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第1章
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部屋に戻っても崇弘は眠ることが出来なかった。何度も何度も寝返りうち、気が付いたら夜が明けていた。
「やべぇ……」
呟いて起き上がる。部屋に備え付けられてるシャワーを温めにして浴びる。
(沙樹のことが頭から離れねぇ……)
「……んとにガキかよ、俺」
どうにもならない想いは崇弘だけでなかった。沙樹もまた眠れずに朝を迎えた。
(頭から離れない……)
崇弘の取った行動が言葉が、頭から離れないまま朝を迎えた。
「タカちゃん……」
頭の中は崇弘でいっぱいの沙樹。せつない想いが胸を締め付ける。
「沙樹?」
部屋に入っ来た輝は沙樹のいつもとは違う様子に気付く。さすがに崇弘とのことに気付くことはなかったが、なにかがあったことは分かる。輝は母親には言われていたことが気になっている。
「沙樹さ、なんかあった?」
ベッドから動けない沙樹に近寄り、頭を撫でる。その手は崇弘は違う。手の大きさもそうだけど、あたたかさも違った。
「沙樹?」
「大丈夫」
「ほんとに?母さんが様子おかしいって心配してたぞ」
(あ……)
輝の言葉にはっとする。実の娘として育ててくれてる由紀子のことを、忘れていた。
「お母さん、他になんか言ってた?」
「心配してる」
「そっか……」
沙里のことを気にしていた沙樹は、崇弘と話したことで少し救われていた。
顔を上げて輝に笑う。
「大丈夫」
「ほんとに?」
「うん。タカちゃんに話聞いてもらったらすっきりした」
嘘ではない。沙里のことは、もう大丈夫だったのだ。
「じゃなんでそんな顔してる?」
「え」
「困った顔」
「なんでもないよ!大丈夫」
(さすがにタカちゃんのことは話せないよ……)
輝に笑ってみせる沙樹は、ベッドから這い上がった。
「ならいいけど、なんかあったら言えよ」
「うん」
沙樹を心配する輝は腑に落ちない顔をして、部屋を出ていった。
◇◇◇◇◇
輝は何も話してくれない沙樹に寂しさを感じていた。子供の頃はいつも「輝お兄ちゃん」と言ってどこに行くにもついて来ていた。それがいつのまにかついて来ることは少なくなっていた。
中学3年生の夏。突然出来た妹。戸惑いながらも可愛いと思える存在。沙樹を苦しめる人間は排除してやろうと上の兄ふたりと話していたことを思い出す。それがもうひとりで歩いて行ってるのかもしれない。
「本当はこうじゃなきゃいけないんだろうな」
ポツリと呟いた輝はリビングへと向かった。
キッチンでは零士が柚子と一緒に朝食の準備をしていた。朝食の準備はこのふたりと湊がするのが定番。だが、最近は湊は来ないからこのふたりがやっている。と言っても零士は料理は出来ないからもっぱら柚子がすべての準備をするのだが。
「零士、キッチン壊すなよ」
「煩い」
「輝さん、大丈夫。最近は少し慣れてきたのか、目玉焼きくらいは作れるようになってるんです」
「ほんとかよ」
疑いの目を向ける輝も零士が料理をすると燃やしてしまう前例を知っている。
輝はソファーに座ると大きなテレビをつける。
テレビから流れるくだらないニュースをただ見ていた。そのうち、真司も起きて来た。
「あれ?沙樹はまだ部屋?」
「ああ」
「珍しいよね」
キッチンの方から柚子が言う。沙樹の朝はいつも早い。それなのにまだ起きて来ないことにみんなが不思議がっていた。
「輝。部屋、行ったんだろ」
「すぐ来ると思うよ」
輝がそう言うとまだ頭がはっきりしていない沙樹が降りてきた。
沙樹の顔はやっぱり何かを抱えているような顔をしていた。そんな沙樹を心配している輝だが、沙樹は何も話してくれない。
「おはよう。沙樹ちゃん」
そう声をかける柚子に沙樹は精一杯の笑顔を返した。
「おはよう、柚子さん。さくらちゃんは?」
「まだ部屋で寝てるの。そろそろ起こさないと……」
と零士を見た。柚子に見られた零士は、キッチンから抜けて階段を昇っていった。
「くくくっ……」
庭の惨状を見て呆れていた真司が、零士のその姿を見て笑いながらリビングに戻って来た。
「あの零士は柚子ちゃんには勝てないなぁ」
「ほんとだ」
真司と輝の会話に柚子は気付くことなく、朝食の準備の続きをしていた。そんな柚子の傍に近寄っていく沙樹。
何かを話したいのだと感じた柚子は、「後で話そうか」と笑いかけた。それに対して沙樹は黙って頷いた。
「やべぇ……」
呟いて起き上がる。部屋に備え付けられてるシャワーを温めにして浴びる。
(沙樹のことが頭から離れねぇ……)
「……んとにガキかよ、俺」
どうにもならない想いは崇弘だけでなかった。沙樹もまた眠れずに朝を迎えた。
(頭から離れない……)
崇弘の取った行動が言葉が、頭から離れないまま朝を迎えた。
「タカちゃん……」
頭の中は崇弘でいっぱいの沙樹。せつない想いが胸を締め付ける。
「沙樹?」
部屋に入っ来た輝は沙樹のいつもとは違う様子に気付く。さすがに崇弘とのことに気付くことはなかったが、なにかがあったことは分かる。輝は母親には言われていたことが気になっている。
「沙樹さ、なんかあった?」
ベッドから動けない沙樹に近寄り、頭を撫でる。その手は崇弘は違う。手の大きさもそうだけど、あたたかさも違った。
「沙樹?」
「大丈夫」
「ほんとに?母さんが様子おかしいって心配してたぞ」
(あ……)
輝の言葉にはっとする。実の娘として育ててくれてる由紀子のことを、忘れていた。
「お母さん、他になんか言ってた?」
「心配してる」
「そっか……」
沙里のことを気にしていた沙樹は、崇弘と話したことで少し救われていた。
顔を上げて輝に笑う。
「大丈夫」
「ほんとに?」
「うん。タカちゃんに話聞いてもらったらすっきりした」
嘘ではない。沙里のことは、もう大丈夫だったのだ。
「じゃなんでそんな顔してる?」
「え」
「困った顔」
「なんでもないよ!大丈夫」
(さすがにタカちゃんのことは話せないよ……)
輝に笑ってみせる沙樹は、ベッドから這い上がった。
「ならいいけど、なんかあったら言えよ」
「うん」
沙樹を心配する輝は腑に落ちない顔をして、部屋を出ていった。
◇◇◇◇◇
輝は何も話してくれない沙樹に寂しさを感じていた。子供の頃はいつも「輝お兄ちゃん」と言ってどこに行くにもついて来ていた。それがいつのまにかついて来ることは少なくなっていた。
中学3年生の夏。突然出来た妹。戸惑いながらも可愛いと思える存在。沙樹を苦しめる人間は排除してやろうと上の兄ふたりと話していたことを思い出す。それがもうひとりで歩いて行ってるのかもしれない。
「本当はこうじゃなきゃいけないんだろうな」
ポツリと呟いた輝はリビングへと向かった。
キッチンでは零士が柚子と一緒に朝食の準備をしていた。朝食の準備はこのふたりと湊がするのが定番。だが、最近は湊は来ないからこのふたりがやっている。と言っても零士は料理は出来ないからもっぱら柚子がすべての準備をするのだが。
「零士、キッチン壊すなよ」
「煩い」
「輝さん、大丈夫。最近は少し慣れてきたのか、目玉焼きくらいは作れるようになってるんです」
「ほんとかよ」
疑いの目を向ける輝も零士が料理をすると燃やしてしまう前例を知っている。
輝はソファーに座ると大きなテレビをつける。
テレビから流れるくだらないニュースをただ見ていた。そのうち、真司も起きて来た。
「あれ?沙樹はまだ部屋?」
「ああ」
「珍しいよね」
キッチンの方から柚子が言う。沙樹の朝はいつも早い。それなのにまだ起きて来ないことにみんなが不思議がっていた。
「輝。部屋、行ったんだろ」
「すぐ来ると思うよ」
輝がそう言うとまだ頭がはっきりしていない沙樹が降りてきた。
沙樹の顔はやっぱり何かを抱えているような顔をしていた。そんな沙樹を心配している輝だが、沙樹は何も話してくれない。
「おはよう。沙樹ちゃん」
そう声をかける柚子に沙樹は精一杯の笑顔を返した。
「おはよう、柚子さん。さくらちゃんは?」
「まだ部屋で寝てるの。そろそろ起こさないと……」
と零士を見た。柚子に見られた零士は、キッチンから抜けて階段を昇っていった。
「くくくっ……」
庭の惨状を見て呆れていた真司が、零士のその姿を見て笑いながらリビングに戻って来た。
「あの零士は柚子ちゃんには勝てないなぁ」
「ほんとだ」
真司と輝の会話に柚子は気付くことなく、朝食の準備の続きをしていた。そんな柚子の傍に近寄っていく沙樹。
何かを話したいのだと感じた柚子は、「後で話そうか」と笑いかけた。それに対して沙樹は黙って頷いた。
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※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。
※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。
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