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第3章
5 帰還
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森がザワザワし始めたのは、春から夏に変わろうとしていた頃だった。
(なんだろう……)
エレンは何かを感じ、小屋の窓から外を覗いた。いくら結界で護られてる森とはいえ、今は迂闊に外には出れない。ユリアーナがいるから余計だった。
だが、そこにいたのはホエールだった。
「ホエール!」
エレンは小屋の扉を開けると、ホエールはニコニコと笑いながら小屋の中に入って来た。
「久しぶり」
「もう平気か?」
「見ての通り」
両手を広げてみるホエールの身体は傷などない。
「ユリアーナは?」
「2階にいる」
「ユリアーナに土産」
エレンに渡したのはシーラの町で流行っている、女の子向けの洋服やアクセサリー。それを見たエレンは驚いてホエールを見上げた。
「これを……、あんたが?」
「悪いか」
プイッとそっぽを向いたホエールが可笑しくて、エレンはクスクス笑った。そしてそれをホエールに返すとにっこりと笑った。
「自分で渡しな」
そう言うとエレンは夕飯を作りに炊事場へと向かった。その姿を見て、困った顔をしたホエールは仕方なく2階へと上がった。
2階に上がり、手前の部屋はエレンの寝室。その向かいがホエールの部屋。そしてユリアーナは、エレンの隣の部屋だった。ホエールは、ユリアーナの部屋の扉をコンコンと叩いた。
「ユリアーナ?」
そう声をかけると扉が開いた。ユリアーナはホエールの顔を見ると、ぱぁ……と目を見開いた。
「ホエール!」
名前を呼んでホエールに抱きついたユリアーナ。そして顔を上げて「おかえりなさい!」と可愛らしい笑顔を向けた。その笑顔を見てホエールはなんとも言えない気持ちになった。
「いつ帰って来たの?」
「たった今」
「もう大丈夫?どこにも行かない?」
ユリアーナにとってホエールは一番身近な大人の男だった。父親代わりに思っているのだろう。
「もう大丈夫」
そう言うとしゃがみこみ、ユリアーナの目線と同じになった。
「心配したよ」
「すまぬ」
「でも良かった……っ!」
うっすらと涙を浮かべたユリアーナを抱き上げ、部屋の中へと入る。ベッドに腰掛けて、手にした袋を渡した。
「なに?」
袋を手にしたユリアーナは、それを広げた。
中から洋服3着。赤いリボンの髪飾りと子供向けのアクセサリー数点。
「ホエール?これ!」
「シーラの町で流行っているらしい」
「私に?」
「そうだ」
「ありがとう!」
再びホエールに抱きつくユリアーナは、嬉しくて仕方ないと、身体全体で表現していた。それが分かっているのか、ホエールは照れたように顔を真っ赤にしていた。
ホエールにとってもユリアーナは家族になっていた。
◇◇◇◇◇
「ふたり共」
ユリアーナの部屋の前で、エレンは声をかけた。ユリアーナとホエールは、部屋でずっと話し込んでいたのだった。
「エレン!見て!」
と、エレンに飛び付く勢いで袋を持って行く。
「ホエールがくれたの!」
「可愛いね」
「うん!」
嬉しそうに胸に抱くユリアーナがとても愛しい。
(魔女の私にそんな感情があるとは思わなかった)
そう思いながらユリアーナを見る。
「さ。夕飯が出来たよ」
エレンの言葉に頷くと、ベッドに袋を置いて3人で階下に下りていく。久しぶりに3人で囲む食卓が、なんだか暖かいと感じる。ユリアーナも嬉しそうだった。
夕食の後、ユリアーナはホエールに抱っこされながら話をしていた。そんなふたりを見ていて、気持ちが焦る。早くこれが日常になればいい。その為にはやっぱりあのフードを捜し出さなきゃいけない。強く強くそう思った。
(なんだろう……)
エレンは何かを感じ、小屋の窓から外を覗いた。いくら結界で護られてる森とはいえ、今は迂闊に外には出れない。ユリアーナがいるから余計だった。
だが、そこにいたのはホエールだった。
「ホエール!」
エレンは小屋の扉を開けると、ホエールはニコニコと笑いながら小屋の中に入って来た。
「久しぶり」
「もう平気か?」
「見ての通り」
両手を広げてみるホエールの身体は傷などない。
「ユリアーナは?」
「2階にいる」
「ユリアーナに土産」
エレンに渡したのはシーラの町で流行っている、女の子向けの洋服やアクセサリー。それを見たエレンは驚いてホエールを見上げた。
「これを……、あんたが?」
「悪いか」
プイッとそっぽを向いたホエールが可笑しくて、エレンはクスクス笑った。そしてそれをホエールに返すとにっこりと笑った。
「自分で渡しな」
そう言うとエレンは夕飯を作りに炊事場へと向かった。その姿を見て、困った顔をしたホエールは仕方なく2階へと上がった。
2階に上がり、手前の部屋はエレンの寝室。その向かいがホエールの部屋。そしてユリアーナは、エレンの隣の部屋だった。ホエールは、ユリアーナの部屋の扉をコンコンと叩いた。
「ユリアーナ?」
そう声をかけると扉が開いた。ユリアーナはホエールの顔を見ると、ぱぁ……と目を見開いた。
「ホエール!」
名前を呼んでホエールに抱きついたユリアーナ。そして顔を上げて「おかえりなさい!」と可愛らしい笑顔を向けた。その笑顔を見てホエールはなんとも言えない気持ちになった。
「いつ帰って来たの?」
「たった今」
「もう大丈夫?どこにも行かない?」
ユリアーナにとってホエールは一番身近な大人の男だった。父親代わりに思っているのだろう。
「もう大丈夫」
そう言うとしゃがみこみ、ユリアーナの目線と同じになった。
「心配したよ」
「すまぬ」
「でも良かった……っ!」
うっすらと涙を浮かべたユリアーナを抱き上げ、部屋の中へと入る。ベッドに腰掛けて、手にした袋を渡した。
「なに?」
袋を手にしたユリアーナは、それを広げた。
中から洋服3着。赤いリボンの髪飾りと子供向けのアクセサリー数点。
「ホエール?これ!」
「シーラの町で流行っているらしい」
「私に?」
「そうだ」
「ありがとう!」
再びホエールに抱きつくユリアーナは、嬉しくて仕方ないと、身体全体で表現していた。それが分かっているのか、ホエールは照れたように顔を真っ赤にしていた。
ホエールにとってもユリアーナは家族になっていた。
◇◇◇◇◇
「ふたり共」
ユリアーナの部屋の前で、エレンは声をかけた。ユリアーナとホエールは、部屋でずっと話し込んでいたのだった。
「エレン!見て!」
と、エレンに飛び付く勢いで袋を持って行く。
「ホエールがくれたの!」
「可愛いね」
「うん!」
嬉しそうに胸に抱くユリアーナがとても愛しい。
(魔女の私にそんな感情があるとは思わなかった)
そう思いながらユリアーナを見る。
「さ。夕飯が出来たよ」
エレンの言葉に頷くと、ベッドに袋を置いて3人で階下に下りていく。久しぶりに3人で囲む食卓が、なんだか暖かいと感じる。ユリアーナも嬉しそうだった。
夕食の後、ユリアーナはホエールに抱っこされながら話をしていた。そんなふたりを見ていて、気持ちが焦る。早くこれが日常になればいい。その為にはやっぱりあのフードを捜し出さなきゃいけない。強く強くそう思った。
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