赤い薔薇 蒼い瞳

星河琉嘩

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第1章

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 次の日。理菜は駿壱に睨まれながら学校へ向かった。
 また学校をサボってしまうんじゃないかって思ったのか、家を出た理菜を追って来る。校門に入って行った理菜を見て、安心したのか駿壱は来た道を戻って行く。


 どうせ、このまま遊びに行くんだろう。
そう思いながら理菜は学校の中へと入って行く。
 教室に行くまで学校の生徒がこっちをジロジロと見ている。


(そんなに金色の髪が珍しいかっ。そんなに青い目をした人間が珍しいかっ)



 教室の前に辿り着くと担任が待ち構えていた。
「秋月。職員室に来なさい」
 そのまま教室に入る事なく職員室まで歩いて行く。昨日学校に来なかったことを言われるんだろう。
 連絡もなしに休んだから、きっと母親にも連絡が入ってる筈。でも母親と顔を合わせてないから、何も言っては来なかった。
 職員室に入ると、窓側の担任の席まで着いていく。担任は椅子に座り、隣の席の椅子を差し出した。


「お前、昨日どうした?」
 やっぱり昨日のことかと思い、咄嗟に嘘を吐いた。
「あ……具合悪くて」
「連絡、なかったぞ」
「母は早くに仕事に出ちゃってて、あたしも連絡出来なくて……」
 理菜の嘘に担任は素直に信じたのか「そうか」と言った。でも担任はそれだけを言う為に理菜をに呼んだんじゃないって分かった。
 それだけだったら、職員室にわざわざ呼ばないだろう。


 担任の顔は真剣な目をしていて、でもその目からは迷惑そうな感じも受け取れた。
 それがなんとなく意味が分かってしまうのは、いつもそういう顔をされてきたからだった。


「秋月」
 担任はそう言うと、理菜の髪を見た。
「お前のその髪な、職員会議で問題になってる。それと目な」
 その言葉に「やっぱり」と納得してしまった。南小にいた頃から言われていた。

「髪と目をなんとかしなさい」って。
 その度に母親は産まれた時の写真を学校に提出して「産まれつきです」と言っていた。


 そう。
 この髪とこの目は生まれつきだ。
 理菜にはどうにも出来ない。産まれ持ってきたこの髪と目。理菜はこの髪と目はコンプレックスであり、理菜自身だった。


 だけど、その髪と目は他の大人たちには目障りでもあったらしく。
 担任が冷たく言い放った。







「髪、黒く染めて来い。それと、目に黒いコンタクト入れて来い」






 そのセリフに唖然とした。
 髪を染めろまではいい。目に黒いコンタクトを入れろとはどういうことだろう。

 理菜は視力が悪い訳じゃない。なのに、コンタクトを入れろとは何を考えているのだろう。
 そんなことをしたら、理菜が理菜じゃなくなる気がする。



 担任の言ってることは理菜が悪いと言われてるような気がしてきた。





「いやな、お前は悪くはないんだぞ。だけどな、他の生徒に対してがつかなくなるんだ。分かってくれな」




 その言葉は理菜を酷く傷つけた。
 そんなことに何も気付かないこの担任が不快に感じていた。

 他の生徒の為にと言ってるようなものだった。理菜がにいると他の生徒までダメになるとでも思ってるのだろうか。


 担任の言葉が胸の奥の突き刺さる。
(ここにいちゃダメなの…?)
 そう思わされた。





 理菜は何も答えずに職員室を出た。
 答えないというよりも答えることが出来なかった。
 他の先生も何も言わないで、こっちを見ているだけだった。




 中学は小学校の時のようにはいかない。




 それは分かっていたことだけど、こうして言われると凹む。小学校の時も、保護者の間で色々と言われていた。




 教室に入ると、浩介が理菜を見ていた。その顔はなんだか申し訳ないような寂しそうな目をしていた。
 そんな浩介に何も言わずに席に着くと、理菜は窓の外を見た。



 担任が言ったことが頭の中をグルグルしている。一昨日あったことでさえ、グルグルとしているのに。他のことでもグルグルとしているなんて、なんて不快感。
 昨日の駿壱と百合の会話もグルグルして理菜は混乱している。






(あたし、どうしたらいいの…???)



 ──答えが欲しい……。



 そう思ってしまうくらい、理菜は誰かに助けて欲しかった。



     ◆◆◆◆◆



 放課後、理菜は席を立ち教室を出て行こうとした。そんな理菜に佐々木が駆け寄った。



「リナ!」
 浩介は理菜を呼び捨てにする。
 小学校1年の時、理菜が南小に転入して来てから、なんでか構う。それも意地悪な構い方。
 しかも腐れ縁なのか、6年間同じクラスだった。そして中学も同じだった。


(ああ……。イヤだ)


 と呼んだ、浩介に振り返り顔を見た。今朝見た時とは違う顔つきだった。


「昨日、どうしたんだ。心配したぞ」
 そう言う浩介は本当に心配している声を出した。でも理菜はそんな浩介を無視して教室を出て行った。



(今更、浩介に何を言えばいい?)
 浩介は理菜とちゃんと話をしようとしているのに、理菜はそれが出来ない。どう接したらいいのか分からないでいる。




     ◆◆◆◆◆



 ドラッグストアに来た理菜は、手にしたヘアカラーをじっと見ては悲しくなっていた。なんでここまでしなきゃいけないんだろうって思っていた。


 理菜が何かしたってわけじゃないのに、何でここまでしなきゃいけないんだろう、と。 
 大人の顔色を伺っていなきゃいけないんだろう、と。


 ムカムカとしながら理菜はヘアカラーを手にレジに向かった。
 そしてその後、眼鏡屋に行き眼鏡屋のおじさんにカラーコンタクトがあるか聞いた。ここには運よくカラーコンタクトがあって、理菜は黒のカラコンをつけた。
 初めてつけるカラコン。それに違和感がある。
 それがとても不快に感じていた。



 家に帰り、買ってきたヘアカラーで髪を染めた。鏡に映った自分。
 黒い髪に黒い瞳の人が映っていた。
 それは自分じゃない誰かのようだった。




 いつもより早く家に帰って来た母は理菜を見て驚いていた。
「どうしたの?」
 って聞くから、「気分」と答えた。それに対して母は何も言わなかった。


「学校で言われた」なんてことは言いたくなかった。小学校の時のように母に迷惑かけるのはイヤだったから。







 夜中に駿壱が帰って来た。やっぱり理菜を見て驚いて「どうしたんだ?」って聞いた。
 だから理菜は母に言ったように「気分」と答えた。
 髪と目には触れて欲しくなかった。だからそれ以上何も言わないで部屋に篭った。



 ベットに入り、手鏡を見ては泣く。自分じゃない自分がこっちを見ていた。



──なんでなんだろう。なんでを辞めなきゃいけないんだろう。




 理菜の頭の中はでいっぱいだった。




 翌日。黒髪の黒い瞳の理菜が学校にいた。
 理菜の顔を見た生徒たちがザワついた。
その姿を見た以前のクラスメートたちや同小の子たち。驚きの顔をしていた。


 理菜に駆け寄って来たのは亜紀。
「なんで!?」
 って叫んだ。その問いに微かに笑うしかなかった。
 亜紀に言うのを躊躇った。なんて言ったらいいのか分からなかった。


 亜紀は理菜の髪と目を好きだって言ってくれた唯一の人。
 身内じゃない人にそう言われたのは亜紀が最初だった。だから言えなかった。



 教室に入ると、クラスメートたちの視線が痛かった。そして浩介も驚きの顔して「なんで!?」と叫んだ。
 そんな佐々木に理菜は何も言わなかった。
 もう髪と目には触れて欲しくなかった。
 だから何も言えなかった。






 その日の朝のHRで、担任が理菜を見て笑った。
「そっちが本来のお前だ」
 って。





──違う。本来のあたしは違う。こんなじゃない。あたしはこんなんじゃない。




 黒髪にして黒い瞳にしてから暫く経った。クラスメートたちはそれが理菜の本来の姿だったように振舞う。
 先生たちも理菜は金色の髪をしてブルーの瞳を持っていたなんて思っていないくらいだった。そんな姿をしていたのは幻でも見たかのように振舞った。


 でも、理菜は自分が壊れそうな思いだった。崩れそうな思いを抱えていた。


 たかが髪の色。
 たかが目の色。
 だけどそれはとても重要なことだって気付かされた。




 いくらコンプレックスな部分だとしてもずっとこれで来たんだから、自分じゃないみたいだった。
 いつ自分が壊れてもおかしくないくらいだった。
 そんな理菜に誰も気付くことはなかった。




 そんな中、本当に壊れるきっかけが学校中に広まった──……。






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