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「え──……!」
菜々美のマンションにやって来たかよは、菜々美から話を聞いて驚きの声を上げる。
「ほんとに?」
目をキラキラさせるかよは、こんなに面白いネタはないのだろう。ニコニコと笑っては「ふ~ん……そっかぁ」と呟いていた。
「まだよく分からないんだけどね……」
かよにそう言う菜々美は、自然と笑みを浮かべていた。
菜々美にとっての初恋の人。その人と付き合うことになるとは思ってもいなかった。菜々美は初恋は実らないと思って生きてきたから、こんなことになるとは思わなくなんだかフワフワした状態だった。
「長年の想いが報われたね」
かよはそう言うが、今もあの頃のように好きなのかは分からない。確かに忘れられない人ではある。だけど、あの頃のような想いなのかは分からない。風化してしまった想いが、菜々美の中にあると思ってる。
「何よ。自分で決めたことでしょ」
「そうなんだけど……」
なんであんなことを言ったのかも分からないでいる菜々美は、これからどう振る舞えばいいのか分からないでいた。
◇◇◇◇◇
一日中、マンションに閉じ籠ってることが多い菜々美にとって翔やかよは、唯一関わりを持つ存在だった。ずっとマンションの一室で仕事をするから、誰とも関わらないで1日が終わることもあった。
今日はそんな日なのか、かよもマンションには寄らない。翔からも何の音沙汰もない。というより、翔に限ってはあの日から何も連絡がないのだ。
(どうしたんだろう……)
こんな状態が続くなら、付き合うなんてことを言わなきゃ良かったと感じている。
シャワーを浴びてリビングに戻って、冷蔵庫から缶ビールを取り出した菜々美は、グイと喉に流し込んでいた。
こんな姿は誰にも見せられないなと自分で苦笑いする。
リビングのソファーに座ってると、ピンポーンとインターフォンが鳴った。
「こんな時間に誰……?」
モニターを見て確認すると、翔がそこに立っていた。
「え……?」
時刻は夜の12時近く。こんな時間に連絡もなく来るなんて……と、慌ててドアを開ける。
「どうしたの……?」
どうやら今日は呑んでないらしい。だけど何か伝えなきゃいけないことでもあったのか、顔を真っ赤にしていた。
「た……、高梨!」
「はい……」
翔の腕は、菜々美を包み込んでいた。
「中山……くん?」
玄関先で抱きしめられた菜々美は、今の姿を思い出していた。シャワーを浴びた後だったから、メイクも落とし部屋着の状態。とても誰かに見せられる格好ではない。
「ちょ……っ、ちょっと待って……っ!」
恥ずかしくなり翔から離れると、寝室に隠れてしまった。
「高梨」
その後を追って寝室の前に行くと、声をかける翔。だけど、それに答えられずに寝室のドアを閉めていた。
「高梨……。おれ……」
呼び掛ける声を聞くだけで何だか恥ずかしくなる。
「ここ開けて」
こんな格好を見られたくない菜々美は、頑なに拒む。
「菜々美!」
ドキン……と、胸が高鳴った。名前で呼ばれたことがこんなにも嬉しく思うのかと。
「開けて。菜々美」
観念したかのように寝室のドアを半分開けた。
「なんで逃げるの」
「そっちこそ、こんな時間になんで来るの。なんでいきなり抱きしめるのよ」
こんな時間に来たこともそうだけど、いきなり抱きしめられたことが疑問でしかない。
「あ……」
どこから言ったらいいのか迷った翔は、菜々美に笑った。
「なんか……気恥ずかしくて、なかなか連絡出来なくてごめん」
「え」
「仕事が忙しかったのもあるけど、お前がおれの彼女になったんだって思ったら……、恥ずかしくなって……、でも会いたくなって来たら抱きしめたくなって……」
そう言われてしまって、何も答えられない菜々美は寝室のドアを開けた。
「菜々美……」
もう一度抱きしめてきた翔に、どうしたらいいのか分からない。
スーツ姿の翔は仕事帰りなのだろう。こんな遅くまで働いて身体は大丈夫なのかと心配になる。
「仕事、大変なの……?」
抱きつかれたまま菜々美はそう聞く。そんな菜々美に、抱きついたまま「まぁ……な」と答えた翔。
「エンジニアだっけ?」
「ん……」
疲れているのか、気のない返事をする。
「中山……くん?」
「ん」
「大丈夫……?」
「眠い」
本当に眠そうにしている翔。
翔は菜々美に体重を預けるように半分眠っていく。
「ちょ……っと!寝ないでっ!」
菜々美は慌てて翔をベッドに連れていく。スーツだって皺になっちゃう……と、脱ぐように言う。
「菜々美」
名前で呼ばれる度にドキッとする。
「一緒に寝よ」
「な、な、なんで……っ」
「なんもしねぇよ。する気力が今ない。ただ一緒に……いて……」
スーツを脱いだ翔は、下に着ていたTシャツと下着だけになり、そのままベッドに倒れ込んだ。
余程疲れているのかすぐに寝息をたてる。
「全く……」
呆れ顔の菜々美は、翔に布団をかけると自分はリビングのソファーで寝ようと部屋を出ようとする。だけど、翔の腕に掴まれてベッドに滑り込む。
「起きてるの……?」
声をかけるが返事はない。
「もう……」
翔の腕の力は強い。寝ていても力強く抜け出せない。仕方なく菜々美もベッドで眠ることにした。
菜々美のマンションにやって来たかよは、菜々美から話を聞いて驚きの声を上げる。
「ほんとに?」
目をキラキラさせるかよは、こんなに面白いネタはないのだろう。ニコニコと笑っては「ふ~ん……そっかぁ」と呟いていた。
「まだよく分からないんだけどね……」
かよにそう言う菜々美は、自然と笑みを浮かべていた。
菜々美にとっての初恋の人。その人と付き合うことになるとは思ってもいなかった。菜々美は初恋は実らないと思って生きてきたから、こんなことになるとは思わなくなんだかフワフワした状態だった。
「長年の想いが報われたね」
かよはそう言うが、今もあの頃のように好きなのかは分からない。確かに忘れられない人ではある。だけど、あの頃のような想いなのかは分からない。風化してしまった想いが、菜々美の中にあると思ってる。
「何よ。自分で決めたことでしょ」
「そうなんだけど……」
なんであんなことを言ったのかも分からないでいる菜々美は、これからどう振る舞えばいいのか分からないでいた。
◇◇◇◇◇
一日中、マンションに閉じ籠ってることが多い菜々美にとって翔やかよは、唯一関わりを持つ存在だった。ずっとマンションの一室で仕事をするから、誰とも関わらないで1日が終わることもあった。
今日はそんな日なのか、かよもマンションには寄らない。翔からも何の音沙汰もない。というより、翔に限ってはあの日から何も連絡がないのだ。
(どうしたんだろう……)
こんな状態が続くなら、付き合うなんてことを言わなきゃ良かったと感じている。
シャワーを浴びてリビングに戻って、冷蔵庫から缶ビールを取り出した菜々美は、グイと喉に流し込んでいた。
こんな姿は誰にも見せられないなと自分で苦笑いする。
リビングのソファーに座ってると、ピンポーンとインターフォンが鳴った。
「こんな時間に誰……?」
モニターを見て確認すると、翔がそこに立っていた。
「え……?」
時刻は夜の12時近く。こんな時間に連絡もなく来るなんて……と、慌ててドアを開ける。
「どうしたの……?」
どうやら今日は呑んでないらしい。だけど何か伝えなきゃいけないことでもあったのか、顔を真っ赤にしていた。
「た……、高梨!」
「はい……」
翔の腕は、菜々美を包み込んでいた。
「中山……くん?」
玄関先で抱きしめられた菜々美は、今の姿を思い出していた。シャワーを浴びた後だったから、メイクも落とし部屋着の状態。とても誰かに見せられる格好ではない。
「ちょ……っ、ちょっと待って……っ!」
恥ずかしくなり翔から離れると、寝室に隠れてしまった。
「高梨」
その後を追って寝室の前に行くと、声をかける翔。だけど、それに答えられずに寝室のドアを閉めていた。
「高梨……。おれ……」
呼び掛ける声を聞くだけで何だか恥ずかしくなる。
「ここ開けて」
こんな格好を見られたくない菜々美は、頑なに拒む。
「菜々美!」
ドキン……と、胸が高鳴った。名前で呼ばれたことがこんなにも嬉しく思うのかと。
「開けて。菜々美」
観念したかのように寝室のドアを半分開けた。
「なんで逃げるの」
「そっちこそ、こんな時間になんで来るの。なんでいきなり抱きしめるのよ」
こんな時間に来たこともそうだけど、いきなり抱きしめられたことが疑問でしかない。
「あ……」
どこから言ったらいいのか迷った翔は、菜々美に笑った。
「なんか……気恥ずかしくて、なかなか連絡出来なくてごめん」
「え」
「仕事が忙しかったのもあるけど、お前がおれの彼女になったんだって思ったら……、恥ずかしくなって……、でも会いたくなって来たら抱きしめたくなって……」
そう言われてしまって、何も答えられない菜々美は寝室のドアを開けた。
「菜々美……」
もう一度抱きしめてきた翔に、どうしたらいいのか分からない。
スーツ姿の翔は仕事帰りなのだろう。こんな遅くまで働いて身体は大丈夫なのかと心配になる。
「仕事、大変なの……?」
抱きつかれたまま菜々美はそう聞く。そんな菜々美に、抱きついたまま「まぁ……な」と答えた翔。
「エンジニアだっけ?」
「ん……」
疲れているのか、気のない返事をする。
「中山……くん?」
「ん」
「大丈夫……?」
「眠い」
本当に眠そうにしている翔。
翔は菜々美に体重を預けるように半分眠っていく。
「ちょ……っと!寝ないでっ!」
菜々美は慌てて翔をベッドに連れていく。スーツだって皺になっちゃう……と、脱ぐように言う。
「菜々美」
名前で呼ばれる度にドキッとする。
「一緒に寝よ」
「な、な、なんで……っ」
「なんもしねぇよ。する気力が今ない。ただ一緒に……いて……」
スーツを脱いだ翔は、下に着ていたTシャツと下着だけになり、そのままベッドに倒れ込んだ。
余程疲れているのかすぐに寝息をたてる。
「全く……」
呆れ顔の菜々美は、翔に布団をかけると自分はリビングのソファーで寝ようと部屋を出ようとする。だけど、翔の腕に掴まれてベッドに滑り込む。
「起きてるの……?」
声をかけるが返事はない。
「もう……」
翔の腕の力は強い。寝ていても力強く抜け出せない。仕方なく菜々美もベッドで眠ることにした。
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