大人初恋

星河琉嘩

文字の大きさ
上 下
20 / 50

20

しおりを挟む
 菜々美と翔は駅前で待ち合わせて、電車に乗り込み3つ先の駅で降りた。
 そこには大きな映画館がある。
 異性と待ち合わせることも初めてだった菜々美は、なんだか照れ臭くまともに顔を見れなかった。そんな菜々美の思いが伝染して、翔も照れ臭くなる。
「ん」
 手を差しのべる翔に戸惑う。
「人が多いから」
 差し出した翔の手にゆっくりと触れる。ぎゅっと握られ歩き出す。

 高校生の時はこんな風に歩くこと叶わなかった。あの頃はふざけ合って歩いていた。
 自分の気持ちを悟られないようにしていた。

「菜々美はどんな映画が好き?」
 キラキラとした笑顔は、あの頃と変わらない。もっと早くこうしていたかった……かも。と、心の奥で感じていた。
 だけど当時の菜々美は、養父からの圧力に耐えられず自分を押し殺していたから。
「菜々美」
 翔に見惚れていた菜々美は顔を真っ赤にする。
「菜々美はすぐ赤面するのな」
 大きな手が菜々美の頭を撫でる。
「え……っ!」
 ふっ……と、笑みを見せ映画館へと向かった。

 ショッピングモールの最上階にその映画館がある。いつ来ても大きいと感じるくらいの広さ。
 休日だからか、大勢の人が並んでいた。
「どれ観る?」
 翔は看板を指差す。いろんなのがやってはいるが、どれを選んだらいいのかよく分からない。
「翔は何が観たいの?」
 菜々美は翔に聞いた。
「おれ?ん──……。あ、あれは?」
 翔が選んだのはコメディだった。
 チケット買った後に、飲み物を買おうと一緒に列に並んだ。
「なに飲む?」
「じゃ、アイスティー」
「コーヒーじゃないの?」
「コーヒーは朝起きた時と夜に仕事する時に飲むから」
「それは自分の中で決めてるルール?」
「そんな感じ」
 珈琲に拘ってるわけではない。ただ珈琲を飲むと大人って感じがして、仕事に向き合える。そんな気がする。

 片手に飲み物を持って、一緒に歩く。そんなことでさえ、菜々美には初めてで、気持ちが高校生こどもに戻ったみたいだった。
 あの頃に出来なかったことを今、やっている。そんな気分だった。


「悪くない席だな」
 座席に座ると、翔が小声で話す。耳元で囁くように話すから、内緒話をしてるみたいだった。
 映画が始まるまでそうやってふたりで話して、時間を潰した。

 内緒の話……。

 翔との時間がひとつひとつ増えていく毎に、あの頃に出来たかもしれないという思いが胸を締め付ける。
 放課後。かよ達と一緒に遊びに行けるのはほんの数時間。
 養父が帰宅する前に家にいなきゃ何を言われるか分からない。ましてや、高校を辞めさせるなんて言われるのではないかとヒヤヒヤだった。
 学校にいる時、かよ達といる時が、唯一の自由の時間だったのだ。

「あの頃……。もっとこうやって遊びたかったなぁ」
 ポツリと呟く翔を見るとふっと笑ってこっちを見ていた。
(同じことを思ってた……)
 もっと一緒に遊びたかった。高校生の自分は養父に反発する勇気がなかったから、後悔ばかりの高校生活だった。
 唯一反発したのは小説仕事だった。

「ま、今遊べばいいよな」
 映画が始まるブザーが鳴る直前、翔は菜々美の耳元でそう囁いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

手を伸ばした先にいるのは誰ですか~愛しくて切なくて…憎らしいほど愛してる~【完結】

まぁ
恋愛
ワイン、ホテルの企画業務など大人の仕事、そして大人に切り離せない恋愛と… 「Ninagawa Queen's Hotel」 若きホテル王 蜷川朱鷺  妹     蜷川美鳥 人気美容家 佐井友理奈 「オークワイナリー」 国内ワイナリー最大手創業者一族 柏木龍之介 血縁関係のない兄妹と、その周辺の何角関係…? 華やかな人々が繰り広げる、フィクションです。

届かぬ温もり

HARUKA
恋愛
夫には忘れられない人がいた。それを知りながら、私は彼のそばにいたかった。愛することで自分を捨て、夫の隣にいることを選んだ私。だけど、その恋に答えはなかった。すべてを失いかけた私が選んだのは、彼から離れ、自分自身の人生を取り戻す道だった····· ◆◇◆◇◆◇◆ すべてフィクションです。読んでくだり感謝いたします。 ゆっくり更新していきます。 誤字脱字も見つけ次第直していきます。 よろしくお願いします。

初色に囲われた秘書は、蜜色の秘処を暴かれる

ささゆき細雪
恋愛
樹理にはかつてひとまわり年上の婚約者がいた。けれど樹理は彼ではなく彼についてくる母親違いの弟の方に恋をしていた。 だが、高校一年生のときにとつぜん幼い頃からの婚約を破棄され、兄弟と逢うこともなくなってしまう。 あれから十年、中小企業の社長をしている父親の秘書として結婚から逃げるように働いていた樹理のもとにあらわれたのは…… 幼馴染で初恋の彼が新社長になって、専属秘書にご指名ですか!? これは、両片想いでゆるふわオフィスラブなひしょひしょばなし。 ※ムーンライトノベルズで開催された「昼と夜の勝負服企画」参加作品です。他サイトにも掲載中。 「Grand Duo * グラン・デュオ ―シューベルトは初恋花嫁を諦めない―」で当て馬だった紡の弟が今回のヒーローです(未読でもぜんぜん問題ないです)。

ドSな彼からの溺愛は蜜の味

鳴宮鶉子
恋愛
ドSな彼からの溺愛は蜜の味

ドSでキュートな後輩においしくいただかれちゃいました!?

春音優月
恋愛
いつも失敗ばかりの美優は、少し前まで同じ部署だった四つ年下のドSな後輩のことが苦手だった。いつも辛辣なことばかり言われるし、なんだか完璧過ぎて隙がないし、後輩なのに美優よりも早く出世しそうだったから。 しかし、そんなドSな後輩が美優の仕事を手伝うために自宅にくることになり、さらにはずっと好きだったと告白されて———。 美優は彼のことを恋愛対象として見たことは一度もなかったはずなのに、意外とキュートな一面のある後輩になんだか絆されてしまって……? 2021.08.13

処理中です...