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第2章
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外は夕暮れになり、湊が庭から沙樹たちに声をかける。
「沙樹ちゃん」
リビングでさくらと遊んでいた沙樹たたは湊の方を振り向いた。
「そろそろおいで。肉、焼けたよ」
そう言われて、沙樹はさくらを連れてリビングから庭へと出ていく。その後を凪たちも着いていく。庭に出るともう既に出来上がってる崇弘がいた。
「タカちゃん、もう?」
輝の方を向くと「いつものことだろ」と、呆れてる。
「ふたり共、気にしないで食べて」
凪たちにそう言うとお皿を渡す。使ってる食器は、この別荘にあるお皿で高級品。それを普通にバーベキューで使ってしまうんだから、お金持ちは分からない。
(割れても気にしないからなぁ)
酔っぱらって湊に絡む崇弘を見て仕方ないなぁと感じる。崇弘にとってこの時間はとても大事な時間なのだ。崇弘だけではない。メンバー全員そうだ。そしてなかなか参加出来なくなってる湊も同じだ。
「凄いね」
隣で結子がポツリと言った。
「でしょ」
3人で話してると、「さぁきぃ~!」と声がした。振り返ると酔っ払った崇弘が沙樹を呼んでる。
「崇弘!」
相当飲んでるのか、足元がおぼつかない。そんな崇弘を抑える、輝。
「酔っぱらい」
沙樹は崇弘に言うとプイッとそっぽを向いた。
「ねぇ沙樹」
凪は輝に渡されたお皿を手にしている。そのままじっと沙樹を見ていた。
「沙樹の好きな人って、タカさん?」
「えっ」
思わず顔が真っ赤になる。
「え、えっと……」
「あー、なるほどね」
凪は鋭い。沙樹が答えられないでいることが何なのか理解したようだった。
「秘密なのね」
「先輩、ほんとにダメですよ」
結子がそう言うと「あんたは知ってたんだね」と返した。
「ま、いいわ。内緒ね」
茶目っ気のある顔で沙樹を見る凪は、やっぱり頼れるお姉さんだった。
◇◇◇◇◇
沙樹たちが部屋に戻っても、崇弘は湊を掴まえてずっとビールを飲んでいた。
「暫くうるさいかも」
凪たちが寝る部屋からは崇弘の騒ぐ声が響く。
「本当だったんだ…」
凪が呟く。
「TAKAが飲むと暴れるって話」
それは業界だけではなく、ファンの間でも有名だった。飲む量もハンパなく、酔うと暴れて押さえるのが大変だと。
「そんな人でいいの?」
心配する凪は沙樹を見る。
「でも……、ずっと、小学校の時から好きだから」
出会った頃は、こんなにお酒飲んで騒いで暴れるような人になるとは思ってもいなかった。まだお互い未成年で、本人もこんな風になるとは思ってもいなかった筈だ。
「この気持ちはもう消せないの」
「まぁ、分かるけど」
凪と結子も好きな人がいるから、それが痛いほどよく分かる。凪なんか輝を好きになってしまったから、どんなに好きでも叶うことはないって分かってるのに、その思いは消せない。結子だって、本当は両想いなのにそれを知らないから、好きな気持ちは消せないと分かってる。
「好きな気持ちは消せないよね……」
凪はそう呟いた。
◇◇◇◇◇
「頭痛ぇ……」
次の日の朝、最後にリビングに降りてきた崇弘が二日酔いの状態で呟いた。
「タカ。お前、飲み過ぎ」
輝が呆れてソファーに寝転ぶ崇弘に言う。
「なぁ……。昨夜、俺なんかしたか?」
酔ってる時の記憶が大体ない崇弘は、輝にそう聞いてる。
「酔って沙樹に抱き付こうとしてた」
不機嫌丸出しの輝は、ジロッと崇弘を睨んでる。
「あー……。悪ぃ」
それは輝に言ったのか、沙樹に言ったのか分からない言い方だった。
「いつもこんなんだから」
湊は凪たちに言う。凪と結子は本当に驚いている。メンバーたちに囲まれてる状況もそうだけど、そのメンバーの素の姿が見れるこの状況が、まだ信じられないのだ。
「あんな大人になっちゃダメだぞ」
零士がケラケラと笑ってる。笑いながらも膝にさくらを座らせてあやしてる。その姿が父の姿をしていて、それがテレビで見る零士の姿とは異なっていて驚く。
「ほんとにびっくりな週末だわ」
凪がそうポツリと呟いた。それに結子も頷いていた。
◇◇◇◇◇
午前中にみんなで片付けをして、庭の方へ目を向けた沙樹。凪の姿を見つけて庭へと出る。凪は庭の隅に輝と一緒にいた。
そっと近付くと、凪は顔を真っ赤にして輝を見上げていた。
「好きです」
そんな言葉が凪の口から漏れるのを聞いた。沙樹はその場にいてはいけないと、植木の陰に隠れるように戻ろうとした。
だが次の瞬間聞こえた輝の声に、身体が動かなくなってしまった。
「悪いが、妹の友人にそんな感情は持てないよ。それに君は俺のファンだって聞いた。その感情と混同しているんじゃないか?」
輝のその言葉に沙樹は怒りに似た思いが、胸の中に広がった。それでも何か言うことも出来ない。
(あんな言い方しなくても……)
沙樹は悔しい思いをしながら、みんながいるところへと戻った。
先に戻ってきたのは輝だった。輝はいつもと変わらない顔をして、自分の荷物を部屋に取りに行った。そのすぐ後に凪が戻ってきた。必死で涙を堪えてるのが分かる。リビングにいたみんなはそれに気付いていながらも気付かないフリをしていた。柚子なんかは凪の頭を撫でていた。
(みんなは何があったのか分かってるんだろう)
みんな大人だから、何があったのかなんてあえて聞かないんだと、沙樹は感じた。
鈍感な結子は何があったのかは気付いていなようだった。
「沙樹ちゃん」
リビングでさくらと遊んでいた沙樹たたは湊の方を振り向いた。
「そろそろおいで。肉、焼けたよ」
そう言われて、沙樹はさくらを連れてリビングから庭へと出ていく。その後を凪たちも着いていく。庭に出るともう既に出来上がってる崇弘がいた。
「タカちゃん、もう?」
輝の方を向くと「いつものことだろ」と、呆れてる。
「ふたり共、気にしないで食べて」
凪たちにそう言うとお皿を渡す。使ってる食器は、この別荘にあるお皿で高級品。それを普通にバーベキューで使ってしまうんだから、お金持ちは分からない。
(割れても気にしないからなぁ)
酔っぱらって湊に絡む崇弘を見て仕方ないなぁと感じる。崇弘にとってこの時間はとても大事な時間なのだ。崇弘だけではない。メンバー全員そうだ。そしてなかなか参加出来なくなってる湊も同じだ。
「凄いね」
隣で結子がポツリと言った。
「でしょ」
3人で話してると、「さぁきぃ~!」と声がした。振り返ると酔っ払った崇弘が沙樹を呼んでる。
「崇弘!」
相当飲んでるのか、足元がおぼつかない。そんな崇弘を抑える、輝。
「酔っぱらい」
沙樹は崇弘に言うとプイッとそっぽを向いた。
「ねぇ沙樹」
凪は輝に渡されたお皿を手にしている。そのままじっと沙樹を見ていた。
「沙樹の好きな人って、タカさん?」
「えっ」
思わず顔が真っ赤になる。
「え、えっと……」
「あー、なるほどね」
凪は鋭い。沙樹が答えられないでいることが何なのか理解したようだった。
「秘密なのね」
「先輩、ほんとにダメですよ」
結子がそう言うと「あんたは知ってたんだね」と返した。
「ま、いいわ。内緒ね」
茶目っ気のある顔で沙樹を見る凪は、やっぱり頼れるお姉さんだった。
◇◇◇◇◇
沙樹たちが部屋に戻っても、崇弘は湊を掴まえてずっとビールを飲んでいた。
「暫くうるさいかも」
凪たちが寝る部屋からは崇弘の騒ぐ声が響く。
「本当だったんだ…」
凪が呟く。
「TAKAが飲むと暴れるって話」
それは業界だけではなく、ファンの間でも有名だった。飲む量もハンパなく、酔うと暴れて押さえるのが大変だと。
「そんな人でいいの?」
心配する凪は沙樹を見る。
「でも……、ずっと、小学校の時から好きだから」
出会った頃は、こんなにお酒飲んで騒いで暴れるような人になるとは思ってもいなかった。まだお互い未成年で、本人もこんな風になるとは思ってもいなかった筈だ。
「この気持ちはもう消せないの」
「まぁ、分かるけど」
凪と結子も好きな人がいるから、それが痛いほどよく分かる。凪なんか輝を好きになってしまったから、どんなに好きでも叶うことはないって分かってるのに、その思いは消せない。結子だって、本当は両想いなのにそれを知らないから、好きな気持ちは消せないと分かってる。
「好きな気持ちは消せないよね……」
凪はそう呟いた。
◇◇◇◇◇
「頭痛ぇ……」
次の日の朝、最後にリビングに降りてきた崇弘が二日酔いの状態で呟いた。
「タカ。お前、飲み過ぎ」
輝が呆れてソファーに寝転ぶ崇弘に言う。
「なぁ……。昨夜、俺なんかしたか?」
酔ってる時の記憶が大体ない崇弘は、輝にそう聞いてる。
「酔って沙樹に抱き付こうとしてた」
不機嫌丸出しの輝は、ジロッと崇弘を睨んでる。
「あー……。悪ぃ」
それは輝に言ったのか、沙樹に言ったのか分からない言い方だった。
「いつもこんなんだから」
湊は凪たちに言う。凪と結子は本当に驚いている。メンバーたちに囲まれてる状況もそうだけど、そのメンバーの素の姿が見れるこの状況が、まだ信じられないのだ。
「あんな大人になっちゃダメだぞ」
零士がケラケラと笑ってる。笑いながらも膝にさくらを座らせてあやしてる。その姿が父の姿をしていて、それがテレビで見る零士の姿とは異なっていて驚く。
「ほんとにびっくりな週末だわ」
凪がそうポツリと呟いた。それに結子も頷いていた。
◇◇◇◇◇
午前中にみんなで片付けをして、庭の方へ目を向けた沙樹。凪の姿を見つけて庭へと出る。凪は庭の隅に輝と一緒にいた。
そっと近付くと、凪は顔を真っ赤にして輝を見上げていた。
「好きです」
そんな言葉が凪の口から漏れるのを聞いた。沙樹はその場にいてはいけないと、植木の陰に隠れるように戻ろうとした。
だが次の瞬間聞こえた輝の声に、身体が動かなくなってしまった。
「悪いが、妹の友人にそんな感情は持てないよ。それに君は俺のファンだって聞いた。その感情と混同しているんじゃないか?」
輝のその言葉に沙樹は怒りに似た思いが、胸の中に広がった。それでも何か言うことも出来ない。
(あんな言い方しなくても……)
沙樹は悔しい思いをしながら、みんながいるところへと戻った。
先に戻ってきたのは輝だった。輝はいつもと変わらない顔をして、自分の荷物を部屋に取りに行った。そのすぐ後に凪が戻ってきた。必死で涙を堪えてるのが分かる。リビングにいたみんなはそれに気付いていながらも気付かないフリをしていた。柚子なんかは凪の頭を撫でていた。
(みんなは何があったのか分かってるんだろう)
みんな大人だから、何があったのかなんてあえて聞かないんだと、沙樹は感じた。
鈍感な結子は何があったのかは気付いていなようだった。
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