上 下
57 / 63
第3章

3

しおりを挟む
 新学期の朝。沙樹はいつもと変わらない朝を過ごしていた。
 部屋を見ると、輝たちにもらった大きなクマのぬいぐるみが置いてある。
「もう子供じゃないんだから……」
 クマを見ながら笑う沙樹の首元には、ペンダントが光っていた。
 あの日とは別の日に、沙樹は崇弘に呼び出されていた。ほんの少しの時間だったけど、沙樹はふたりで会えたことが嬉しかった。
 その時に渡されたものがこのペンダントだった。
 鏡を見てペンダントに触れると、自然と顔が緩んでしまう。


「沙樹ちゃーん!遅刻するわよー」
 一階から由紀子の声がする。その声を聞いて沙樹は階下したに降りていった。
 居間のテーブルには朝食が並べられていて、新聞を読んでる父親の姿があった。
「早く食べなさい」
 台所から顔を出した由紀子は、沙樹にそう促すとそれに頷いて自分の席に座った。
 テーブルに並べられてる朝食は、和食の時もあるし、洋食の時もある。ただ沙樹は朝からたくさんは食べられないので、サラダと食パンといった軽食が多かった。朝だけではなく少食な沙樹は、お弁当も小さい。別にダイエットをしているとかそんなことはないのだが、この家に来る前から食べる量は少ないのだ。
 それを沙樹のふたりの母は常に心配していたのだ。
 高幡に来る前は実母である紗那。そして高幡に来てからは由紀子が、沙樹のことを心配している。
 それでも昔に比べて少しは食べる量は増えたのだが……。

「ごちそうさま」
 少しの朝食を食べ終わると、沙樹は食器を台所へと持っていく。そのままお風呂場へと行き、洗面所で歯を磨く。
 髪をもう一度整え、奥の部屋へと入る。
 ふたつの仏壇に「行ってきます」と告げて、居間に顔を出す。
「行ってくるね」
「気を付けて」
 通学リュックを持って、玄関を出ると目の前にちょうどバスが来ていた。そのバスで学校まで乗っていくのだ。


 バスを降りた所で別のバスから降りてきた結子に会った。
「おはよう」
 結子は沙樹に気付き、笑顔で挨拶をする。
「おはよう」
 結子の隣に立ち、一緒に学校まで歩いていく。
「また同じクラスだといいねー」
 他愛もない話をしながら、正門を通った。正門近くに掲示板が設置され、そこにクラスが貼り出されていた。
 掲示板を見ているとさちと朱莉がふたりに近付いた。
「おはよう」
「おはよう。クラス見た?」
 4人は揃ってクラス発表を見ていた。運良く4人は同じクラスだった。
 4人は笑って、昇降口に向かった。



     ◇◇◇◇◇



 始業式が終わり、4人は教室に残って話をしていた。他の生徒は新学期から部活へ行ったり、下校して行った。
「どうする?」
 さちは3人に聞くとまだ帰りたくないと思う結子は、「どっか寄っていこっ」と言う。
 まだ話をしていたいのは結子だけではなく、沙樹もさちも朱莉も同じだった。
「でもうちのお母さん、お昼用意してくれてるかも」
 そう言う朱莉はスマホを取り出した。
「うちもだなぁ」
 みんなそれぞれスマホを取り出して家に電話をかけた。
「うん。ごめんね、お母さん」
 それぞれが電話の向こうの母親にそう言って、電話を切った。
「駅の方、行こっか」
 朱莉の提案に4人は教室を出ていく。

 グラウンドを見ると、すでに走り込んでる人がいた。
「あっ!」
 結子はその人に大声で叫んで呼んだ。
「柳先輩~!」
 走っていたのは柳だった。柳は結子に気付くと手を挙げて答えた。
「サッカー部の先輩だよね」
 朱莉は結子に聞くと「うん」と笑った。
「中学の先輩なの」
 柳の話をする結子は、恋する乙女な顔をしていた。
「結子、好きなんでしょ」
「えっ」
「結子のその目、恋してる目だもん」
 さちにそう言われて、思わず顔を隠す。そんな結子が可愛かった。



    ◇◇◇◇◇



「いいなー」
 駅前のハンバーガーショップで、4人は窓の外を見ていた。そこには他校のカップルが手を繋いで歩いていた。そのふたりの姿を見て、さちが羨ましいといった顔をしていた。
「あんな風に放課後に制服デートって憧れる」
「確かに」
「沙樹も無理だもんねー」
 思わずそう結子が言うと、はっとしたように口を閉ざした。それに反応したのはさちと朱莉。沙樹に詰め寄るように話を聞き出そうとしていた。

「どういうこと⁉」
「無理ってなんで⁉」
 次々に問いただすふたりに圧倒され、黙っていられなくなった。
「沙樹、ごめん」
 結子がそう目配せする。
「……あのね」
 沙樹は小声でふたりに話し出した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

神様の手違いで、おまけの転生?!お詫びにチートと無口な騎士団長もらっちゃいました?!

カヨワイさつき
恋愛
最初は、日本人で受験の日に何かにぶつかり死亡。次は、何かの討伐中に、死亡。次に目覚めたら、見知らぬ聖女のそばに、ポツンとおまけの召喚?あまりにも、不細工な為にその場から追い出されてしまった。 前世の記憶はあるものの、どれをとっても短命、不幸な出来事ばかりだった。 全てはドジで少し変なナルシストの神様の手違いだっ。おまけの転生?お詫びにチートと無口で不器用な騎士団長もらっちゃいました。今度こそ、幸せになるかもしれません?!

涼子

詩織
恋愛
私の名前は涼子。高校3年生。 同じクラスには全く同じ字の涼子がいる。 もう1人の涼子は美人で成績優秀、みんなからの人気もの 彼女も私も同じ人を好きになってしまい…

ハイスペックでヤバい同期

衣更月
恋愛
イケメン御曹司が子会社に入社してきた。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

フラれた女

詩織
恋愛
別の部のしかもモテまくりの男に告白を… 勿論相手にされず…

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

女官になるはずだった妃

夜空 筒
恋愛
女官になる。 そう聞いていたはずなのに。 あれよあれよという間に、着飾られた私は自国の皇帝の妃の一人になっていた。 しかし、皇帝のお迎えもなく 「忙しいから、もう後宮に入っていいよ」 そんなノリの言葉を彼の側近から賜って後宮入りした私。 秘書省監のならびに本の虫である父を持つ、そんな私も無類の読書好き。 朝議が始まる早朝に、私は父が働く文徳楼に通っている。 そこで好きな著者の本を借りては、殿舎に籠る毎日。 皇帝のお渡りもないし、既に皇后に一番近い妃もいる。 縁付くには程遠い私が、ある日を境に平穏だった日常を壊される羽目になる。 誰とも褥を共にしない皇帝と、女官になるつもりで入ってきた本の虫妃の話。 更新はまばらですが、完結させたいとは思っています。 多分…

処理中です...