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ハローおホモ達★ギルド入会編

現実逃避のお時間です

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気を取り直してもぐりんちょ…。
もう一口、恐る恐る食べてみる。仮昇天はしないみたいだ。良かった。

それにしても……、何だこの肉!? 口の中で溶ける! 噛む前に! 油が染み出してとろっとろになる!
こんなに美味い肉、食べたことない…! これは革命だーっ!

ガツガツ。ガツガツ。

あまりの美味しさに、ついいつものおふざけとかワーナーさんへの感想を忘れて、真面目に食べる俺。
かなりの量だったのに、ものの15分でお皿は空っぽ。大人2人前くらい、ペロッと食べちゃった。お腹もポンポンだ。
はぁ~~……。大満足。野菜もスープも、とにかく超美味しかった。異世界の肉すげぇ。
だけど、いくら良い肉でも作る人が素人なら昇天するほどの美味しさにはならないはず。
きっと、ワーナーさんが凄腕なんだろう。リイサスさんも、「あの見た目からは想像もつかないほど美味しい料理を出す」みたいなこと言ってたし…、まさか、これが当たり前なのか…?
くぁ~~~っ!
あんなに美味しい料理を毎日食べられるなんて……ここの冒険者はなんて幸せ者なんだー!
いいなっ! いいなぁっ! めちゃめちゃ羨ましい! でも俺も、そんな最高のギルドの一員になれたんだよなぁ~!
ふへへ、お金入ったら出来るだけ毎日食べよ~~!!

………………って、ああっ!? お、お金!!

どっどどどっどうしよう!
俺お金持ってない! 無一文の異世界人!!
うぅーーーーっお腹空きすぎてカンッペキ忘れてた!
こんな美味しいお肉、絶対高いよな!?
ひぃー! 無銭飲食になるぅ! ワーナーさんに怒られるぅ~!
な、何とかリイサスさんに立て替えてもらって、ギルドで仕事して、お金が入ったらリイサスさんに返す…とかダメかな!? よ、よぉし! その方向でリイサスさんにお願いしよう…!
あっでも、でもっ! とにかく謝らなくちゃダメだよな!

「あっ、あの…! ワーナーさん、お、俺、お金…持ってなくて…! ごめんなさいぃ! あああの、ちゃんと働いてお返ししますので! どうかっどうかご勘弁をぉ!」

俺はそう叫んで、ワーナーさんにバッと頭を下げる。
許してもらえなかったら……。ああどうしよう! 謝りまくるしかないよぉ~……!
そんな覚悟で俺が泣きべそをかいていると、ワーナーさんがゆらりと立ち上がる。そんで俺の肩にポンと手を置いた。

「…いい」
「へ?」

ちらっとワーナーさんを見ると、ワーナーさん、なんだか顔が赤い。そして汗だくだ。眉をぐっと寄せて、怒ってるっていうよりは、なんだか苦しげな様子。
どういう感情なんだろう。やっぱり…怒っちゃったのかな…? でも「いい」ってなんだろ…。
不安になって俺がまた謝ろうとすると…。








「かっ、金なんていらねェからっ、俺の嫁さんになってくれ!! コージ!!!」







衝撃&唐突の爆弾発言。
しかも→耳を塞ぎたくなるほどの大声。
つまり→ギルド内にいた全員に聴こえた。

「やっぱりお前もコージくん狙いかこのクソドワーフがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッッ!!!!!」

ワーナーさんの胸ぐらを掴んで殴りかかるリイサスさん。
俺の反応が気になるのか、顔を赤くしたまま俺をジッと見て、まったく抵抗しないワーナーさん。
ただただ落ち込むジャックさん。
それと、リイサスさんを止めようと慌てる周囲のギャラリー。

え? 俺?
俺はお空を眺めながら小鳥さんとお歌を歌ってました。



********************



安全地帯だと思っていた料理人兄貴が、俺に好意を寄せるホモと分かってショックな昼下がり。
皆様はどのようにお過ごしだろうか。

ギルド内はカオスが渦巻いている。
ズーンと落ち込み、イスの上に体操座りする俺。
行儀が悪いとは思うけど、許してくれ。本当にショックなんです。
だって、あの笑顔の素敵なワーナーさんが……爽やかスカッとキラキラ系兄貴が……。
暇さえあれば俺の尻を揉んだり、硬くなったチンチンを押し付けようとしてくるようなリイサスさんやルークさんみたいになると思うと、涙が出てくる。
くそう、くそうくそう…。俺の安全地帯(予定)がぁぁ…。

俺の右側には、巨大なイスにルークさんが座っていて、ゴゴゴゴ…といった気迫で、正面に座るワーナーさんを見下ろしている。
俺の左側では、同じような状態の般若面リイサスさんが仁王立ち。
ルークさん&リードさんの2人に睨まれている当のワーナーさんは、俺しか見ていないようだ。どんっと背筋を伸ばし、俺だけを真っ直ぐジィッと見つめている。
ジャックさんはと言うと、ちょっと離れた所で床に体操座り。ジャックさんも落ち込んでいるようだ。
それでも、お菓子は用意してくれた。俺の前のテーブルに、チョコやらキャンディがどっさり積まれている。俺は5歳児じゃない…って言いたいところだけど、今だけはありがたやだ。クッキーポリポリ食べてたら気が紛れるし。
でもさっき、ジャックさんが通り過ぎる時に「ギルマスとイケメン参謀と天才料理人がライバルとかあんまりじゃね…?」と近くの冒険者さんに愚痴っていた。
何のことだろう。俺は知らない。知らないったら知らなーい!
…………だって、認めたくないじゃないか……。俺の知り合いが全員が俺狙いのホモだなんて……。

俺たちの周りには大勢のギャラリー。
おいアンタら。そんなに大勢いるんだから、誰か助けろくださいよ。
門番Aさん! そんな可哀想なものを見る目で見ないで!
門番Bさん! 申し訳なさそうな顔をするくらいならマジで助けてくださいお願いします!


「さて、ワーナー…。君は、先日の出来事をもう忘れたのかね?」

ルークさんが、重々しく口を開く。
それを聞いた俺の腕にブワッと鳥肌が立った。
…ヤバい、攻撃モードのトゲトゲな声音だ。ワーナーさんは恐れてないみたいだけど、俺はブルブル。
でも肝据わり過ぎのワーナーさんは毅然とした態度で言い返した。

「コージがアンタらの家から逃げ出してきた事件なら、勿論、覚えてますよ」

ワーナーさんの言葉で、ルークさんの額にビキッと青筋が入った。
これは……俺が庇わなきゃいけないパティーンか…? いやでもでもっ、ワーナーさんのいきなりプロポーズが原因な訳だし……。
んん…、けど、それでワーナーさんにとってルークさんは上司だよね。社長さんってことでしょ?
ワーナーさんがこのギルドに居づらくなったら……ぐぬおぉぉ罪悪感で潰れちゃうよぉぉ……!

「私がコージくんにどれほど執着しているか、分からないわけではあるまい…」
「えぇ、そりゃね」
「それなのにコージくんにプロポーズするなんざ……、俺とルークをキレさせるだけだって、筋肉8割のおつむじゃ分からなかったか? 料理油に脳まで侵食されたか」

そう吐き捨てるように言ったには、腕を組んで仁王立ちをするリイサスさん。さっきのブチ切れをまだ引きずっていて、激おこMAXな苛立ちが完全に表に出ている。いつもの冷静キャラはどこかに置いてきたようで、荒々しい。
逆にリイサスさんに喧嘩腰だったワーナーさんは、真面目な顔で冷静に首を振る。

「いや、ギルマスやお前を怒らせるってことくらい、俺でも分かったさ。だから最初は遠慮しようと思ったんだぜ。……だが………コージの食べる時の表情を見て、俺の伴侶はコージしかいないと思った。幸せそうに飯を頬張る姿が本当に可愛くて愛おしくて……、毎日俺の手料理を食べてほしいと思ったんだ」

可愛くて愛おしくて…って……、お、お、男に言うセリフじゃないだろーっ! しかもやめて! ギャラリーにも聴こえるような大きさで堂々と言わないでー!

……でも正直…、毎日ワーナーさんの手料理はめっっっっっちゃくちゃ魅力的…。
エロいこと無しなら同棲とか………うはー理想! それも良いかもなぁ~。
ただ……リイサスさんとルークさん執着過保護ホモコンビがなぁ~…。全力で阻止してきそう。
それに、今は2人とも思いとどまってくれてるけど、嫉妬が限界を迎えれば、また監禁生活&エンドレス子作りのリスクも考えられる。
ワーナーさんがこの2人に太刀打ち出来るとも思えないし……。
…うん、無理だな。

「…やはり、どこにでも命知らずはいるのだな……。コージくんは可愛いから、誰が惚れようと仕方がない…。そう思って、我慢していたが……」
「まさかルークの威圧もマーキングもフル無視でアタックしてくる奴がいるとはな」
「嗚呼…嘆かわしいことだ…」

ルークさんが敵意を剥き出しに、淡々と言う。
途端、サァァと恐ろしく冷たい冷気が辺りに漂った。
これには、今まで俺しか見ていなかったワーナーさんも、バッとルークさんを見る。
……こわい。普段がどれだけ変態でも、やっぱりこの獣人はS級冒険者と同等の実力を持つ、世界的な冒険者ギルドのトップなんだ。
俺はすっかり怯えて、イスの上で小さくなってることしか出来ない。
…でも、ワーナーさんは違った。

「…ッ! 例えっギルマスを敵に回したとしても、俺はコージを諦めない! 絶対に! コージより俺の飯を美味そうに食ってくれる奴なんかいない! 俺は絶対引き下がらない!」

ウッソだろマジかよワーナーさん! ルークさんに啖呵を切るとか勇者か!? 勇者なのか!? 良いぞもっとやれ!! その調子で俺を過保護ホモコンビから………


「黙りなさい」


パキンッ

ルークさんのその一声で、空気が固まった。
決して大きな声じゃなかったのに、妙に頭に響いて、ギルドにいる誰も彼もが凍り付き、動けない。
ワーナーさんも怖気付く様子は見せないものの、よく見るとこめかみに冷や汗が流れている。
俺も全身の筋肉が緊張して、指先さえも押し固められたみたいに動かせなかった。

間違いない。これはルークさんのスキル、『王者の支配』だ。

声に魔力を込めることによって、その声を聴いた生物全ての動きを封じる、かなり強力なスキル。ただしこのスキル、使った本人より底レベルの者にしか、効果がない。
ここにいる人全員が動けないってことは、つまり……今ここで1番レベルが高いのはルークさんってわけだ。
ってことは、今、ルークさんに逆らえる人はいない。すなわち…誰もワーナーさんを助けられない…。
うぅ、最悪の証明をしてしまった。

「ワーナー。君の料理は極上だ。私は君の料理が好きだ。辛い時も、君の料理を食べる時も元気が出た。コージくんも君の料理で大層喜んだと聞いている。だからせめてもの情けで、命は見逃そう」

え。

「しかし、本当に残念だよ。君のような腕の良い料理人を失うのはね…」

え……。
俺は心の底からゾッとした。うなじの毛が一気に逆立って、背中にブワリと鳥肌が立つ。
……本気だ。
ルークさんは、本気でワーナーさんを始末するつもりだったんだ。
小学生が言う「殺す」とはわけが違う。命の価値が軽い世界で、魔物の命を奪うことを生業にしている人なんだ。
俺が喜んだって理由で、ワーナーさんの命は救われた。
実感した。ルークさんは本物のヤンデレなんだ。俺に執着して、病んでしまってるんだ。
扱いを間違えれば、俺の尻だけじゃなく周囲の人の命まで危険になる。
今はもふもふ熊さんだけど、ちゃんと恋愛対象として真剣に考えないと、俺も危ないのかも知れない。マジで監禁と強制子作りエンドもあり得そう…。

ていうか、そんなことよりも今はワーナーさんだ!
命の危機は免れても、ルークさんはクビにするって言っている。これには、様子見をしていたギャラリー達も初めてざわついた。やっぱりワーナーさんのご飯はみんな好きらしい。
そして、クビの話にワーナーさんが初めて動揺した。

「…っ」
「この私に異を挟まれて、王城で働けるなどと思っているわけではなかろう。地道に努力しても20年は遅れるだろうな」
「……」
「…もしも、君がコージくんを諦め、今後は必要最低限の関わりで済ませると今ここで誓うのなら、解雇は取り消しだ。…君が短絡的に見えて、実のところ賢い選択が出来る者だと、私は知っている。…ワーナー、将来のことも考えたまえ」
「……」

きょ、きょ、脅迫だぁ…! 現代日本ならフツーに犯罪! ていうかコンプライアンス違反! ルークさんマジサイテー!

……って、言えたら良かったんですけど。
俺、レベル3。
他の冒険者さんはとっくに解けてるルークさんのスキル『王者の支配』がまだ体に残ってて、声が出せないんです。
およよ、情けない。ごめんワーナーさん…。

ワーナーさんは迷うように俺とテーブルを交互に見ている。赤毛の眉は苦悩に歪み、脂汗が伝っているのがテーブルを挟んだ俺でも分かる。自分が死ぬか、愛する相棒が死ぬか迫られた刑事みたいな、すっごく追い詰められた表情だ。
でも、本来は迷う余地なんてないはずなんだけどな…。
王城で料理人として働くっていうのは、ワーナーさんの子供の頃からの夢。
夢を取るか、会ったばかりの男を取るか。
そんなの分かり切ってる。普通は夢を取る。
ワーナーさんはルークさんやリイサスさんみたいにド執着ヤンデレ野郎じゃないっぽいし……。
ワーナーさん、ここは迷うことなく自分の夢を取っちゃってください!!

「俺はコージを選ぶ」

んえ?

「王城じゃなくても、飯を作れる職場はある。でも、コージは1人しかいない! 俺はアホだがバカじゃねぇ。ここでコージを逃がせば、もう2度と手に入らないってことくらい分かってる! 王城の飯は美味かったが、働けねぇってんなら独学で王城のレベルに追い付くまでだ! 俺は、コージとの同棲の方が絶対良い!」

…………………あれぇっ!?


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