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ハローおホモ達★ギルド入会編

チートはチートだけどこれはどうにも

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「まずは初級魔法から。ライタをやってみよう。ライタは指先に火を灯す魔法だよ」

ライタ……ライターってこと?
ほうほう。その魔法があれば煙草に火をつけるのも楽そうだ。いっつもライターをなくす俺の父さんが喜ぶな。
まぁ煙草辞めてくれるのが一番なんですけど。

「俺がお手本を見せるから、真似してみてね」
「はいっ」
「灯れ 緋色の微火 ライタ!」

リイサスさんが詠唱すると、その長い指先にぶわり。数センチ程度の赤い火が揺らめいて現れた。
初めて見る魔法に、俺のテンションは爆上がり。ぴょんぴょんと跳ねてリイサスさんの体に抱き着く。

「すげぇっすげぇっ魔法だ!」
「あは。魔法だね」
「俺も出来ますかね!?」
「うん。これは超初級だからね。ほら、やってみて」

リイサスさんが指を曲げると火は消える。そして優しい笑顔で「詠唱は噛まないようにね」と一言。
たった三語の詠唱なら、多分俺も噛みません。
よし、それでは俺も…。指をピンと伸ばして、詠唱!

「灯れ 緋色の微火 ライタ!!」

ぼっ

「わっ!」
「お!」

リイサスさんと同じように、立てた人差し指の先。爪の数ミリ上で火が揺れて、安定する。

「つっ、ついたぁ!」

ついた! ついたっ! 初魔法だ! わーっ!
嬉しさと驚きで指先がブレて火がアッチコッチへ揺れるけど、全然熱くはない。むしろ指先がほんのりあったかくて、幻想的だ。

「すげぇ~……あったかい…」
「攻撃魔法は使用者への影響が著しく低いからね」
「?」
「自分の魔法なら熱い火でもあったかく感じるし、強力な電気でもピリピリする程度ってこと」
「ほへぇ」
「じゃあ次にいってみようか」

リイサスさんを真似して指を曲げると、火が消えた。
『ライタ』が使えるようになったから、これで夜も暗闇も怖くない。魔法って便利だなぁ。

「次も初級魔法だよ。コージくんくらいの年頃で使い始める子が多いかな」

そう言うと、リイサスさんは俺から1歩離れて右手を前に突き出し、俺に聞こえやすいよう大きな声で詠唱を始めた。

「火球よ いづりて我が敵に炎を ファイアボール!」

リイサスさんの大きな手のひらに、野球ボールくらいの火の球が現れる。ごうごうと燃え盛る球の熱は2メートルは離れた俺にも伝わって、頬がジリジリとした。

「すげーっ!」
「火炎属性は大体これが最初の攻撃魔法かな。相手に手のひらを向けて、『ぶつけるぞ!』って気持ちをしっかり持つんだ。1度じゃ効きは悪いけど、何度もぶつければオークだって倒せるよ。ただ魔力残量には気を付けて……って、そう言えばコージくん、魔力無限って言ってたよね」
「いえーす!」
「……それって、文字通り? 魔力が無尽蔵?」
「いえす」
「……」
「……」
「ヤバ…くない……?」
「ヤバい……っすね………」

いかん。リイサスさんがちょっと引いてる。笑顔が引き攣ってる…。
地球生まれ日本育ちの俺には魔力無限ってピンと来ないけど、それでも動力源が無尽蔵ってのは凄いよなぁ……。
……そりゃ引くよなぁ…。

「あっでも! リイサスさん達が怪我したりとかしてもっ、何度でも治療出来ますし! 結界とかずっと張り続けられますし!」
「うん……ありがとね……」

そう言うリイサスさん。嬉しそうだけど、目は遠くを見ている。
……申し訳無いです。こんな厄介な能力持ってお世話になってごめんなさい。

「えーっと、火球よ いづりて我が敵に炎を ファイアボール!」

誤魔化すように手のひらを壁に向けて詠唱をしてみたら、みるみる手の中心に熱が集まり、ボンッと派手な音を立てて火の球が発射された。

キュルル…ボカンッ!

火の球はタイヤが擦れるような音を出しながらプロ野球選手の投球みたいに素早く、大きな破裂音と共に壁にぶつかる。
明らかにリイサスさんのお手本と違くて、俺は唖然。なんか威力違うんですが。
火は球がぶつかった所は、もわんもわんと巨大なグレーの煙が出て、俺とリイサスさんはジッと目を凝らす。
煙が晴れた後……、ファイアボールがぶつかった壁には、大穴。
……ルークさんが縦にバンザイ出来そうな、大穴。
大穴……。

「……威力…ヤバ…くない……?」
「ヤバい……っすね………」

俺TUEEEEEEEE………。
でも何か、思ってた俺TUEEEじゃない。「コージくんすご~い!」じゃなくて「ひぇ~~……」って感じ。引かれてる。悲しい…。

「壁壊してごめんなさい…」
「あぁ、それは大丈夫。心配しないで。オーディアンギルドは獣人が多くて、喧嘩で物が壊れることもしょっちゅうだからね」
「なるほろ…」
「だから気にしないで。ここならいくら壊しても良いから、次の魔法、いってみようか!」
「はぁい!」

安心させるように俺の頭をナデナデしてくれたリイサスさん。俺はその言葉に甘えさせてもらって、元気よく右手をピンと上げた。

「君がどれくらいまで使えるか分からないから、上級魔法もやってみようか」
「じょうきゅうまほう」
「高度な魔法だよ。B級上位の一部冒険者や、国家魔導士くらいにでもならないと、まともに扱えないだろうね。俺も火炎属性の端くれとして一応使えるんだけど、1回で魔力がすっからかんになっちゃうんだ」

えっえっ。そんな魔法をここで使っちゃって大丈夫? 勢い余ってギルドごと吹っ飛んだりしない?
そう心配しているのが伝わったのか、リイサスさんがおかしそうに笑って俺のほっぺたを人差し指の背でうりうり。魔法の概要を教えてくれる。

「周囲の温度を操る魔法だから、よほど高温じゃない限り大丈夫さ。温度は君のイメージに寄るけどね」

ほほーう。それは寒い地域に住む魔物に対してかなり効きそうだ。
ワクワクしてリイサスさんの詠唱を待てば、リイサスさんは少し考える仕草をして、「ちょっと良いかな」と言った。

「1つ、試してみたいことがあるんだけど」
「え?」
「君がどれほどの力を持っているのか見てみたい。さっきのファイアボールの威力もそうだが、君も把握していない力があるかも知れない」
「はぁ」
「君の魔法が通常よりどれほどの性能を持つか。魔法には初級・中級・上級・最上級とあるが、一体どこまで使えるのか。また、魔法発動時のことも。君が規格外というのは理解しているからね。魔法に精通した者として、俺が危険性などを把握しておく必要がある」
「お、おっす…」
「詠唱…は、まぁ良いか。君が詠唱短縮を使えるのかが知りたい。周囲変温魔法『バーニングヘル』、はい、この試験場内が夏の日になったイメージして言ってみよう!」
「え!? ばっ、バーニングヘル!」

俺がそう叫んだ途端、俺を中心とした半径10メートルくらいに薄く赤い魔法陣が現れた。ソレが幻想的にパァァと光って、すぐに消える。
俺自身はポカポカしているから、失敗って訳じゃないんだろうけど……。夏って言うほどかなぁ。体感は23度くらい?

…と、思って首を傾げながら「もうちょっと暑くしますね」と言うと、リイサスさんに「えっまだ?」と言われた。
驚いて目を向けると、リイサスさんの肌はほんのり赤く、おでこには汗の玉が……。

「え? 今暑いですか?」
「えっ充分暑いよ。君は発動者だからポカポカだろうけど、多分35度はある」
「あれっ、成功だった!」
「君の故郷の世界って夏こんなに暑いの…?」
「最近は結構暑かったっすねぇ」

懐かしいなぁ。ばあちゃんちの縁側で康太郎(弟)とスイカ食べたなぁ。川遊びしたなぁ。
汗かいてふぅふぅな時に入るクーラーの効いた部屋は最高だったなぁ。

「ていうかなんか、じっとりしてるんだけど…」

日本の夏は湿度も襲ってくるからな! アレだけは好きになれなかったぜ。
でもこの魔法、すげー便利。冬は暖房要らずじゃね? ……って思ったけど、そう言えばリイサスさんは魔力めっちゃ食うって言ってたな。…そう考えると、魔力無限ってスゲーんだなぁ。

「この気温、この湿度…調整は完璧みたいだね。詠唱短縮も確認出来たし、ありがとう、もう良いよ」

そう言われ、俺が『おわり!』と念じれば、周囲の気温が元に戻った。
リイサスさんは額の汗を袖で拭い、「ふぅ、暑かった」と呟いている。
汗をかくって基本的に見苦しいものって感覚あるけど、リイサスさんはイケメンなので、憎いほどに爽やかフレッシュ。スポーツ飲料水のCMに出れちゃいそうだ。
イケメンめ~、羨ましいぜ、ぐぬぬ、と俺が鼻の付け根にシワを寄せていると、俺のお腹から……。

ぐぅ~~~るる……くるるる

「…………」
「…………」
「え、えへ…」
「はは、ははは! そうだよね、お腹減ったよね! あぁもう、コージくんはお腹の音まで可愛いなぁ」

う、嬉しくないやい!
でもどうしてだろう。太陽はまだ頂上に来てないのに、何だかお腹空いちゃった。魔法を使ったからかなぁ。
魔力は無くならないけど、お腹は空くみたいな副作用があるのだろうか。
なんて考えていれば、ちびっこを見るみたいな優しい顔をしたリイサスさんが、俺の頭をよしよし。

「もうお昼時だし、最上級魔法を1つやったら昼食にしよう」
「わ~い!」
「この中にぶつけるつもりでお願いね」

リイサスがバットみたいな棒で試験場の地面に半径2メートルほどの円を描く。
随分と大きな魔法みたいだ。

「この魔法は俺も見たことないし、今現在、この国でコレを使える人間はいない」

そう言って、リイサスさんは『メテオライト・クラッシュ』を教えてくれた。
何でも、空から火炎魔法が降ってくるらしい。普通に使えばここらは全部焼け野原だけど、さっきの『バーニングヘル』で気温を調節出来たんだから、今回もイケるだろうって。
名前からして隕石系だと思うから、リイサスさんが描いた円のド真ん中に小さめのを落とすイメージで。
リイサスさんには観客席の更に奥へ避難してもらった。

「コージくん、いつでも良いよ」

30メートルは離れた場所から、リイサスさんが声を張って呼び掛ける。
最上級魔法だから、万が一巻き込んでもゴメンじゃ済まない…。
うぅ、緊張するなぁ…。
発動者の俺が怪我することはないんだけど、それでも手汗が滲んでくる。だってもし俺が調節を誤ったら……。そう考えると、どうしてもね…。
でも、覚悟を決めないと。……よ、よぉし! いくぞ!

宇宙そらの弾丸! 神の鉄槌! メテオライト・クラッシュ!!」

手を天に掲げ、そう叫んだ次の瞬間。


オオオオオォォォォォォォ………


唸り声のような轟音が響いた。
バッと空を見上げると、高い高い空から、赤い光に包まれた何かが降って来ている。隕石だ。遠くて分からないけど、火花を散らして真っ直ぐ落ちてきているように見えた。
この『メテオライト・クラッシュ』、RPGじゃ、終盤に習得出来るような強くて怖い魔法なのに、その隕石はとても綺麗で、思わず見惚れてしまう。
轟音の中で、同じく空を見上げているリイサスさんの生唾を飲む音が聴こえたような気がした。

これはきっと、夜空に映える。インスタ映え~とか言うキャラじゃないけど、次は夜に落としてみようと俺は心に決めた。






そして、リイサスさんが描いた半径2メートルくらいの円は、それはまぁ悲惨な事になった。
覗き込むほどの大穴だ。
通常の地面の高さから10メートルくらい、乱暴に抉れている。
地面と隕石の衝突(爆発)は地面が揺れるほどの強い衝撃と、巨大な砂埃を巻き起こした。おかげで俺は全身砂にまみれ、薄汚い格好に…。

「コージくんっ大丈夫!?」

リイサスさんが俺の名前を叫びながら駆け寄ってきた。
俺は「だいじょうぶです……」と答え、あまりの威力に呆然と大穴を見る。
だって、かなり小さめに威力を抑えてコレだ。威力も小。隕石の大きさも小。数も1つ。それで、この惨状。
…コレ、全力で地面にぶつけたらどうなっちゃうんだろう……。





(補足説明)

初級魔法…こっちの世界で言う、義務教育の子達が使い始める魔法。

中級魔法…一般的な大人が使える魔法。

上級魔法…某名門大学を卒業出来るような人達と同じ才能レベルの魔法。もし使えるのなら、家族一族地域住民の人々からの尊敬は厚い。

最上級魔法…歴史に名を残した人々の中でもほんの少数の超絶天才レベルの魔法。尊敬を通り超して、恐れられる事もしばしば。勇者や魔王などが使う魔法。

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