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第2章
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あの日、駿壱に話したことによって、少し胸の中に引っかかっていたものが取れた気がした。
でも駿壱はいつも不貞腐れていて、それを良樹に話したら「心配してんだよ」と笑っていた。
亜紀には次の日、学校の屋上で話したら「良かったね!」と大喜びで抱きついてきた。
そんな理菜と亜紀を、ニコニコと笑いながら大熊は見ていた。
「大熊先輩は知ってました?」
なんて亜紀が大熊に振っていた。
大熊はニコッと笑って「気付いてた」と言った。
それに対して「知らなかったの、俺だけ」と不機嫌モードになったのは浩介だった。
何がそんな不機嫌になることなのか分からないでいた理菜は、浩介のその不機嫌を放っておいた。
「あ。次授業なんだっけ」
浩介が屋上からグラウンドを見ながら言った。
「うちのクラスは現国だよ」
「あたしのとこは体育だってさ。体育祭のダンスの候補やるんだと」
「うちの学校の体育祭、盛り上がるらしいしな」
「アキのクラスは陸上部多いからいいよな」
「そうなの?陸上部多かったっけ?」
惚けたアキの言葉に笑う。
こんな時間が楽しくて仕方ない。こんな時間が続けばいい。
理菜はいつも願ってる。
その日は珍しく授業に出ることにした。授業の半分は終わった頃に、理菜は浩介と入って行く。
その姿を、他のクラスメイトたちはジロジロと見ていた。
現国の先生がこっちを見て「もう授業は始まってるんですよ!」と、大声で叫んだ。
それでも理菜と浩介は、その言葉を聞かずに自分の席に座って机に突っ伏した。
授業に出ても結局はこうだった。
授業なんか聞くことはない。
でも浩介は、体育だけはサボらずに出てる。理菜は面倒だからといって、3回に2回はサボってる。
そんな理菜たちを、先生たちがマークしないわけない。
他のクラスの不良達もマークされているけど、理菜と浩介と亜紀は、それ以上にマークされていた。
それは先生たちだけじゃなくて、不良の先輩たちもそうだった。大熊が警告してくれていたとしても、それが収まることはなかった。
教室の窓から外を見ては今の置かれてる自分が、嘘みたいに思えてくる。まさか自分が、こんな風になるなんて思わなかった。駿壱と同じ道を辿るなんて思わなかった。
あの日のあの事件は、理菜を大きく変えた。それが良かったことなのか、悪かったことなのかは分からない。
だけど、たったひとつ言えることはあれば宿命とも運命とも言えることだったのかもしれない。
あの日のあの事件がなかったら、理菜は良樹に会うことはなかったんだろうから。
あの日あの繁華街へ向かわなきゃ、あの事件は起きなかった。
それを考えると不思議だ。
それを考えるとなんて皮肉な運命なのだろうと思った。
1学期の噂は今だ学校内に根付いている。
理菜がレイプされたこと。
それがまだ噂されていて、擦れ違い様に囁かれるイヤな言葉。
「ヤらせて」
その言葉が理菜を苦しめてる。
気にする事はないけど、心の奥で苦しめてる。
だからって顔に出す事はしない。
◆◆◆◆◆
「どうしてそんなにヤりたいんだか」
屋上でため息を吐きながら理菜は言った。
その神経が分からない。
何がいいのかさっぱり分からない。
「何がだよ」
浩介が理菜の言葉に反応した。
「セックス」
理菜は照れもしないでそう言った。
そんな理菜に浩介は驚いてこっちを振り返った。
「お前……っ!」
顔を真っ赤にして言う浩介は、まだまだ純情だったらしい。
「男子と擦れ違う度に言われんだよ」
理菜は浩介にそう言っていた。
「言われる?」
「ヤらせてって」
「はぁ!?んなこと言われてんのかッ!」
そんな浩介の叫び声に答えることなくあたしは呟いた。
「ワケ分かんない。何がそんなにヤりたいんだか……」
そんな行為をシたい理由が、理菜には分からない。
理菜はそれをシたいとは思わない。
「お前、ヨシキさんとは……?」
浩介は遠慮がちに聞いてきた。
「え」
「シたこと、ねーのか?」
こっちを見る事もなく言ってくる。
理菜と良樹は、まだそういう行為をしたことがない。理菜のことを思って、良樹はそういうことをしてこないのかもしれない。
「なんでコウに言わなきゃいけねぇんだよ」
「そうだけどさ……。ワケ分かんないっつうからさ」
顔を真っ赤にして言う浩介。
そんな浩介を理菜は男として見てないんだと思った。だから言えたんだろう。
「ない」って。
その答えに浩介は驚いていたけど。
「夏前から付き合ってて、なんもねぇのか!?」
その声は学校中に響き渡ったんじゃないかってくらい大きくて、理菜はキッと浩介を睨んだ。
「気にしてんじゃねぇの」
「何が」
「あたしのこと」
それだけ言って、浩介は何のことを言ってるのか理解したようで黙った。
「レイプされた女なんて面倒じゃないのかな」
呟くように言ったその言葉を、浩介は聞き逃さなかった。そして理菜に言った。
「んなの、関係ねぇよ」
その言葉が嬉しかった。
関係ないって言ってくれたことが嬉しかった。
噂がまだ学校に根付いているってことは、駿壱にも良樹にも話していない。話せない。
もしかしたら知ってるのかもしれないが、話せる筈がない。
なのに、なぜか浩介には話していた。
「コウ」
理菜は浩介に視線を向けた。
浩介はまだ顔を真っ赤にしたままだった。
「この話、誰にもするなよ」
「……言えるか」
そう答えてくれたので安心した。
噂如きで、駿壱たちが動くのは後々面倒だと思った。
絶対、また黒龍の面子を連れて学校まで繰り出すかと思ったらウンザリする。
だから口止めしておくべきだと思ったんだ。
「ごめん……」
浩介にそう言うと笑顔を向けてやった。
「その笑顔、気色悪ぃ……」
ウンザリとしたその声が耳に焼きついた。
でも駿壱はいつも不貞腐れていて、それを良樹に話したら「心配してんだよ」と笑っていた。
亜紀には次の日、学校の屋上で話したら「良かったね!」と大喜びで抱きついてきた。
そんな理菜と亜紀を、ニコニコと笑いながら大熊は見ていた。
「大熊先輩は知ってました?」
なんて亜紀が大熊に振っていた。
大熊はニコッと笑って「気付いてた」と言った。
それに対して「知らなかったの、俺だけ」と不機嫌モードになったのは浩介だった。
何がそんな不機嫌になることなのか分からないでいた理菜は、浩介のその不機嫌を放っておいた。
「あ。次授業なんだっけ」
浩介が屋上からグラウンドを見ながら言った。
「うちのクラスは現国だよ」
「あたしのとこは体育だってさ。体育祭のダンスの候補やるんだと」
「うちの学校の体育祭、盛り上がるらしいしな」
「アキのクラスは陸上部多いからいいよな」
「そうなの?陸上部多かったっけ?」
惚けたアキの言葉に笑う。
こんな時間が楽しくて仕方ない。こんな時間が続けばいい。
理菜はいつも願ってる。
その日は珍しく授業に出ることにした。授業の半分は終わった頃に、理菜は浩介と入って行く。
その姿を、他のクラスメイトたちはジロジロと見ていた。
現国の先生がこっちを見て「もう授業は始まってるんですよ!」と、大声で叫んだ。
それでも理菜と浩介は、その言葉を聞かずに自分の席に座って机に突っ伏した。
授業に出ても結局はこうだった。
授業なんか聞くことはない。
でも浩介は、体育だけはサボらずに出てる。理菜は面倒だからといって、3回に2回はサボってる。
そんな理菜たちを、先生たちがマークしないわけない。
他のクラスの不良達もマークされているけど、理菜と浩介と亜紀は、それ以上にマークされていた。
それは先生たちだけじゃなくて、不良の先輩たちもそうだった。大熊が警告してくれていたとしても、それが収まることはなかった。
教室の窓から外を見ては今の置かれてる自分が、嘘みたいに思えてくる。まさか自分が、こんな風になるなんて思わなかった。駿壱と同じ道を辿るなんて思わなかった。
あの日のあの事件は、理菜を大きく変えた。それが良かったことなのか、悪かったことなのかは分からない。
だけど、たったひとつ言えることはあれば宿命とも運命とも言えることだったのかもしれない。
あの日のあの事件がなかったら、理菜は良樹に会うことはなかったんだろうから。
あの日あの繁華街へ向かわなきゃ、あの事件は起きなかった。
それを考えると不思議だ。
それを考えるとなんて皮肉な運命なのだろうと思った。
1学期の噂は今だ学校内に根付いている。
理菜がレイプされたこと。
それがまだ噂されていて、擦れ違い様に囁かれるイヤな言葉。
「ヤらせて」
その言葉が理菜を苦しめてる。
気にする事はないけど、心の奥で苦しめてる。
だからって顔に出す事はしない。
◆◆◆◆◆
「どうしてそんなにヤりたいんだか」
屋上でため息を吐きながら理菜は言った。
その神経が分からない。
何がいいのかさっぱり分からない。
「何がだよ」
浩介が理菜の言葉に反応した。
「セックス」
理菜は照れもしないでそう言った。
そんな理菜に浩介は驚いてこっちを振り返った。
「お前……っ!」
顔を真っ赤にして言う浩介は、まだまだ純情だったらしい。
「男子と擦れ違う度に言われんだよ」
理菜は浩介にそう言っていた。
「言われる?」
「ヤらせてって」
「はぁ!?んなこと言われてんのかッ!」
そんな浩介の叫び声に答えることなくあたしは呟いた。
「ワケ分かんない。何がそんなにヤりたいんだか……」
そんな行為をシたい理由が、理菜には分からない。
理菜はそれをシたいとは思わない。
「お前、ヨシキさんとは……?」
浩介は遠慮がちに聞いてきた。
「え」
「シたこと、ねーのか?」
こっちを見る事もなく言ってくる。
理菜と良樹は、まだそういう行為をしたことがない。理菜のことを思って、良樹はそういうことをしてこないのかもしれない。
「なんでコウに言わなきゃいけねぇんだよ」
「そうだけどさ……。ワケ分かんないっつうからさ」
顔を真っ赤にして言う浩介。
そんな浩介を理菜は男として見てないんだと思った。だから言えたんだろう。
「ない」って。
その答えに浩介は驚いていたけど。
「夏前から付き合ってて、なんもねぇのか!?」
その声は学校中に響き渡ったんじゃないかってくらい大きくて、理菜はキッと浩介を睨んだ。
「気にしてんじゃねぇの」
「何が」
「あたしのこと」
それだけ言って、浩介は何のことを言ってるのか理解したようで黙った。
「レイプされた女なんて面倒じゃないのかな」
呟くように言ったその言葉を、浩介は聞き逃さなかった。そして理菜に言った。
「んなの、関係ねぇよ」
その言葉が嬉しかった。
関係ないって言ってくれたことが嬉しかった。
噂がまだ学校に根付いているってことは、駿壱にも良樹にも話していない。話せない。
もしかしたら知ってるのかもしれないが、話せる筈がない。
なのに、なぜか浩介には話していた。
「コウ」
理菜は浩介に視線を向けた。
浩介はまだ顔を真っ赤にしたままだった。
「この話、誰にもするなよ」
「……言えるか」
そう答えてくれたので安心した。
噂如きで、駿壱たちが動くのは後々面倒だと思った。
絶対、また黒龍の面子を連れて学校まで繰り出すかと思ったらウンザリする。
だから口止めしておくべきだと思ったんだ。
「ごめん……」
浩介にそう言うと笑顔を向けてやった。
「その笑顔、気色悪ぃ……」
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