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「とりあえず新しいマンションが見つかるまでうちのアパートで我慢してな」
そう言う翔は、本当に申し訳ないような顔をしていた。
菜々美のマンションから翔のアパートへと移ってきたふたり。ノートパソコンと、必要最低限の荷物を持って。
瀬田にはマンションを少し空けることを話した。山之内は実家の事情を知ってるから、全てを話した。話を聞いた山之内は、新しい住まいを探してみると言ってくれた。
「山之内さん、なんだって?」
電話を切った菜々美に、珈琲を渡す。
「新しい住まいをいくつかピックアップしてくれるって」
「山之内さん、そんなことまでしてくれるのか?」
「友達に不動産関係の人がいるんだって。あのマンションも山之内が探してくれたの」
珈琲をひとくち口に含むと、ふぅ……と深いため息を吐いた。
「バタバタでごめんね」
「いや。こっちこそ、こんな狭い部屋で悪いな」
菜々美の隣に座ると翔も珈琲を飲む。
「なぁ」
「ん」
「このまま、結婚しちゃおうか」
翔の顔をまじまじと見た菜々美は、驚きで言葉が出てこなかった。
そんな菜々美にくすりと笑って、頭に手を置いた。
「翔……」
「菜々美と付き合ってから、そう思うようになった。ずっと一緒にいたいって」
いつになく真剣な顔をした翔に、菜々美は顔を逸らした。
「い、いきなりそう言われても……」
菜々美には結婚のイメージが沸かない。それもその筈だ。母と養父を見てるといいものとは思えないのだ。
「ゆっくり、考えて?」
翔の優しい言葉は頷くことしか出来なかった。
◇◇◇◇◇
翔のアパートに移り住んでから、毎日のように養父からの電話とメッセージが入る。マンションに菜々美がいないことに気付いたのだろう。どこにいるんだと毎日毎日、菜々美のスマホが鳴る。それも一時間置きに。
《どこにいる!》
「うわ……っ」
スマホが鳴るとビクッとしてしまうようになった。
仕事をしていても落ち着かない。そもそも翔のアパートで仕事をしていること自体、落ち着かない。それなのに養父からの電話に苦しんでいる。
(仕事にならない……)
頭を抱える菜々美は、ため息を吐いた。
「気分転換してこよ」
立ち上がり、外に出掛けようと身支度をする。ノートパソコンをカバンに入れてアパートのドアノブに手をかけた。
(なんか……。嫌な予感……)
咄嗟にドアチェーンをかけた。
(ドアの向こうに誰かいる……)
菜々美はそっとドアから離れる。ベランダ側に行き、スマホのメッセージアプリを開いた。
メッセージアプリの一番上に翔の名前がある。名前をタップして翔にメッセージを送る。
《誰かとドアの向こうにいる》
翔のアパートは、玄関入ってすぐにキッチンだ。キッチンの横に小さな窓がある。その窓から人影が見える。動かずにこちらの動きを伺っているかのようだった。
ブーッ、ブーッ!
持っていたスマホが静かに動いた。
画面を見ると翔の文字。
『菜々美?そのまま聞いて』
電話の向こうで翔が話す。
『クローゼットか風呂場かに隠れていて。おれ、早退してそっち向かってる。あと、晴斗にも連絡入れておいた。晴斗の職場が近い。とにかく、すぐに行くから隠れてて』
一方的に話すと電話が切れる。仕事中なのに電話かけてきて、更に早退してきてくれる。その気持ちが嬉しかった。
スマホを握りしめてクローゼットに隠れる。風呂場は玄関の左側なので怖かった。
ドンドンドンッ!
ドアを叩く音が聞こえた。
「菜々美ーっ!」
やっぱり養父だった。
どうやったのか、ここを嗅ぎ付けてきた。
クローゼットの中で震える菜々美は、どうしたらいいのか分からなかった。ただそこで震えて時間が過ぎるのを待っているだけだった。
今まで養父から殴られたとかそういうことはない。だが、菜々美にとっては怖い人だった。それは大人になってからも続いていた。
(だから逃げたのに……っ)
涙を堪えるのが辛く、震えながら涙を流していた。
そう言う翔は、本当に申し訳ないような顔をしていた。
菜々美のマンションから翔のアパートへと移ってきたふたり。ノートパソコンと、必要最低限の荷物を持って。
瀬田にはマンションを少し空けることを話した。山之内は実家の事情を知ってるから、全てを話した。話を聞いた山之内は、新しい住まいを探してみると言ってくれた。
「山之内さん、なんだって?」
電話を切った菜々美に、珈琲を渡す。
「新しい住まいをいくつかピックアップしてくれるって」
「山之内さん、そんなことまでしてくれるのか?」
「友達に不動産関係の人がいるんだって。あのマンションも山之内が探してくれたの」
珈琲をひとくち口に含むと、ふぅ……と深いため息を吐いた。
「バタバタでごめんね」
「いや。こっちこそ、こんな狭い部屋で悪いな」
菜々美の隣に座ると翔も珈琲を飲む。
「なぁ」
「ん」
「このまま、結婚しちゃおうか」
翔の顔をまじまじと見た菜々美は、驚きで言葉が出てこなかった。
そんな菜々美にくすりと笑って、頭に手を置いた。
「翔……」
「菜々美と付き合ってから、そう思うようになった。ずっと一緒にいたいって」
いつになく真剣な顔をした翔に、菜々美は顔を逸らした。
「い、いきなりそう言われても……」
菜々美には結婚のイメージが沸かない。それもその筈だ。母と養父を見てるといいものとは思えないのだ。
「ゆっくり、考えて?」
翔の優しい言葉は頷くことしか出来なかった。
◇◇◇◇◇
翔のアパートに移り住んでから、毎日のように養父からの電話とメッセージが入る。マンションに菜々美がいないことに気付いたのだろう。どこにいるんだと毎日毎日、菜々美のスマホが鳴る。それも一時間置きに。
《どこにいる!》
「うわ……っ」
スマホが鳴るとビクッとしてしまうようになった。
仕事をしていても落ち着かない。そもそも翔のアパートで仕事をしていること自体、落ち着かない。それなのに養父からの電話に苦しんでいる。
(仕事にならない……)
頭を抱える菜々美は、ため息を吐いた。
「気分転換してこよ」
立ち上がり、外に出掛けようと身支度をする。ノートパソコンをカバンに入れてアパートのドアノブに手をかけた。
(なんか……。嫌な予感……)
咄嗟にドアチェーンをかけた。
(ドアの向こうに誰かいる……)
菜々美はそっとドアから離れる。ベランダ側に行き、スマホのメッセージアプリを開いた。
メッセージアプリの一番上に翔の名前がある。名前をタップして翔にメッセージを送る。
《誰かとドアの向こうにいる》
翔のアパートは、玄関入ってすぐにキッチンだ。キッチンの横に小さな窓がある。その窓から人影が見える。動かずにこちらの動きを伺っているかのようだった。
ブーッ、ブーッ!
持っていたスマホが静かに動いた。
画面を見ると翔の文字。
『菜々美?そのまま聞いて』
電話の向こうで翔が話す。
『クローゼットか風呂場かに隠れていて。おれ、早退してそっち向かってる。あと、晴斗にも連絡入れておいた。晴斗の職場が近い。とにかく、すぐに行くから隠れてて』
一方的に話すと電話が切れる。仕事中なのに電話かけてきて、更に早退してきてくれる。その気持ちが嬉しかった。
スマホを握りしめてクローゼットに隠れる。風呂場は玄関の左側なので怖かった。
ドンドンドンッ!
ドアを叩く音が聞こえた。
「菜々美ーっ!」
やっぱり養父だった。
どうやったのか、ここを嗅ぎ付けてきた。
クローゼットの中で震える菜々美は、どうしたらいいのか分からなかった。ただそこで震えて時間が過ぎるのを待っているだけだった。
今まで養父から殴られたとかそういうことはない。だが、菜々美にとっては怖い人だった。それは大人になってからも続いていた。
(だから逃げたのに……っ)
涙を堪えるのが辛く、震えながら涙を流していた。
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