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ハローおホモ達★ギルド入会編

笑顔が素敵な料理人兄貴

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「任務は掲示板から選んで任務受注カウンターへ。依頼用紙を剥がしてそのまま持っていくよ。あ、受けられる任務は自分の実力に見合ったものを選ばないといけないからね?」
「じつりょく」
「冒険者は自己責任が多いからね。任務中に負った怪我や、万が一死亡したとしても、ギルドは責任を取れない事になってるよ」

まぁ、だろうな。
任務中に死にましたー! はい弔慰金ー! …じゃ、あっという間に破産しそうだし。

「まぁ、コージくんの任務には俺達も付いていくし、ある程度の規定はあるから大丈夫だとは思うけど」

俺が納得しながら掲示板を眺める横で、当たり前のように付いていくと言い放ったリイサスさん。
俺は一瞬固まり、じとーって感じでリイサスさんに目を向けた。リイサスさんは爽やかスマイルで俺を見詰め返す。

「……」
「……」

無言の攻防は、俺がリイサスさんのイケメンオーラに屈して終わりを告げた。
くそう、任務中くらいは1人きりになれると思ったのに…。
そう思う俺の不満げな顔を無視して、リイサスさんはギルドの中を見回し、こっちを遠巻きに観察する男達の中から1人を指差す。
この中じゃ比較的若そうな、ぴょんぴょん跳ねた赤毛の人。革エプロンを着た兄ちゃんだった。

「任務前や任務後にはエネルギーチャージが必要だね。お腹が減ったら、あそこに脳筋そうな奴いるだろ? そうそう、あの赤毛のそばかす男。アイツはウチのギルドのコック。アイツにお金払えば絶品料理作ってくれるよ」
「絶品!」
「あの見た目からは想像出来ないような素晴らしい飯を出してくるから、まぁ料理の腕は保証する。ただ、アイツは知性も品性も料理の腕に吸い取られたケダモノだから、注文したらすぐに逃げること。良いね?」
「聞こえてんぞリイサス・ラァァァック!」

俺が『え、口悪』と思うと同時に、赤毛のそばかす兄ちゃんがコッチに怒鳴った。体育教師並によく通る声で、思わず肩がビクッ。
でもリイサスさんは知らん顔をして、俺に説明を続ける。まるで何も聞こえなかったように。

それだけで俺、分かっちゃった……。
リイサスさんと赤毛のそばかす兄ちゃんは、仲が悪い。
いや絶対仲悪いだろコレ! やめろ、俺を巻き込むなーっ!
険悪な空気の中、俺がツーンとしたリイサスさんと赤毛のそばかす兄ちゃんを交互に見てビクビクしていれば、赤毛のそばかす兄ちゃんがズンズンと歩いて来た。

「テメー変な事を吹き込むんじゃねぇよバカ!」
「ハン」
「んで、お前が噂のコージ?」

180はあろう長身の、でも他の冒険者よりは細い感じの兄ちゃん。オレンジの大きな目が俺をジッと見たから、俺は慌ててその兄ちゃんに向き直り、ペコリと頭を下げた。

「コージ・アヤマです! よろしくお願いします!」
「おう! おっきな声を出して悪かったな! 俺はワーナー・エレストーンだ。このギルドの料理人をやってるぜ。よろしく!」

怒鳴り声が響く人だったからビクビクしながら挨拶したけど、なんか思ったより快活で良い人っぽい。ニカッて笑った笑顔が明るくて素敵だ。
握手を求められておそるおそる手を出したら、両手でギュッ。包み込まれてブンブンと上下に振られた。
おかげで肩ごと上へ下へ。
まだ鑑定してないけど、体育会系なのは分かる。だってめっちゃグイグイ来るもん、ワーナーさん。

「コージはちっちゃくて可愛いな! コイツやギルマスが可愛い可愛い言ってた理由が分かったぜ!」

……とりあえずリイサスさんとルークさんは後で小突いておこう。

さて、はじめましてが終わって、ここからが本番。俺が異世界でお知り合いになったリイサスさん・ルークさん・ジャックさんは見事におホモ達だったけど、ワーナーさんはどうかな?
バレないように、鑑定!

《名前:ワーナー・エレストーン

種族:ドワーフ

レベル:18

年齢:22

性別:オス

属性:念動

職業:料理人

スキル:真贋の瞳 自己再生(小)

好きなタイプ:料理を美味しそうに食べる人

オーディアンギルド所属。オーディアンギルド本部のキッチンを仕切っている。ドワーフ族の代表として父親と登城した際、口にした料理の味に取り憑かれた。自身の料理で人を喜ばせること幸福とする。恩は恩で返す人情派で、採算を度外視しがち。そのため脳筋と呼ばれることも。ハグと握手が好き。》

ほっ。性別の指定はされてないから、多分男限定じゃないよな。良かった~!
というか、今まで見てきた人の中で1番まともな人な気がする…。
だって今までが腹黒変態イケメンと熊耳変態強姦魔とショタコンオッサンだったからなぁ。あれ? なんか涙出てきた。

まーともかくともかく、これでワーナーさんの好感度爆上がりですな! 嬉しい~、ビバまともな人!

………と思ったけど。
………ん…? なーんか見落としてる気がする…。
名前? いや、フツーだよな。
レベル? 料理人だとこんなものだと思うけど…。
スキル? 『真贋の瞳』ってちょっと気になるけど、そこじゃないんだよね…。

…………………………っあ、種族!

「えっ、ドワーフ!?」

あまりに自然に出てきててスルーしちゃった!
えっでもでも、ドワーフってもっと小さくて、ずっしーんってしてて、武器とか家とか作ってるひげのおじさんじゃなかったの!?
この人明らかに俺より……、いやリイサスさんよりも身長高いんですけど! 少なくともジェニーズには入れそうなくらい、そこそこのイケメンなんですけど!
あっでも確かに耳が尖ってる! ただの人間じゃないっ!

「おう! 俺はドワーフだぜ! よく分かったな、コージ!」
「ふん、コージくんは鑑定スキル持ちの超貴重な存在なんだ! お前ごときが簡単に触れられる子じゃないんだぞ! 分かったらさっさと離れろ!」

ぐいっと引っ張られ、気付けばリイサスさんの腕の中。
リイサスさんそんな露骨に威嚇しないで。あとサラッとバラさないで。
鑑定だけならともかく、全属性なんてバラされた日には一体どんな魔の手が伸びてくる事やら…。
まぁリイサスさんの事だし、そこら辺は信用してます。

「鑑定持ち!? マジか、スゲーなコージ! 俺初めて見たぜ!」
「だから近寄るなっての脳筋!」
「なぁなぁ、種族の他にはどんな事が分かるんだ!?」

興奮したように顔を近付けて、大きな声でそう言うワーナーさん。
おおう、知りたいのかこの人。
まぁ隠す理由もないし、素直に教えて良いかな?
俺はもう1度ワーナーさんを鑑定してみて、空中に現れた鑑定結果の項目を上から読んでいった。

「えーっと、名前、レベル、年齢、性別、属性、職業、スキル、好きなタイプ…、後はその人に対するちょっとした説明ですね」

そこまで言うと、周りがシーン……。
………………あれ?
見回せば、ワーナーさんだけじゃなくて、リイサスさんとルークさん、それに側にいたジャックさんまでが石化したみたいに固まっている。
しばらく目の前で手を振ってみたりしたけど、引き攣った笑顔のまま、動こうとしない。
………どうしよう、これ。
俺が困ってリイサスさんのほっぺたをツンツンすると、リイサスさんの顔がみるみる赤くなった。

「……す…好きなタイプまで分かる感じ?」
「はい。バッチリ!」
「待っ……待って…………」

消え入りそうな声を出し、リイサスさん、へなへなとしゃがみ込んでしまった。イケメンは赤面してもイケメン。しゃがみ込んでもイケメン。
やっぱり個人情報的にデリカシーなかったなぁ…。はじめましてで鑑定ってのは、結構失礼だったりするのかな。

「……えっと…マズかったですか」
「…や、初対面の相手を鑑定するのは間違ってない。特に君は色々と危ないから鑑定するべきだ……。でも……でも好きなタイプまで分かるって…」

あぁーーー…。そこか。やっぱり恥ずかしいんか。
まぁまぁ、落ち着きたまえ。俺は助かってるよ! 初手で相手がホモかどうか分かるからね!
まぁ分かったとしても結局掘られたんですけど。

「ち、ちなみにコージ、俺の好きなタイプは何てある?」
「ワーナーさんのは…料理を美味しそうに食べる人ですね」
「良かった! 変なこと書いてなかった!」

ほーーっと息を吐くワーナーさん。
その隣でリイサスさんとジャックさんは滅茶苦茶目を泳がせている。自分の好みが一般的じゃないってことはちゃんと理解しているようだ。
なんせ『か弱くて素直な男性』と『無垢な少年』だからなぁ。リイサスさんは俺が異性愛者って充分知ってるから、余計にダメージ入ってる気がする。

「やばい……。なんだコレくっそ恥ずい……」
「初手で下心全部バレてたってことかよウソだろマジか」

何かブツブツ言ってるけど聞こえないからスルーで!
それよりもワーナーさんです。
だって超まとも! 人情派ってところも好感度爆上がりポイントだ! リイサスさん達に比べれば年も近いし、脳筋ってのも良いな! なんせ俺自身が頭良くないので。ぐすん。

「なぁコージ、その人に対するちょっとした説明って?」

見るからに『興味津々です!』って顔のワーナーさん。
何と言うか、見てるコッチが元気になるタイプだな。SNSでたまに見掛ける柴犬みたいな雰囲気あるわ~。
ホモに満ちた世界で今のところ唯一の安全地帯! 癒やされる~!

「お城の料理の味に取り憑かれたって書いてます。後は料理で人を喜ばせたいとか、採算を度外視しがちとか」
「うぉぉスッゲー! 全部当たってる! 鑑定すげーわ! コージお前スゲー!」
「えへ」

全人類見てくれこの笑顔。悪意ゼロのキラキラ笑顔。
あ、俺もうワーナーさん大好きだわ。
だって話してて楽しくなれる。俺絶対この人と仲良くしたい。是非ともお友達になって、毎日笑い合って過ごしたい。好き。もう普通に好きっ!

「はいそこまで! コージくん、そろそろ練習を始めようね。お昼ご飯にの時にまた戻ってこようね」

スゴいスゴいと褒めてくれるワーナーさんといつまでもお話していたかったけど、そんな俺の好意がバレたのか、復活したリイサスさんがしゅるんっと目を瞠る早業で俺と腕を組み、ワーナーさんの反対方向へ引っ張る。行き先は魔法の練習をすると約束していたギルドの試験場。
俺は慌ててワーナーさんに手を振った。

「またな、コージ!」

嬉しそうに手を振り返してくれるワーナーさんマジ好き。
ただ、リイサスさんのいる所では接触に注意せにゃな…。だってこの顔はお仕置き確定。多分ベロチューされちゃいます……。


*****************


「では、私は仕事に戻るとしよう。リイサス、コージくんを頼んだ」
「任せてくれ」

ベロンベロンと口の中を舐られてへろへろの俺氏。対するリイサスさんとルークさんはスッキリした顔でやり取りをして、ルークさんが試験場から出て行った。
無人とは言え、よく仕事場でベロベロチュッチュ出来るもんだと思いますね。息が荒くて言えないけど。

「大丈夫かい?」
「だい、じょーぶ、じゃ、ないれす……っ!」
「ごめんごめん」

まったく悪びれた様子もなく、困ったような笑顔を作ってそう言うリイサスさん。取り敢えずパンチしといたけど、1ダメージも与えられてないところがムカつくな……。
そんでリイサスさんは俺の息が整うまで背中を擦りながら待ち、本題に入った。

そう、今日のメイン目標。魔法の練習です!

「では、火炎魔法の実習訓練を始めます」
「よろしくお願いします!」

試験場は学校の体育館程度の広さで、コロシアムの造りになっている。
周囲にはサッカースタジアムみたいな席もあり、友人や家族が試験を受ける際に来るのが一般的らしい。あとは期待の新人をパーティに引き込もうとする冒険者とかも、よく見に来るって。他にも、ギルドで定期的に開催されるイベントもこの試験場で行なうとか。

もっとも、今は立入禁止だけども。

だって、チート使いの初めての魔法だからね! どんなものが出るか分かったもんじゃねぇから、安全の為に一時立入禁止!
ルークさんがそう言った時の冒険者さん達のブーイングは凄かったなぁ……。みんな、「コージくんを見せろー!」って怒鳴ってた。
でも本当、危ないんだ。
S級と並ぶルークさんでさえ、回避しなければ魔法は当たるし、ちゃんと効く。C級だって言うリイサスさんの魔法でも、直撃すれば致命傷になる事もあるそうだ。

じゃあどうやって、この魔法蔓延る世界でS級並にレベルを高めたのか、1度聞いてみた事がある。理由は実に単純明快だった。
「魔法を発動する前に仕留めれば良い」んだって。そうすれば無傷で敵を倒せて、レベルが上がる。ルークさんの実家の近くにC~A級の魔物が出る森があるそうで、幼少期からソコで狩り狩り狩り狩り……。
そうしているうちに、いつの間にかレベルが上がってS級と並んでいたそうだ。

つまり、ルークさんを倒せるのは、瞬間的に魔法が発動出来る無詠唱魔法の使える人だけ。
しかも魔法が当たるイコール勝ちって訳でもないし、ルークさんは近接戦がメインなので、1秒でも寄られたら終わり。おしまい。デッドエンド。サヨナラまた来世。
それなんてバケモノ?

え? チート使いのコージくんなら、ルークさん相手でも勝てるんじゃないかって?
へへ、よせやぁい。褒めても何も出てこねーし、やめてくれよ。……いや真面目にやめてください。照れてるとかじゃないから。
だってルークさん、2メートル以上あるんだぜ? 『よっしゃ攻撃したろ!』って思う前に『こわい!』が先に来るんだわ。
いやマジで。本当にルークさん怖いんです。強い弱い以前に、その覇気に屈しちゃう。
だから俺はルークさんに攻撃なんて出来ません。


………でも、今は違う。
俺が魔法のイメージ1つ間違えれば、辺りは焦土と化す。ルークさんもリイサスさんも、ギルドの人達の命も奪いかねない。
初級魔法くらいならまだしも、うっかり広域殲滅魔法なんかを暴発させちゃったら……。うぅ、考えるだけでガクブルだ…。

だから俺は、今まで独学で魔法を使おうとしなかった。勝手の分からないものには手を出さない。それが俺の基本です。
臆病でも小心者でも、何だって良い。
魔法のことは魔法に詳しい専門家の方に教わるのが1番!

頼みますぜ! リイサスさん!

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