上 下
22 / 49
第1章

19

しおりを挟む
 部屋に戻っても崇弘は眠ることが出来なかった。何度も何度も寝返りうち、気が付いたら夜が明けていた。


「やべぇ……」
 呟いて起き上がる。部屋に備え付けられてるシャワーをぬるめにして浴びる。
(沙樹のことが頭から離れねぇ……)
「……んとにガキかよ、俺」
 どうにもならない想いは崇弘だけでなかった。沙樹もまた眠れずに朝を迎えた。


(頭から離れない……)
 崇弘の取った行動が言葉が、頭から離れないまま朝を迎えた。
「タカちゃん……」
 頭の中は崇弘でいっぱいの沙樹。せつない想いが胸を締め付ける。
「沙樹?」
 部屋に入っ来た輝は沙樹のいつもとは違う様子に気付く。さすがに崇弘とのことに気付くことはなかったが、があったことは分かる。輝は母親には言われていたことが気になっている。
「沙樹さ、なんかあった?」
 ベッドから動けない沙樹に近寄り、頭を撫でる。その手は崇弘は違う。手の大きさもそうだけど、あたたかさも違った。
「沙樹?」
「大丈夫」
「ほんとに?母さんが様子おかしいって心配してたぞ」
(あ……)
 輝の言葉にはっとする。実の娘として育ててくれてる由紀子のことを、忘れていた。
「お母さん、他になんか言ってた?」
「心配してる」
「そっか……」
 沙里のことを気にしていた沙樹は、崇弘と話したことで少し救われていた。
 顔を上げて輝に笑う。
「大丈夫」
「ほんとに?」
「うん。タカちゃんに話聞いてもらったらすっきりした」
 嘘ではない。沙里のことは、もう大丈夫だったのだ。
「じゃなんでそんな顔してる?」
「え」
「困った顔」
「なんでもないよ!大丈夫」
(さすがにタカちゃんのことは話せないよ……)
 輝に笑ってみせる沙樹は、ベッドから這い上がった。
「ならいいけど、なんかあったら言えよ」
「うん」
 沙樹を心配する輝は腑に落ちない顔をして、部屋を出ていった。



     ◇◇◇◇◇



 輝は何も話してくれない沙樹に寂しさを感じていた。子供の頃はいつも「輝お兄ちゃん」と言ってどこに行くにもついて来ていた。それがいつのまにかついて来ることは少なくなっていた。
 中学3年生の夏。突然出来た妹。戸惑いながらも可愛いと思える存在。沙樹を苦しめる人間は排除してやろうと上の兄ふたりと話していたことを思い出す。それがもうひとりで歩いて行ってるのかもしれない。
「本当はこうじゃなきゃいけないんだろうな」
 ポツリと呟いた輝はリビングへと向かった。
 キッチンでは零士が柚子と一緒に朝食の準備をしていた。朝食の準備はこのふたりと湊がするのが定番。だが、最近は湊は来ないからこのふたりがやっている。と言っても零士は料理は出来ないからもっぱら柚子がすべての準備をするのだが。
「零士、キッチン壊すなよ」
「煩い」
「輝さん、大丈夫。最近は少し慣れてきたのか、目玉焼きくらいは作れるようになってるんです」
「ほんとかよ」
 疑いの目を向ける輝も零士が料理をすると燃やしてしまう前例を知っている。
 輝はソファーに座ると大きなテレビをつける。
 テレビから流れるくだらないニュースをただ見ていた。そのうち、真司も起きて来た。
「あれ?沙樹はまだ部屋?」
「ああ」
「珍しいよね」
 キッチンの方から柚子が言う。沙樹の朝はいつも早い。それなのにまだ起きて来ないことにみんなが不思議がっていた。
「輝。部屋、行ったんだろ」
「すぐ来ると思うよ」
 輝がそう言うとまだ頭がはっきりしていない沙樹が降りてきた。
 沙樹の顔はやっぱり何かを抱えているような顔をしていた。そんな沙樹を心配している輝だが、沙樹は何も話してくれない。
「おはよう。沙樹ちゃん」
 そう声をかける柚子に沙樹は精一杯の笑顔を返した。
「おはよう、柚子さん。さくらちゃんは?」
「まだ部屋で寝てるの。そろそろ起こさないと……」
 と零士を見た。柚子に見られた零士は、キッチンから抜けて階段を昇っていった。
「くくくっ……」
 庭の惨状を見て呆れていた真司が、零士のその姿を見て笑いながらリビングに戻って来た。
「あの零士は柚子ちゃんには勝てないなぁ」
「ほんとだ」
 真司と輝の会話に柚子は気付くことなく、朝食の準備の続きをしていた。そんな柚子の傍に近寄っていく沙樹。
 何かを話したいのだと感じた柚子は、「後で話そうか」と笑いかけた。それに対して沙樹は黙って頷いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

優秀な姉の添え物でしかない私を必要としてくれたのは、優しい勇者様でした ~病弱だった少女は異世界で恩返しの旅に出る~

日之影ソラ
ファンタジー
前世では病弱で、生涯のほとんどを病室で過ごした少女がいた。彼女は死を迎える直前、神様に願った。 もしも来世があるのなら、今度は私が誰かを支えられるような人間になりたい。見知らぬ誰かの優しさが、病に苦しむ自分を支えてくれたように。 そして彼女は貴族の令嬢ミモザとして生まれ変わった。非凡な姉と比べられ、常に見下されながらも、自分にやれることを精一杯取り組み、他人を支えることに人生をかけた。 誰かのために生きたい。その想いに嘘はない。けれど……本当にこれでいいのか? そんな疑問に答えをくれたのは、平和な時代に生まれた勇者様だった。

ネコ科に愛される加護を貰って侯爵令嬢に転生しましたが、獣人も魔物も聖獣もまとめてネコ科らしいです。

ゴルゴンゾーラ三国
ファンタジー
 猫アレルギーながらも猫が大好きだった主人公は、猫を助けたことにより命を落とし、異世界の侯爵令嬢・ルティシャとして生まれ変わる。しかし、生まれ変わった国では猫は忌み嫌われる存在で、ルティシャは実家を追い出されてしまう。  しぶしぶ隣国で暮らすことになったルティシャは、自分にネコ科の生物に愛される加護があることを知る。  その加護を使って、ルティシャは愛する猫に囲まれ、もふもふ異世界生活を堪能する!

条件付きチート『吸収』でのんびり冒険者ライフ!

ヒビキ タクト
ファンタジー
旧題:異世界転生 ~条件付きスキル・スキル吸収を駆使し、冒険者から成り上がれ~ 平凡な人生にガンと宣告された男が異世界に転生する。異世界神により特典(条件付きスキルと便利なスキル)をもらい異世界アダムスに転生し、子爵家の三男が冒険者となり成り上がるお話。   スキルや魔法を駆使し、奴隷や従魔と一緒に楽しく過ごしていく。そこには困難も…。   従魔ハクのモフモフは見所。週に4~5話は更新していきたいと思いますので、是非楽しく読んでいただければ幸いです♪   異世界小説を沢山読んできた中で自分だったらこうしたいと言う作品にしております。

婚約解消して次期辺境伯に嫁いでみた

cyaru
恋愛
一目惚れで婚約を申し込まれたキュレット伯爵家のソシャリー。 お相手はボラツク侯爵家の次期当主ケイン。眉目秀麗でこれまで数多くの縁談が女性側から持ち込まれてきたがケインは女性には興味がないようで18歳になっても婚約者は今までいなかった。 婚約をした時は良かったのだが、問題は1か月に起きた。 過去にボラツク侯爵家から放逐された侯爵の妹が亡くなった。放っておけばいいのに侯爵は簡素な葬儀も行ったのだが、亡くなった妹の娘が牧師と共にやってきた。若い頃の妹にそっくりな娘はロザリア。 ボラツク侯爵家はロザリアを引き取り面倒を見ることを決定した。 婚約の時にはなかったがロザリアが独り立ちできる状態までが期間。 明らかにソシャリーが嫁げば、ロザリアがもれなくついてくる。 「マジか…」ソシャリーは心から遠慮したいと願う。 そして婚約者同士の距離を縮め、お互いの考えを語り合う場が月に数回設けられるようになったが、全てにもれなくロザリアがついてくる。 茶会に観劇、誕生日の贈り物もロザリアに買ったものを譲ってあげると謎の善意を押し売り。夜会もケインがエスコートしダンスを踊るのはロザリア。 幾度となく抗議を受け、ケインは考えを改めると誓ってくれたが本当に考えを改めたのか。改めていれば婚約は継続、そうでなければ解消だがソシャリーも年齢的に次を決めておかないと家のお荷物になってしまう。 「こちらは嫁いでくれるならそれに越したことはない」と父が用意をしてくれたのは「自分の責任なので面倒を見ている子の数は35」という次期辺境伯だった?! ★↑例の如く恐ろしく省略してます。 ★9月14日投稿開始、完結は9月16日です。 ★コメントの返信は遅いです。 ★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。 ※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません

婚約破棄されて異世界トリップしたけど猫に囲まれてスローライフ満喫しています

葉柚
ファンタジー
婚約者の二股により婚約破棄をされた33才の真由は、突如異世界に飛ばされた。 そこはど田舎だった。 住む家と土地と可愛い3匹の猫をもらった真由は、猫たちに囲まれてストレスフリーなスローライフ生活を送る日常を送ることになった。 レコンティーニ王国は猫に優しい国です。 小説家になろう様にも掲載してます。

#秒恋7 それぞれの翌日――壊れた日常を取り戻すために

ReN
恋愛
#秒恋7 それぞれの翌日――壊れた日常を取り戻すために 悠里と剛士を襲った悲しい大事件の翌日と翌々日を描いた今作。 それぞれの家族や、剛士の部活、そして2人の親友を巻き込み、悲しみが膨れ上がっていきます。 壊れてしまった幸せな日常を、傷つき閉ざされてしまった悠里の心を、剛士は取り戻すことはできるのでしょうか。 過去に登場した悠里の弟や、これまで登場したことのなかった剛士の家族。 そして、剛士のバスケ部のメンバー。 何より、親友の彩奈と拓真。 周りの人々に助けられながら、壊れた日常を取り戻そうと足掻いていきます。 やはりあの日の大事件のショックは大きくて、簡単にハッピーエンドとはいかないようです…… それでも、2人がもう一度、手を取り合って、抱き合って。 心から笑い合える未来を掴むために、剛士くんも悠里ちゃんもがんばっていきます。 心の傷。トラウマ。 少しずつ、乗り越えていきます。 ぜひ見守ってあげてください!

愛されない花嫁は初夜を一人で過ごす

リオール
恋愛
「俺はお前を妻と思わないし愛する事もない」  夫となったバジルはそう言って部屋を出て行った。妻となったアルビナは、初夜を一人で過ごすこととなる。  後に夫から聞かされた衝撃の事実。  アルビナは夫への復讐に、静かに心を燃やすのだった。 ※シリアスです。 ※ざまあが行き過ぎ・過剰だといったご意見を頂戴しております。年齢制限は設定しておりませんが、お読みになる場合は自己責任でお願い致します。

外れギフト魔石抜き取りの奇跡!〜スライムからの黄金ルート!婚約破棄されましたのでもうお貴族様は嫌です〜

KeyBow
ファンタジー
 この世界では、数千年前に突如現れた魔物が人々の生活に脅威をもたらしている。中世を舞台にした典型的なファンタジー世界で、冒険者たちは剣と魔法を駆使してこれらの魔物と戦い、生計を立てている。  人々は15歳の誕生日に神々から加護を授かり、特別なギフトを受け取る。しかし、主人公ロイは【魔石操作】という、死んだ魔物から魔石を抜き取るという外れギフトを授かる。このギフトのために、彼は婚約者に見放され、父親に家を追放される。  運命に翻弄されながらも、ロイは冒険者ギルドの解体所部門で働き始める。そこで彼は、生きている魔物から魔石を抜き取る能力を発見し、これまでの外れギフトが実は隠された力を秘めていたことを知る。  ロイはこの新たな力を使い、自分の運命を切り開くことができるのか?外れギフトを当りギフトに変え、チートスキルを手に入れた彼の物語が始まる。

処理中です...