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ハローおホモ達★ギルド入会編

馬車舐めてた…

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「コージくーん、準備は出来たかぁい?」

ルークさん特製、絶品ハニートースト(ハチミツ好きなんだって。熊だからかなぁ)を食べ終え、荷物を取りに2階に上がってウエストポーチを付けていると、1階からリイサスさんの声が聞こえた。
もちろんっ、準備はオッケーです! 昨日、寝る前に終わらせてました!

「すぐ行きまーす!」

元気なお返事は良い人間関係の第一歩!
初出勤に上がるテンションを抑えきれず、ルンルンで階段を駆け降りると、ルークさんとリイサスさんが玄関で俺を待っていた。
俺を見た途端、ルークさんがパァッと顔を輝かせて「とても似合ってるよ!」と弾むような声を出す。リイサスさんも頷いてニコニコだ。

そう。実は俺、昨日のうちにルークさんから渡されてたシルバーグレイの外套を羽織っている。
なんちゅーの? イギリス風ポンチョ? 外国人が着てるようなカッコいいケープ!
これな、オーディアンギルドで配布されてる冒険者専用マントなんだ! 背中には3本の爪痕マークが印されていて、これがオーディアンギルドのマーク。今も根強い獣人差別がある中、このマントを羽織っていると、公的な身分の説明にもなるんだって。着用は強制じゃないけど、不用意に絡まれないために身に着けてる冒険者さんも多いとか。
うぅーむ。どこの世界にも差別ってあるんですな。聞いてて気分の良い話じゃないや。

もちろん、このマントはルークさんたちも羽織っている。
ルークさんは赤色…っていうか、もうちょっと薄い色かな? 目立つけど、目に優しい。ギルドマスター用の、綺麗で細かな装飾がされたもの。
リイサスさんは緑だ。ちょっとくすんだ、深い松の葉の色。
ふたりとも滅茶苦茶かっちょいいぜ…。俺がおんにゃの子だったら危なかったぜ…。
マントってみんなの憧れだよなぁ~。風に揺れてブワァーって広がるところとか、絶対もっとかっちょいいじゃん!

マントに色はランクごとに変わって、

F級:白に近い灰色

E級:淡い茶色

D級:紺色

C級:深緑←リイサスさん

B級:くすんだオレンジ←ジャックさん

A級:ド派手な紫

S級:綺麗な薄い赤色←ルークさん

って感じ! ランクが上がるごとに目立つ色になっていて、A級やS級になると、街でも注目されるとか!
事例がないから伝説級以上はありません!

俺もいつか赤色のマントをばさぁってやってみたいなぁ。男なら憧れるよなぁ。”最強”の存在…っての!
でも身長が高くないと上手くキマらないし、俺は170にも届いていないので、二人ほどカッコよくなると思えない……。

ちなみに今の俺はF級だからシルバーグレイです。
F級が目立つ色なのは、「F級の初心者だからみんなで見守ってあげてね」って意味だから。
ぐぅぅっ、ちきしょー! 絶対すぐに無双&無双して、赤色マントをはためかせるS級になってやるんだからなーっ! 身長もすぐ180センチになってやるんだからなーっ!

「さぁ行こう。ジャックたちが押し掛けて来る前に、君をギルドへ連れなければ」
「魔法の練習もしなくちゃだからね」
「はぁい!」

ルークさんとリイサスさんに手を引かれて外へ出る。家の前には、明るい色の木で出来た木造の馬車が止まってあった。昨日脱走した時、リイサスさんが乗って行った馬車だ。
御者台には黒い服のお爺ちゃんがひとり、座っている。
俺らはこれに乗るみたい。馬車なんて俺、初体験だ!
ワクワクして駆け寄ると、御者のお爺ちゃんと目が合う。お爺ちゃんは俺を見た途端、真っ白な眉を上げて驚いた顔をした。

「おや。おやおやおや…、ラック様、この坊っちゃんは」
「コージくんと言う。他言無用だ。彼はこれから冒険者になるが、ギルドへの送迎はお前が担当してくれ」
「かしこまりました」
「コージくん、この男はグレイ・キャリッジ。僕が個人的に雇っている御者だよ。信頼出来る奴だから、頼っても大丈夫さ」
「貴方の毎日のご移動をお手伝いさせて頂く、グレイ・キャリッジと申します。以後お見知りおきを」
「コージ・アヤマです! よろしくお願いします!」

元気な挨拶は良き人間関係への第一歩!
ふわふわ白髪のグレイさんにバッと頭を下げれば、グレイさんも黒い紳士帽を取ってニコニコ笑った。
優しい感じのお爺ちゃんで、ひと安心だ。俺のジイちゃんみたい!

「グレイ。くれぐれも…」
「もちろんで御座います。命に代えてでもお守りします。この大役、必ず完遂してみせましょうぞ」

リイサスさんたちが何を言ってるかは聞こえないけど、そんなのどうだって良い…。
俺は今、初馬車に興奮を抑えきれないのだから! だってな、超デケーの! ルークさんよりデケー! そんで馬もデケー! 馬黒い! 黒いのが2頭! 顔こえぇ!
あぁ~、これぞ中世ヨーロッパって感じ! 楽しみですわ~~!!









………と、思っていた時期が俺にもありました。

ガタッガタガタガタゴロゴロゴロ……ガタンッ

「あべしっ」

ケツケツ大パニック。
きっと俺の尻は今、猿みたいに真っ赤になってるに違いない。
そう。実はさっきからずっとこんな感じ。
舗装されてないガタガタの土道を、これまた手作り感溢れる木製車輪で進むんだから、そりゃあガタガタゴットンに決まってる。軽いジェットコースターの気分です。
ルークさんもリイサスさんもこうなることは予想していたのか、「膝の上においで!」と言わんばかりの期待の眼差しを、ニコニコと俺に向けている。
ぐぬぬ…、気付いていて言わなかったなこの野郎。意地でも膝には乗るもんか!
あ、でもこの道、昨日は走ったもんな。徒歩で行くよりは全然良いかも。徒歩30分が馬車で10分。うん、やっぱ乗り物って大事だな。
そんでルークさんは走って10分くらいだったな、昨日。…身体能力も大事。
……あ、ルークさんと言ったら、そういえば。

「ルークさんルークさん」
「む? 膝に乗るかね?」
「乗らないです」
「むぅ…」
「そーじゃなくて、昨日俺をギルドに迎えに来た時、手に土付いてましたよね? ベットリ。あれ、何だったんですか?」

気になっていたことを聞いたその瞬間、空気が一変。
リイサスさんがルークさんを睨み、ルークさんはギクリと体を強張らせ、気まずそうに目を逸らした。
二人の…おもにリイサスさんの空気がブリザードだ。俺はビックリして目をパチパチ。
何この感じ。まさか聞いちゃダメなことだった?

「……ルーク」
「待…、ち、違うのだリイサス!」
「お前はまた……」
「し、仕方なかったのだ…! コージくんが部屋にいないことに焦って…ベッドも冷たいし匂いも薄かったから……、パニックになってつい! あちらの姿の方が速いのだ!」
「言い訳無用!」

ピシャリとルークさんの言葉をはね除けるリイサスさん。ルークさん、ビクっと肩を揺らしてしょんぼりしちゃった。Oh…しょんぼり熊さん。
んで、俺はというと、会話の内容に付いていけてません。何の話をしているんだこの人達は。
そうやって首を傾げていると、リイサスさんがその疑問を読み取ったように説明してくれた。

「そうか。コージくんのいた世界には獣人がいないんだったね」
「いぇす」
「獣人族は本来、簡単に人化を解いて獣の姿になってはいけないことになっているんだ。普通の獣と間違えられて、猟師に討たれる事件が続発してしまったからね。安全の為に、そういうルールが出来たんだよ。でもそれをこのルークは何度も何度も……」

ほうほう、なるh…、おっ!? じじじ、人化を解いて!? 人化を解いたら……熊!?
あぁ~…なるほど。確かに熊は四足歩行だから、手が土でベットリでもおかしくないな! それなら納得だ!
にしても、熊! 理性ある熊…! 話し通じる熊か~…! めっちゃもふもふしたい! 背中に顔を埋めて小一時間頬ずりしたい! そんでスーハーしたぁい!
…ルークさん、いつか熊吸いさせてくれないかなぁ。

「お前はいつもウッカリが多すぎる。前から思ってたいたが今回のことも故意だろ? ん?なぁオイ」
「し、しかしリイサス。今回については本当に緊急事態だったのだ。それに、私はいつも細心の注意を払って…」
「何かあってからじゃ遅いんだよ!」

ビシッとルークさんの鼻前に指を突き出したリイサスさんの言葉に、俺も気付いた。
そうだ、リイサスさんのプンプンも当然だ。だってギルドマスターが討たれたら大変。俺も悲しいし、今後は止めてもらいたいな。いや勝手に逃げ出した俺のせいなんですけどね。

「でも討つって…ルークさんに弓矢とかって効くんですか? なんか、全部跳ね返しそうな雰囲気あるんですけど」
「うむ。私は物理攻撃無効だ」

しょんぼりから一転。誇らしそうに胸をどんっと叩くルークさん。
俺は感心して「おぉ~! さっすが!」と声を上げた。
やっぱ、S級レベルのギルドマスターってスゲーや。物理攻撃ぐらい跳ね返しちゃうのかぁ。変態だけど見直しちゃったぜ。
……んん? でも待てよ。鑑定結果には『物理攻撃無効』なんてスキル、無かったような…。

「無効というか、全部避けるんだよコイツ」

なんとっ! ただの超人でしたか!
いや、弓矢避けるって相当だぞ…。生前、弓道部の試合を見に行ったことあったけど、目で追えなかったもん。刺さったのを視認した後に音が来たもん。それを避けるってつまり、鬼ヤベェってことですわ。
おそろしやおそろしや。そんな超人に執着されてしまった俺の未来はどうなるやら。

「ハァ…、ルークのことだから、まぁほぼ100パーセントあり得ないとは思うけど、万が一何かオーディアンギルドはどうするんだ」
「私に万一があったとしても、その時は君とジャックたち、それと、コージくんにも任せようと思っている。副ギルドマスターもいるのだ。心配はしていないよ」

………。
ん? あれ? 
え、何で俺が含まれてるんですか?
い、いやいやいや…、入ったばかりの最低ランク、F級冒険者ですよ?
オーディアンギルドって全世界10万人くらいで構成されてる超大規模なギルドなんでしょ? ほぼすべての国に支部を持つ、世界で2番目に大きいギルドなんでしょ? 普通の冒険者ギルドの100倍近くデカいんでしょ?
なのになぜ、会って日も浅い俺に……?

「心から信頼出来る者に託したい。しかし私が私のコージくんを置いて逝くなんてことは万に一つもないゆえ、君が掠め取ることは決して出来やしない」
「おや、それは残念だ。そもそもコージくんは君の物じゃないぞ」

おぉぉぉ、2人の間に火花が見える。バチバチしてるぅ…。
何を話してても、いつの間にか俺をめぐるドロドロな話にチェンジするんだよなぁ…。何でもかんでも俺に結び付けるの、そろそろやめてくれねぇかな…。
遠い目で空を眺め、2人のチクチク言葉の応酬を聞くこと5分くらい。

「あ、見えてきた!」

目的地のギルドに到着!
いやー何度見てもすげーわ。なんて言うの? 幻想的? ゴシック建築? ロココ調?
パッと見のイメージはサクラダファミリアかなぁ。あ、もちろんあんなに高くはないけど。
でも、ガッツリ装飾の入ったゴテゴテの尖った建物は、ギルドっていうか教会とか神殿って言われた方が説得力ある。
ホント、スッゲー綺麗だぜ…。
そうやって俺は馬車の窓から迫力満点の建物に見惚れていたが、門の近くに人が立っているのが見えた。
あれは…、優しき美中年、ジャックさんだ! それと…門番AさんとBさんもいる! 手を振ってるから、お出迎えかな。だとしたら嬉しい……けど。
………だがちょっと待て。
その奥の、昨日ルークさんが大穴を開けた入口付近……。
なんかめっちゃ人いるんですけど!? ひぃふぅみ…って数えられないくらいいるんですけど!? アレもしかして全員お出迎えか!?

「うへぇー……」

俺の情けない声を聞き、ルークさんとリイサスさんも窓からギルドの方へ顔を向ける。そして同時に嫌そうな顔をした。
ギルドの入口前に、ザッと300人くらいの男達が集まっているのだ。みんな興味津々に、背伸びして馬車の方を見詰めている。

ギギ…バタン

馬車は門の前で止まり、木製のドアが開いた。ルークさんとリイサスさんが先に降りて、俺の手を取って降ろしてくれる。
これが気遣いなのか、周りの男への牽制なのか、俺には分からない。
どっちにしても、俺お姫様じゃないんですがね…。馬車を降りて障害物が無くなり、無遠慮に突き刺さる視線が地味に痛い…。
あと、馬車から顔を出した瞬間の色めき立った声が怖い。何か急にアイドルになっちゃった気分。

「ジャック? 説明してくれるな?」

リイサスさんが絶対零度の爽やかスマイルで言った。
ジャックさんは申し訳無い、と言うように両手を肩まで上げて、弁解する。

「俺ぁちゃんと断りました、断りましたよ。…断ったんですけどねぇ……。みーんな、噂の〝コージくん〟が見たいって聞かなくて、ねぇ……」
「……」

無言の威圧感やべ~。笑顔のまま薄目だからなおさら不気味だ。ジャックさんも若干引いてる。
分かるよ。俺も逃げ出したい。どんな噂が流れてどういう風に思われてんのか、考えただけで羞恥で死ねる…。
そう、顔を両手で押さえていると、ルークさんに腕を掴まれた。痛くはないけど強引な感じで。

「大勢の視線にコージくんを晒し続けるのは不愉快だ。さぁコージくん、中に入ろう。まずはギルドの説明。それに、魔法訓練をしなければ」

ルークさんはそのまま俺の手を引き、大勢のド真ん中をモーゼのごとく突っ切ってギルドに入るが、もう威圧感がすごいのなんの! 独占欲丸見えだぞ! 器ちっさいぞ超大規模ギルドのギルドマスター!
つーか…、こんなに俺が注目されてる理由って、ルークさんとリイサスさんが変な噂流したからだろ! そういうの、自業自得って言うんだ!

なお、巻き込まれた俺はただただ可哀想な被害者です。およよ。








その遠く。

「…………コージ・アヤマ…。噂の可愛い子………」

第4のヤンホモ、ここに爆誕!
自分の尻に新たな危険が迫っているとも知らず、俺は呑気にクエスト掲示板を眺めていた。

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