悲劇のレディは人生をリセットします。

あーちゃん。

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プロローグ

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地球の南・南バーファート大陸に属する大きな王国"グレンディア王国"。緑豊かで人口は多く、農業や工業も盛んで急速に経済が発展している国の1つであった。
街や村は整備され、まさに民衆の暮らしやすい王国。遠くから見ると殆どの建物が真っ白に降り積もった雪のようだ。
そんな国の中心として政治方針や経済などをまとめているのは、グレンディア王国"バルセロナ王家"。現在のバルセロナ王家は娘2人・息子2人と女王・国王で成り立っていて、現在の王室の状況は酷いものだった。次男であるエドワードは日々膨大な金額を使って女遊びを繰り返しており、隣国とは貿易などの関係でとても仲を悪くしている。そして長女である私・アメリーナは、そのような問題を全て知っている。これから起こる事も、"あの子"が私を陥れるという事も。
私はいわゆる、転生のようなものを体験した。私が死んでしまったのも事実。それも、妹・プリエールが企てた作り話のおかげで。私の転生する前の人生は、とても孤独なものだった。─生まれてしばらくは寂しくなどなかった。家族や周りの人達には愛され、毎日が幸せで楽しかった。母であるパトリシアは教育やマナーに関しては少し厳しかったが、普段はとても良くしてくれて、穏やかで笑顔が良く似合う人だった。父であるギルバートも似た性格で、普段はとても物静かで、私がなんと言っても薄い反応ばかりしかしなかった。けれど、私がひとたび転んだり怪我をすれば、些細な事でもまるで私が死んでしまうぐらいの心配をしていた。長男のアレクサンダーは今と変わらず物静かで優しい性格だった。次男達とも良く一緒に庭で遊んだり、図書館で本を読んだりもしていた。
毎日が楽しくて幸せで、いつまでも死ぬまでこの幸せが続くと思っていた。

──だが、プリエールが生まれて私の人生は一気に崩落していった。
プリエールは母によく似た綺麗な顔立ちで優しく、純粋で誰に対しても平等だった。ある意味、私を除いては。
プリエールは自分の犯した罪を私になすり付けてきたり、ありもしない作り話を侍女や友達に話したりした。周りの人達はその話を疑う事なく信じて、私が悪人だと思うようになった。成長するにつれて、私は昔のような愛らしい娘ではなくなった。そして、人々も私に愛情など抱く事はなかった。
この頃になると母は風邪を悪化させて亡くなり、長男のアレクサンダーは遠く平民と駆け落ちし、次男のエドワードは城での女遊びを繰り返し、私は父とは仲を悪くし、プリエールは着実に私から幸せを奪い取っていっていた。
そして私はいつの日かプリエールの計画にまたもや欺かれ、ふんだんに金を使って豪遊し、民衆から金を騙し取り、侍女達を痛ぶり虐げたという罪で死刑となる事になった。恐らく、私の社会評判が底まで着いていた事が死刑を決定づける理由となったのだろう。私は城の大広間から騎士に連れられて父の公務室へと足を運び、軽い拷問と言葉での暴力を受けた後には地下の暗い牢獄へ連れられ、腕を重い鉄製の鎖で拘束された。

数日の時が経ち、私は質素な馬車の上で拘束されたまま、罵倒をし続ける民衆の人混みを通って処刑台へと向かった。処刑台の上には鋭い刃のギロチンと数人の執行人がおり、死にゆく私の心をますます震えさせた。
プリエールは少しばかり遠くから涙を浮かべて私を見つめ、手で口と鼻を抑えているかのように見せているが、恐らく手の裏では笑いを堪えているのだろう。涙だって、辛くて流している筈がなかった。私はいよいよ体を横にさせられ、首は薄い板の丸い穴の中にはめ込まれた。
しばらくすると、執行人の合図と共に、ギロチンの鋭い刃は私の首を目がけて降り落ちて来た。



一瞬の痛みと最後に見えたのは、自分の首から溢れ出る血液でもなく、首のない自分の体でもなく──。



淡く暖かく、真っ白で包むような無音の光だった。



光が今度は淡く消え、まぶたを開けて目が覚めると、見覚えのある花の模様の天井と、聞き覚えのある女性の声が聞こえた。私がまぶたを開けたのと同時に女性の声はまた一段と大きくなり、私の手を握ってその手に頬を擦り寄せた。私の目に見えた女性は、まさしく亡くなったはずの母・パトリシアだった。染まりに染まった漆黒の長いふわふわな髪、黒色で長いまつ毛、薄桃色のなめらかな唇。みるみると衰弱していく前の母だ。

「お母様……?」

「目が覚めたのね!体調は大丈夫?まだ良くない?」

私は困惑しつつも、まだこの体の体調が良くない事を感じとり「あまり良くないです」と、咳をしながらそう言った。

「あら…体調が良くなるまではゆっくり休んでね!そう思って今日の授業は、教師の方々には悪いけれど全てお断りしておいたの」

そう言うと母は、少し私と話してからやわらかな笑顔を残し「また来るわね」と言って、寝室から去っていった。
明らかに前とは違うこの感覚、さっき母が手を握った時に見えた私の小さな手。それに目線の位置も低くなっている。私は慌てて立ち上がり、ベッドのすぐ横にかけられた鏡の前に立った。縦長な鏡に写るのは、幼少期の私だった。

私ははっとし、ベッドの横でこちらを見つめている侍女に今日が何年かを問いかけようとした。その時、侍女の姿を目に見た瞬間、私はある人物をふと思い出した。淡いピンク色の三つ編みで、眉毛までの前髪。そばかすを鼻にのせた可愛らしい小さな侍女は、ナターシャ・ベルナール公爵令嬢だった。
私の事を信じ、脱出計画を企てた事で処刑され、最後まで仕えてくれた私の専属の侍女だ。

慌てて質問をしようと、口を開いた。

「ああ、えっと、今年が西暦何年か知りたくて!」

「西暦?…あー!今年は西暦712年ですよ!」

私が質問をすると、ナターシャは首を軽く傾げてからすぐに答えてくれた。
私の誕生年が700年だから、ここでの私の年齢はおそらく12歳だろう。
私は自身の命が回帰した事を受け入れ、既に"やらなければならないこと"を考えている。
それは、母とナターシャの死を回避する事、プリエールへの復讐をする事、そして──
崩落寸前の人生を"リセット"する事だ。
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