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第2章
12
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それは前触れだったのかどうかは分からない。
噂には聞いていたことが起き出した。
暴走連合と敵対しているチームの名前。その名前をよく聞くようになった。
BLOOD TIGER
このチームは、黒龍傘下のBAD BLOODから分かれたチーム。アキラの2代前のリーダーが、今のBLOOD TIGERのリーダーである、マサシを追放したのが始まり。
当時のBBは、ナンバー1とナンバー2との派閥があって、ナンバー2だったレンとナンバー1のマサシとが抗争を始めたらしい。
結果、レンが勝ってマサシはBLOOD TIGERを作った。
そしてレンがBBのリーダーになった。
そんな話を繁華街のあちこちで聞くようになった。何年か前の話なのに、何故今になってそんな話が繁華街でもちきりになっているのかって……。
「だから、俺聞いたんすよ!」
倉庫に来ては浩介が興奮気味で話す。
「BLOOD TIGERが黒龍狙ってるって!」
駿壱に熱心に話す浩介。
「それに見たってヤツもいんすよ。BLOOD TIGERの特攻服」
浩介は見たって人の話を、一生懸命にしていた。
「コウ。俺達がBTに負けるとでも思ってんのか」
良樹は読んでた雑誌から目を離し、浩介に凄む。そんな良樹を見て、浩介は首を横に振る。
「そんなこと、ないです。ただ……、いい話聞かないから」
いい話……じゃないのは知ってる。
繁華街に現れたBT。
その下っ端がその辺りににいた女の子を、連れ込んでヤっちゃったとか。薬を流してるのもそこからだとか。
そういう悪い噂が多く流れている。
だから最近、理菜も亜紀も繁華街に近寄らない。良樹たちがいないところでは近寄らない。
「確かにな。BTはヤバイ相手だ。けどな、俺達は負けねぇ。ま、今のところ喧嘩する予定なんかねぇけどな」
良樹は浩介にそう言った。そう言い切ったから、浩介も何も言えなかった。
◆◆◆◆◆
「ねぇ」
「ん」
「ほんとに喧嘩しない?」
「しねぇ」
「ほんとに?」
「ああ」
その言葉を聞いて理菜は安心する。良樹や駿壱が怪我するのを見たくないと、思っていた。
「心配すんな」
耳元でそう言われて理菜は「うん」と頷いた。
「そこ、イチャつくな。ムカツクから」
目の前のソファに座ってる駿壱が、そう言っては睨んでいた。
駿壱はいつもこうだ。
理菜と良樹が付き合ってるって話をしても、どうしてこう一緒にいると睨んでくるのか分からない。
自分だって百合と付き合ってんだからと、理菜は駿壱を睨む。
そんな理菜を見て良樹と一樹は、クスクスと笑っていた。
何がそんなに楽しいのか、笑ってるふたりを見て理菜は脹れていた。
「なに脹れてんの」
そしてやっぱり笑う。
この双子って不思議だ。仲がいいのか悪いのか分からない。
同じ顔してるのに、なんか違う。
性格的なもんも違うからなのか、髪の色が違うからなのか。
ふたりは双子見えない時がある。
「リナってさー……」
目の前のソファに座って、ビールを飲んでいる一樹が理菜を見て言う。
「黙ってりゃ、俺らとタメっぽいよな」
「へ?」
「でもそうやってんとやっぱガキだよなぁ」
「なにそれ」
理菜は一樹に目を向ける。
「自分で気付いてねぇ?お前、しゃべらなきゃ年上に見えんだよ」
「え」
「だからヨシキと並んでたって誰もヘンに見えねー」
ニコニコと笑う一樹の言葉が、ちょっと嬉しかった。
理菜はいつも考えていたことだった。こんな年下の子と付き合って、周りになんか言われないかな……て。
でも一樹がそう言ってくれて嬉しかった。
「カズキ。リナを調子に乗せるな」
駿壱がそう釘を刺す。
「なんだよ、ほんとの事だろ。お前だってそう思ってんじゃねぇのか」
一樹の言葉に駿壱は黙る。
「ハーフだからそう見えるのは当たり前だろ」
駿壱はぼそっと言う。
「……でもガキだからな。リナは」
不貞腐れた駿壱は立ち上がった。そして「バイクの整備」と言って、部屋を出て行った。
1階では浩介が黒龍の面子と一緒にバイクを弄っているらしく、楽し気が声が響いていた。
その中に駿壱が入っていくもんだから、浩介のテンション高い声が2階の部屋まで届く。
「コウ、ほんとに嬉しそうだ」
ポツリと呟くように言うと、良樹が理菜の頭に手を置いて笑う。
「しかし、アイツはどこで聞いてきたんだろうな」
「え」
「BTのこと」
良樹は遠くを見るように考え込んでいた。その顔は真剣な目をしていた。
「BTってそんなにヤバイの?」
理菜はにそう聞いた。
その答えを言ったのは良樹ではなくて、一樹だった。
「ヤバイどころじゃねぇよ」
缶ビールをテーブルに置いて、テーブルに置いてあった煙草を咥えて火をつけた。
いつも楽し気に話す一樹の目も真剣で、冗談言ったりするあの一樹がそんな目をするから、余程ヤバイ相手なんだろうなって想像出来た。
「BTってね、俺ら黒龍が禁止にしてること全てを合法的に許してんだ」
「禁止?」
「ああ。暴走連合ってね、薬とかシンナーって絶対禁止なんだよね。で、基本、喧嘩も禁止。必然的に女を連れ込んでヤっちゃうってのも禁止。ただ俺らは走るのだけが楽しくてツルんでるって感じなんだ」
煙草の煙を吐き出すと、目線を落とした。
「でもBTってのは、それを禁止にはしてなくてさ。自分がよけりゃなんでもいいって考え。だから俺らとは対立してんの」
一樹が話してくれたことは、世間一般的にはやっちゃいけないことっていうものばかり。
暴走だって、ほんとはやっちゃいけない。
だけどただバイクや車が好きで走ってるだけの集団と、なんでもありの集団は違うって言いたいのかもしれない。
「そりゃ、世間からしたら俺らもBTも変わらねーけどな」
煙草を口に咥えた良樹がそう呟いた。
◆◆◆◆◆
BLOOD TIGERから警告が来たのは、それから数日経ってからだった。
その日は良樹が学校にまで車で迎えに来てくれた。
正門の前に黒塗りの車があってびっくりしたけど、その前に立つ良樹の姿になんだかほっとした。
校庭では部活をやってる生徒や指導している先生がいた。職員室から先生たちが出てきて理菜に怒鳴っていた。
そんな声を無視して、理菜は良樹と一緒に車に乗り込んだ。
「今日はどうしたの?」
理菜はそう聞くと、良樹は難しい顔をして前を向いていた。運転手の人と何やら目で会話をしていた。
そんな行動に不安になる。でも理菜が聞くようなことじゃないのかもしれない。
「今日、学校でなんかあったか?」
不安な顔をしているのに気付いたんだろう。良樹がそう声をかけてきた。
「なにもない」
そう首を横に振りながらそう答えた理菜に、安心したような顔を向ける。
(やっぱりなんかある)
そう感じてしまった。だけどそれ以上言葉を発することが出来なかった。
聞いちゃいけないって思った。
そんな理菜にもちゃんと気付くのはこの人。
理菜の手を握っていてくれた。不安にならないように。
でも、一度不安になるとそれは止めることなど出来ない。
窓の外に視線を向けて、良樹に顔色を見られないようにしていた。
その時、理菜の目に映ったのは数台のバイク。それも改造したバイク。いかにも暴走族やってますっていうバイク。
「……っ!ヨシキさんっ!」
そう叫ぶのとバイクが突っ込んで来るのとは、ほぼ同時だった。
ドンッ……!
何かが車にぶつかる音がして、車内に衝撃が走った。車体が揺れた衝撃で、理菜は助手席のシートに頭をぶつけてしまった。
ドカッ……!
ドンッ……!
バキッ……!
また車体が揺れ、それと同時に理菜は良樹に抱きしめられた。
目の前にあるのは良樹の胸。大きな手が、理菜をしっかりと支えるように強く抱きしめていた。
「ちっ」
良樹と運転手の舌打ちが耳に聞こえ、運転手が後ろに声をかけた。
「どうします?」
「女が乗ってんだ。このまま行け」
「はい」
低い声が耳に入り、理菜は怖くなった。
◆◆◆◆◆
「ヨシキ!」
倉庫に着いた時、理菜は脱力感で疲れ果てていた。
しっかりと良樹に抱きかかえられ車から降りた理菜に、駿壱が走って来た。
「リナ。平気か?」
理菜の顔を覗き込んでいたけど、理菜は良樹から離れようとはしなかった。そんな理菜を気遣ってか、良樹は理菜を連れて倉庫の2階へと向かった。
「連絡あってびっくりしたぞ」
2階の部屋。
ソファーに座り、まだガタガタと震えている理菜をしっかりと抱いたままの良樹。
その良樹に話をしている駿壱と一樹。
「お前がリナを迎えに行った日に限ってこうだ」
何ともいえない声で駿壱が言う。
自分がここへ来なきゃ良かったみたいだ。そう思っていてもその言葉が出てこない。
「シュン。話は後でだ」
そう言うと、震える理菜の身体をもう一度しっかりと抱き寄せてきた。
「リナ。もう平気だ」
落ち着いた声を出す良樹。背中を擦って、理菜を落ち着かせようとしていた。
暫く抱きかかえられていた理菜は、良樹んの心臓の音と体温、そして香りによって落ち着きを取り戻していた。
理菜の顔を覗いて、「もう平気だ」と言ってキスをする。
「お前な……」
その不機嫌な声に、理菜は顔を真っ赤にした。
ソファーに座った駿壱が、こっちを見て苛々を募らせていた。
「リナに何しやがった」
その声は低く怖い。
その声はあの人を思い出してしまう。
そんな理菜に気付いて、駿壱は黙った。
「ヨシキ。付き合いは認めたがよぉ。そういうのは俺のいないところでやれ」
煙草に火をつけて、大きく吸い込む。その様子が、不機嫌丸出しの状態だって分かった。
「お前だって姉貴とすんだろうが」
眉を歪めて言う良樹は、理菜から身体を離そうとはしなかった。そんな良樹を見てため息を吐く駿壱。
「で、一体何があったんだ」
話を変えて来た。
その駿壱の言葉に、良樹が真剣な目を向けていた。
「メットしたヤツらだった」
ゆっくりと話し出した良樹の声を、しっかりと聞くように駿壱は良樹から目を離さなかった。
「バイクは5台。ナンバーは外してあった。5台のバイクのヤツらが、鉄パイプ持ってた。そのバイクにBTのステッカーが貼ってあった」
あの時間、良樹はそこまで見ていたなんて思わなかった。
車内で感じた衝撃は、鉄パイプで殴られたもの。
あの時、理菜は怖さで必死で良樹にしがみ付くのが精一杯で、どんなヤツかなんて見る余裕はなかった。
だから、凄いと思った。
あの短時間でそこまで見ていたなんて……。
「メットしてたから、どんなヤツかなんてまでは分かねー」
理菜から少し身体を離して、煙草に火をつける。それはもう苛々を解消させるかのようだった。
「BTかぁ……」
ポツリと呟いて、駿壱は思いつめた顔をしていた。
「やっぱ、避けられねーのか」
「避けてぇな」
ふたりの会話は、抗争を起すと言ってるようだった。
「避けたいのは山々だが……。無理もねぇな」
ポツリと独り言のように言う良樹。
黒龍とBTの間では何か起こったワケじゃない。でもなんで黒龍を襲ったのか分からなかった。
「なんで……?」
良樹を見上げる理菜は、恐る恐る声を発した。
「なんでこんなこと……」
「BTは、暴走連合のトップ狙ってんだ」
──暴走連合のトップを……?
──なんで?
──なんでそんなこと……。
理菜の頭の中は混乱していた。襲われたってのもそうだけど、良樹も駿壱も当たり前の顔して話していることに、違和感を覚えていた。
「リナ」
理菜の目を見た良樹は、頭を撫でた。
「俺はお前を守るから」
その言葉に理菜は頷くしかなかった。
噂には聞いていたことが起き出した。
暴走連合と敵対しているチームの名前。その名前をよく聞くようになった。
BLOOD TIGER
このチームは、黒龍傘下のBAD BLOODから分かれたチーム。アキラの2代前のリーダーが、今のBLOOD TIGERのリーダーである、マサシを追放したのが始まり。
当時のBBは、ナンバー1とナンバー2との派閥があって、ナンバー2だったレンとナンバー1のマサシとが抗争を始めたらしい。
結果、レンが勝ってマサシはBLOOD TIGERを作った。
そしてレンがBBのリーダーになった。
そんな話を繁華街のあちこちで聞くようになった。何年か前の話なのに、何故今になってそんな話が繁華街でもちきりになっているのかって……。
「だから、俺聞いたんすよ!」
倉庫に来ては浩介が興奮気味で話す。
「BLOOD TIGERが黒龍狙ってるって!」
駿壱に熱心に話す浩介。
「それに見たってヤツもいんすよ。BLOOD TIGERの特攻服」
浩介は見たって人の話を、一生懸命にしていた。
「コウ。俺達がBTに負けるとでも思ってんのか」
良樹は読んでた雑誌から目を離し、浩介に凄む。そんな良樹を見て、浩介は首を横に振る。
「そんなこと、ないです。ただ……、いい話聞かないから」
いい話……じゃないのは知ってる。
繁華街に現れたBT。
その下っ端がその辺りににいた女の子を、連れ込んでヤっちゃったとか。薬を流してるのもそこからだとか。
そういう悪い噂が多く流れている。
だから最近、理菜も亜紀も繁華街に近寄らない。良樹たちがいないところでは近寄らない。
「確かにな。BTはヤバイ相手だ。けどな、俺達は負けねぇ。ま、今のところ喧嘩する予定なんかねぇけどな」
良樹は浩介にそう言った。そう言い切ったから、浩介も何も言えなかった。
◆◆◆◆◆
「ねぇ」
「ん」
「ほんとに喧嘩しない?」
「しねぇ」
「ほんとに?」
「ああ」
その言葉を聞いて理菜は安心する。良樹や駿壱が怪我するのを見たくないと、思っていた。
「心配すんな」
耳元でそう言われて理菜は「うん」と頷いた。
「そこ、イチャつくな。ムカツクから」
目の前のソファに座ってる駿壱が、そう言っては睨んでいた。
駿壱はいつもこうだ。
理菜と良樹が付き合ってるって話をしても、どうしてこう一緒にいると睨んでくるのか分からない。
自分だって百合と付き合ってんだからと、理菜は駿壱を睨む。
そんな理菜を見て良樹と一樹は、クスクスと笑っていた。
何がそんなに楽しいのか、笑ってるふたりを見て理菜は脹れていた。
「なに脹れてんの」
そしてやっぱり笑う。
この双子って不思議だ。仲がいいのか悪いのか分からない。
同じ顔してるのに、なんか違う。
性格的なもんも違うからなのか、髪の色が違うからなのか。
ふたりは双子見えない時がある。
「リナってさー……」
目の前のソファに座って、ビールを飲んでいる一樹が理菜を見て言う。
「黙ってりゃ、俺らとタメっぽいよな」
「へ?」
「でもそうやってんとやっぱガキだよなぁ」
「なにそれ」
理菜は一樹に目を向ける。
「自分で気付いてねぇ?お前、しゃべらなきゃ年上に見えんだよ」
「え」
「だからヨシキと並んでたって誰もヘンに見えねー」
ニコニコと笑う一樹の言葉が、ちょっと嬉しかった。
理菜はいつも考えていたことだった。こんな年下の子と付き合って、周りになんか言われないかな……て。
でも一樹がそう言ってくれて嬉しかった。
「カズキ。リナを調子に乗せるな」
駿壱がそう釘を刺す。
「なんだよ、ほんとの事だろ。お前だってそう思ってんじゃねぇのか」
一樹の言葉に駿壱は黙る。
「ハーフだからそう見えるのは当たり前だろ」
駿壱はぼそっと言う。
「……でもガキだからな。リナは」
不貞腐れた駿壱は立ち上がった。そして「バイクの整備」と言って、部屋を出て行った。
1階では浩介が黒龍の面子と一緒にバイクを弄っているらしく、楽し気が声が響いていた。
その中に駿壱が入っていくもんだから、浩介のテンション高い声が2階の部屋まで届く。
「コウ、ほんとに嬉しそうだ」
ポツリと呟くように言うと、良樹が理菜の頭に手を置いて笑う。
「しかし、アイツはどこで聞いてきたんだろうな」
「え」
「BTのこと」
良樹は遠くを見るように考え込んでいた。その顔は真剣な目をしていた。
「BTってそんなにヤバイの?」
理菜はにそう聞いた。
その答えを言ったのは良樹ではなくて、一樹だった。
「ヤバイどころじゃねぇよ」
缶ビールをテーブルに置いて、テーブルに置いてあった煙草を咥えて火をつけた。
いつも楽し気に話す一樹の目も真剣で、冗談言ったりするあの一樹がそんな目をするから、余程ヤバイ相手なんだろうなって想像出来た。
「BTってね、俺ら黒龍が禁止にしてること全てを合法的に許してんだ」
「禁止?」
「ああ。暴走連合ってね、薬とかシンナーって絶対禁止なんだよね。で、基本、喧嘩も禁止。必然的に女を連れ込んでヤっちゃうってのも禁止。ただ俺らは走るのだけが楽しくてツルんでるって感じなんだ」
煙草の煙を吐き出すと、目線を落とした。
「でもBTってのは、それを禁止にはしてなくてさ。自分がよけりゃなんでもいいって考え。だから俺らとは対立してんの」
一樹が話してくれたことは、世間一般的にはやっちゃいけないことっていうものばかり。
暴走だって、ほんとはやっちゃいけない。
だけどただバイクや車が好きで走ってるだけの集団と、なんでもありの集団は違うって言いたいのかもしれない。
「そりゃ、世間からしたら俺らもBTも変わらねーけどな」
煙草を口に咥えた良樹がそう呟いた。
◆◆◆◆◆
BLOOD TIGERから警告が来たのは、それから数日経ってからだった。
その日は良樹が学校にまで車で迎えに来てくれた。
正門の前に黒塗りの車があってびっくりしたけど、その前に立つ良樹の姿になんだかほっとした。
校庭では部活をやってる生徒や指導している先生がいた。職員室から先生たちが出てきて理菜に怒鳴っていた。
そんな声を無視して、理菜は良樹と一緒に車に乗り込んだ。
「今日はどうしたの?」
理菜はそう聞くと、良樹は難しい顔をして前を向いていた。運転手の人と何やら目で会話をしていた。
そんな行動に不安になる。でも理菜が聞くようなことじゃないのかもしれない。
「今日、学校でなんかあったか?」
不安な顔をしているのに気付いたんだろう。良樹がそう声をかけてきた。
「なにもない」
そう首を横に振りながらそう答えた理菜に、安心したような顔を向ける。
(やっぱりなんかある)
そう感じてしまった。だけどそれ以上言葉を発することが出来なかった。
聞いちゃいけないって思った。
そんな理菜にもちゃんと気付くのはこの人。
理菜の手を握っていてくれた。不安にならないように。
でも、一度不安になるとそれは止めることなど出来ない。
窓の外に視線を向けて、良樹に顔色を見られないようにしていた。
その時、理菜の目に映ったのは数台のバイク。それも改造したバイク。いかにも暴走族やってますっていうバイク。
「……っ!ヨシキさんっ!」
そう叫ぶのとバイクが突っ込んで来るのとは、ほぼ同時だった。
ドンッ……!
何かが車にぶつかる音がして、車内に衝撃が走った。車体が揺れた衝撃で、理菜は助手席のシートに頭をぶつけてしまった。
ドカッ……!
ドンッ……!
バキッ……!
また車体が揺れ、それと同時に理菜は良樹に抱きしめられた。
目の前にあるのは良樹の胸。大きな手が、理菜をしっかりと支えるように強く抱きしめていた。
「ちっ」
良樹と運転手の舌打ちが耳に聞こえ、運転手が後ろに声をかけた。
「どうします?」
「女が乗ってんだ。このまま行け」
「はい」
低い声が耳に入り、理菜は怖くなった。
◆◆◆◆◆
「ヨシキ!」
倉庫に着いた時、理菜は脱力感で疲れ果てていた。
しっかりと良樹に抱きかかえられ車から降りた理菜に、駿壱が走って来た。
「リナ。平気か?」
理菜の顔を覗き込んでいたけど、理菜は良樹から離れようとはしなかった。そんな理菜を気遣ってか、良樹は理菜を連れて倉庫の2階へと向かった。
「連絡あってびっくりしたぞ」
2階の部屋。
ソファーに座り、まだガタガタと震えている理菜をしっかりと抱いたままの良樹。
その良樹に話をしている駿壱と一樹。
「お前がリナを迎えに行った日に限ってこうだ」
何ともいえない声で駿壱が言う。
自分がここへ来なきゃ良かったみたいだ。そう思っていてもその言葉が出てこない。
「シュン。話は後でだ」
そう言うと、震える理菜の身体をもう一度しっかりと抱き寄せてきた。
「リナ。もう平気だ」
落ち着いた声を出す良樹。背中を擦って、理菜を落ち着かせようとしていた。
暫く抱きかかえられていた理菜は、良樹んの心臓の音と体温、そして香りによって落ち着きを取り戻していた。
理菜の顔を覗いて、「もう平気だ」と言ってキスをする。
「お前な……」
その不機嫌な声に、理菜は顔を真っ赤にした。
ソファーに座った駿壱が、こっちを見て苛々を募らせていた。
「リナに何しやがった」
その声は低く怖い。
その声はあの人を思い出してしまう。
そんな理菜に気付いて、駿壱は黙った。
「ヨシキ。付き合いは認めたがよぉ。そういうのは俺のいないところでやれ」
煙草に火をつけて、大きく吸い込む。その様子が、不機嫌丸出しの状態だって分かった。
「お前だって姉貴とすんだろうが」
眉を歪めて言う良樹は、理菜から身体を離そうとはしなかった。そんな良樹を見てため息を吐く駿壱。
「で、一体何があったんだ」
話を変えて来た。
その駿壱の言葉に、良樹が真剣な目を向けていた。
「メットしたヤツらだった」
ゆっくりと話し出した良樹の声を、しっかりと聞くように駿壱は良樹から目を離さなかった。
「バイクは5台。ナンバーは外してあった。5台のバイクのヤツらが、鉄パイプ持ってた。そのバイクにBTのステッカーが貼ってあった」
あの時間、良樹はそこまで見ていたなんて思わなかった。
車内で感じた衝撃は、鉄パイプで殴られたもの。
あの時、理菜は怖さで必死で良樹にしがみ付くのが精一杯で、どんなヤツかなんて見る余裕はなかった。
だから、凄いと思った。
あの短時間でそこまで見ていたなんて……。
「メットしてたから、どんなヤツかなんてまでは分かねー」
理菜から少し身体を離して、煙草に火をつける。それはもう苛々を解消させるかのようだった。
「BTかぁ……」
ポツリと呟いて、駿壱は思いつめた顔をしていた。
「やっぱ、避けられねーのか」
「避けてぇな」
ふたりの会話は、抗争を起すと言ってるようだった。
「避けたいのは山々だが……。無理もねぇな」
ポツリと独り言のように言う良樹。
黒龍とBTの間では何か起こったワケじゃない。でもなんで黒龍を襲ったのか分からなかった。
「なんで……?」
良樹を見上げる理菜は、恐る恐る声を発した。
「なんでこんなこと……」
「BTは、暴走連合のトップ狙ってんだ」
──暴走連合のトップを……?
──なんで?
──なんでそんなこと……。
理菜の頭の中は混乱していた。襲われたってのもそうだけど、良樹も駿壱も当たり前の顔して話していることに、違和感を覚えていた。
「リナ」
理菜の目を見た良樹は、頭を撫でた。
「俺はお前を守るから」
その言葉に理菜は頷くしかなかった。
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