赤い薔薇 蒼い瞳

星河琉嘩

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第1章

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 報復として理菜が襲われたのは、それから数日経ってからだった。
 その日は珍しく朝から午後の授業まで、学校に行っていた。教室には浩介もいて、1組には亜紀もいた。



「秋月!生徒指導室へ来い」
 学校に行くとよく呼ばれる。でもそんなのは完全に無視してる。行くといつもグダグダと言われる。
 髪のことも目のことも含めて。
 そして今はこの学校にいない、駿壱のことまで。
 だからいつも無視してる。



 授業中は殆ど寝てる。
 でも理菜はやっぱり駿壱の妹だ。授業聞かなくてもだいたいは分かってしまう。だから寝てても何も言わない先生が多い。
 自分でもほんと嫌味なヤツだって思う。

 ──お兄ちゃん程じゃないけど。



 その日の帰り。サッカー部に入部していた浩介が、部活をサボって理菜と亜紀と一緒に下校していた。


「コウ。先輩たちに怒られるんじゃないの?」
 理菜は浩介にそう言った。浩介は理菜を見て得意気に答える。
「いいんだよ、俺はサッカー上手いから」
「ナマイキっ」
「お前は運動オンチだもんな」
 と、亜紀の方を見る。

 亜紀は運動は苦手だ。理菜はというと、走るのだけは得意。他は不得意。泳ぎなんてものになったらとことんダメだった。
 だからこそ運動が大得意な浩介はムカつくくらい、自慢してくる。それは昔からそうだ。


「でも、コウ。先輩たち、こっち見てる」
 理菜はグラウンドを指した。グラウンドでサッカー部のキャプテンがこっちに走ってくる。

「うわっ。やべっ」
 そう小さく言って走り出す。そんな浩介につられて理菜たちも走った。



 理菜は信じられなかった。
 浩介とこうして笑うことが出来る日が来る事が、自分でも不思議なくらいだった。


 亜紀と浩介と一旦別れて、理菜は家に戻った。誰もいない家はとても冷たくて寂しかった。
 2階の自分の部屋に入ると制服を脱ぎ捨てる。
 この制服は2着目の制服。母親が新しく買ってくれた制服。
 ダメになった制服と百合から貰った制服は、クローゼットの中に放り込まれている。


 捨てないで何故置いてあるのか。
 理菜にもよく分かっていない。
 なんで捨てないで持っているのか。
 何故ここに置いてあるのか。



 自分でもよくは分からない。でも何故か捨てられずに置いてある。
 この制服を見る度に辛い思いをしなくちゃいけないのに。
 胸が苦しくなるのに。
 身体中が痛くて仕方ないのに。





「やばい……」


 クローゼットの中にあるその制服を見て、吐き気がした。
 もうずっとそうだ。この制服を見るとそうなる。
 理菜の希望が崩されてしまった、あの時間。
 理菜はその時のことを忘れないように、置いてあるのかもしれない。



 クローゼットを閉めて、理菜はトイレに駆け込んだ。そして胃の中にあるものを全て吐き出していた。


 いつからそうなったのかは分からない。
 いつからかそうなってしまった。



 もうその原因を知ろうとは思わないくらい、それが習慣づいていた。



 理菜はまだ怯えているのかもしれない。



 あの男たちは、もう理菜にをしては来ない。
 だけど、がしてくるのかもしれない。



 そんな恐怖がまだ理菜の中に根付いているのかもしれない。
 それを忘れたいが為に、理菜はいつも黒龍の傍にいるのかもしれない。
 黒龍の面々はあたしにはしては来ないから。




 をして来ようとすると、必ずがあるのを知っているから。
 それくらい、黒龍では理菜の存在は知られていた。



 


 その女に手を出すなと、暗黙の了解のように知られているらしい。それは黒龍の傘下のチームにまで広がっている。


 黒龍ナンバー2の駿壱の妹。
 その女に手を出す程、みんなバカじゃない。






 ──……筈、だった。



     ◆◆◆◆◆



 着替えて、家を出る。タクシーを拾って、黒龍の倉庫がある場所まで行く。
 だけど、タクシーの運ちゃんはそこには近寄りたがらなくて、途中で降りた。福沢さんのお札を1枚出して、お釣りも貰わずに理菜はタクシーを降りた。そして倉庫までの道を歩いていた。




 浩介も亜紀もきっと倉庫へ向かってる。約束はしていないが、何故かいると確信していた。


 倉庫周辺にはいかにもヤバそうな店とかも立ち並んでいて、その1軒は黒龍の溜まり場となっていた。外観はオシャレなバー。


 だけど、店の中はヤバイって駿壱は言っていた。その店の中では本当にヤバイことが繰り返されているらしい。
 だから、そこには近付くなって駿壱にも良樹たちにも言われていた。


 でもその日。理菜はその近くを通った。そっちから行った方が倉庫に近かったから。
 その判断がいけなかった。
 なんでそっちから行こうとしたのか、理菜は後悔することとなる。




「リナちゃん」
 そう誰かに呼ばれた。聞き覚えのない男の声。理菜の名前を知ってるってことは、黒龍の面々だろう。
 だけど理菜を簡単に呼ぶバカはいない。



「こっちだよ、リナちゃん」
 もう一度呼ばれて、理菜は声のする方を振り返った。
 そこに立っていたのは、不敵な笑いを見せる男たちだった。


 その不敵な笑いがあの日のことを思い出されてしまう。身体を一瞬、震わせて理菜はじっとその男たちを軽く睨んだ。


 弱いところを見せたら負け。
 理菜はそう思っていた。



「ねぇ。倉庫行ってもシュンイチさんたち、いないよ」
 ひとりはそう言った。でもその言葉は嘘だって分かる。

「俺たち、シュンイチさんに頼まれてんだ」
「リナちゃん、来るから自分が戻って来るまで面倒みてやってって」
 そんなことは駿壱は絶対、言わない。
 駿壱は昔から理菜の面倒を他の誰かに任せたことがないから。彼女がいたって理菜を連れて行って、彼女にフラれるってことをよくやっていたから。


 理菜は男たちを完全に無視することにした。無視して倉庫への道を歩き出した。



 だけど、理菜の腕はその男たちに掴まれてしまった。




「離してっ!」



 理菜の声が響く。店の前で響いた。その場にいた、ガラの悪い人たちがこっちを見る。だけど、見るだけ。
 みんな不敵な笑いをしてこっちを見ていた。


「離さないよ」
「君は俺たちと遊ぶんだよ」
「そうそう。イイことしてね」
 そのセリフに背筋が冷たくなった。




 言ってる意味が分かったから。
 その意味が分かったから。



 こいつらは黒龍の面々じゃないのかもしれない。
 駿壱の名前を知ってる、なのは確かだ。駿壱を敵対視しているなのかもしれない。





「おいで」





 またもや不敵な笑いが理菜の身体を強張らせる。

 動きが取れない。
 怖くて、声も出せない。
 掴まれた腕が痛い。
 
 手を振りほどくことが出来ないくらい、強い力。



 理菜はそのまま、店の中へと引き込まれてしまった。店の中は真っ暗だった。そして、真ん中にだけライトが当てられていた。



「連れてきたぜ」
 理菜の腕を掴んだ男がそう冷たく言った。店のホールには数人の男たちが立っていた。その男たちの顔を見て、また背筋に冷たいものが走った。



「へぇ。ほんとに目が青いんだ」
 ホールの中央にいた男が、理菜に顔を近づけて言った。


「……近寄らないでっ!」
 理菜はそう声を出した。その理菜を見て、その男は笑った。その笑いと共に他の男たちも笑った。


「お前、なんでここに連れられて来たのか分かってるか?」
 言った言葉の意味が分からなかった。理菜はなんでここにいるのか、分からなかった。
 たまたま通っただけ。
 でも彼らにしちゃそうじゃないらしい。



「お前、警告を無視したろ」
 その声は聞き覚えがあった。理菜に警告の電話をして来た男のひとりだった。薄暗くて顔ははっきりとは見えなかった。
 でも、不敵な笑いを浮かべていたのが分かった。



「お前、何度も警告無視するから」
「俺らはまぁ、依頼されたんだけどな」
「悪いけど、お前はを受けてもらわなきゃな─……」



 男たちは理菜に向かって、ジリジリと歩み寄って来た。理菜は連れて来られた男たちに腕を掴まれているから、身動きが取れなくなっていた。
 そのうちのひとりが理菜を床に押し倒した。
 押し倒された拍子にゴンッと頭を打った。



「……ちょっ……!やめてっ!」



 大声で叫んでも、ここは店の中。外に音が洩れることはない。
 男たちはまだ不敵な笑いを浮かべて、楽しそうにこっちを見ていた。理菜を倒した男は服を捲り上げて、素肌に触れてくる。


 その瞬間、理菜は恐怖に襲われた。
 あの日、起きたあのこと。
 あの日のことを思い出していた。




 ──怖い。
 ──怖い。
 ──怖い。




 理菜は恐怖から声が出なくなった。やめてって言っても、無駄なのは分かっていた。抵抗しても無駄なのは分かっていた。



 女ひとりで数十人の男たちに勝てるわけがない。
(また男たちにヤられるんだ)
 そう頭の中を過った。


 ジタバタしても身体が動かない。
 男たちの力は強くて理菜の抵抗は無駄。
 分かってるけど、抵抗しないわけはなかった。



 男の手がスカートの中に入り込んで来る。太腿を触り、理菜の下着の中に手を入れてきた。





 ──気持ち悪い。
 ──吐き気がする。




 男たちの手は理菜の身体のあちこちを触って、外野は煩く騒ぎ立てる。着ていたTシャツを捲り上げて、ブラを乱暴に剥ぎ取る。
 何人ものの男たちが理菜の胸に触れて、メチャクチャにされる。






 その手が気持ち悪くて気持ち悪くて。





 そのうちスカートもパンツも剥ぎ取られ、理菜は全裸になっていた。
 抵抗虚しく、理菜は男たちの餌食となっていた。




 不快な異物が理菜の中に入り込んで、何度も何度も入り込んで。







 悔しくて悔しくて身体が震えた。
 力のない自分に悔しくて。




 何人ものの男たちが理菜の中に入り込んで、何度も理菜をメチャクチャにした。




 男たちの気が済むまで、理菜は何度もヤられた。
 その間、理菜は何も考えられないで、ただ終わるのを待っていた。




 口は噛み付かれないように、タオルを入れられていた。
 その光景は玩具のようだった。


 理菜は正に男たちの玩具のようだった。







 一通り、男たちが理菜の中に入って、満足したのか言った。





「お前が林良樹に近寄るからだ。良樹の回りにウロウロするからだ。恨むなら自分を恨みな」




 その言葉を言い放って、男たちは店を出て行った。
 その男たちの姿を見て、理菜はゆっくりと起き上がった。




 ──身体中が痛い。
 ──重い。



 散らばってる服を取って身に着けて、ゆっくりと店を出て行った。
 そしてそのまま理菜は倉庫に行かず、家に戻って行った。



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