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ハローおホモ達★ギルド入会編
殺人級なんだけど自覚ある?
しおりを挟む「いやいやいやちょいちょいちょいリイサスさーーんマジで勘弁してくださいよホントに。アンタが相手とか勝ち目無さすぎでしょ」
俺が真っ赤になって滝汗を流していると、ジャックさんがズイズイと割り込んできた。
ジャックさんヘルプ。この変態へたれ縋り付く系イケメンから助けてぇ…って……、な、何?
笑ってるのに怖い! なになに何でそんな怖いの。
笑顔なのにジャックさんが怖い!
「はっ。ルークはともかく、他の奴に勝ち目なんて残してやるものか。お前もだぞジャック。狙ってるんだろ」
「えぇ、そりゃね。やっぱ気付いてましたか」
「いつも下品なお前がいきなりまともになって、気付かないわけないじゃないか」
「…」
「大方、気の良い年上の男を演じてるつもりだったんだろうが……。言っておくが、お前が入る隙間はないからな。俺たちはキスも風呂も…同じベッドで夜を過ごしたこともあるんだ」
あっやめろ! 言うな!
ていうか変な言い方すんなー! 違うもん。セッセしてないもん! ホントにただ寝ただけだもん! 快眠でした。
でもジャックさんは口を歪めて、悔しそうにリイサスさんを睨んだ。
「……精々あぐらかいてりゃ良いんすよ。いずれ足元掬ってやりますんで」
「お前にコージくんは見合わねェよ」
バチバチバチ。
ぬぉん…。
誰か助けて。ギルドの空気、最悪です。
一般冒険者さんはみんな居心地悪そうにヨソヨソしてるし、お偉い立場のリイサスさんと、冒険者代表みたいな立場のジャックさんの喧嘩に割って入れる人、いなさそう…。
試しに1番近くのテーブルで飲んでたウマ耳のガタイの良い冒険者さんに『たすけて』の視線を送ったら、手で『ごめんムリ』のジェスチャーを返された。
あぁ、万事休す。
また俺はキスでもして2人の機嫌を取らねばならんのか……、と羞恥心と男のプライドでぐらぐらする覚悟をようやく決めようとした、その時。
大きな「くぉら!!」って一喝で、リイサスさんとジャックさんがパッと離れた。
声の主はワーナーさん。
こうして背筋も凍るリイサスさんとジャックさんの睨み合いは、ワーナーさんの怒鳴り声で終息したのだった。
「オメーらっ、美味いメシの前で盛ってんじゃねェ! コージが困ってんだろーが!」
ひぇーーんワーナーさーーん!
はぁぁぁ助かったぁ…。
エゲツねぇイケメン VS 色気マシマシおじさんのホモバトル、一件落着。解決してないけど。
ジャックさんが俺の尻を狙ってるってハッキリしたけど、まぁ考えないようにしよう。生きていく上では忘れることも大事です。
それよりも今の俺に重要なこと……。
ワーナーさんが両手に持ってる、おっきな銀のトレー!
その上に乗った数々のお皿!
そのお皿の上のキラキラの料理!!
な、なななな何ですかそのお料理は!? か、輝いているんですがーー!?
うっわ、これ絶対うまいよ。見てるだけで涎が溢れてきちゃうよー!
「ブラッティ・ブルのメダイヨン、ラムラックのロース、マーダーグリズリーの串焼き肉、クォックの卵の千切りキャベット包み、グリス風ボーンラビットとオニンのスープ、季節のキノコ煮込み…。バゲットにディップするパテは、アボキャドとグロードチキンの卵、ホワイトフィッシュのすり身とオイルがあるぜ!」
俺は目の前のテーブルに置かれた料理を凝視した。
ジュージューと鉄板の上で油を跳ねさせる肉は、アメリカンな感じでビッグ&ジューシー。肉汁がすんごい。
隣のサラダは見たこともないような野菜が使われているけれども、みずみずしくてシャキシャキ感満載。スープは黄金色だし……ていうか、なんだかキラキラしてる。ふわぁ、夕日が沈む水平線みたいでキレイだ…。
パンはフランスのパン屋さんで売ってるような本格的なバゲットで、焼き立ての香りがする。
すごい。絶対全部うまい!!
ていうか超豪華! ていうかボリュームたっぷり!
俺が口をパクパクしてワーナーさんを見ると、ワーナーさんは満面の笑みでナイフ、フォーク、スプーンを差し出してくれている。
俺は震える手で受け取り、「全ての食物に感謝と祝福を」を震える声で唱えて、まずはサラダを一口…。
もしゃっ…
な、なんだこれ!
すごいっ苦い野菜が1個もない! むしろほんのり甘くて、ちょっと酸っぱいドレッシングと超マッチしてるぅ~!
すごいすごい! こんな美味しいサラダ初めて食べたぁ~!
俺は感動して、最初にサラダを食べ尽くしてしまった。まさか野菜嫌いの俺が…。母さんビックリするだろうなぁ。
空っぽのサラダのお皿から小さな野菜の破片まで口に入れ、お次は黄金色のスープ。
銀のスプーンですくい取り、ごっくん…。
ほっ、ほわぁぁぁぁっ……!
何だこの安心感!? まるで母さんに抱き締められているような包容感! あぁ…。こんな濃いの飲んじゃったら、もう普通のには戻れないよぉ~! うますぎるぅ~!
夢中になってスープを半分ほど飲んでしまった俺は、ワーナーさんが目の前でジッと俺を見ていることに気付き、ハッとした。
いけないいけない…。ちゃんと三角食べしないとな!
俺はバゲットを1枚手に取り、ナイフで卵のパテを塗っていった。そしてハム、とかぶり付き…。
うんまぁ~~~!
や、焼き立てパンすげ~~~~っ!
すごい。外はサクサク中はホカホカだ! ポテトサラダみたいなシンプルな卵のパテがめっちゃ合う~~~!!
ワーナーさん天才だ…。
サラダもスープもパンも天才的に美味しい…。
美味しすぎて涙出ちゃいそうになるって、初めての体験だ。
んで、気付かなかったけど、いつの間にかギャラリーがもっさり…。俺の周りにはいつかの肉壁が再びご登場。
うおぉ…料理大会の審査員の気分だ。
でも分かる。分かるよ。こんな極上の料理、見てるだけでお腹減るよな。ワーナーさんのご飯、美味しそうだもんな。
でもそんなに見る???
もう頼めよ! 視線が痛いよ!
リイサスさんもジャックさんもちゃっかりギャラリーになってるし! ていうかなんか料理じゃなくて俺の顔見てない!? 見世物じゃないんですけど!?
ふん、もういいし。無視だ無視!
俺は気にせず、メインの肉を頂いちゃうもんね!
俺がそう思って、ブラッティ・ブルのメダイヨン? って言う分厚いステーキにナイフとフォークを押し付けると、嘘みたいに柔らかく切れた。
そして赤身が残る切れ口からたっぷりの肉汁が溢れ出て、思わず唾を飲む。
一口サイズまで切り、いよいよ。
はむっと口の中に肉を入れた、その瞬間……!
俺はおかしな空間にいた。
空は青く、床は白い。
目の前にはギリシャ風の意匠が凝らされた太い柱。それがドンドンドンと10本くらい、2列で縦に並んでいる。
いきなりの変化に慌てて周りを見渡すと、大勢の……なんだアレ。変な人がいた。たくさん。
みんな、顔を白い布で覆って、跪いている。
そんで全員が顔だけを俺の方に向けて、『え…?』みたいに首を傾げている。
『…………永年神をやっておるが、そなたのような生き物は初めてだ』
妙にエエ声にバッと振り返ると、光の塊がふわふわ浮いていた。
………その声………まさか、トロフィー?
『いかにも。はぁぁ……食べた肉が美味しすぎて仮昇天など人類創世史上初めてのことだぞこの阿呆……』
えっ! か、仮昇天!? うそ俺死んだのぉっ!?
『死んではおらぬ。意識だけがこの世界に来てしまっただけだ。まったく…、奴らもどう反応すれば良いか困っておるではないか。神を困らせるな……』
呆れた声の光の塊(トロフィー)がそう言って、布の人たちの方を見た気がした。
…ていうか、えっと、神…? 神っておっしゃいました…?
『あぁ、私の直属の部下だ』
え、え……え!? あの布の人たち全員神様!? 待って待って待ってじゃあなんで俺ここにいるのっ!?
てかなんか会議っぽくない!? 俺神様の会議邪魔しちゃった感じ!?
『そなた死んだその時、そなたの魂は私の元に来る手筈になっているのでな…。仮昇天でも同じことが起きたのだろう。…結果、上級神格者会議に割り込む形になった』
んえーーーーっ!?
マジで!? いや嘘だろ~~! うわうわマジかっ、ごめん! 俺やっちゃったー!!!
『良い。そなたが仮昇天する可能性を想定出来なかった私の落ち度だ。まさか肉を食べて……肉を食べて…………』
うわぁんっ何度も言わないでーっ!!
うぅぅ、まさかこんなことになるなんて…。どうして…どうして…。ごめん神様…。あ、トロフィーじゃなくてその部下の神様たち…。本当にごめんなさい…。許してください、悪気はなかったんですぅ…。
『ぜ、ゼロア様…これは一体……』
布を被った神様のうちの1人(柱?)が、困惑した様子で手を上げて光の塊(トロフィー)に話し掛ける。男の人か女の人か分からない。
どうやらトロフィーの名前はゼロアと言うらしい。初耳学だ。
ゼロアは心底面倒臭そうに『はぁぁぁぁ………』とぶっといため息を吐くと、俺の横にふよふよ浮いて、布の神様たちに言った。
『聞け者共。この人間は件の介入者によって運命を歪められた者だ。この人間は私だけが管理し、接触する。手を出すことは決して許さぬ。この人間への許可のない接触は、対象神の持つ管理世界の破滅を導く。留意せよ』
『御意』
布の神様たちが一斉にそう言ったものだから、低い声から高い声が何重にも響いて、肌がビリビリ震えた。
人間の重なった声とは全然違う。声に不思議な力があるんだ。
俺は神様たちの迫力に気圧されて、ゼロアの後ろに隠れるみたいに後退りした。
すると、ゼロアの光の塊からうにょ~んと白い何かが伸びて、俺の頭をぽふぽふって撫でた。
『神を名乗る者がちょっかいをかけてきたら、すぐに私を呼べ』
うん…。え、でも良いの?
えぇっと、ゼロア(?)って、偉い神様じゃないの?
『あぁ、偉い神様だ』
やっぱり!
この布の神様たちの上司だもんな…。そりゃ結構偉いよな……。ゼロア様って呼んだ方が良いのかな……。
………つか俺、トロフィーとか金ピカとか文句ばっかり言ってた気がするな…。
…怒ってる?
『怒っていない。今更畏まった呼び方をされても意味もない。ゼロアヘルプー!……とでも呼べば行ってやるから、安心して暮らすが良い』
うはぁ、良かったぁ~。
やっぱり神様って慈悲深だ。チートもくれたし、ホモいっぱいなことを除けば、楽しい異世界ライフも送れてるし。
感謝しとこ。ありがたやありがたや。
『相変わらずノリの軽い…。はぁ、そろそろ帰ってもらうぞ。そなたは肉を食らった後、5秒ほどフリーズしている』
あ、そうなんだ。
良かった、心肺停止とかなってたら、ルークさんとリイサスさんがどうなることやら…。
じゃあそろそろ帰りますか! と言っても帰り方分かんないからゼロア頼みだけど。
『目を閉じて力を抜け。あぁ、それと帰ったらもう1度ステータスを確認すること。では、もう食事美味さに仮昇天などしないように』
え、ステータス? 何か変更があるのかな。
つーかしたくて仮昇天したわけじゃないよ…!
そう抗議しようとしたのもつかの間。
目の前が暗くなって、俺は落ちていく感覚に身を任せた。
「こ、コージ? どうした? 美味くなかったか…?」
ハッと気付けば、そこはギルド広場だった。
ワーナーさんが心配そうに俺の顔を覗き込んでいる。
「いえっ! お、美味しすぎて! 天まで昇っちゃいそうでっ!」
まぁ、本当に昇ったんですけどね! 神様会議邪魔してきちゃったんだけどね!
だけども美味しすぎるのは事実。くぅ、殺人級だ。人を殺しかねない美味しさだ…。
「へへ、そっか! ならいっぱい食べてくれよな! お前の為ならステーキ何枚だって持ってきてやるぜ!」
嬉しそうにほっぺを染めて笑うワーナーさん。
ありがとう。すっごく嬉しいです。
でもそんなにたくさん食べられたら今度こそ死んじゃう気がする……。
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