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第1章
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自宅に戻ると一気に現実味が帯びてくる。崇弘たちと過ごす時間は、沙樹にはとても夢の中のようだった。幼い頃から見知ってるとはいえ、沙樹にとっては昔っから夢の中の出来事だったのだ。
沙樹には実の母親の記憶はあまりない。まだ5歳だった頃に、実母は病に倒れそのまま亡くなった。ただその頃の記憶で覚えていること。実母とふたりで暮らしている家には父親が必ずいる。だけど、父親は時々いなくなる。
それは高幡の家に行くから。幼い沙樹はその意味が分からなかった。
実母の葬式が終わると、親族が好き勝手に言い合ってる姿を思い出す。なにを言っているのかは子供だったからよくは覚えてない。だが、よくない事を言ってると理解出来た。
「施設に……」と言われていたことも微かに覚えている。
そこに父親が「自分が引き取ります」と告げた。親族は沙樹の父親はあの高幡だとは思ってもいなかった。
沙樹を引き取ることは実母の親族側で揉めることはなかった。みんな、厄介払い出来て良かったと感じていた。
高幡家に連れてきた時も、初めは難色を占めていた高幡家の面々は、次第に沙樹を可愛く思うようになり、沙樹は高幡家の中心となった。ただ、父親は息子たちに散々責められていたが。
「沙樹」
着物を着た高幡家の母親は、にっこりと笑う。
「楽しかった?」
「うん!久しぶりにみんなと会えた!それにね、柚子さんもいたの!」
柚子は沙樹にとって憧れの女性だった。初めて会った時から優しく笑顔を向けてくれた。
今は子育てで忙しくしている柚子をとても信頼している。たまに柚子たちの家に遊びに行く程だった。
「あらあら。本当に柚子さんが好きなのね」
「うん!大好き!」
沙樹は満面の笑みで母親を見た。そんな沙樹を見るのが嬉しいと、母親は感じていた。
◇◇◇◇◇
次の日からまたいつもの日常が始まった。
つまらないと感じてしまう日常。それが当たり前だった。
崇弘たちと会える日の方が、生き生きとした日常だ。沙樹には崇弘たちとの関係が夢のようだった。
「高幡」
教室の机の上で突っ伏してると、圭太がやって来る。顔を上げることなく「なに」と聞く。
「お前、いつもつまらなさそうだな」
「実際つまらないもん」
「もっと弾けろよ。せっかく高校に入ったんだからさ!」
なにをそんなに弾けろと言うのか、沙樹には理解出来なかった。
「ほっといて」
圭太に冷たく接するが、それでも圭太は沙樹にちょっかいを出す。
そんな圭太をクラスメートたちは見て苦笑いだ。ブレない沙樹とめげない圭太。このふたりの関係が崩れるのはもう少し後になる。
◇◇◇◇◇
「じゃふたりペアになれー」
体育の時間。担当教師がそう言う。そのペアということに若干ムカつき、周りを見る。周りはもうペアを組んでいる。沙樹とペアを組もうという人がいないのは分かりきっていた。
「高幡」
声をかけられ振り向く。
「一瞬に組もう」
そう言ったのはクラスの中で一際目立っている、大原結子。何に目立っているかと言うと、まずは見た目。髪は茶髪。学校にも平気で派手なメイクとネイルをしてくる。所謂、ギャルだった。そのくせ成績はいい。
光葉高校は進学校だから成績のいい人が集まる。だがその進学校にギャルが存在することで、目立っていた。
それなのに結子は、同級生や先輩たちから可愛がられるところがあった。
「大原さん」
「私も余ってるの」
そう言いながら、沙樹の隣に立った。
本当は他の人とのペアを蹴って沙樹のところに来たのだ。それを沙樹は気付いてなかった。
「ねぇ」
ふたり一組で柔軟体操をしていると、結子が沙樹に聞いた。
「あなた愛人の子って有名なんだけど、ほんと?」
直球で聞いてきたのは結子が初めてだった。思わず目を丸くした沙樹は驚いて手を止めた。
「ほんと?」
「……まぁ」
隠すことでもない。みんな知ってる。そう思った沙樹はそう答えた。
「そっかー」
結子はそう笑って沙樹に「早く押して」と促した。
体育の時間の間中、結子はちょこちょこと沙樹と話を振ってきた。その度に沙樹はボソボソと答えた。
(不思議な子……)
今まで沙樹と話をしようとする同級生はいなかった。上級生も下級生もそうだった。ずっとひとりだった。
それでも平気だったのは輝たちがいたから。崇弘が沙樹に笑いかけてくれていたからだった──。
沙樹には実の母親の記憶はあまりない。まだ5歳だった頃に、実母は病に倒れそのまま亡くなった。ただその頃の記憶で覚えていること。実母とふたりで暮らしている家には父親が必ずいる。だけど、父親は時々いなくなる。
それは高幡の家に行くから。幼い沙樹はその意味が分からなかった。
実母の葬式が終わると、親族が好き勝手に言い合ってる姿を思い出す。なにを言っているのかは子供だったからよくは覚えてない。だが、よくない事を言ってると理解出来た。
「施設に……」と言われていたことも微かに覚えている。
そこに父親が「自分が引き取ります」と告げた。親族は沙樹の父親はあの高幡だとは思ってもいなかった。
沙樹を引き取ることは実母の親族側で揉めることはなかった。みんな、厄介払い出来て良かったと感じていた。
高幡家に連れてきた時も、初めは難色を占めていた高幡家の面々は、次第に沙樹を可愛く思うようになり、沙樹は高幡家の中心となった。ただ、父親は息子たちに散々責められていたが。
「沙樹」
着物を着た高幡家の母親は、にっこりと笑う。
「楽しかった?」
「うん!久しぶりにみんなと会えた!それにね、柚子さんもいたの!」
柚子は沙樹にとって憧れの女性だった。初めて会った時から優しく笑顔を向けてくれた。
今は子育てで忙しくしている柚子をとても信頼している。たまに柚子たちの家に遊びに行く程だった。
「あらあら。本当に柚子さんが好きなのね」
「うん!大好き!」
沙樹は満面の笑みで母親を見た。そんな沙樹を見るのが嬉しいと、母親は感じていた。
◇◇◇◇◇
次の日からまたいつもの日常が始まった。
つまらないと感じてしまう日常。それが当たり前だった。
崇弘たちと会える日の方が、生き生きとした日常だ。沙樹には崇弘たちとの関係が夢のようだった。
「高幡」
教室の机の上で突っ伏してると、圭太がやって来る。顔を上げることなく「なに」と聞く。
「お前、いつもつまらなさそうだな」
「実際つまらないもん」
「もっと弾けろよ。せっかく高校に入ったんだからさ!」
なにをそんなに弾けろと言うのか、沙樹には理解出来なかった。
「ほっといて」
圭太に冷たく接するが、それでも圭太は沙樹にちょっかいを出す。
そんな圭太をクラスメートたちは見て苦笑いだ。ブレない沙樹とめげない圭太。このふたりの関係が崩れるのはもう少し後になる。
◇◇◇◇◇
「じゃふたりペアになれー」
体育の時間。担当教師がそう言う。そのペアということに若干ムカつき、周りを見る。周りはもうペアを組んでいる。沙樹とペアを組もうという人がいないのは分かりきっていた。
「高幡」
声をかけられ振り向く。
「一瞬に組もう」
そう言ったのはクラスの中で一際目立っている、大原結子。何に目立っているかと言うと、まずは見た目。髪は茶髪。学校にも平気で派手なメイクとネイルをしてくる。所謂、ギャルだった。そのくせ成績はいい。
光葉高校は進学校だから成績のいい人が集まる。だがその進学校にギャルが存在することで、目立っていた。
それなのに結子は、同級生や先輩たちから可愛がられるところがあった。
「大原さん」
「私も余ってるの」
そう言いながら、沙樹の隣に立った。
本当は他の人とのペアを蹴って沙樹のところに来たのだ。それを沙樹は気付いてなかった。
「ねぇ」
ふたり一組で柔軟体操をしていると、結子が沙樹に聞いた。
「あなた愛人の子って有名なんだけど、ほんと?」
直球で聞いてきたのは結子が初めてだった。思わず目を丸くした沙樹は驚いて手を止めた。
「ほんと?」
「……まぁ」
隠すことでもない。みんな知ってる。そう思った沙樹はそう答えた。
「そっかー」
結子はそう笑って沙樹に「早く押して」と促した。
体育の時間の間中、結子はちょこちょこと沙樹と話を振ってきた。その度に沙樹はボソボソと答えた。
(不思議な子……)
今まで沙樹と話をしようとする同級生はいなかった。上級生も下級生もそうだった。ずっとひとりだった。
それでも平気だったのは輝たちがいたから。崇弘が沙樹に笑いかけてくれていたからだった──。
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