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第3章
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新学期の朝。沙樹はいつもと変わらない朝を過ごしていた。
部屋を見ると、輝たちにもらった大きなクマのぬいぐるみが置いてある。
「もう子供じゃないんだから……」
クマを見ながら笑う沙樹の首元には、ペンダントが光っていた。
あの日とは別の日に、沙樹は崇弘に呼び出されていた。ほんの少しの時間だったけど、沙樹はふたりで会えたことが嬉しかった。
その時に渡されたものがこのペンダントだった。
鏡を見てペンダントに触れると、自然と顔が緩んでしまう。
「沙樹ちゃーん!遅刻するわよー」
一階から由紀子の声がする。その声を聞いて沙樹は階下に降りていった。
居間のテーブルには朝食が並べられていて、新聞を読んでる父親の姿があった。
「早く食べなさい」
台所から顔を出した由紀子は、沙樹にそう促すとそれに頷いて自分の席に座った。
テーブルに並べられてる朝食は、和食の時もあるし、洋食の時もある。ただ沙樹は朝からたくさんは食べられないので、サラダと食パンといった軽食が多かった。朝だけではなく少食な沙樹は、お弁当も小さい。別にダイエットをしているとかそんなことはないのだが、この家に来る前から食べる量は少ないのだ。
それを沙樹のふたりの母は常に心配していたのだ。
高幡に来る前は実母である紗那。そして高幡に来てからは由紀子が、沙樹のことを心配している。
それでも昔に比べて少しは食べる量は増えたのだが……。
「ごちそうさま」
少しの朝食を食べ終わると、沙樹は食器を台所へと持っていく。そのままお風呂場へと行き、洗面所で歯を磨く。
髪をもう一度整え、奥の部屋へと入る。
ふたつの仏壇に「行ってきます」と告げて、居間に顔を出す。
「行ってくるね」
「気を付けて」
通学リュックを持って、玄関を出ると目の前にちょうどバスが来ていた。そのバスで学校まで乗っていくのだ。
バスを降りた所で別のバスから降りてきた結子に会った。
「おはよう」
結子は沙樹に気付き、笑顔で挨拶をする。
「おはよう」
結子の隣に立ち、一緒に学校まで歩いていく。
「また同じクラスだといいねー」
他愛もない話をしながら、正門を通った。正門近くに掲示板が設置され、そこにクラスが貼り出されていた。
掲示板を見ているとさちと朱莉がふたりに近付いた。
「おはよう」
「おはよう。クラス見た?」
4人は揃ってクラス発表を見ていた。運良く4人は同じクラスだった。
4人は笑って、昇降口に向かった。
◇◇◇◇◇
始業式が終わり、4人は教室に残って話をしていた。他の生徒は新学期から部活へ行ったり、下校して行った。
「どうする?」
さちは3人に聞くとまだ帰りたくないと思う結子は、「どっか寄っていこっ」と言う。
まだ話をしていたいのは結子だけではなく、沙樹もさちも朱莉も同じだった。
「でもうちのお母さん、お昼用意してくれてるかも」
そう言う朱莉はスマホを取り出した。
「うちもだなぁ」
みんなそれぞれスマホを取り出して家に電話をかけた。
「うん。ごめんね、お母さん」
それぞれが電話の向こうの母親にそう言って、電話を切った。
「駅の方、行こっか」
朱莉の提案に4人は教室を出ていく。
グラウンドを見ると、すでに走り込んでる人がいた。
「あっ!」
結子はその人に大声で叫んで呼んだ。
「柳先輩~!」
走っていたのは柳だった。柳は結子に気付くと手を挙げて答えた。
「サッカー部の先輩だよね」
朱莉は結子に聞くと「うん」と笑った。
「中学の先輩なの」
柳の話をする結子は、恋する乙女な顔をしていた。
「結子、好きなんでしょ」
「えっ」
「結子のその目、恋してる目だもん」
さちにそう言われて、思わず顔を隠す。そんな結子が可愛かった。
◇◇◇◇◇
「いいなー」
駅前のハンバーガーショップで、4人は窓の外を見ていた。そこには他校のカップルが手を繋いで歩いていた。そのふたりの姿を見て、さちが羨ましいといった顔をしていた。
「あんな風に放課後に制服デートって憧れる」
「確かに」
「沙樹も無理だもんねー」
思わずそう結子が言うと、はっとしたように口を閉ざした。それに反応したのはさちと朱莉。沙樹に詰め寄るように話を聞き出そうとしていた。
「どういうこと⁉」
「無理ってなんで⁉」
次々に問いただすふたりに圧倒され、黙っていられなくなった。
「沙樹、ごめん」
結子がそう目配せする。
「……あのね」
沙樹は小声でふたりに話し出した。
部屋を見ると、輝たちにもらった大きなクマのぬいぐるみが置いてある。
「もう子供じゃないんだから……」
クマを見ながら笑う沙樹の首元には、ペンダントが光っていた。
あの日とは別の日に、沙樹は崇弘に呼び出されていた。ほんの少しの時間だったけど、沙樹はふたりで会えたことが嬉しかった。
その時に渡されたものがこのペンダントだった。
鏡を見てペンダントに触れると、自然と顔が緩んでしまう。
「沙樹ちゃーん!遅刻するわよー」
一階から由紀子の声がする。その声を聞いて沙樹は階下に降りていった。
居間のテーブルには朝食が並べられていて、新聞を読んでる父親の姿があった。
「早く食べなさい」
台所から顔を出した由紀子は、沙樹にそう促すとそれに頷いて自分の席に座った。
テーブルに並べられてる朝食は、和食の時もあるし、洋食の時もある。ただ沙樹は朝からたくさんは食べられないので、サラダと食パンといった軽食が多かった。朝だけではなく少食な沙樹は、お弁当も小さい。別にダイエットをしているとかそんなことはないのだが、この家に来る前から食べる量は少ないのだ。
それを沙樹のふたりの母は常に心配していたのだ。
高幡に来る前は実母である紗那。そして高幡に来てからは由紀子が、沙樹のことを心配している。
それでも昔に比べて少しは食べる量は増えたのだが……。
「ごちそうさま」
少しの朝食を食べ終わると、沙樹は食器を台所へと持っていく。そのままお風呂場へと行き、洗面所で歯を磨く。
髪をもう一度整え、奥の部屋へと入る。
ふたつの仏壇に「行ってきます」と告げて、居間に顔を出す。
「行ってくるね」
「気を付けて」
通学リュックを持って、玄関を出ると目の前にちょうどバスが来ていた。そのバスで学校まで乗っていくのだ。
バスを降りた所で別のバスから降りてきた結子に会った。
「おはよう」
結子は沙樹に気付き、笑顔で挨拶をする。
「おはよう」
結子の隣に立ち、一緒に学校まで歩いていく。
「また同じクラスだといいねー」
他愛もない話をしながら、正門を通った。正門近くに掲示板が設置され、そこにクラスが貼り出されていた。
掲示板を見ているとさちと朱莉がふたりに近付いた。
「おはよう」
「おはよう。クラス見た?」
4人は揃ってクラス発表を見ていた。運良く4人は同じクラスだった。
4人は笑って、昇降口に向かった。
◇◇◇◇◇
始業式が終わり、4人は教室に残って話をしていた。他の生徒は新学期から部活へ行ったり、下校して行った。
「どうする?」
さちは3人に聞くとまだ帰りたくないと思う結子は、「どっか寄っていこっ」と言う。
まだ話をしていたいのは結子だけではなく、沙樹もさちも朱莉も同じだった。
「でもうちのお母さん、お昼用意してくれてるかも」
そう言う朱莉はスマホを取り出した。
「うちもだなぁ」
みんなそれぞれスマホを取り出して家に電話をかけた。
「うん。ごめんね、お母さん」
それぞれが電話の向こうの母親にそう言って、電話を切った。
「駅の方、行こっか」
朱莉の提案に4人は教室を出ていく。
グラウンドを見ると、すでに走り込んでる人がいた。
「あっ!」
結子はその人に大声で叫んで呼んだ。
「柳先輩~!」
走っていたのは柳だった。柳は結子に気付くと手を挙げて答えた。
「サッカー部の先輩だよね」
朱莉は結子に聞くと「うん」と笑った。
「中学の先輩なの」
柳の話をする結子は、恋する乙女な顔をしていた。
「結子、好きなんでしょ」
「えっ」
「結子のその目、恋してる目だもん」
さちにそう言われて、思わず顔を隠す。そんな結子が可愛かった。
◇◇◇◇◇
「いいなー」
駅前のハンバーガーショップで、4人は窓の外を見ていた。そこには他校のカップルが手を繋いで歩いていた。そのふたりの姿を見て、さちが羨ましいといった顔をしていた。
「あんな風に放課後に制服デートって憧れる」
「確かに」
「沙樹も無理だもんねー」
思わずそう結子が言うと、はっとしたように口を閉ざした。それに反応したのはさちと朱莉。沙樹に詰め寄るように話を聞き出そうとしていた。
「どういうこと⁉」
「無理ってなんで⁉」
次々に問いただすふたりに圧倒され、黙っていられなくなった。
「沙樹、ごめん」
結子がそう目配せする。
「……あのね」
沙樹は小声でふたりに話し出した。
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