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第2章
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ライブ最終日。一泊の荷物をカバンに詰めて、家を出る。親に悪いなと思いつつも、崇弘に会いたい想いが強い。
「結子ちゃんによろしくね」
由紀子の言葉に頷く。
(お母さん、ごめんね)
心の中でそう謝り、結子にも悪いなと胸を痛めた。こんなこと、初めてだからどうしたらいいのか分からない。輝にもバレないようにしないといけない。全てがドキドキとしていて、どうしたらいいのかと不安になる。
バスに乗って駅まで向かう沙樹は、窓から見える見慣れた景色が、違う景色に見えていた。
トン……っ。
バスが駅に到着してバスから降りた沙樹は、一台のイカツイ車が停まってるのを見つけた。沙樹がその車に近寄ると、助手席の窓が少し下りる。その隙間から見えたのは帽子とサングラスをかけた崇弘。崇弘は後ろを指差すと、沙樹は後ろのドアを開け中に滑り込んだ。
「タカちゃん」
「久しぶり」
「会いたかった」
「うん」
崇弘はエンジンをかけ、車を走らせた。
「でもタカちゃん、いいの?」
運転する崇弘に向かってそう言う。崇弘は沙樹の方を振り向かずにハンドルを握っていた。
「リハーサルとかあるんじやないの?」
「大丈夫。昼から行っても平気だよ」
「ほんと?」
「ほんと。他のメンバーは行ってるかもしれないけど」
ケタケタ笑う崇弘に、沙樹はハラハラしていた。
(行かなくていいのかな……)
沙樹はそのことが気になって仕方なかった。
車は都心に入り、地元とは違う姿を見せていた。崇弘の車は兄のマンション近くまで来ていた。
(そういえばタカちゃんのマンションはお兄ちゃんのマンションの近くだっけ)
窓の外を見ながらそう思った。
輝のマンションを通り過ぎて、いくつかの交差点を渡る。そこから右方向に曲がって行くと、崇弘の住むマンションが見えてきた。車はそのマンションの地下駐車場に入って行った。
「はい、着いたよ」
崇弘は言うと車から降りるように促す。沙樹は言われるがままに車を降りると、崇弘と一緒に地下駐車場からエントランスへと向かった。エントランスには誰もいなかった。
「沙樹」
オートロックを解除して、エレベーターまで歩く。エレベーターも待つことなく、誰にも会うことなく、崇弘の部屋まで行くことが出来た。
「さすがに今日は誰にも会わないか」
「え?」
「ファンがいる時あるんだよ」
そう言いながら玄関の鍵を開けた。
「どうぞ」
沙樹を中に入れると、後ろを振り返ってキョロキョロとする。
「……?」
「一応、確認」
笑って扉を閉める。そして沙樹を抱き締めた。
「タカちゃん……?」
「会いたかった」
そう言われると沙樹も嬉しくなって「うん」と答えた。
◇◇◇◇◇
「はい。これがチケットとうちの鍵。オートロックの番号は覚えてる?」
昼過ぎになって崇弘は会場に行かなくてはいけなくて、沙樹にそう何度も確認する。
「会場まで来れる?」
「大丈夫だよ」
「本当に?」
「うん」
「帰りも大丈夫?」
「大丈夫」
「心配だなぁ」
「タカちゃんってそんなに心配性だっけ?」
「彼女を心配するのは当たり前だろ」
崇弘はもう一度沙樹を抱き締める。
「タカちゃん。そろそろ行かないと行けないんじゃない?」
「あ……、うん」
「いってらっしゃい」
沙樹はそう言って崇弘の背中を押す。そうやって背中を押されれば行かないわけにはいかないと、崇弘は玄関に向かった。
「タカちゃん。頑張ってね」
「おう」
崇弘がマンションを出ていく後ろ姿を見送った沙樹は、このやり取りがなんだか恥ずかしくて顔を赤らめた。一緒に住んでるみたいなやり取りだったから、恥ずかしくなってしまったのだった。
「それにしても……」
崇弘のマンションを見渡すと、結構散らかっていた。それを黙ってはいられないと、沙樹は出掛ける時間まで部屋を片付け始めたのだった。
「結子ちゃんによろしくね」
由紀子の言葉に頷く。
(お母さん、ごめんね)
心の中でそう謝り、結子にも悪いなと胸を痛めた。こんなこと、初めてだからどうしたらいいのか分からない。輝にもバレないようにしないといけない。全てがドキドキとしていて、どうしたらいいのかと不安になる。
バスに乗って駅まで向かう沙樹は、窓から見える見慣れた景色が、違う景色に見えていた。
トン……っ。
バスが駅に到着してバスから降りた沙樹は、一台のイカツイ車が停まってるのを見つけた。沙樹がその車に近寄ると、助手席の窓が少し下りる。その隙間から見えたのは帽子とサングラスをかけた崇弘。崇弘は後ろを指差すと、沙樹は後ろのドアを開け中に滑り込んだ。
「タカちゃん」
「久しぶり」
「会いたかった」
「うん」
崇弘はエンジンをかけ、車を走らせた。
「でもタカちゃん、いいの?」
運転する崇弘に向かってそう言う。崇弘は沙樹の方を振り向かずにハンドルを握っていた。
「リハーサルとかあるんじやないの?」
「大丈夫。昼から行っても平気だよ」
「ほんと?」
「ほんと。他のメンバーは行ってるかもしれないけど」
ケタケタ笑う崇弘に、沙樹はハラハラしていた。
(行かなくていいのかな……)
沙樹はそのことが気になって仕方なかった。
車は都心に入り、地元とは違う姿を見せていた。崇弘の車は兄のマンション近くまで来ていた。
(そういえばタカちゃんのマンションはお兄ちゃんのマンションの近くだっけ)
窓の外を見ながらそう思った。
輝のマンションを通り過ぎて、いくつかの交差点を渡る。そこから右方向に曲がって行くと、崇弘の住むマンションが見えてきた。車はそのマンションの地下駐車場に入って行った。
「はい、着いたよ」
崇弘は言うと車から降りるように促す。沙樹は言われるがままに車を降りると、崇弘と一緒に地下駐車場からエントランスへと向かった。エントランスには誰もいなかった。
「沙樹」
オートロックを解除して、エレベーターまで歩く。エレベーターも待つことなく、誰にも会うことなく、崇弘の部屋まで行くことが出来た。
「さすがに今日は誰にも会わないか」
「え?」
「ファンがいる時あるんだよ」
そう言いながら玄関の鍵を開けた。
「どうぞ」
沙樹を中に入れると、後ろを振り返ってキョロキョロとする。
「……?」
「一応、確認」
笑って扉を閉める。そして沙樹を抱き締めた。
「タカちゃん……?」
「会いたかった」
そう言われると沙樹も嬉しくなって「うん」と答えた。
◇◇◇◇◇
「はい。これがチケットとうちの鍵。オートロックの番号は覚えてる?」
昼過ぎになって崇弘は会場に行かなくてはいけなくて、沙樹にそう何度も確認する。
「会場まで来れる?」
「大丈夫だよ」
「本当に?」
「うん」
「帰りも大丈夫?」
「大丈夫」
「心配だなぁ」
「タカちゃんってそんなに心配性だっけ?」
「彼女を心配するのは当たり前だろ」
崇弘はもう一度沙樹を抱き締める。
「タカちゃん。そろそろ行かないと行けないんじゃない?」
「あ……、うん」
「いってらっしゃい」
沙樹はそう言って崇弘の背中を押す。そうやって背中を押されれば行かないわけにはいかないと、崇弘は玄関に向かった。
「タカちゃん。頑張ってね」
「おう」
崇弘がマンションを出ていく後ろ姿を見送った沙樹は、このやり取りがなんだか恥ずかしくて顔を赤らめた。一緒に住んでるみたいなやり取りだったから、恥ずかしくなってしまったのだった。
「それにしても……」
崇弘のマンションを見渡すと、結構散らかっていた。それを黙ってはいられないと、沙樹は出掛ける時間まで部屋を片付け始めたのだった。
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