赤い薔薇 蒼い瞳

星河琉嘩

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第1章

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 車に乗せられて、理菜が連れて行かれた先。どこかの港だった。そこはなんだかとても寂しい港。
 こんな場所があること自体、理菜は初めて知った。




(ここは廃港……?)




 昔、ここに来たような気がする理菜だったが、思い出せない。記憶の奥にあるような気がするけど、思い出せないでいた。
(思い出せないってことは初めて来たんだよね)
 廃港にはたくさんの倉庫があって、その周辺には怪しげな店が何軒かあった。
 その中の一角。ある倉庫の前に車は停まった。




「リナ。降りろ」
 隣で駿壱がそう言うと、車を降りた。理菜の後に駿壱も降りていて、また理菜の肩を抱いて歩き出す。


「シュン!」
 駿壱は呼ばれて振り返った。良樹がお駿壱を呼んだのだ。
「妹、ここに連れてきてどうする気だ?」
 その声には凄みがあった。そして理菜を一度見て、駿壱に目線を戻した。
「ちょっと、こいつに説教」
 そう言った駿壱の声も怖くて、理菜は黙るしかなかった。
 車から降りて廃倉庫へと向かって歩く。シャッターが閉まっているその倉庫の脇に向かうと、駿壱は鍵を取り出してそこにあるドアの鍵穴に差し込んだ。
 理菜はそんな駿壱の行動を黙って見ていた。


 なんで駿壱がここに理菜を連れてきたのかとか、なんでここの鍵を持っているのかとか。
 理菜の頭の中には疑問が浮かぶけど、それを口に出して聞くことが出来ない。
そのくらいの威圧感が駿壱から出ていた。



 だから理菜はどうすればいいのか分からない。駿壱が怒ってるのが分かるから。

 駿壱は相変わらず理菜の肩を抱いたまま、倉庫の中に入って行く。
 倉庫の中は広かった。そして端にある、階段を昇っていく。



 黙ったまま。
 何も言わない。



 後ろから良樹と一樹も着いてくる。車を運転してくれていた人は車の中にいるのか、姿が見えない。



 駿壱をそっと見るとやっぱり不機嫌な顔をしたままだった。そんな駿壱の顔色を伺うように理菜はじっと見ていた。
 でも駿壱は理菜に気付かないフリをして階段を昇る。
 階段を上ると、ある部屋のドア前に立った。そのドアを開けて理菜に「入れ」と言った。
 部屋の中にはソファとテーブルとなぜか冷蔵庫が置いてあった。理菜は黙って入ると、ソファに座らせられた。
 理菜の目の前のソファに座った駿壱は理菜をじっと見ていた。じっと睨みつけるように見ていた。
 その目が怖くて目線を外すと、「リナ」と呼ばれた。





「顔、逸らすな」




 その声が怖くて顔を上げられない。駿壱の顔を見る事が出来ない。
 そんな理菜を見て笑ったのは一樹だった。駿壱の隣にカズキさんが座って、クスクスと笑っていた。何が可笑しいのか笑っていた。
 そして奥のソファにゆっくりと歩いて行く良樹。その姿を追うと、壁には黒龍の旗が貼ってあった。





(ここは黒龍の本部……なんだろうか)



 そこになんではいるんだろうと、頭の中にハテナが浮かび上がる。キョロキョロと部屋の中を見ている理菜にクスクスと笑い声が聞こえる。


「おい。シュン」
 良樹はそう駿壱を呼んだ。
「お前の妹、ワケが分からねぇって顔、してるぞ」
「ああ。だって、こいつ知らねーから」
 なんの話だろうと思っていると、一樹がクスクスと笑いながら言った。


「ここ、黒龍の本部。で、この部屋は黒龍の頭と幹部しか入れないの」
「へ?」
 理菜はマヌケな声を出す。





 ──黒龍──
 この街で一番、勢力がある暴走族。その傘下に青薔薇というレディースチームがあったり他にも色々といる。このあたりの暴走族のトップ。




 そんな黒龍の本部に、そして幹部しか入れない部屋になんで理菜はいるんだろう。
 なんで駿壱は連れてきたんだろう。
 なんで……?


「俺はここのナンバー2だよ」
 理菜の考えが分かったのか、駿壱はそう言った。



(ナンバー2……?お兄ちゃんが……?)



「なに、本当に知らないの?」
 一樹はそう言ってはまたくくくっと笑った。
「で、ヨシキが総長」
 駿壱は良樹に目線を移す。その駿壱の目線を追うように理菜も良樹を見た。
 良樹は煙草を口に咥えていた。その姿が昨日見た姿とは違って怖いと感じていた。






「……で。リナ」
 そう言う駿壱の声は低くて。怒ってる時の駿壱の声で。学校をサボって駿壱のところに来たことに怒っているんだって思って。



 怖くなっていた。



 理菜が学校に行かないで駿壱のところに来た理由。
 学校が怖かった。
 というより、人の視線が怖かったから。





 学校で誰かが昨日のことを知ってるんじゃないかっていう不安が怖かった。
 だから、助けて欲しかった。
 ひとりでいたくなかった。
 駿壱に助けて欲しかった。





 通学鞄を抱きかかえるようにして、下を向いてしまった理菜。そんな理菜に鋭い目付きで見てくる。
 一樹は相変わらずクスクスと笑っていて、良樹は何本目かの煙草を吸っている。




「リナ。兄ちゃんの言いたいこと、分かってんだろうな」



 低く響く声。
 その声に震え上がる。
 いつもケンカをしても勝てない相手。
 駿壱はやっぱり父親の子だって分かる。その目付きが別れたと同じたと思った。



「リナ」
 もう一度呼ぶと、ソファの背もたれに身体を沈めていた駿壱は、身を乗り出すかのようにしてこっちを見ている。その目が痛いくらいで、理菜はますます何も答えられなかった。



「学校、なんでサボった」
「……」
「リナ」
「……」
「答えろ」
「……」





 何を言っても黙ってる理菜に痺れを切らして、理菜は立ち上がった。
「てめぇっ!俺に勝てると思ってんのかよっ!」
 その声にビクッと身体を震わせた理菜。駿壱はテーブルを跨いでこっちに来る。
 そしてそのテーブルを椅子代わりに座って理菜を睨んだ。
 怖さが理菜の中に湧き上がる。だけど、何か言わなきゃ後が怖いってことを知ってる。



「……い」
 微かに声が洩れた。
 その声は駿壱届いたのか、「あ?」と言われた。
「……怖い」
 理菜のその声は広い部屋に微かに響いた。



 と言った理菜の言葉の意味が分からないというような顔をしている駿壱は、更に睨みを利かしてきた。
 それでも理菜はそれを言うのが精一杯で、駿壱の顔も見れなかった。



「リナ。どういうことだ」
 駿壱は更に聞いて来る。
 と言った理菜の言葉の意味を知りたいらしい。だけど、そんな理菜と駿壱のやり取りを遮ったのは良樹だった。





「シュン。いい加減にしろ」






その言葉に駿壱は振り返り、良樹を見た。
「妹、怖がってんぞ」
 良樹の言葉に駿壱は眉を吊り上げて顔をそちらに向ける。

「兄妹のことに口出しすんな」
 その声はとても低く冷たい。喧嘩してる時に出すその声と同じ。



「だったら家でやれ」
「家じゃいつババァが帰って来んか分からねーからだ」
「ここは黒龍の本部だ。家の事を持ち出すな」
「ここしかねー」
「シュン」
「あ?」
「いい加減にしろ」
 もう一度そう言うと、良樹は口を閉ざした。その姿に理菜は駿壱より怖くなった。
 静かに話すその声が怖かった。何をされたってワケじゃないんだけど、怖いと感じていた。



(でも、そんな人にあたし、助けられたんだよね……?)



 駿壱はもう一度理菜を見て睨んだ。でも、もうさっきまでの睨み方とは違った。
 テーブルから理菜が座ってるソファの隣に座って来た駿壱は、理菜の顔を覗いてきた。


「リナ。怖いってなんだ」
 もう一度聞くその声は、さっきより優しかった。その声に涙が零れそうになるのを堪えていた。
 だけど、駿壱がそれに気付かないわけない。理菜の顔を両手で掴み自分に向けた。



「リナ」
 目には熱いものがあったのを駿壱は気付いて、そっと手で拭ってくれた。そして理菜を抱き寄せた。
 昔よくしてくれたように背中を擦った。





「シュン。それ、姉貴が見たら誤解すんぞ」
 良樹はそう言ってため息を吐く。一樹は面白がって笑っていた。

「ユリは知ってる。俺がこいつに弱いの」
 そう言ってもう一度背中を擦った。
「お前、罪なやつ」
 そう言ってさっきとは違う顔で笑った良樹。
(笑った顔を初めて見た……)
 良樹の笑った顔は、可愛いと思った。




 黒龍 第九代目総長ヨシキ


 第一印象は……とても怖く、そしてよく分からない人だった。

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