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ハローおホモ達★ギルド入会編

チートと保護者とお勉強

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「…で。嘘だよね。あれ」
「えっ」

カムホーム! そんでうんまい飯をモグモグ。時間も遅かったから、大量の細切れ肉とレタスを挟んだサンドイッチ(大)を作ってもらって、3人で和やかに食べた後。
リイサスさんが、にこやかにそう言った。

「記憶がちょっと戻ったってヤツ。介入者の存在は本当っぽいけど、その前後嘘ついたでしょ。そうなると、記憶喪失って話も怪しいな」
「リイサス、一体何を…」
「ルーク、君はもっと周りを疑うことを覚えろ。例え気の許した相手でもだ」
「………」

口を拭いた後のナプキンを固く握り、俺はテーブルの木目をジッと見詰めた。
や、ヤバい…。爽やかなイケメンスマイルなのに圧がある。いや、イケメンだからこその圧か…。
うぅぅ、バレてしまった! 自分から話す前に!
リイサスさん、今までのデロデロペロペロ対応が嘘みたいに、怖めな笑顔で俺の頬をスルリと撫でる。
俺は視線をアッチコッチ移動させて、ひんやり空気にタジタジです。
ファーストコンタクト一発目から超優しかったリイサスさんだからこそ、恐怖と緊張も倍増である…。うひゃあ、こえぇ。

俺は背筋を伸ばし、滝のような冷や汗をかいて、どう言い返すかを必死に考えた。
だってまさか、自分からバラす前にバレるなんて想定していなかったのだ…。
そんな焦りまくる俺を気にせず、リイサスさんは人差し指の背で自分の顎を擦りながら、視線を斜め上へと向け、考えるように言葉を続ける。

「もし記憶喪失が嘘っぱちなら、君の目的が気になるな。いやほら、悪意がないんだよね、コージくん。警戒はされてたけど、敵意も殺意も今まで一切無かった。スライムに襲われる実力から考えても、競合団体から送り込まれたスパイやアサシンたって無理がある。何より俺らを謀るって意志が感じられない。記憶喪失が嘘だったとしても、多分俺と接触してここに住むようになったのは偶然でしょ?」
「…………」
「無言は肯定と見なすよ」

はい。肯定です。リイサスさんに助けられて、偶然彼がギルマスと同居してたってのも、ただ単に俺がラッキーで、偶然の産物に過ぎないです。
ていうか、もう完全に尋問だ…。ルークさんも疑いを持った目で、言い返さない俺を見詰めるようになっている。
うぅっそんな目で見んなよ~…! ルークさんの真顔、めっちゃコエーんだよぉ~…!!

「ギルドではジャックの手前、『明日ギルドに連れて来てあげる』って言ったけど、君が人を騙して家に上がり込む正体不明の人間じゃあそうはいかないな……」
「えっ、あっ…」

一瞬ショック受けたけど、普通に考えたらその通り。ド正論。人を騙すような奴を信じてくれって言う方がどうかしてる。
だから俺は反論もせず、背中を小さく丸めた。

「うぅん。かと言って俺はコージくんが好きだから、酷いことなんて出来ないし……」

え。そうなの…? もう嫌われちゃったかなとか思ってたのに。嘘を吐かれてたって知っても、まだ俺のこと好きなの? リイサスさん変わってるぅ。
…って思ったら、ルークさんも「うむ。私もコージくんを傷付けるなど万が一にも出来ない…」って困り顔で言った。
わーお…。俺って、めっちゃ好かれてんじゃね? いや、知ってたんだけど。
ウソは仕方なかったこととは言え、なんか罪悪感出て来ちゃったなぁ…。
そんな感じでどうやってこの謝意を伝えたら良いか悩む俺を、リイサスさんは悪巧みする小学生みたいにニィィと意地悪に笑って見下ろした。

「どれ。ベッドに縛り付けて快楽拷問でもしてみるかな」
「……………………………………エ?」
「あぁ…、うん。それは名案だ。もしもコージくんが何の弁解もしてくれないのだとしたら、我々も正体不明の君を自由に歩かせる訳にはいかないから仕方あるまい」
「ウソ?」
「ふふ。猿轡をして拘束すれば、毎日エッチし放題だな」
「うむ。痛い思いはさせたくないので、コージくんが己の正体と目的を言ってくれるまで、我々は彼を犯し続けるしかないだろう」
「ちょ、」
「どうだ? 先にナカだけでコージくんにオシッコ漏らさせた方が、彼を嫁に貰うっていうのは」
「良いだろう。どうせなら乳頭だけで射精出来るように」
「はいスイマセン全部言います!! ……全部言うって! 言うから! その口枷ポイしてよ! わ、わ、こっち来んな! わぁぁぁーーーッ!!」


15分後……


「……と、言うわけで、俺は異世界からやってきました。記憶喪失とか嘘ついてすいませんした」

快楽拷問は未遂で済みました……。
はぁぁ危ねぇぇぇーーー……。最悪の場合で追い出されるかも…と思ったら、快楽拷問とかエロゲみたいな展開になりそうだったので、もう素直にゲロるしかなかった。なんて恐ろしいことを言うんだこの人達は…。
いや、冗談だったとは思うけど。思いたいけど!

「いせか……?」

妊娠する身体ってこと以外、全部話して頭を下げると、二人ともポカンと目と口を開けたまま固まってしまった。リイサスさんは友達がプリキュアになったみたいな顔してるし、ルークさんは宇宙猫っていうか、宇宙熊だ。
でも分かるよその気持ち。その混乱。俺も好きな子が「私異世界から来たの!」って言われたら宇宙コージくんになるから。

「……えっと…整理させてくれ」
「どぞ」
「コージくん、君は本名を阿山康治郎と言って、本当は17歳。チキュウで天界のいざこざに巻き込まれて命を落とし、神の采配で人生をやり直している。その際、詫びとして様々な能力を付与してもらった。………これで合ってる?」
「合ってます。さっき俺が泣いたのは、なんかルークさんを弟と重ねちゃったからで……ちょっと、懐かしくなっちゃって。えへへ」
「お、弟くんが……」

テーブルを挟んだ正面。ルークさんは言い淀んだ後、空っぽの皿に目を落としてうつむく。
重い話をしちゃって、落ち込んでいるみたいだ。
……ま、そりゃあ今までレイプして好き勝手セクハラしまくった15歳の少年が死にたてホヤホヤで二度と家族に会えない悲しみを背負っていたなんて知ったら……。落ち込むよなぁ。
落ち込んで貰わなきゃ困る。そこは落ち込んでくれ。毎日毎日俺の気も知らず、お尻モミモミしまくりやがって……。
でもとりあえず、信じてはくれたみたいで良かった。
リイサスさんが「本当っぽいよなぁ。常識知らずな所とか辻褄合うし」って言ったら、ルークさんも頷いたから。
俺の言葉だけで信じ切るのはどうかと思うけど…。
そう伝えれば、リイサスさんは苦笑しながらそれを否定した。

「何も君の言葉だけを信じたわけじゃないよ」
「ほほう? と、言いますと?」
「前々から違和感はあったんだ。コージくんのような子の噂が一切耳に入らなかったことを考えると、異世界より突然現れた存在っていうのも説得力がある」
「うむ。私も襲撃がないことを不思議に思っていたが…、まさか異世界からとは」
「え? どういうことですか?」
「あー…うん。ぶっちゃけ、君はどこかの強大な権力者の隠し子だと思っていたんだ。貴族とか」
「えっ…。俺が? なんで!?」
「だってそうだろ? こんなに可愛いのに、今の今まで性交渉は未経験で、しかも世間知らずで、危機感がない。でも風呂のマナーなんかは知っているし、文字も読める。だから君は貴族で…、親バカ権力者が我が子可愛さに全力で秘匿してきた子だって、そう想定してたんだよ」
「それゆえ、記憶喪失の君を拐い無体を働いた私たちを、いずれ私兵や部隊が襲撃しに来るだろうと。無論、撃退準備も怠ってはいなかった」

あ、あ、あーー……。そっか。中世のマナーとか識字率のこと、何も考えてなかった。
じゃあそう思うのも仕方ない……のか? 分からん。だって俺、自分のこと可愛いって思ってねーもん。
ていうかルークさん。俺の親(仮)が子供を取り戻すために寄越した兵、撃退するつもりだったのかよ。マジで誘拐犯の行動じゃん…。

「…でもマ、大体の事情は理解出来たよ。さっきギルドで本当のことを言わなかったのは?」
「ジャックさんがいたから…」
「賢明だ。ジャックは心配ないだろうが、下手に情報が漏れれば悪用されかねない」

うんうん。スキル『魔力無限』とか、リスクゼロの無限エネルギーに等しいからな。みんな喉から手が出るほど欲しい力だってのは、俺も分かってるつもりだ。特に政治に関わる人なんかはね。

「となればつまり、私たちは神の子に手を出してしまったと…」
「権力者より怖いバックだな。悩ましいところだ」
「え。や、別に神の子って訳じゃないっすよ? 多分、アレが俺の担当だったってだけで」
「君が会った神は名乗ったかい?」
「あーいえ。トロフィーってことしか分かんなかったっす。でもなんか、放任っぽいんで別に大丈夫と思います。最初の頃以降、コンタクトないんで」
「………ふむ」

顔を見合わせて考え込む二人。トロフィーのことはマジで何の心配もいらないと思うんだけど、そういえばここは科学技術の発達していない魔法の世界だ。
大昔、世界中の人間が本気で幽霊とかを信じていたように、神様ひとつでも俺とは捉え方が違うのかも知れない。

「…しかし。これは素晴らしい誤算だったな…」

ふ、と息を吐いたリイサスさんが、喜びを噛み締めるように笑って呟いた。ルークさんも笑みを浮かべ、大きくそれに頷く。相変わらず俺はポカンだ。

「あぁ! 神だの能力だのは置いていても、これほど嬉しいことはない。見知らぬ異界へ飛ばされたコージくんにはすまないが、君の境遇は私たちにとってとても喜ばしいことだ」
「そう…なんですか?」
「君の記憶が戻り、家に帰られてしまう心配が無くなったからね」
「え」
「ずっとここに居てくれるんだろう?」
「あ」

おっと…。雲行きが怪しくなって参りました。
交互に顔を近付けながらニコニコ話し掛けてくる二人の笑顔は、もはやサイコホラーの類だ。
ていうか、やっちまった。普通にミスった。コージくん大誤算。
強くて怖いヤンデレズたちに、ずっとここに居させられる理由を与えてしまった。
そのことに気付いた俺は、サッと顔を青くして椅子から立ち上がった。

「………や…、でも俺…、ずっとお世話になる訳にはいかないんで…」

後退りした俺を追い掛けるように、二人も席を立つ。粗い木の床を椅子の足が擦る鈍い音がやけに響いた。
俺が一歩下がるごとに、リイサスさんとルークさんは三日月のように目を細めて、また一歩近付いてくる。
…ヤバい。これ、逃げられない。

「お世話? 迷惑? 気にしないで。むしろ居て欲しいんだ。一生」
「いっ…!?」
「何度も言ってるだろう? 君が好きなんだよ!」
「え、え、あ、」
「私もだよ、コージくん。いや、康治郎くん」
「ひぇ」
「私を、君の身元引受人にしてほしいのだよ」
「えぇ、あ、あ……」
「うん。そうすれば、この世界に実家が出来るね」
「う、うぁ…」
「あぁ、ここでなくたって構わない。古龍が討伐され次第、是非、ナトリ領にある私の家に」
「ハ? オイ熊」
「なんだねヒューマン」

後退りしまくって、ソファにへたり込んでしまった俺の目の前で、二人がいつも通り喧嘩を始めた。途端、アダルトな雰囲気が離散して、いつものコメディチックな空気が戻る。
いつも通り、親友とは思えぬ口の悪さで罵り合う二人と、ソファで全身の毛を逆立てて縮こまった俺。
俺は二人に気付かれないよう、そっと胸を撫で下ろした。

────あッッッッぶねぇぇぇぇぇぇ~~~~~……!!!
死ぬかと思った。この家が人生の墓場になるかと思ったぁ~!
せっかく魔法使える異世界にチート持ってやってきたのに、最初に会ったホモらに捕まってお嫁さんエンドになっちゃうかと思った~~~~!
怖すぎる…。力と権力と頭脳と造形美と上手い口を持った大人のホモ怖すぎる……!
さっきはマジで危なかった。特に「康治郎くん」と「実家が出来る」がヤバかった。一瞬揺らいじゃった。お嫁さんでも良いかも…………………ってコンマ1秒でも思っちゃった自分も恐ろしい………。

いやいや、勘違いしないで頂きたいが、俺は二人が嫌いなわけじゃない。結構…いや、かなり好きだ。
もちろん! 親愛って意味で!
度重なるセクハラはマジ気持ち悪いけど、もうキスくらいなら平気で出来るし。束縛は激しいけど、すんごい優しくしてくれるし。外に出してくれなかったけど、俺のために本とか美味しいものとかたくさん持ってきてくれたし。
あれ……。改めて考えると酷いな。何でこの二人のこと、好きになってるんだ俺。
……あ、これがストックホルム症候群ってヤツか…。

「コージくんは私と私の家で愛を育む。そしていずれ、然るべき処置を施し、私の子を生んでもらう。君は善き父の友人として半年に一度ほど遊びに来たまえ」
「いーやーだーね。コージくんはこの家で俺とラブラブ新婚夫婦を100年続けるんだ。初恋みたいな甘酸っぱさで毎日いってらっしゃいのチューをしてもらうんだ」
「む。子は?」
「必要ないね。獣じゃないんだから」
「君の差別的言動は目に余る。亜人種差別撤廃を目指すオーディアンギルドのギルドマスターとして、いちギルドメンバーの君のソレは看過出来るものではない」
「獣と類似種の獣人が繁殖に重きを置いているのは純然たる事実だろ。むしろ俺はお前の自分以外を蔑ろにした自己中心的言動にうんざりだ。元々コージくんは俺が連れて来たってのに、俺に断りもせず番の有無を聞いて一晩も経たずにレイプして、相手がコージくんじゃなかったら実刑ものだぞ分かっているのか」

……なんかムズカシイこと言ってるけど、レイプは俺であっても実刑ものだかんな!
ああでも良かった。二人とも、割と通常運転だ。異世界人だからって、ちょいとギクシャクするかと思ったけど、全然心配なさそうだ。
てかむしろ遠慮しなくなりましたね、お二人さん。これまではセクハラとほんのりプロポーズしかしなかったのに、今じゃガチで将来設計を語り合っている。
『熊耳子沢山』も『初恋100年』もお断りですからね…。
そういう意味を込めて、俺は話を逸らそうと口を開き。

「…住む場所はお金が貯まった時に考えるとして…」
「えっ!」
「え?」
「ずっと居てくれないの!?」
「居てくれません…」
「どうして?」
「俺女の子が好きなので…」
「俺はコージくんが好きだよ」
「か、関係ねぇ~ッ!」

スゲーなリイサスさん。話通じない感ヤベー。俺の意見聞く気ゼロかよ。ヤンデレこわぁ…。

「今後のことはお金が貯まった時に考えるとして!」
「むぅ…」

住む場所問題はひとまず先延ばしだ。やぶ蛇は避けよう。
俺が今、なにより知りたい一番のこと……。それは、戦い方についてであーる!
えー、皆様もご存知の通り、俺はまだ魔法が使えない。使えないっていうか、怖くて使ってない。どんなもんかサッパリ分からないから。
しかぁし、全属性とかいうトンデモ能力により、魔法は俺にとって一番の武器になるはずだ!
だから、魔法に詳しい人に教えを乞う必要がある。魔法を使えるものにするために!

「あの、俺、魔法とかレベルがない世界から来たんです」
「うん」
「で、あの、魔法…使ってみたいんです」
「うんうん」
「教えてもらえませんかっ!」

バッと頭を下げ、俺はリイサスさんにそう言った。ルークさんは物理属性だったから、今んとこ実践形式で教えてもらえるのは、リイサスさんしかいないのだ。
でもリイサスさんはちょっと困ったように、自分の顎を擦りながら答えた。

「う、うぅん……」
「ダメですか………?」
「いや、それは構わないんだけど…、うーん、正直、荷が重いんだ。全属性なんて見たことも聞いたことも…。それは文字通り、全部の属性に適してるってことで良いんだよね?」
「多分そうです」
「んーと…、じゃあ各属性ごとでエキスパートに教わった方が良いかもね。基本属性はとにかく、神聖属性と暗黒属性と召喚属性なんかは俺にはサッパリだし。暗黒属性と召喚属性以外ならギルドメンバーで紹介出来るから、ひとまず俺は基礎的なことと、火炎魔法を教えようか」
「!!」

俺は両手を上げてリイサスさんに抱き付いた。途端、リイサスさんは破顔し、ぎゅっと抱き締め返してくれる。
置いてけぼりの熊さんは「ぶ、物理属性なら私も…」と呟いているが、単純な肉弾戦だと俺は2秒で死んじゃうから遠慮しよ。
……10秒くらいなら持つかな。

「さて、じゃあ今日は基礎の説明だけ済ませておこうかな」
「お願いしますっ」
「まず、魔法にはいくつか属性ってものがある。大体の人間は1人1つだけど、稀に2つか3つ持った人間もいる。これが上位の魔族とかになると、もっとあったりするんだ」

ほうほう。

「コージくんは全部使えるようだから……、……………いや……、冷静に考えて全属性を使えるってヤバいな…? そんなの、上位魔族でもいないんじゃ……」

あ、今は冷静にならないで! 教えてっ教えてっ!

「んん…、とりあえず、属性は全部で12個あるんだ。
火炎属性
氷結属性
電撃属性
疾風属性
自然属性
祈願属性
慰安属性
物理属性
結界属性
神聖属性
暗黒属性
召喚属性
の12個だね」

おぉ~! ワクワク。夢が広がりますな!

「基本的に魔法適正のある奴は、生まれた時から属性に応じた魔法を習得している。俺は『火炎属性』だから生まれた時から火炎魔法を使えた。『疾風属性』や『自然属性』には強いんだけど、『氷結属性』には弱いんだ」

へぇぇ。属性にも相性があるんだな。

「けど、例外も存在する。『召喚属性』なんかはその典型でね。悪魔召喚魔法と精霊召喚魔法と天使召喚魔法のどれか1つを、本人の資質も含めて後天的に習得出来るようになっている」

ん? んん…?
ちょっとよく分からないけど、『召喚属性』は悪魔か天使か精霊のどれかって決まってるってことかな。そんで、成長過程でそれが分かるってこと?
完璧に理解は出来てないけど、『召喚属性』って色々特殊っぽいな。

「そして『召喚属性』の難度だけど、12個ある属性の中で、一番難しいって言われてるんだ。『召喚属性』を持ち、魔法適正があったとしても、本人の資質によっては魔法習得出来ない場合もある。ていうか大抵習得出来ないんだ」

え。どうして?

「まず、単純に狭き門なんだ。『召喚属性』を持って生まれる奴がそもそも少ない。その中で魔法適正のある奴も、まぁ少ない。そして最後に、召喚した悪魔や天使や精霊を使役するだけの素質を持つ奴も、これまた少ない。召喚魔法を使える奴なんて、国に10人いれば良い方なんじゃないかな?」

ほへぇえ。そんなに少ないの。

「次に、本人の希望と才能の相違だ。天使を召喚したくても、当人には精霊召喚の素質しかない…ってこととか。希望する召喚魔法と素質のある召喚魔法が一致することは稀でね。そして悪魔も天使も精霊も、『本当は別の種族が良かったけど…』みたいな妥協の気持ちで呼び出せるほど、優しい種族じゃないからね」

なるほど。心からその種族を呼びたいって思わないとダメなんだな。

「だからコージくんには申し訳ないんだけど、オーディアンギルドに召喚魔法を教えてあげられる人材がいないんだ。ごめんね」

いーえいえ! 魔法を教えてもらえるだけありがたいですから!

「そしてコージくんの気になってた魔法だけど…」

はい!

「使える魔法は、人によって大きく変わる」

おぉ?

「火炎魔法で例えるね。『灯れ 緋色の微火 ライタ』」

リイサスさんが詠唱を発した途端、立てた長い指の先にボボッと炎が上がった。俺の見る初魔法だ。俺は興奮のあまり、前のめりになって魔法の火を見詰めた。

「す……っすげーーっ!! うわーっうわーっ魔法だーーーっ!!!」
「ふふっ。これは初級魔法だよ。多分、火炎魔法を使う奴は誰でも使える。でも…『紺青ノ炎々 ブルーファイヤー』」

ゴォォォォッ

2歩ほど下がったリイサスさんの広げた手の上に、バレーボールくらいの青い炎の塊。
2メートルくらい離れた俺の頬っぺたまで、熱がジリジリ伝わる。木とか燃料になるものもないのに、ごうごうと燃えてすごい熱気だ。

「これは中級の攻撃魔法。普通の『紅蓮ノ炎々 ファイヤー』より温度が高くて、攻撃力が高いものだよ。でも王立中等学校魔法科では、俺しか使えなかった」
「えっ、どうしてですか?」
「向き不向きってのがあるんだ。一般的に、本人の性格に依存するって言われてる。俺、中等学校の入試でウッカリ首席を取っちゃってね。当時はただでさえ平民の学生は少なかったから、貴族に目を付けられて、嫌がらせまがいのことされてさ」
「ひ、ひでぇ!」
「そのせいか、学部学科内で一番攻撃的になっちゃった」
「ありゃ…」
「攻撃魔法ばっかり得意だったよ。演習中、合法的に貴族をぶち転がすために猛練習したからかも知れないけど」
「多分絶対それですよ。原因」
「でも、級友のテゴは防衛魔法ばっかり得意で、逆に攻撃魔法はからっきしだった。攻撃特化の電撃属性だったのにだよ。穏やかな奴だったから」
「なるほろ……」

思わぬ過去話が聞けてしまった。
どうやらこの異世界にも、王立中等学校ってのがあるらしい。日本でいうところの県立中学みたいなもんかな?
中学生のリイサスさん…、いじめみたいなことにあったらしいけど、許せないよな。いじめなんてサイテーだ!
リイサスさんが泣き寝入りするような人じゃなくて、マジで良かった。「泣き寝入りするくらいなら刺し違えてでも」って顔してるもん。単純に根性が強い。ウッカリで主席を取れる頭脳と力も強い…。
でも、魔法学校かぁ。ホグワ○ツしかり、N○Cしかり、青春だよなぁ~。いいなぁ。いつか行ってみたい。

「どんな魔法が使えて、どんな魔法が使えないのか。これはもうやってみるしかないんだ。明日、一緒に実践していこうね」
「はいっ!」

ここで一度休憩を挟む。
俺がアイスティーを飲んでいる間、いつの間にかリイサスさんは書いて消せるマジックホワイトボードを持ってきていて、ルークさんは手持ち無沙汰だからと、お風呂へ入りに行った。
もう9時過ぎ。いつもなら俺もお風呂に入ってる時間だから、スムーズに済むよう時間の節約は大事だよな。

「さて。次はレベルについて」
「はいっ!」

下敷きサイズのマジックホワイトボードを手に、リイサスさんが姿勢を正して言った。釣られて俺も、ピンを背筋を伸ばす。

「なるべく分かりやすいように話すけど、俺はレベルのない世界というものがどういうものか知らないから、疑問に思ったら何でも聞いてね」
「はい!」
「じゃあまず。レベルがどういうものなのかっていうと、経験の蓄積が数値化したものなんだ」
「魔物を倒したりしたら、上がるんですよね?」
「そうそう。奪った命が経験値に変換され、俺たちの中に溜まっていく。それが一定以上溜まると、いわゆるレベルアップだ」

冷静に考えたら凄いよなぁ。誰がどーやって考えて作ったシステムなんだろ。

「レベルとはつまり経験だから、高ければ高いほど敵を倒す力があるってことになる」
「はい先生!」
「なんでしょうコージくん」
「慰安魔法とか結界魔法を使う人たちは、どーやってレベルアップすれば良いんですか!」
「お。良い質問だね」

手をピンと高く挙げれば、リイサスさんもニコニコして先生と生徒ごっこにノってくれた。嬉しい。

「レベルは経験。もちろん、敵を倒すことで得られるけど、経験ってのはそれだけじゃないよね?」
「えっと…、普通に魔法を使っても、レベルは上がるってこと?」
「そう! 敵を攻撃して倒さなくても、実戦で結界を張ったり、怪我人を治したりすることでレベルは上がっていくんだ。物凄く微々たるものだけど、日々の練習でもちゃんと溜まるよ」
「へーーーーー!」

何それすごい。やればやるほど数字で反映されるなんて、この世界の仕組みすてきっ!
勉強とかもそうだけどさ、数字で結果が分かると、もっとやる気出るよな!
俺の高校のテスト最高点、67点だったけど…。

「レベルは属性熟練度って意味で人を判断する時の指針になる。だからやっぱり、レベルによって見る目ってのは変わってね。レベルが高いと、仕事やお見合いなんかの私生活で良い思いが出来るみたいだよ」
「ほへぇ…」
「どこのギルドもそうだろうが、オーディアンギルドでもレベルによって冒険者ランクを分けているんだ。これがその基準」

そう言って、マジックホワイトボードに書いた内容を、リイサスさんが俺に見せてくれた。

『F級1~5 E級6~10 D級11~19 C級20~29 B級30~59 A級60~79 S級80~99』

「おぉっ分かりやすい!」
「そう? 良かった。このランクは冒険者にとって大事はもので、ランクによってクエスト内容や給金も大きく変わるよ。オーディアンギルドにはC級からA級が特に多いんだけど、レベルが低くても試験を受けてパスすれば、例外的に昇格することも出来るんだ」
「あ。そういえばルークさんがリイサスさんに……」
「うん。実力だけ見ればA級も多分イケるんだろうけど、試験が面倒でね」
「えぇーー! もったいない!」
「それに、A級までなるとあちこち引っ張りだこなんだ。いつの時代も、高ランク冒険者は貴重だからさ」

あーそっかぁ。A級とかS級になると、危ない仕事、しなきゃいけないんだ。本人の性格にもよるよなぁ。
でも、「俺はコージくんの側に居なきゃだからさ」なんて語尾にハートマーク付けてる奴は知らん。そんな理由で昇格を拒むな。

「この、S級が最高峰なんですか? レベルの上限は99?」
「……いや。レベルの上限は1000だと言われてる」
「…『言われてる』?」
「レベル1000まで到達した人間がいないんだよ」
「へ…?」
「……今まで説明してきたのはあくまで、人間の常識的基準。世界には、もっと恐ろしい存在が跋扈してるんだ」

リイサスさんが冒険者ランクの文字を消し、『伝説級100~499 神話級500~1000』と書き込んだ。

「これってまさか……」
「うん。長寿の上位種族なんかじゃないと到達出来ない、至高の領域。人間が未だほとんど到達し得ないレベルだよ」
「え……。こ、この中に人類って1人も……」
「いや、1人だけいる。レベル100の人間がこの国に。騎士団長だったはず」
「す、すげぇ! 人類最強だ!」
「うーん。それでも今の魔王のレベルが985っていうくらいだから、人類が魔族に勝つ日は遠いだろうけどね」
「魔王様レベル985!?」

出たー魔王様っ! さすが最強だっ! 魔の王だ! 人類最強の男の10倍近い!!
そりゃあ人類が魔族に負け続けるはずだよ…。土地を4割も占領されるはずだよ……。
魔王がレベル985ってことは、魔王の配下たちもまぁ神話級のレベル500~1000ばかりだろう。
今はまだ、魔王が人間の街にちょっかい出す程度で済んでいるけど、あちらさんが本気で攻めてくれば、抵抗らしい抵抗も出来ずに全滅不可避間違いなし。

魔王なんていう王道中の王道の敵……ここまで人類との差を見せ付けられると、いち異世界人としてちょっと落ち込む。


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