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第1章
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家に戻り、自分のベットに倒れこんだ。洋服はメチャメチャになって、髪だってグチャグチャな状態だった。
アイツらの前では泣かないようにしていたつもり。だけど泣かないってことは難しかったらしく、理菜は泣いていた。
頬には泣いた痕が残っていた。
「……っ……うっ………」
理菜は誰もいない家で泣いていた。声を押し殺して泣いていた。
──なんでこんなことになったのか分からない。
中学に上がって2度も理菜は輪姦された。どうしてこんな思いをしなきゃいけないんだろうってつくづく思った。
──どうしてあたしなんだろうって。
苦しい。
気持ち悪い。
吐き気がする。
何も出来ない自分に嫌気がさしていた。抵抗してもしきれなかった。恐怖はまだ残ってる。
──なんであたし、こんなことに……。
スマホの着信に気付いたのは0時を過ぎてからだった。何度も着信があったのに気付かないくらい、理菜は泣いていた。悔しくて悔しくて泣いていた。
『リナっ!』
スマホを取ると、駿壱の声が響いた。その声はとても安心出来る声。いつも何かあるとその声で宥めてくれていた。
「……兄…ちゃ……」
声にならない声でそう言っていた。苦しさで声にならない。
身体中の痛み。
心の痛み。
『今、どこだっ!?』
駿壱の慌てた声が響く。
『リナ!』
「………家。自分の…部屋……」
そう言うと、駿壱はほっと安心した声を出す。そして言った。
『今から帰る。家にずっといたんだろ?』
そう言う駿壱に、小さく「違う」って答えた。その答えに駿壱が生唾を飲むのが聞こえた。
『……お前、今日、こっちに……来たのか…?』
「……ちゃ……」
泣き声で言葉にならない。そんな理菜に気付かないわけない。
『泣くな。取りあえず、帰るからっ!』
ガチャっと通話が途切れた。スマホを投げて理菜はベットの上で震えていた。
◆◆◆◆◆
どのくらい経ったのだろう。玄関のドアが乱暴に開く音が聞こえて、それと同時にドタバタと階段を駆け上る音が聞こえた。
バンッ!
「リナ!」
ドアを開ける音と、理菜を呼ぶ声が同時だった。
理菜は目線だけをドアの方に向けた。そこには駿壱が呆然として立っていた。
「……ナ…」
微かにそう呼び、理菜に駆け寄る。グッタリとしている理菜を抱きかかえると、背中を擦る。
理菜は駿壱に身体を預けていた。
「リナ……」
駿壱は何が起こったのか、分かっているみたいだった。泣いていた理菜の頬に触れて、涙を拭ってくれていた。
「リナ…。守れなくてごめん…」
その言葉が痛くて。
『守らなくていい』って言った理菜に、無理やりでも『俺が守るんだから』って言えば良かったって、思ってることが分かってしまう。
そのくらい、駿壱はいつも理菜を守ってくれていた。
今回のことでまた駿壱に迷惑をかけてしまっていた。
もうそんなことをしたくないのに。
もう守られて生きていくのは嫌なのに。
──どうして強くはなれないの?
暫く駿壱は理菜を抱きかかえたままだった。理菜が落ち着くのを待っていたのかもしれない。
そして理菜に「着替えろ」と言って、立ち上がった。
「出かける」
「え」
「お前も一緒に来い」
理菜は出かけたくなんかなかった。でもひとりで家にもいられなかった。
理菜は着替えて、駿壱と一緒に家を出た。
駿壱のバイクの後ろに乗る。
「しっかり掴まってろ」
駿壱はそう言うと、バイクのスピードを上げた。余程急いでいるのか、いつも理菜を乗せてる時よりも、早いスピードだった。
力を緩めたら、落ちてしまうんじゃないかってくらい。
着いた先は、見覚えのある場所だった。それは良樹の家だった。
◆◆◆◆◆
「………だよ!」
部屋の中からは怒鳴り声が響く。
その声は一樹の声だって分かった。一樹が怒鳴ったのは見た事も聞いた事もなかった。
思わず身体をビクッって奮わせた。そんな理菜に気付いて駿壱は理菜の肩を抱いて、リビングに入って行く。
そこには良樹、一樹、百合がいた。
そして…。
真美もいた──…。
駿壱は真美を睨み付けて、理菜をソファーへ座らせる。その隣に駿壱は座り、理菜を抱きかかえてる。
「マミ!」
一樹はそう真美に怒鳴っていた。オレンジ色の真美の髪を掴んでいたのは百合だ。
真美の頬は赤く腫れ上がっていた。
「マミ。どういうことだぃ?」
普段の声色より低く、真美に凄む。
理菜はこの状況が分からなかった。何が起きているのか、分からなかった。
「あの掲示板、お前の仕業か?」
隣にいた駿壱が真美に言った。真美は駿壱に目を向けて、微かに笑った。
「笑ってんじゃねーよっ!」
百合はそう叫んで髪を掴んだまま、真美を床に蹴り飛ばした。
「あんた、何考えてるんだ?リナはシュンイチの妹だって忘れたかい?」
「……忘れてない。ちゃんと分かってる」
「だったらなんでこんなことっ!」
「目障りなんだよ、あんなガキ」
理菜を睨んで言う真美の目が怖かった。
その目で見られて理菜は身体を震わせていた。そんな理菜をしっかりと支えるように抱きかかえていた駿壱が、理菜から離れて真美のところに歩いて行った。
「マミ。知ってるよな」
低い、とても低い声だった。
今まで聞いたことのない、低い声。
「俺、リナにはメチャクチャ弱いんだよ。リナは俺の大事なもんだ。その大事なもんに手ぇ出すヤツは男だろうが女だろうが関係ねぇ。同じこと、してやろうか?」
真美の目の前にしゃがみ込んだ駿壱の言葉はとても怖かった。
「お前もリナと同じ思い……いや。それ以上の思いをしてもらおうか」
不気味に笑う駿壱の顔を見て、真美は騒ぎ出した。
「……めて!シュンくん、やめてっ!」
その声は悲痛だった。
「あたし、あんたの最初の女だよ。その女にそんな酷いこと出来るの?」
「……るせぇ。最初の女だろうが、最後の女だろうが、リナに手ぇ出すヤツは許せねぇ……」
ズキッとした。
駿壱の言葉が怖かった。
ソファーに座りながら震えてる理菜に、駿壱は気付いていない。
ただ、妹を傷つけたことによる報復をしようとしていた。
「シュンくんっ!」
その言葉は虚しく響いた。立ち上がった駿壱は真美の鳩尾に蹴りを入れていた。
「おい。ヨシキ」
良樹に振り向いた駿壱は、冷たい目で言った。
「お前の所為だからな」
「あ?」
「お前がちゃんとコイツと別れねーから、リナが巻き添えくったんだ」
良樹を睨んで、その睨みに良樹も睨み返していた。
「俺は別れるって言ったぞ」
「納得しねーのは分かりきってるだろ。俺ん時もそうだったしな」
「あん時も酷かったな」
一樹もそう言って、真美を見ていた。
その言葉は、彼らにしか分からない何かがあった。
理菜はその光景を見て分かったことはひとつだけ。
理菜が襲われたこと。
その首謀者は真美だったということ。
でも、理菜には理由が分からない。
それとあの掲示板の写真。
誰がどうやって……。
あの頃はまだ真美と理菜は出会っていなかった。良樹とも出会ってはいなかった。
その夜。駿壱たちは真美に散々罵声を上げて暴行して、そして後輩たちを数人呼んで真美を連れて行けと言った。
「こいつ、お前らの好きにしていい」
良樹の言葉に、後輩たちはニヤッと笑った。良樹の言葉に、真美はこの世のものとは思えないくらいの表情をした。
理菜はそれを見て、可哀相だとは思わなかった。理菜を襲うように言ったのはこの人で、学校に貼り紙をさせたのもこの人だって分かってしまったからだ。
真美が後輩たちに連れて行かれた後、駿壱は話してくれた。
今までのこと。
全部、真美が仕出かしたこと。
学校の掲示板に貼りだされた紙は、真美が後輩に言って貼らせたものらしかった。
そして駅の掲示板のあの写真。あれは偶然、理菜のレイプ写真を手に入れたらしい。
あの日。理菜が路地でレイプされていた時。
誰かが写真を撮っていたらしい。
それはあの3人の仲間らしくて、その男と真美は偶然にも出会って、その写真を手に入れたらしいとのこと。
そしてその写真と色々と文句を書かれた紙を、駅の掲示板に貼ったってこと。
そして理菜の携帯にかかって来た脅迫電話。理菜の番号を知ってるのは少ない。あれは百合のスマホからだそうだ。
百合とご飯を食べている時、途中で席を立った百合。テーブルに置いてある携帯を見て理菜の番号をメモしたらしい。そして頼んだ男たちに電話をかけさせていた。
何度も警告をしているのに、それを無視している理菜に腹を立てて襲ってっと、黒龍の下っ端に命令したらしい。
それがつい数時間前の出来事。理菜を襲ったヤツらは、事が終わると恐ろしくなったらしく、自ら駿壱のところへ出向いたらしい。
その頃、いつもなら倉庫にもういる筈の理菜がいないからイライラしていた駿壱が、話を聞いてそいつらをボコボコにした、と。
一樹も百合も交えて話してくれた。
ボコボコにした後、理菜に何度も電話しても繋がらない。
店に行ってみても理菜はいない。
亜紀たちも知らないと言っていたから、駿壱は大騒ぎして探していたらしい。
そしてそんな駿壱とは別に良樹は、真美を自分の家に呼び出して、どういう事なのか話をしていた。
でも良樹は自分からは何も言わず、ただ真美が本当のことを言うのを待っていたらしく、それに痺れを切らした一樹が怒鳴っていたところに理菜を連れた駿壱がここに着いた。
話を聞いて理菜は分からなかった。
なんでそんなことになったのか。
ことの流れは分かったけど、根本的な原因が分からなくて、理菜は駿壱の顔を見てるだけだった。
「マミは、本当にこいつに惚れてたんだよ」
駿壱は言った。
「アイツ、昔っからヨシキだったから。俺と付き合ったのだって、ヨシキが傍にいるからだ。それに俺が気付かないとでも思ってるのか、俺が別れるって言ったらアイツ大騒ぎして手首切りやがった」
思い出してムカついているのか眉間に皺を寄せる。
「アイツは執着心が強い。俺と別れたらヨシキの傍にいられなくなるって思ったんだろう。だから、ユリのところに行った。元々ユリとマミは同じ部の先輩後輩だからな」
理菜は黙って聞いていた。
駿壱の中学時代の話。
そんな話は今まで聞いたことがなかった。
駿壱と真美は中1の時、1ヶ月くらいの付き合ったらしい。
でもその1ヶ月で、真美の本当に好きなのは良樹だって気付いたらしく、別れた。
その後真美は百合と行動を共にして、良樹の傍にいることを選んだらしい。
それが随分と長く続き、高校1年の終わり頃に良樹と真美が付き合い出したってこと。
理菜は黙って聞いていた。
「だいたい、付き合い始めがダメなんだよ」
一樹は言った。
「酒に酔ってヤっちまうんだもんな」
良樹の顔を見て言う一樹。そんな一樹の顔を見ないで良樹は静かに答えた。
「覚えてねぇ…」
「うわっ。サイテー。お前、そのうち女に刺されるぞ」
「俺は刺されねー」
「どっかからそんな自信がくんだか…」
呆れた顔で良樹を見る一樹。そんなふたりを見て、理菜はなんか傷付いていた。
良樹の行動に、傷付いていた。
駿壱が前に言った言葉。それが蘇る。
『ヨシキだけは惚れるなよ』
その言葉の意味が少し分かった気がした。
アイツらの前では泣かないようにしていたつもり。だけど泣かないってことは難しかったらしく、理菜は泣いていた。
頬には泣いた痕が残っていた。
「……っ……うっ………」
理菜は誰もいない家で泣いていた。声を押し殺して泣いていた。
──なんでこんなことになったのか分からない。
中学に上がって2度も理菜は輪姦された。どうしてこんな思いをしなきゃいけないんだろうってつくづく思った。
──どうしてあたしなんだろうって。
苦しい。
気持ち悪い。
吐き気がする。
何も出来ない自分に嫌気がさしていた。抵抗してもしきれなかった。恐怖はまだ残ってる。
──なんであたし、こんなことに……。
スマホの着信に気付いたのは0時を過ぎてからだった。何度も着信があったのに気付かないくらい、理菜は泣いていた。悔しくて悔しくて泣いていた。
『リナっ!』
スマホを取ると、駿壱の声が響いた。その声はとても安心出来る声。いつも何かあるとその声で宥めてくれていた。
「……兄…ちゃ……」
声にならない声でそう言っていた。苦しさで声にならない。
身体中の痛み。
心の痛み。
『今、どこだっ!?』
駿壱の慌てた声が響く。
『リナ!』
「………家。自分の…部屋……」
そう言うと、駿壱はほっと安心した声を出す。そして言った。
『今から帰る。家にずっといたんだろ?』
そう言う駿壱に、小さく「違う」って答えた。その答えに駿壱が生唾を飲むのが聞こえた。
『……お前、今日、こっちに……来たのか…?』
「……ちゃ……」
泣き声で言葉にならない。そんな理菜に気付かないわけない。
『泣くな。取りあえず、帰るからっ!』
ガチャっと通話が途切れた。スマホを投げて理菜はベットの上で震えていた。
◆◆◆◆◆
どのくらい経ったのだろう。玄関のドアが乱暴に開く音が聞こえて、それと同時にドタバタと階段を駆け上る音が聞こえた。
バンッ!
「リナ!」
ドアを開ける音と、理菜を呼ぶ声が同時だった。
理菜は目線だけをドアの方に向けた。そこには駿壱が呆然として立っていた。
「……ナ…」
微かにそう呼び、理菜に駆け寄る。グッタリとしている理菜を抱きかかえると、背中を擦る。
理菜は駿壱に身体を預けていた。
「リナ……」
駿壱は何が起こったのか、分かっているみたいだった。泣いていた理菜の頬に触れて、涙を拭ってくれていた。
「リナ…。守れなくてごめん…」
その言葉が痛くて。
『守らなくていい』って言った理菜に、無理やりでも『俺が守るんだから』って言えば良かったって、思ってることが分かってしまう。
そのくらい、駿壱はいつも理菜を守ってくれていた。
今回のことでまた駿壱に迷惑をかけてしまっていた。
もうそんなことをしたくないのに。
もう守られて生きていくのは嫌なのに。
──どうして強くはなれないの?
暫く駿壱は理菜を抱きかかえたままだった。理菜が落ち着くのを待っていたのかもしれない。
そして理菜に「着替えろ」と言って、立ち上がった。
「出かける」
「え」
「お前も一緒に来い」
理菜は出かけたくなんかなかった。でもひとりで家にもいられなかった。
理菜は着替えて、駿壱と一緒に家を出た。
駿壱のバイクの後ろに乗る。
「しっかり掴まってろ」
駿壱はそう言うと、バイクのスピードを上げた。余程急いでいるのか、いつも理菜を乗せてる時よりも、早いスピードだった。
力を緩めたら、落ちてしまうんじゃないかってくらい。
着いた先は、見覚えのある場所だった。それは良樹の家だった。
◆◆◆◆◆
「………だよ!」
部屋の中からは怒鳴り声が響く。
その声は一樹の声だって分かった。一樹が怒鳴ったのは見た事も聞いた事もなかった。
思わず身体をビクッって奮わせた。そんな理菜に気付いて駿壱は理菜の肩を抱いて、リビングに入って行く。
そこには良樹、一樹、百合がいた。
そして…。
真美もいた──…。
駿壱は真美を睨み付けて、理菜をソファーへ座らせる。その隣に駿壱は座り、理菜を抱きかかえてる。
「マミ!」
一樹はそう真美に怒鳴っていた。オレンジ色の真美の髪を掴んでいたのは百合だ。
真美の頬は赤く腫れ上がっていた。
「マミ。どういうことだぃ?」
普段の声色より低く、真美に凄む。
理菜はこの状況が分からなかった。何が起きているのか、分からなかった。
「あの掲示板、お前の仕業か?」
隣にいた駿壱が真美に言った。真美は駿壱に目を向けて、微かに笑った。
「笑ってんじゃねーよっ!」
百合はそう叫んで髪を掴んだまま、真美を床に蹴り飛ばした。
「あんた、何考えてるんだ?リナはシュンイチの妹だって忘れたかい?」
「……忘れてない。ちゃんと分かってる」
「だったらなんでこんなことっ!」
「目障りなんだよ、あんなガキ」
理菜を睨んで言う真美の目が怖かった。
その目で見られて理菜は身体を震わせていた。そんな理菜をしっかりと支えるように抱きかかえていた駿壱が、理菜から離れて真美のところに歩いて行った。
「マミ。知ってるよな」
低い、とても低い声だった。
今まで聞いたことのない、低い声。
「俺、リナにはメチャクチャ弱いんだよ。リナは俺の大事なもんだ。その大事なもんに手ぇ出すヤツは男だろうが女だろうが関係ねぇ。同じこと、してやろうか?」
真美の目の前にしゃがみ込んだ駿壱の言葉はとても怖かった。
「お前もリナと同じ思い……いや。それ以上の思いをしてもらおうか」
不気味に笑う駿壱の顔を見て、真美は騒ぎ出した。
「……めて!シュンくん、やめてっ!」
その声は悲痛だった。
「あたし、あんたの最初の女だよ。その女にそんな酷いこと出来るの?」
「……るせぇ。最初の女だろうが、最後の女だろうが、リナに手ぇ出すヤツは許せねぇ……」
ズキッとした。
駿壱の言葉が怖かった。
ソファーに座りながら震えてる理菜に、駿壱は気付いていない。
ただ、妹を傷つけたことによる報復をしようとしていた。
「シュンくんっ!」
その言葉は虚しく響いた。立ち上がった駿壱は真美の鳩尾に蹴りを入れていた。
「おい。ヨシキ」
良樹に振り向いた駿壱は、冷たい目で言った。
「お前の所為だからな」
「あ?」
「お前がちゃんとコイツと別れねーから、リナが巻き添えくったんだ」
良樹を睨んで、その睨みに良樹も睨み返していた。
「俺は別れるって言ったぞ」
「納得しねーのは分かりきってるだろ。俺ん時もそうだったしな」
「あん時も酷かったな」
一樹もそう言って、真美を見ていた。
その言葉は、彼らにしか分からない何かがあった。
理菜はその光景を見て分かったことはひとつだけ。
理菜が襲われたこと。
その首謀者は真美だったということ。
でも、理菜には理由が分からない。
それとあの掲示板の写真。
誰がどうやって……。
あの頃はまだ真美と理菜は出会っていなかった。良樹とも出会ってはいなかった。
その夜。駿壱たちは真美に散々罵声を上げて暴行して、そして後輩たちを数人呼んで真美を連れて行けと言った。
「こいつ、お前らの好きにしていい」
良樹の言葉に、後輩たちはニヤッと笑った。良樹の言葉に、真美はこの世のものとは思えないくらいの表情をした。
理菜はそれを見て、可哀相だとは思わなかった。理菜を襲うように言ったのはこの人で、学校に貼り紙をさせたのもこの人だって分かってしまったからだ。
真美が後輩たちに連れて行かれた後、駿壱は話してくれた。
今までのこと。
全部、真美が仕出かしたこと。
学校の掲示板に貼りだされた紙は、真美が後輩に言って貼らせたものらしかった。
そして駅の掲示板のあの写真。あれは偶然、理菜のレイプ写真を手に入れたらしい。
あの日。理菜が路地でレイプされていた時。
誰かが写真を撮っていたらしい。
それはあの3人の仲間らしくて、その男と真美は偶然にも出会って、その写真を手に入れたらしいとのこと。
そしてその写真と色々と文句を書かれた紙を、駅の掲示板に貼ったってこと。
そして理菜の携帯にかかって来た脅迫電話。理菜の番号を知ってるのは少ない。あれは百合のスマホからだそうだ。
百合とご飯を食べている時、途中で席を立った百合。テーブルに置いてある携帯を見て理菜の番号をメモしたらしい。そして頼んだ男たちに電話をかけさせていた。
何度も警告をしているのに、それを無視している理菜に腹を立てて襲ってっと、黒龍の下っ端に命令したらしい。
それがつい数時間前の出来事。理菜を襲ったヤツらは、事が終わると恐ろしくなったらしく、自ら駿壱のところへ出向いたらしい。
その頃、いつもなら倉庫にもういる筈の理菜がいないからイライラしていた駿壱が、話を聞いてそいつらをボコボコにした、と。
一樹も百合も交えて話してくれた。
ボコボコにした後、理菜に何度も電話しても繋がらない。
店に行ってみても理菜はいない。
亜紀たちも知らないと言っていたから、駿壱は大騒ぎして探していたらしい。
そしてそんな駿壱とは別に良樹は、真美を自分の家に呼び出して、どういう事なのか話をしていた。
でも良樹は自分からは何も言わず、ただ真美が本当のことを言うのを待っていたらしく、それに痺れを切らした一樹が怒鳴っていたところに理菜を連れた駿壱がここに着いた。
話を聞いて理菜は分からなかった。
なんでそんなことになったのか。
ことの流れは分かったけど、根本的な原因が分からなくて、理菜は駿壱の顔を見てるだけだった。
「マミは、本当にこいつに惚れてたんだよ」
駿壱は言った。
「アイツ、昔っからヨシキだったから。俺と付き合ったのだって、ヨシキが傍にいるからだ。それに俺が気付かないとでも思ってるのか、俺が別れるって言ったらアイツ大騒ぎして手首切りやがった」
思い出してムカついているのか眉間に皺を寄せる。
「アイツは執着心が強い。俺と別れたらヨシキの傍にいられなくなるって思ったんだろう。だから、ユリのところに行った。元々ユリとマミは同じ部の先輩後輩だからな」
理菜は黙って聞いていた。
駿壱の中学時代の話。
そんな話は今まで聞いたことがなかった。
駿壱と真美は中1の時、1ヶ月くらいの付き合ったらしい。
でもその1ヶ月で、真美の本当に好きなのは良樹だって気付いたらしく、別れた。
その後真美は百合と行動を共にして、良樹の傍にいることを選んだらしい。
それが随分と長く続き、高校1年の終わり頃に良樹と真美が付き合い出したってこと。
理菜は黙って聞いていた。
「だいたい、付き合い始めがダメなんだよ」
一樹は言った。
「酒に酔ってヤっちまうんだもんな」
良樹の顔を見て言う一樹。そんな一樹の顔を見ないで良樹は静かに答えた。
「覚えてねぇ…」
「うわっ。サイテー。お前、そのうち女に刺されるぞ」
「俺は刺されねー」
「どっかからそんな自信がくんだか…」
呆れた顔で良樹を見る一樹。そんなふたりを見て、理菜はなんか傷付いていた。
良樹の行動に、傷付いていた。
駿壱が前に言った言葉。それが蘇る。
『ヨシキだけは惚れるなよ』
その言葉の意味が少し分かった気がした。
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