赤い薔薇 蒼い瞳

星河琉嘩

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第1章

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 良樹に彼女がいることは知っていた。その彼女は青薔薇の真美。百合の後輩だ。
 そしてどうやら駿壱も昔から知ってるみたいだった。



 真美はオレンジ色の髪をしていた。前に会った時、「やりすぎた」と言っていた。でもその髪はとても真美に似合っていた。



「リナちゃん」
 駿壱がいる倉庫へ向かう途中、真美に会った。
 この人にはあまり会いたくはないと思ってる。この人に会うと、自分の中にある醜い感情が出てきてしまう。


「シュンイチのところに行くの?」
「はい」
「じゃ、一緒に行こうか。あたし、ヨシキに会いに行くから」
 笑った顔はとてもキレイで、でも理菜はなんだか怖かった。


 良樹の彼女で百合の後輩。



 理菜が知ってるのはこれだけだ。真美のことは何も知らない。
 どういう人なのかも知らない。



「リナちゃんって、榛南中なんでしょ」
 歩きながら言う真美は、理菜に笑いかける。
「……そうですけど」
 理菜はそう答える。
「あたし、榛南中の卒業生だよ~」
 そういう真美の顔を見てしまった。



 真美は榛南中の卒業生。歳は駿壱たちと同じ。中学時代の良樹を知る人だった。
 初めて知ったその事実に理菜は驚いた。

 ──そりゃ、ユリさんも榛南中だって言っていたけど。
 ──だけど、マミさんも榛南中だって考えた事なかった。


「なに驚いてるの」
 真美はそう言う。
「いえ」
「あははっ。そんな怯えた顔、しなくてもいいよ」
 真美はそう笑った。
 その笑いの裏に、何か隠しているなんてその時は分からなかった。


 この人は純粋に良樹が好きだって、そう思っていた。
 だから、知らなかった。この人が何かを企んでいるなんて。


 その時の理菜は何も知らなかった。



「あ。ヨシキ~!」
 隣にいた真美は倉庫前にいた良樹を見つけて叫んだ。
 その声に理菜は隣を見る。でもその時にはもう真美は良樹の元に走っていて、理菜の隣にはいなかった。
 良樹の元に走って行った真美を目で見て、その姿に嫉妬した。



 ──なんでこの人なんだろう。
 ──なんでこの人が隣にいるんだろう。





 そんな自分の中にある醜いものが生まれてしまうのが嫌だった。だからあまり見ないようにしていた。



「リナ」
 理菜に気付いた駿壱が、こっちに向かって歩いて来る。そして困った顔をしていた。


「なに」
 理菜は駿壱を見上げて言った。
「あれ。どうにかならんか?」
 と、指した。指した場所は倉庫前にいる良樹たちの後ろ。
 そこにいたふたつの人影。
 見覚えのあるふたつの影。




「アキ!?コウ!?」
 理菜は思わず叫んでいた。
 理菜を見てる駿壱が困った顔をしていた。
「なんであのふたりが来てんだよ」
 ブツブツと言いながら理菜をその場へ連れて行く。


「アキ」
 駿壱は亜紀を呼んだ。亜紀が顔を上げてにこっと笑う。
「リナ」
 理菜に目線を移してまた笑った。そのふわっとした笑顔をした亜紀が、こんな場所にいることが不自然でならなかった。


「なんで?」
「知るかよ」
 駿壱は心底困った顔して「どうにかしろよ」と言ってバイクを弄る為に理菜から離れて行く。


 でも、なんで浩介までいるのか分からない。


「学校、どうしたのよ」
 理菜は自分の事は棚に上げてそう言った。



「だって見たいじゃない。リナの心を掴んだ人」
 亜紀。
「リナが学校に来ない原因の人を見てみたい」
 浩介。


 ふたりはそう言ってここに理菜が現れるのを待っていたらしかった。

 ため息を吐くと理菜は呆れた顔でふたりを見る。
「いいじゃないの」
 と、亜紀は理菜の肩を抱く。
「で、あの女の人は誰よ」
 真美を見て亜紀は言う。
 理菜は真美の姿を見ないようにして「ヨシキさんの彼女」と答えた。


「え」
 亜紀は理菜を見て驚きの顔を見せていた。
「彼女、いたの?」
「あの人がいないように見える?」
 良樹の周りには女の人が集まっている。駿壱の話だと本人はウザそうにしているって言ってるが。

「じゃ、あんた……」
 理菜の完全なる片想い。伝えるつもりもない。


 ふたりを引き裂くなんてことは出来ない。
 良樹の真美へ向ける目線が優しいことを知ってる。真美と繋ぐ手が優しいのを知ってる。



 ──だからあたしは傍で見ていられればそれでいい。それだけなの。




 彼女の存在が気にならないってわけじゃないけど、理菜はそれでいいと思っていた。
 そもそも、こんな5歳も下の女の子を相手にするわけないって思ってる。



「あ、あの!」
 浩介が駿壱に何か話しているのが聞こえた。駿壱はウザそうに浩介を見ていた。


「俺、昔から駿壱さんに憧れてて……」
 なんて言葉が聞こえてくる。その言葉に駿壱は「あ?」って言っていた。
 本当に面倒くさそうにしている。
 それを亜紀とふたりで見ては笑っていた。

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