眠っただけでは結界は消えない。…誰かに強制的に意識を落とされたか…!!」

ドバキョッ

今にも血管がブチ切れそうなルークが、壁を殴って大穴を空ける。怒り過ぎて自分が『絶対防御』という言葉を漏らした事については気が付いていないようだ。
しかし、そんなあり得ない単語に気付く者はおらず、ルークの言葉に、ギルド内にいた全員の表情が絶望に満ちた。

「………そ、それがもし貴族なんかだったら…」

「………………貴族から奪い返すなんて不可能だ……」

誰かがポツリと呟いた。
ギルドに静寂が訪れる。

「……大丈夫だ。コージくんは意外と強い。変態貴族なんざ、ぶん殴って逃げ出すさ! 俺達の今すべき事は、コージくんの居場所を特定する事だ! ルークも、そんな恐い顔だと帰ってきたコージくんに嫌われるぞ?」

俺は何とか全員の士気を高めようと声を張り上げた。ギルドメンバー達はホッとした顔付きになるが、ルークとジャックとワーナーは変わらず、怒り、哀しみ、落ち込んでいる。
……彼らは知っているのだ。コージくんは人を攻撃する事が出来ないと。あの子が優し過ぎると知っているから…。
俺も辛い。コージくんがもう帰ってこないかもしれないと考えると、死にたくなる。……だが、コージくんは必ず戻ってきてくれる。そんな気がするんだ。

「…オール、ロイ。俺の知り合いの奴隷商人が王都にいるので、コージくんの特徴を伝えて、協力するように言ってこい。名前はレッタだ。ワーナー。食材方面では顔が広いな? さりげなく協力を要請しろ。ジャック。その馴れ馴れしい言動を活かして、冒険者や庶民から情報を引き出せ。その他の奴らも知人友人家族親戚…、とにかく情報を集めろ! A級以上の冒険者は危険地帯への捜索! これはギルドからの緊急クエストだ! さぁ、行動開始!」

俺の命令に、数百人全員が動き出した。
可愛い可愛いコージくんを助け出したいのは、皆同じ気持ち。例えライバルでも、今だけは力を合わせなければいけない。

「…………殺そう…。コージくんに手を出した輩は、女子供関係なく……」

ルークが血の滲む手を握り締めて、呟いた。

「………当然だ。だが、コージくんが犯されていても復讐ばかりに気を取られるなよ。コージくんの救出とメンタルケアが最優先だからな」

「…! そうだな…。………取り乱してすまなかった。私も知り合いの良心的な貴族に協力を要請してくる。最悪の場合、コージくんが神の愛し子だという事をバラそう。貴族や王族は、未だに創造主ゼロアを信仰し続けているからな…」

おお、頼もしい発言だ。それでこそ我らがマスター。
さて、俺も日の当たらない世界の住民達と『おしゃべり』してこよう。彼らは何でも知っているからな。








…コージくん奪還作戦が、今幕を開けた。








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