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恋愛小説家の高梨菜々美の初恋は高校生の頃だった。人よりちょっと遅めの初恋。だけど、大人しい性格の菜々美はその彼とまともに会話も出来ずに高校を卒業した。
それ以来、恋というものはしたことない。
「菜々美先生!」
菜々美の仕事場にやってきた担当編集者の山之内は、原稿が完成していないことに苛立っていた。
「仕方ないじゃないの!」
今回の話を書くにあたって、菜々美はとても困り果てている。それというもの、話の流れでどうしても男女の絡みを書かなくてはいけないのだ。
(経験がない私が書くのよ。どう書けばいいのか……)
今までも書いてははいた。だが、まだ軽いものだった。
だけど、今回はそうはいかない。なんとか書かなくてはいけない。
「もう少し、待ってて……」
菜々美はこう見えてもそれなりの売れっ子。マンションを購入してそこを仕事場と住まいにしている。
「分かってますよ。菜々美先生なら出来ること!」
山之内はそう言うと「来週また来ますから」と言って帰っていく。
「はぁ~……」
山之内が帰った後、大きなため息を吐く。どう書けばいいのか分からない菜々美は一旦、パソコンを閉じた。
♪~♪~♪~
スマホの音楽が鳴り出す。自分の好きなアーティストの曲を着信にしている。
スマホの画面には【母】の文字。
「はぁ~」
とため息を吐いて、電話に出た。
「なにー?忙しいんたけど」
『あんたねー!電話くらい寄越しなさいよ』
と母の声が響く。
「なんの用?」
『同窓会のハガキ来てるから、取りに来なさい』
「えー……」
『いいから来なさい!』
一方的に切られた電話にまたため息を吐く。
菜々美と実家は折り合いが悪い。
実家というより、父親との折り合いが悪いのだ。母親はその間に挟まれているからなのか、菜々美にどうにか折れて欲しいと願ってる。
父親は母親の再婚相手だった。中学生の頃に母親は再婚したのだ。
その養父は、菜々美の職業が気に入らない。元々、菜々美の性格も気に入らないから、よくケンカになっていた。
漫画や小説をよく読んでいた菜々美のことをよく思っていなかった。ましてや、書いてるなんて許せなかったのだ。そのことでケンカをしては家出を繰り返していたこともあった。
高校三年の夏休みに菜々美の小説が小説雑誌に掲載された。
それが更に関係を悪化させたのだ。
(気が重い……)
菜々美はため息を吐いて、部屋を出る。
実家とマンションは遠くもないが近くもない。隣の隣くらいの街に位置する。
マンションの駐車場へ行き、赤い車に乗り込むと、エンジンをかけた。菜々美が赤い車にしたのは、養父に反発する為だった。養父は赤いもの、ピンクのものを持つことを嫌った。女の子はそういう色が好きになる傾向があるが、それを禁止した。加えてひらひらとしたスカートなども許せないのか、禁止にした。
なぜなのか、当時の菜々美は聞いたが「男遊びする気か!」と怒鳴られた。
なので母親も赤いものピンクのものなどは一切買わなくなった。それまではよく買ってくれていた。ひらひらとしたスカートやワンピースもよく買ってくれていた。それらが一切禁止になった。
スカートは制服だけ。持っていたスカートは全て捨てられたくらいだった。
そんな少女時代を過ごさなければいけなかったので、あまりいい思い出はない。
「はぁ……」
赤い車を停めて、実家を見上げる。ため息しか出てこないことが嫌になる。
ピンポーン……。
インターフォンを鳴らすと、中から母親が出てきた。
「菜々美。入って」
中に連れ込まれると、リビングまで引っ張られる。リビングには父親が仏頂面で座っていた。
「……た、ただいま」
恐々と父親に言うと、父親はチラッと菜々美を見た。
「なぜそんな格好している」
低い声で威嚇するように言う。菜々美は敢えて父親が嫌がる格好をしていた。タイトなスカートと、シフォン生地のブラウス。ひらひらとしたスカートではないけど、これもまた父親は嫌うものだった。
「好きな格好して何が悪いですか」
「菜々美!」
大きな声で怒鳴る父親をちらっと見て、母親に向き直る。
「ハガキは?」
「あ、これ……」
「ありがとう。私、仕事まだあるから」
そういうとリビングを出ようとしたその時、父親がまた威圧感たっぷりに言った。
「まだあんなくだらないことやってるのか。まともに仕事したらどうだ」
小説家を仕事として見てくれない父親に嫌気が差す。
「これでも結構人気なんです」
そう言うと実家を出る。目の前に停めてある車に乗り込むと、エンジンをかけて走り出した。
それ以来、恋というものはしたことない。
「菜々美先生!」
菜々美の仕事場にやってきた担当編集者の山之内は、原稿が完成していないことに苛立っていた。
「仕方ないじゃないの!」
今回の話を書くにあたって、菜々美はとても困り果てている。それというもの、話の流れでどうしても男女の絡みを書かなくてはいけないのだ。
(経験がない私が書くのよ。どう書けばいいのか……)
今までも書いてははいた。だが、まだ軽いものだった。
だけど、今回はそうはいかない。なんとか書かなくてはいけない。
「もう少し、待ってて……」
菜々美はこう見えてもそれなりの売れっ子。マンションを購入してそこを仕事場と住まいにしている。
「分かってますよ。菜々美先生なら出来ること!」
山之内はそう言うと「来週また来ますから」と言って帰っていく。
「はぁ~……」
山之内が帰った後、大きなため息を吐く。どう書けばいいのか分からない菜々美は一旦、パソコンを閉じた。
♪~♪~♪~
スマホの音楽が鳴り出す。自分の好きなアーティストの曲を着信にしている。
スマホの画面には【母】の文字。
「はぁ~」
とため息を吐いて、電話に出た。
「なにー?忙しいんたけど」
『あんたねー!電話くらい寄越しなさいよ』
と母の声が響く。
「なんの用?」
『同窓会のハガキ来てるから、取りに来なさい』
「えー……」
『いいから来なさい!』
一方的に切られた電話にまたため息を吐く。
菜々美と実家は折り合いが悪い。
実家というより、父親との折り合いが悪いのだ。母親はその間に挟まれているからなのか、菜々美にどうにか折れて欲しいと願ってる。
父親は母親の再婚相手だった。中学生の頃に母親は再婚したのだ。
その養父は、菜々美の職業が気に入らない。元々、菜々美の性格も気に入らないから、よくケンカになっていた。
漫画や小説をよく読んでいた菜々美のことをよく思っていなかった。ましてや、書いてるなんて許せなかったのだ。そのことでケンカをしては家出を繰り返していたこともあった。
高校三年の夏休みに菜々美の小説が小説雑誌に掲載された。
それが更に関係を悪化させたのだ。
(気が重い……)
菜々美はため息を吐いて、部屋を出る。
実家とマンションは遠くもないが近くもない。隣の隣くらいの街に位置する。
マンションの駐車場へ行き、赤い車に乗り込むと、エンジンをかけた。菜々美が赤い車にしたのは、養父に反発する為だった。養父は赤いもの、ピンクのものを持つことを嫌った。女の子はそういう色が好きになる傾向があるが、それを禁止した。加えてひらひらとしたスカートなども許せないのか、禁止にした。
なぜなのか、当時の菜々美は聞いたが「男遊びする気か!」と怒鳴られた。
なので母親も赤いものピンクのものなどは一切買わなくなった。それまではよく買ってくれていた。ひらひらとしたスカートやワンピースもよく買ってくれていた。それらが一切禁止になった。
スカートは制服だけ。持っていたスカートは全て捨てられたくらいだった。
そんな少女時代を過ごさなければいけなかったので、あまりいい思い出はない。
「はぁ……」
赤い車を停めて、実家を見上げる。ため息しか出てこないことが嫌になる。
ピンポーン……。
インターフォンを鳴らすと、中から母親が出てきた。
「菜々美。入って」
中に連れ込まれると、リビングまで引っ張られる。リビングには父親が仏頂面で座っていた。
「……た、ただいま」
恐々と父親に言うと、父親はチラッと菜々美を見た。
「なぜそんな格好している」
低い声で威嚇するように言う。菜々美は敢えて父親が嫌がる格好をしていた。タイトなスカートと、シフォン生地のブラウス。ひらひらとしたスカートではないけど、これもまた父親は嫌うものだった。
「好きな格好して何が悪いですか」
「菜々美!」
大きな声で怒鳴る父親をちらっと見て、母親に向き直る。
「ハガキは?」
「あ、これ……」
「ありがとう。私、仕事まだあるから」
そういうとリビングを出ようとしたその時、父親がまた威圧感たっぷりに言った。
「まだあんなくだらないことやってるのか。まともに仕事したらどうだ」
小説家を仕事として見てくれない父親に嫌気が差す。
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