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第3章

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「ほんと、内緒にしてよ!」
 沙樹は何度もさちと朱莉に言っていた。それを言うのはふたりから何度かからかわれることがあったからだった。
 今日もまたお弁当を食べてる時に言われたのだ。
「彼氏とはどうなの?」
 中庭でお弁当を食べてるのは沙樹たちだけではない。3年生もいたり1年生もいたりする。そんな中で、崇弘のことを話すのはなかなか難しい。
「春休みに会ったきり会ってないの」
 忙しい崇弘と会ったのは、春休み。誕生日パーティーを開いてくれた次の日だった。あのパーティーの次の日の夕方、わざわざ地元にやって来ては沙樹を呼び出し、ほんの僅かな時間会うことが出来た。
 その時にペンダントを貰ったのだ。

「寂しくないの?」
 さちはそう聞くと、沙樹は微かに笑った。
「仕方ない……よ」
 世界の違う仕事をしていれば、なかなか会うことも出来ないのは承知。それでも崇弘を独り占めしたいと思ってしまう。
「ステージに立つタカちゃんも好きだもん……」
「沙樹、かわいい」
 結子は沙樹に抱きつく。
「ちょ……っ、結子っ」
 照れながらも結子のそういうところが、沙樹は好きだったりする。
 今までにない感情をくれたのは、結子だった。
 結子が沙樹にというものを教えてくれたのだ。



     ◇◇◇◇◇



 2年生になって、すぐに修学旅行がある。行き先は京都。
「中学の時も行ったのにね」
「でも京都、好きだよー」
 沙樹と結子、さちに朱莉は同じ班で同じ部屋だった。その為、4人で買い物に行こうと都内にまでやって来た。
「地元じゃこういうおしゃれなもの、なかなかないよねぇ」
 そう言いながら、雑貨や洋服を見て回った。基本、制服を着て京都を回るのだが、やっぱり女子。おしゃれをしていきたいと思うのだ。

「沙樹」
 ヘアアクセサリーのコーナーで、結子は沙樹の頭につけてみる。
「かわいい~」
 小さな白いリボンのバレッタ。
「あ、ほんと」
「ねぇ。色ちがいで買おうよ」
 朱莉の提案でそれぞれ好きな色のリボンを取った。
 結子はピンク。さちは水色。朱莉は濃い赤。そして沙樹は結子が選んだ白だった。
 友達とお揃いの物を買うということも初めてだった沙樹は、嬉しくて顔が緩む。
 そんな沙樹に、結子が気付いていたが何も言わないで沙樹の隣に立った。


 お昼に立ち寄ったのは、輝と崇弘のマンションがある駅から、数駅離れた場所。色々と回ってここまで来たのだ。
 前に輝に聞いていたカフェに寄ったのだ。
「素敵お店だねぇ」
 そのカフェはスタイリッシュなテーブルや椅子、ソファーなどでまとめられているお店だった。
「パスタのお店?」
「たまにお兄が来るみたい」
「そうなの?」
「うん」
 窓際の席へと案内され、メニューを見る。お店の雰囲気のわりには、リーズナブルなお店だった。
「あ、これ美味しそう」
 メニューも写真入りで、結子はそのケーキセットを指した。
「ここ、レアチーズケーキが美味しいってお兄ちゃんが言ってた」
 そう言って沙樹もメニューを覗き込んでいた。


「沙樹?」
 そう呼ばれ顔を上げる。そこには輝が立っていた。
 サングラスをかけ、帽子を被った輝。
「あ」
「あ!」
 隣にいた結子も思わず声を上げた。
「結子ちゃん……と、あれ。見たことある顔だな」
 輝はさちと朱莉を目線を向ける。
「小学校からの同級生」
「あ、だからか」
「「高校でも一緒で~す」」
 さちと朱莉は声を揃えて言った。
「仲良くしてやってな」
「はい」
 ふたりはそう返す。

「ここまで何しに来たの?」
 沙樹に目線を移すとそう聞いた。
「修学旅行あるの。その買い出しってとこかな」
「京都か」
「うん」
「中学でも行ってなぜかまた京都なんだよな、あの学校」
「輝さんもやっぱり行ったんですか?」
「行ったよ。行って崇弘たちとバカ騒ぎしてメッチャ怒られたわ」
 昔話をする時の輝は、テレビで見るあの輝とは違って見えた。


「じゃ、邪魔しちゃ悪いから」
 と、4人とは離れた場所へと座る。いつも来ているのか、店員は輝の前にコーヒーを置いた。


「やっぱりカッコいいね」
 小声でそう話す3人に、沙樹だけは賛同出来なかった。
「あの人、ああ見えてだらしない所あるんだけど」
「えーっ」
「でもカッコいいじゃん」
 そう盛りがあってると、輝が沙樹に近寄る。
「なに」
 輝の手には1万円。
「小遣い」
「えー」
「いいから持っとけ」
 無理やり渡すと、輝はさっさと店を出ていく。
「食べるの早っ」
 輝がいた席を見ると店員が片付けていた。

「やっぱり、甘々だねぇ」
 朱莉は沙樹が手にしたお金を指す。
「いらないのに……」
 そう言いながらその1万を財布に入れた。
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