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翔と暮らし始めて1ヶ月経とうとしていた日曜日。菜々美のマンションへ予想もしていなかった人物がやってた。
「な……んで?」
インターフォン越しに固まっている菜々美に、翔は近付く。
「どうした?」
インターフォンのモニターを覗くと、ひとりの男性が立っている。
「菜々美?」
菜々美に声をかける。だが、菜々美は震えていた。
『早く開けないか!』
モニター越しに聞こえる声は威圧感たっぷりだった。菜々美はその声に従うしかなかった。
「なんで早く開けない!」
入るなり怒鳴り散らすその人は、菜々美の養父だった。ズカズカとリビングまで入ってくる養父は、リビングにいた翔に気付くと「お前は誰だ」と威圧した。
「中山翔と言います。菜々美さんとお付き合いさせていただいてます」
いつものあの笑顔で笑う翔に、養父は苛立っていた。
「菜々美っ!私は許さないと言った筈だ!」
菜々美に振り返りバチン!と菜々美の頬を叩いた。菜々美の頬が赤く腫れ上がる。
その状況に翔は驚いた。だがすぐに菜々美を自分の方に引き寄せた。
「なにをすんですか」
静かに養父を睨む。養父も翔を睨む。
「私たち親子の問題だ」
「だからといって余りにも酷いんじゃないですか。菜々美がなにをしたって言うんです?」
「菜々美は私の言うことを聞いていればいい!小説だって辞めるべきだ!」
その言葉に菜々美は金切り声を上げる。
「あなたに私を支配する権利はない!私はもうあなたの操り人形にはならない!」
「なんて口の聞き方!」
「私は……っ!もう自分のしたいことをやっていきたいの!あなたの指示は受けない!」
「菜々美っ!」
涙を浮かべた菜々美は必死に養父を玄関まで引っ張っていく。
「帰ってっ!もう来ないでっ!」
無理矢理、外へ押し出して玄関の鍵をかける。
──あなたが幸せになる道を行きなさい。もう大人なのだから、私たちの顔色を伺う必要はないの──
母親の言葉が、菜々美の頭の中をグルグルと回っている。
外ではドンドンドン……っ!とドアを叩く音と「菜々美っ!」と怒鳴る声がする。
耳を塞いでしゃがみ込む菜々美を抱きしめる翔は、菜々美の背中を擦っていた。
◇◇◇◇◇
「引っ越そうか?」
昼食の準備をしている翔が、膝を抱えてソファーに座る菜々美に声をかける。
「え?」
その言葉に顔を上げ翔の方を真っ直ぐに見つめる。
「あの人は、要は毒親だよ。傍にいない方がいい。居場所を知られない方がいい。もっと都心に近い所か、田舎の方に行くか」
「でも……、翔が通勤するのに……」
「どうとでもなるよ。今の会社辞めたって構わないし。他に行くところはいくらでもある」
「翔……」
「とにかく、このマンションからは離れた方がいい」
コトンと、ローテーブルに翔特製の和風パスタを置いた。
「はい」
フォークを渡した翔は、飲み物を取りにキッチンへと戻った。
「ま、考えておいて」
「ん……」
目の前にあるパスタを視線を落とした菜々美。その表情は何を考えているのか読めない。そのくらいに養父とのことが心に引っ掛かってるのだ。
翔は何も言わずにパスタを食べて、そっと菜々美から離れた。
リビングから出ていく翔に気付いているのか、いないのか。菜々美はそのままリビングのソファーに座ったままだった。
どのくらいそうしていたのか分からないが、気付くとかよがいた。
「聞いたよ。中山くんから」
そう言うと菜々美に珈琲を入れる。
「お養父さん、来たって」
「ん……」
「面と向かって反発したの、初めて?」
「……かな」
「もう解放されていいと思うよ。菜々美には中山くんがいるんだし」
ローテーブルに置かれたままのパスタを見たかよは、菜々美に笑った。
「中山くん、菜々美の為に色々してくれてるじゃない」
菜々美の目の前に置かれているパスタはもう冷めていて、麺同士がくっついていた。
「ちゃんと食べてあげなよ」
かよに言われフォークでパスタを拾い上げる。
(美味しい……)
冷めていても美味しく感じるのは、翔の気持ちが分かるから。
菜々美に対してどんな気持ちでいるのか、分かってるからそう感じる。
かよを呼んだのだって、菜々美を思ってのこと。引っ越そうと言ったのも菜々美の為。
「引っ越し……した方がいいのかな」
ポツリと呟いた菜々美に、かよは笑う。
「菜々美が笑ってられるのならどこでだっていいと思うよ。私はどこだって菜々美の所に駆けつけるから」
かよの気持ちもありがたい。高校の時からどんな時でも傍にいて支えてくれた親友。
そんな親友と大切な初恋の人の気持ちに、菜々美は胸がいっぱいで涙を流していた。
「な……んで?」
インターフォン越しに固まっている菜々美に、翔は近付く。
「どうした?」
インターフォンのモニターを覗くと、ひとりの男性が立っている。
「菜々美?」
菜々美に声をかける。だが、菜々美は震えていた。
『早く開けないか!』
モニター越しに聞こえる声は威圧感たっぷりだった。菜々美はその声に従うしかなかった。
「なんで早く開けない!」
入るなり怒鳴り散らすその人は、菜々美の養父だった。ズカズカとリビングまで入ってくる養父は、リビングにいた翔に気付くと「お前は誰だ」と威圧した。
「中山翔と言います。菜々美さんとお付き合いさせていただいてます」
いつものあの笑顔で笑う翔に、養父は苛立っていた。
「菜々美っ!私は許さないと言った筈だ!」
菜々美に振り返りバチン!と菜々美の頬を叩いた。菜々美の頬が赤く腫れ上がる。
その状況に翔は驚いた。だがすぐに菜々美を自分の方に引き寄せた。
「なにをすんですか」
静かに養父を睨む。養父も翔を睨む。
「私たち親子の問題だ」
「だからといって余りにも酷いんじゃないですか。菜々美がなにをしたって言うんです?」
「菜々美は私の言うことを聞いていればいい!小説だって辞めるべきだ!」
その言葉に菜々美は金切り声を上げる。
「あなたに私を支配する権利はない!私はもうあなたの操り人形にはならない!」
「なんて口の聞き方!」
「私は……っ!もう自分のしたいことをやっていきたいの!あなたの指示は受けない!」
「菜々美っ!」
涙を浮かべた菜々美は必死に養父を玄関まで引っ張っていく。
「帰ってっ!もう来ないでっ!」
無理矢理、外へ押し出して玄関の鍵をかける。
──あなたが幸せになる道を行きなさい。もう大人なのだから、私たちの顔色を伺う必要はないの──
母親の言葉が、菜々美の頭の中をグルグルと回っている。
外ではドンドンドン……っ!とドアを叩く音と「菜々美っ!」と怒鳴る声がする。
耳を塞いでしゃがみ込む菜々美を抱きしめる翔は、菜々美の背中を擦っていた。
◇◇◇◇◇
「引っ越そうか?」
昼食の準備をしている翔が、膝を抱えてソファーに座る菜々美に声をかける。
「え?」
その言葉に顔を上げ翔の方を真っ直ぐに見つめる。
「あの人は、要は毒親だよ。傍にいない方がいい。居場所を知られない方がいい。もっと都心に近い所か、田舎の方に行くか」
「でも……、翔が通勤するのに……」
「どうとでもなるよ。今の会社辞めたって構わないし。他に行くところはいくらでもある」
「翔……」
「とにかく、このマンションからは離れた方がいい」
コトンと、ローテーブルに翔特製の和風パスタを置いた。
「はい」
フォークを渡した翔は、飲み物を取りにキッチンへと戻った。
「ま、考えておいて」
「ん……」
目の前にあるパスタを視線を落とした菜々美。その表情は何を考えているのか読めない。そのくらいに養父とのことが心に引っ掛かってるのだ。
翔は何も言わずにパスタを食べて、そっと菜々美から離れた。
リビングから出ていく翔に気付いているのか、いないのか。菜々美はそのままリビングのソファーに座ったままだった。
どのくらいそうしていたのか分からないが、気付くとかよがいた。
「聞いたよ。中山くんから」
そう言うと菜々美に珈琲を入れる。
「お養父さん、来たって」
「ん……」
「面と向かって反発したの、初めて?」
「……かな」
「もう解放されていいと思うよ。菜々美には中山くんがいるんだし」
ローテーブルに置かれたままのパスタを見たかよは、菜々美に笑った。
「中山くん、菜々美の為に色々してくれてるじゃない」
菜々美の目の前に置かれているパスタはもう冷めていて、麺同士がくっついていた。
「ちゃんと食べてあげなよ」
かよに言われフォークでパスタを拾い上げる。
(美味しい……)
冷めていても美味しく感じるのは、翔の気持ちが分かるから。
菜々美に対してどんな気持ちでいるのか、分かってるからそう感じる。
かよを呼んだのだって、菜々美を思ってのこと。引っ越そうと言ったのも菜々美の為。
「引っ越し……した方がいいのかな」
ポツリと呟いた菜々美に、かよは笑う。
「菜々美が笑ってられるのならどこでだっていいと思うよ。私はどこだって菜々美の所に駆けつけるから」
かよの気持ちもありがたい。高校の時からどんな時でも傍にいて支えてくれた親友。
そんな親友と大切な初恋の人の気持ちに、菜々美は胸がいっぱいで涙を流していた。
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