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エクスポタミア 〜王子は兄王に恋をする〜

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いにしえの世界に「エクスポタミア」という国があった。

その国にはまだ若い二人の王子がおり、兄のほうは王になって国を治めていた。

兄はエルヴィス、弟はルーファスという名であった。

前の王だった彼らの父や妃はすでに他界していた。

エクスポタミアは二つの大きな川に挟まれており、灌漑技術によって農業が発達していた。

兄・エルヴィスは農作物を隣国に売り払い、資金を得て国力を上げるのに忙しくしていた。

一方弟のルーファスは優しいが繊細な心の持ち主だったので、政治に口を出せず大人しく遠くから兄を眺めているだけであった。

ルーファスは兄である王のエルヴィスを尊敬し、恋愛感情に近いほど慕っていた。

エルヴィスは容姿端麗で、冷静沈着な性格だった。

いつも政治のことを考えており、ルーファスに関心を示さなかった。

寂しくて退屈したルーファスは物思いにふけったまま城の中を歩いていた。

ルーファスは気が付くと城の中で迷子になった。

ルーファスたちが居住している天守閣を除くと城の内部は複雑で広大な迷宮になっていた。容易に敵に侵入されないためである。

家臣から天守閣から出ないように言われていたのに…。

ルーファスは不安になりながら、白骨が転がった城の中を長い間さまよっていた。

やがて狭い通路に扉があり、明かりが少し漏れているのを見つけた。ルーファスは恐る恐る扉を開けた。

部屋の中には古い本棚がたくさんあり、白髪が床まで伸びた老人が住んでいた。

こんなところに人が住んでいるとは思わず、ルーファスはおびえた。

しかし老人はルーファスをなだめた。

老人はエルヴィスによって迷宮に幽閉されているのだと話した。

エルヴィスはたくさんの農作物を生産するため、奴隷たちを無理に働かせていた。

働きすぎて死亡するものも出た。

老人が奴隷を働かせすぎないようにエルヴィスをいさめると、彼の怒りを買い迷宮に追放されたのだった。

老人は元賢者であり、この城の家臣だった。

「兄上がそんな…ひどいことをするなんて…」

ルーファスは信じられなかった。

老人はルーファスの澄んだ瞳を覗き込んだ。

「お主は純粋な心を持っておる。お主なら「アカシックレコード」を読むことができるかもしれん」

老人は説明する。

アカシックレコードは、人類が始まる前から全ての事象、想念、感情が見えない世界に記録されている。

心が純粋な者だけがアカシックレコードを読むことができ、世界の叡智を知ることができるのだと。

「お主ならエルヴィス王を正しい道に導けるかもしれん」

老人はルーファスにアカシックレコードを読む方法を教えた。

目を閉じて頭を空っぽにする。

ルーファスは瞑想することでアカシックレコードを読むことに成功した。

ルーファスが答えを知りたければ、必要に応じてアカシックレコードにアクセスができる。

そして天守閣へ戻る道のりも分かった。

ルーファスは老人も連れて行こうと思ったが、老人はこのまま帰っても殺されるだけだから、エルヴィスを改心出来たら助けに来てほしいと頼んだ。

ルーファスは天守閣に戻ったときは数日経っており、家臣たちを驚かせた。

迷宮に入った者は二度と戻れないと思われていたからだ。

エルヴィスはルーファスが迷宮に迷ったことに気づいていたが、「もう戻れまい」と家来に探させることはしなかった。

ルーファスはエルヴィスに会いに行き、老人のおかげでアカシックレコードを読むことができた、それで戻れたのだと報告する。

エルヴィスは「アカシックレコード」というものに興味を示した。

ルーファスはまず老人を助けてほしいとエルヴィスに懇願した。

しかし、エルヴィスは条件を出した。

「エクスポタミア国を含むソリエント地方ではバルマード帝国が勢力を広げている。

やがてはエクスポタミアもバルマード帝国に侵攻されるだろう。

そこで、ルーファスに力を貸して欲しいのだ」

ルーファスは戦争をするなど恐ろしかったが、兄に従った。

バルマード帝国は鉄を使った武器を持っており、こちらも対抗するには多くの鉄が必要だとルーファスは語った。

ルーファスは鉄の鉱脈のありかを知っていたので、その場所をエルヴィスに教えた。

弟の言う通り鉄の鉱脈は確かにあった。

エルヴィスは大変驚いた。それと同時に弟の能力を恐れるようになった。

エルヴィスはルーファスに褒美をやろうと提案する。

ルーファスは嬉しくて頬が紅潮した。

ルーファスは思い切って兄と恋人のようになりたいと告白する。

「それは…本気で言っているのか?」

王子は真っ赤になってうなずいた。

兄は弟の気持ちを一瞬疑ったが、ルーファスを利用できるかもしれないと考えた。

エルヴィスはルーファスを沐浴に誘った。

エクスポタミア国は川の水を天守閣までくみ上げて浴槽を作るような技術を持っていた。

兄は浴槽につかりながら甘い愛撫で弟を篭絡していく。

ルーファスは兄に夢中になり、迷宮の老人のことは忘れてしまっていた。

エルヴィスはルーファスが裸になったとき、いつも古いペンダントをつけていることに気づいた。

「もっといいものをくれてやるのに」と兄は言ったが、ルーファスは「これは大切なものだから」と、はにかみながらやんわりと断った。


エクスポタミア国は鉄の武器を大量に生産し、侵攻してくるバルマード帝国との戦いに勝った。

兄に必要とされ幸せの絶頂だったルーファスだったが、それもつかの間のことだった。

バルマード帝国は魔術の存在を知り、再びエクスポタミアを侵略し始めた。

帝国によって養成された魔術師たちによる火の玉の攻撃でエクスポタミアの城下町は火の海になった。

エルヴィスはルーファスに助言を求めた。

ルーファスは瞑想し、アカシックレコードにアクセスしたが、邪神の存在と接触してしまった。

邪神はバルマード帝国を滅ぼすほどの強力魔法をルーファスに授けようと申し出る。

その代償としてルーファスの魂を欲しがった。

「このままでは兄上の命が危ない…!」

狼狽していたルーファスは邪神と契約してしまった。

邪神は契約通りに強力魔法をルーファスに授けた。

その破壊力はバルマード帝国を一瞬で焦土にしてしまった。


心優しきルーファスは自分の力の恐ろしさで意識を失ってしまった。

エルヴィスは気を失って倒れているルーファスに気づき、駆け寄って抱き上げた。

しかしルーファスは二度と目を開けることはなかった。

一瞬ルーファスの胸のペンダントが光る。

エルヴィスは思い出した。

ルーファスが幼いころ、母親である王妃が死んだとき、泣き止まなかった。

兄は弟をなだめるために近づいて、「お守りだ」とペンダントを首から下げてやったことを。

「ルーファス、そのお守りをずっとつけていたのか…」

兄は悲しみで弟を強く抱きしめた。


バルマード帝国は滅び、再びエクスポタミアに平安が訪れた。


兄は眠っている弟を寝床に横たえて、いつまでもそばで見守っていた。























エクスポタミア ~王子は兄王に恋をする~

著者 北白 純

2021年1月2日 発行
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