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ハローおホモ達★ギルド入会編

やりすぎぃ

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砂埃で全身薄汚れた俺にリイサスさんが駆け寄ってくる。
墜落地から離れていたリイサスさんは、衝突の影響を受けず、綺麗なままだった。

「あーあー、こんなに汚れちゃって」
「ごめんなさぁい」
「いやいや、調節は完璧だったよ。大きなクレーターが出来たけど、それも試験場内に収まってるからね。すごいよコージくん」
「えへ」
「…ていうか本当に使えたな…最上級魔法……」
「使えちゃいましたねぇ」
「わぁ、すごい他人事」

だって実感が湧かないですしおすし。
最上級魔法ってのがどれくらいすごいものかも、いまいちピンと来ないんだもん。
アンタらがずっと軟禁してたせいでね! 他の人と接することが出来なかったせいでね! 周りの人がどれくらいのレベルか分からないもんでね!
俺がそんな感情を込めてジトーと睨んでも、リイサスさんは素知らぬお顔で俺の服をパンパンと叩き、砂埃を落とそうとしている。
くそう、ヤンデレイケメンめ。ハゲちまえ。

「うぅん、手で払っただけじゃ落ちないなぁ。仕方ない、一緒にシャワーでも浴びようか!」
「や」
「シクシクシク………」

あ、でもシャワーはあるんだ。良かった良かった。貸してもらおう。
そう思って、わざとらしく泣き真似をするリイサスさんを無視し、俺はクレーターを見下ろした。
流石の最上級魔法。深さ10メートル程度の大穴は、半径こそ広くないけど、見事なまでの威力だ。加減してこれだから、本気でぶつけるとなると…………。うーん、街1個くらい吹っ飛ぶ気がする。
衝突の時も、思い返せば凄まじい大爆音だったけど、オーディアンギルドの人たちは何も気付かなかったのかな。
と、思って俺が出入り口の方を見ると……。

ジャックさんが顔だけを出して覗いていた。

「…………」
「…………」

ジャックさんは固まっている。可愛がってた親戚の子供が魔法少女だったみたいな表情をして、ピシリと固まっている。俺も吊られて固まる。

見られた。チートを見られてしまった。

でも、幸いリイサスさんは気付いていない。大穴を見下ろして、「どうするかなぁ、これ…」と呟いている。
俺は恐る恐る人差し指を口元に持っていき、『しー』とジェスチャーをした。誰にも言わないでって意味だ。
ジャックさんは青い顔でコクコク頷いて、静かにドアを閉めた。

ジャックさんが覗いてたってことは、やっぱり広間の方にも音は聞こえてたんだろう。ジャックさんは一般冒険者の代表みたいなことやってるって言ってたし、多分他の人にせっつかれて見に来たんじゃないかな。
だとすると、音の正体が気になる人は他にもいるわけで………。
うぅ、ジャックさん頼みます! 上手いこと誤魔化してください!!


「じゃあ、シャワーを浴びて昼食に……あっ」

俺に向き直り、そう言ったリイサスさんが、何かに気付いたように口を押さえた。

「ごめん、今シャワー室は修理中なんだった」
「えっ」
「ギルドメンバーが乱闘を起こして壊れてたんだ。確か使えるのは明日からのはず…」

えぇーーーっ!
そんなっ、じゃあこの薄汚れた状態でご飯を食べるしかないってこと…!?
うぅ、流石にヤダなぁ。多少の汚れなら気にしないけど、頭から砂被ったみたいな格好でギルドに入るのもイヤだし、ご飯を作ってくれるワーナーさんにも失礼な気がする…。
ん~、でもシャワー室が使えないなら仕方ない…のかなぁ。

「ごめんよ、今ギルドに祈願属性の奴がいないか探してくるから」

およ? なんで祈願属性?
そう疑問に思って聞けば、リイサスさんが教えてくれた。
なんでも、中級祈願魔法の1つに、体の汚れを落とす魔法があるらしい。

あ、祈願魔法っていうのは…、えーと、補助魔法みたいな? 自分や仲間にバフを掛けたり、敵にデバフを掛けたり、食糧を長持ちさせる魔法を掛けたりすることが出来る。付加ってヤツだな。
祈り願うことで我らを助ける奇跡を起こすって考え方だから、祈願魔法って名前らしい。
ただ、魔力消費がとにかく大きいから、才能の善し悪しがハッキリと分かれる。しかも火炎属性や電撃属性に比べて数が少ない。
希少な属性の上、充分な魔力を持った祈願魔法使いは、パーティーでは特に重宝される存在なんだって。
新人冒険者が「祈願属性です」と言うだけで、あっという間にパーティーが入れ食い状態になると…。

んで、肝心の汚れを落とす魔法…。
なんか俺、使えるんじゃないかって気がしてきた。

だって俺、全属性だし。詠唱知らないけど、イメージだけでどうにかなりそうじゃない? なんてったってチートなんですから!
うん、試してみても損はない。詠唱を知らずとも、イメージだけでコレが出来たら、他の魔法にも使えるかも知れない。
何事も挑戦だ、トライアンドエラーだ!
ということでレッツチャレンジ!!

祈願魔法の神様! 俺と、この服の汚れを落としてくださーい!

ぎゅっとお祈りポーズで1…2…3秒。
リイサスさんの「え、コージくん?」という戸惑った声が聞こえる…と、その時。

俺の全身を、ティンカーベルがくるくる回ったかのように光の筋が包み、下から微風が吹いて髪と服を揺らした。
驚いて光の筋を目で追い、体を見下ろすと…。
砂で汚れていた服が、新品のごとく綺麗になっていた。髪に絡んでいた大きめの砂粒も、爪の間に入り込んだ土も、綺麗サッパリなくなっている。
しかもなんか、お風呂に入った後みたいなスッキリ感もする。
おそらく、成功だ。
俺は「やった!」と叫び、ガッツポーズ。リイサスさんを見上げると、信じられないものを見る目で、口を呆然と開けていた。

「……今の…………祈願、魔法…?」
「あはは…使えちゃいました……」
「こ、コージくん、詠唱を知っていたの…?」
「あー、えーと、知らなかったです。なんかイメージでイケるかな~って試してみたら、イケちゃいました…」

と、俺が苦笑いしながら言うと、リイサスさんの顔がみるみる青ざめる。
えっ…、なんかヤバいことだった? 俺やっちゃった!?

「詠唱を知った上で詠唱破棄をする魔法と…、詠唱を知らずに魔法を行使することでは、レベルも難度も必要魔力量も桁違いだ。というか聞いたこともない………」
「えっ? えっ?」
「……どんな魔法でも、使えるのか…」

小さく、独り言のようにそう言ったリイサスさん。
俺はことの重大さが分からず、首を傾げるのみ。リイサスさんがなんでそんなに引いているのか、理解出来ない。

「………コージくん、炎を固形にするイメージをしてほしい」

ごくんと唾を飲み込み、真剣な顔をしたリイサスさんが、俺の肩を掴みながら言ってきた。
俺はやっぱりハテナを浮かべたまま。
だって、炎を固形? どういうこと?

「お願い! 確認したいことがあるんだ」

お、おう。リイサスさん、何やら真面目に必死なご様子…。
だから従うのは別に嫌じゃないんだけどぉ……。
でもなぁ…炎を固形……。炎が固形ってなに…? 炎が凍りつく感じかな。それともギュッと凝縮……? ゼ○ダの伝説に出てくる炎の剣みたいな?

ゴォォォォ……ごとんっ

腕を組んでウンウン唸って考えていると、急に燃え盛る炎の音が間近で聞こえた。そしてすぐ、何か硬いものが地面に落ちる音。

「え?」

考えを中断して足元を見ると……、赤い剣が落ちていた。さっき俺がイメージした『炎の剣』そのまんまだ。
まさに、炎の剣。柄から刀身まで、真っ赤にゴォゴォと輝いている。

「で、出来ちゃった…」

そう、出来ちゃった。炎を固形にしちゃった。
リイサスさんの方をちらっと見ると、絶句している。まさしく、『またオレ何かやっちゃいました?』状態だ。
てゆーか、自分から頼んだんだから、せめて解説してよぅ。これ何なの?

「………き、禁忌魔法なんだ…。絶対禁忌魔法…。少なくともレベル200以上じゃないと使えない、『炎製錬魔法』…。もう1000年以上昔、魔人がこの魔法で創り出したたった2本の剣が、1つの国を滅ぼしたことがあって…。以降、この魔法の使用・作られた武器の所持・存在の秘匿が法律で禁止されたんだ。詠唱すらも出回らなくなって、今や誰も知らない……」

お、おっふ…………!!
そんなヤバイ魔法だったんですか…!? じゃあなんで俺に造らせたの……?
で、でも、リイサスさんが青ざめた理由は分かった。だって俺、詠唱も消されるような禁忌魔法でもなんでも、イメージさえ固めちゃえば使えるってことだもんね。しかも全属性。
そりゃ青ざめますわ。そりゃドン引きますわ。
そんな力を持った人間を保護しちゃったなんて、リイサスさんの胃が心配です…。いやホント、申し訳ない。

えっと、取り敢えずこの剣は消そう…! 持ってちゃヤバいヤツだって分かったかんな!
ふぬぬ~…消えろー、消えろー…。

そう念じれば、空気に溶けるように剣が消えた。フーと息を吐いて、リイサスさんの顔色を伺う。
リイサスさんは何かを考えるように少し遠くの地面を見つめたあと、グッと腰を反り、俺と同じように「ふぅ~~」と息を吐いて。

「…いや、ごめんね。取り乱しちゃった。禁忌魔法が使えるからって、コージくんが変わるわけなかったね」
「ごめんなさいぃ」
「いいよ、いいよ。君が悪用するわけないもんね。他の奴らや権力者にバレないよう、俺とルークで何とかするよ」
「ありがとうございます…」
「気にしないで。でも、他の奴がいる場所で無闇に魔法を使わないこと。約束出来る?」
「はい!」
「うん、いいこ。じゃあお昼ご飯にしよっか? アイツワーナーが待ってるだろうしね」

わーい! 飯だぁー!



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