もう一度会いたい……【もう一度抱きしめて……】スピンオフ作品

星河琉嘩

文字の大きさ
上 下
35 / 94
第2章

3

しおりを挟む
『今度のライブ、どうする?』
 輝から電話が来たのはその日の夜だった。
『来るならチケット用意するけど』
 その言葉を聞いて思い浮かべたのは結子の顔だった。行きたいと言っていた結子。それとBRのファンだという凪の顔。
「お兄ちゃん」
『ん?』
「友達と、先輩が行きたがってるんだけど……」
『分かった』
「ありがとう」
『沙樹。その友達は知ってんのか?』
「え」
AKIRAオレが兄貴だってこと』
「……友達は知ってる。ごめんなさい」
『信用出来る友達なんだろ』
「ん……」
『そっか』
 沙樹にそんな存在が出来たことが、輝は嬉しかった。
『じゃ、3枚用意しておく』
「ありがとう」
 そう告げると電話を切った。

 電話を切った沙樹はすぐに結子にメッセージアプリから連絡を入れた。
《チケット、3枚用意してくれるって。凪先輩と一緒に行こうよ》
 スマホを置いて明日の準備をしようと、教科書を揃える。机に置いてあったスマホからキレイなメロディーが鳴った。BRのバラード曲。珍しく崇弘が作曲したという曲だった。
 スマホ画面を見ると結子と表示してあった。
『もしもし⁉』
 結子の興奮した声が響く。
「結子」
『チケット、用意してくれるってどういうこと?』
「お兄ちゃんが聞いてきたの。いつも聞いてくれるんだよ」
『じゃいつも行ってるの?』
「いつもじゃないよ。ひとりで行くって言うと親がうるさいから。前行ったのだってお母さんと一緒だったし」
『そうなんだー』
「で、凪先輩の分も用意してくれるけど、なんて言ったらいいか……と」
 それが問題だった。結子は事情を知ってる。だけど凪には話してないのだ。
『だよねぇ……』
「話さないといけない……よねぇ」
『ま、凪先輩は信用出来るし。それに……』
「それに?」
『凪先輩って、沙樹を気に入ってるよ』
「え?」
『沙樹のような妹が欲しいって前に言ってた』
 結子からそう言われて恥ずかしくなる。他人ひとからそう言われるなんて思ってもいなかった。
『ま、発売はまだ先でしょ』
「うん」
『その時までになんか理由つけようか』
 結子の気持ちが嬉しかった。沙樹にとって結子は大切な友達だった。こんなにも大切だと思う友達が出来るなんて、数ヶ月前の自分じゃ想像もしてなかった。

「ありがとう、結子」
 そう言って電話を切った。



     ◇◇◇◇◇



「チケット取れなかったー!」
 チケット発売日の次の日。凪はそう悔やんでいた。凪だけではなかった。生徒の半数以上は取れてない。
(うちの学校だけでどのくらいの人が争奪戦に勝ったんだろう)
 沙樹たちのクラスは誰ひとりチケットを取ることが出来なかった。
(なんか申し訳ないなぁ……)
 輝に用意してもらったチケットがある沙樹は、そう感じていた。

「行きたかったのに~……」
 放課後の教室で凪はそう喚いていた。
(これは……、チケットあるよって言ったらもっと大騒ぎになるかな)
 凪の様子を見てどう切り出せばいいか迷っていた。結子はそんな沙樹を知ってるから、黙って様子を見ていてくれる。
「凪、お前うるさい」
 貴裕がそう凪を見下ろしていた。
「たかがチケット取れなかったくらいでさぁ」
「たかがじゃないよ!」
「……そんなに怒鳴らなくても」
 凪の勢いに負けてしまう貴裕。興味なさそうに見ている柳。
(この人たちは私にとってどんな存在……?)
 結子はとても大切な友人。いや、親友だ。その親友が信頼を寄せる先輩たち。黙ってるわけにはいかない。

 ぐっと拳に力を入れる。すぅーと、大きく息を吐いた沙樹はみんなを見ていた。
「あ、あの……ね」
 ゆっくりと言葉を出す沙樹は、少し震えていた。だけど、沙樹の心は決まっていた。
(きっと、大丈夫)
 自分に言い聞かせるように心を落ち着かせた。



「うちに……、来て欲しい」


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

夫と息子は私が守ります!〜呪いを受けた夫とワケあり義息子を守る転生令嬢の奮闘記〜

梵天丸
恋愛
グリーン侯爵家のシャーロットは、妾の子ということで本妻の子たちとは差別化され、不遇な扱いを受けていた。 そんなシャーロットにある日、いわくつきの公爵との結婚の話が舞い込む。 実はシャーロットはバツイチで元保育士の転生令嬢だった。そしてこの物語の舞台は、彼女が愛読していた小説の世界のものだ。原作の小説には4行ほどしか登場しないシャーロットは、公爵との結婚後すぐに離婚し、出戻っていた。しかしその後、シャーロットは30歳年上のやもめ子爵に嫁がされた挙げ句、愛人に殺されるという不遇な脇役だった。 悲惨な末路を避けるためには、何としても公爵との結婚を長続きさせるしかない。 しかし、嫁いだ先の公爵家は、極寒の北国にある上、夫である公爵は魔女の呪いを受けて目が見えない。さらに公爵を始め、公爵家の人たちはシャーロットに対してよそよそしく、いかにも早く出て行って欲しいという雰囲気だった。原作のシャーロットが耐えきれずに離婚した理由が分かる。しかし、実家に戻れば、悲惨な末路が待っている。シャーロットは図々しく居座る計画を立てる。 そんなある日、シャーロットは城の中で公爵にそっくりな子どもと出会う。その子どもは、公爵のことを「お父さん」と呼んだ。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

処理中です...