じれったい夜の残像

第4章: 別れの理由

追いかけた夢の代償

涼介と美咲が別れるまでの道のりは、決して一夜で決まったものではなかった。

二人の関係に溝が生まれ始めたのは、涼介が自分の夢を本格的に追いかけ始めた時だった。

---------------

「美咲、聞いてくれ。ついに僕のプロジェクトに投資が決まったんだ！」

ある晩、涼介は興奮した様子で美咲に告げた。
二人はお気に入りのカフェで久しぶりに会っていたが、涼介の顔には疲労が滲んでいた。

「それはすごいじゃない！おめでとう、涼介！」  
美咲は心から彼を祝福した。しかし、涼介の疲れた顔を見ると、どこか心配になった。

「でも、これからもっと忙しくなるんだろうね。」

「そうだね。これからが本当の勝負だ。たぶん、今以上に時間がなくなる。でも、やっとスタートラインに立てたんだ。だから、後悔はしていない。」

涼介はそう言いながらも、どこか遠くを見つめるような目をしていた。

彼が抱えるプレッシャーと責任が、彼を押し潰しそうになっていることが美咲には伝わってきた。

「でも、涼介…私たちの時間がなくなることは、どう思ってる？」

美咲は不安を隠しきれずに問いかけた。
彼が成功に向かって突き進む姿を応援したい気持ちはあったが、同時に二人の関係が変わっていくことに対する恐れもあった。

「正直に言うと、すごく悩んでる。君のことは本当に大切に思ってる。

でも、今は仕事が最優先になってしまっている。それが、君にとっても辛いことだって分かってるんだ。」

涼介の声には、苦悩が滲んでいた。

彼は夢を追いかけることが、自分だけでなく美咲にも負担をかけていることを理解していた。

「私も、涼介の夢を応援したい。でも、最近は会う時間も減って、話すことも少なくなって…私はこのままでいいのか、不安になってしまうの。」

美咲の言葉に、涼介は黙り込んだ。
彼女の言葉が胸に突き刺さったが、同時に自分がどうしようもない状況にいることを感じていた。

「美咲、君に寂しい思いをさせているのは分かってる。でも、今は自分の夢を追いかけることしかできないんだ。それが、僕たちの関係にどんな影響を与えるかは分かっているけど…」

涼介の声は次第に弱々しくなっていった。
彼自身も、自分の選択が二人の未来をどう変えてしまうのか、恐れていた。

「分かってるわ、涼介。あなたがどれだけ頑張っているか、近くで見ていて本当に尊敬してる。
でも、私はあなたのそばにいることが幸せだった。今、それが遠ざかってしまうことが…怖いの。」

美咲は言葉に詰まりながらも、自分の心の内を正直に伝えた。
涼介との関係が変わっていくことへの恐怖と、彼の夢を支えたいという思いが交錯し、彼女の心を苦しめていた。

「僕たちの未来がどうなるかは分からない。でも、美咲、僕は君を失いたくない。でも、今は君を完全に支えることができない…」

涼介の言葉は、彼自身の葛藤を表していた。
美咲の気持ちを理解しながらも、彼は自分の夢を諦めることができなかった。
そして、その夢が美咲との距離を広げていくことも、彼は理解していた。

「涼介、私はあなたを信じているわ。でも、私も自分の幸せを追い求めるべきだと思うの。」

美咲の言葉に、涼介は目を伏せた。
彼女の決意を感じ取りながらも、自分の手で彼女を支えることができない現実に、胸が締め付けられた。

「美咲、君が幸せになれるように、僕も頑張るよ。でも、今は…今はお互いに時間が必要なのかもしれない。」

その言葉を聞いて、美咲は心が引き裂かれるような思いを感じた。
涼介が夢を追いかけることを理解していたが、彼との関係が変わっていく現実を受け入れることができなかった。

「そうね、涼介。私たちには時間が必要かもしれない。でも、私は…あなたをずっと応援してるわ。」

美咲はそう言いながら、涼介の手を握った。

彼女の手の温もりを感じながら、涼介はその手を強く握り返したが、心の中では別れの予感が漂っていた。

その夜、二人は別々の道を歩み始めることを決意した。

涼介は自分の夢を追いかけるために、美咲との時間を犠牲にすることを選び、美咲は自分の幸せを見つけるために、自分自身の道を歩む決意をした。

---------------

あの夜の別れが、二人にとって最も辛い決断だった。
涼介は夢を追いかけることで、手に入れたものと同時に失ったものがあることを痛感していた。
そして、美咲もまた、涼介との別れが彼女にとってどれほどの代償を伴ったのかを痛感していた。