大人初恋

星河琉嘩

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 その後はどうやって帰ってきたのか、翔と何の話をしたのか覚えていなかった。
 そのくらいの衝撃的なことだった。



「私と……中山くんが……?」
 何だか信じれない話で、頭の中がふわふわしている。
 リビングのソファーに座り、何気なくつけたテレビの内容も頭に入らない。こんな状態で仕事も出来るわけなかった。
「どうしたらいいの……?」
 高校生の頃、好きだった人。だけど、今も好きなのかは分からない。忘れられない人には変わらないが、その思いは好きな気持ちなのかは分からない。




     ◇◇◇◇◇



「え!?」
 かよは驚いた。まさかそんなことになってるとは思ってもいなかった。
「中山くん、やるねぇ」
 と、茶化すくらいだ。
「で、あんたはなんでそんな顔してるのよ」
 微妙な顔をしている菜々美がおかしいのか、笑いながら言った。
「なんで笑うのよ」
「あんたのその顔が面白い」
「かよっ」
 ふふっと笑い、菜々美を見る。
「でもどうするの?」
「え」
「中山くんのこと」
 どうするのと聞かれて、菜々美はどうしたらいいのか答えに詰まる。
 自分で自分が分からない。どうしたらいいのか決めかねてる。

「……どうしたらいいと思う?」
 かよにそう聞いてみる。聞かれたかよは、菜々美を見た。
「菜々美の気持ちはどうなの?今も好き?」
「………分からない」
「でも中山くんのことを忘れたことはないんでしょ」
「うん……」
 忘れられる筈がなかった。告白して振られたわけでもないから、次へと進めなかったのだ。

「ま、少し考えてみなよ」
 こういう時、かよは適当なことを言わない。そこがかよといて好きなところだ。
「仕事も頑張ってね」
 毎日のように顔を出しては適度話をし、帰っていく。
 かよの後ろ姿を見送って、また仕事部屋に籠る。書けるところは書き進めておこうと、パソコンを起動させた。



     ◇◇◇◇◇



 暫く、キーボードを叩く音が部屋に響く。マンションにひとりきり。静かなものだ。静かな空間で菜々美は小説を書く。たまに音楽をかけながら書くのだが、今日は静かな空間で書きたい気分だった。
 そんな空間を遮るように、菜々美のスマホが鳴り出した。

「……もしもし?」
 迷惑そうに電話に出るのは今書いてる小説が、乗ってるから。止めたくはなかったのだ。
『菜々美先生!』
 担当編集者の山之内だった。
「なに?」
 迷惑だと言わんばかりの声で言うと、山之内はマズイところにかけたと分かった。
『原稿、どうですか?』
 マズイと分かっていながらもそう聞くのは、それが山之内の仕事でもあるから。
「今書いてる」
『書けますか?例のところ』
 その言葉は詰まる菜々美を分かってるのか、山之内は笑った。
『だと思って、そういうDVD、送っておきました!』
 と元気よく言った山之内は電話を切った。


(そういうDVDって……?)
 頭の中に過る嫌な予感。それは大当たりだった。
 その日の夕方に届いた山之内からの荷物。ダンボールの中を開けた瞬間、脱力した。
「山之内~っ」
 目の前にはいない担当編集者の名前を恨めしそうに呟く。
「これをどうしろとっ!」
 ダンボールの中身は所謂、アダルトDVDがいくつか入っていて、おまけのようにそういうグッズが入ってる。
「絶対、面白がってる」
 山之内は菜々美が未経験だとは知らないが、経験は浅いと思っている。だからか、こういうものを送って反応を面白がってるのだろう。半分は仕事の為に。半分はおフザけで。
 菜々美は直ぐに抗議の電話を入れた。

『嫌だなぁ。フザけてなんかいないですよ~』
 電話の向こうではクスクス笑う山之内。
『参考にしてください~』
「参考……って!」
『あ、入ってるグッズは是非とも使ってみてくださいね!』
 クスクス笑う山之内は絶対面白がってる。
「使えるかっ!」
 珍しく菜々美は大声を出す。そして再び脱力感でいっぱいになった。

 
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