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第1章
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「行くぞ」
高幡家を出たワンボックスカー。その車内には輝に真司、崇弘に沙樹が乗ってる。
運転してるのは真司だった。
「沙樹ちゃん、久しぶり」
「久しぶり。タカちゃん」
隣に座る崇弘に笑う沙樹は、とても嬉しそうだった。
「零士は来るの?」
「来るって言ってたよ」
「柚子ちゃん連れて?」
「そうそう。柚子ちゃんに息抜きさせたいってさ」
車内ではそんな話が飛び交う。このメンバーの中で唯一の既婚者の零士。その零士の奥さんは友人の湊の妹。沙樹が小学生の頃に初めて会った。
「柚子さん、来るの?」
「そう言ってたよ」
崇弘は沙樹を見て笑った。
メンバーの車は、崇弘の実家の別荘がある葉山に到着する。景色は地元とは全く異なる。
繁華街から離れたところにその別荘はある。別荘からは海が見える。
「沙樹。部屋に荷物置いておいで」
輝は沙樹の荷物を車から下ろし手渡す。沙樹は荷物を持って2階に上がる。沙樹が使う部屋はいつも決まって階段を上がり左側の奥の部屋。
この別荘は本当に広くて部屋数は8部屋くらいある。リビングもキッチンも広いし、庭も広い。
その庭でいつもバーベキューをするのが定番だった。
「零士が来たぞー」
そんな声が外から聞こえる。荷物を部屋に置いた沙樹は外に出る。別荘の玄関前に、白いファミリータイプの車が置かれている。その車から零士と柚子が降りて来た。
「沙樹ちゃん。大きくなったなぁ」
零士は沙樹にそう言うと、沙樹は頭を下げる。
「今、何歳だ?」
「15」
輝が横から言う。
「てめぇに聞いてねぇよ」
笑いながら輝に言う零士は柚子と一緒に荷物を持って別荘の中へと入って行く。
「子供どうした?」
庭に戻って来たふたりに崇弘が聞く。
「柚子のオフクロさんが預かってくれてる。たまにはゆっくりしておいでーって言われた」
ふたりには1歳になる女の子のさくらがいる。
「湊は?」
「研修医だからな。忙しいと」
「最近、会えてねぇな」
「会いたいなら病院行ってくれば?」
「嫌だ。病院嫌い」
子供のように言う崇弘を見て笑うメンバーたち。つられるように柚子も沙樹も笑った。
「柚子ちゃん、結局大学はどうしたの?」
「あ──……」
言葉に詰まった柚子は考え込んでいた。
「そろそろちゃんと考えなきゃとは思ってるんです……。けど……」
まだ答えが決まっていない柚子。子供が出来る前に、柚子は大学を休学していた。それは柚子の意志ではなく、家族の判断。更に妊娠したことによって復学が難しくなった。
「産まれたら復学しようかと考えてたんだけど……」
体調が思わしくなく復学は先延ばしになった。
「地元に家建てて正解だわ」
そう言って柚子に麦茶を渡す。
「ん?」
「色々とな、あんだよ」
零士の柚子を見る目はとても優しかった。そんなふたりは沙樹にとって羨ましい光景だった。
(あんなふたりになりたい)
柚子とは小学校四年生の時にこの別荘で会った。その時にはもうふたりは付き合っていて、その雰囲気が子供心に憧れを抱かせるものだった。
沙樹はふたりのようになりたいと、子供の時から思っていた。そしてそうなりたい相手は崇弘だった。
だけど、沙樹にも分かっている。10も離れた兄の友人と、そんな関係になれる筈はないと。それでも沙樹は崇弘が好きだった。
子供の頃は憧れなのかと思っていた。けど、成長するにつれそれが単なる憧れではないことを痛感する。
バンドの活動が忙しくなり、なかなか会えない時期が増えていくと、寂しさが付きまとっていた。更に零士が刺された事件によって活動は休止状態になったそんな時でも、メンバーに会うことは出来なかったのだ。
沙樹はメンバーの連絡先を知っている。時折、メッセージアプリで近況を崇弘に送っていたが、忙しかったのか返ってくるのは5通に1通返ってくる感じだった。
零士が目覚めてからもなかなかバンドは再開出来なかった。その様子も崇弘から時々送られてくる感じだった。
「零士さんはもう大丈夫なの?」
崇弘の隣に座って、零士の様子を見ていた沙樹はそう聞いていた。
「ほぼな」
零士は腹部を刺された。復帰出来たのは奇跡的なことだったらしい。刺し傷は一ヶ所。それに加えて致命傷となる場所からズレていたからどうにか助かった。それでも数ヶ月、意識はなかった。意識が戻らなかったのは、精神的なものが関係していたのではないかと回りは言っている。
そういう話も崇弘から聞いていた。輝は決して話してはくれなかった。だから輝は沙樹が事件のことを知ってるとは思っていない。
「沙樹」
輝が沙樹にジュースを持ってきた。
「ほら」
「ありがと。輝お兄ちゃん」
「ん」
ポンと頭に手を置くと、肉を焼いている真司の所へと向かった。
高幡家を出たワンボックスカー。その車内には輝に真司、崇弘に沙樹が乗ってる。
運転してるのは真司だった。
「沙樹ちゃん、久しぶり」
「久しぶり。タカちゃん」
隣に座る崇弘に笑う沙樹は、とても嬉しそうだった。
「零士は来るの?」
「来るって言ってたよ」
「柚子ちゃん連れて?」
「そうそう。柚子ちゃんに息抜きさせたいってさ」
車内ではそんな話が飛び交う。このメンバーの中で唯一の既婚者の零士。その零士の奥さんは友人の湊の妹。沙樹が小学生の頃に初めて会った。
「柚子さん、来るの?」
「そう言ってたよ」
崇弘は沙樹を見て笑った。
メンバーの車は、崇弘の実家の別荘がある葉山に到着する。景色は地元とは全く異なる。
繁華街から離れたところにその別荘はある。別荘からは海が見える。
「沙樹。部屋に荷物置いておいで」
輝は沙樹の荷物を車から下ろし手渡す。沙樹は荷物を持って2階に上がる。沙樹が使う部屋はいつも決まって階段を上がり左側の奥の部屋。
この別荘は本当に広くて部屋数は8部屋くらいある。リビングもキッチンも広いし、庭も広い。
その庭でいつもバーベキューをするのが定番だった。
「零士が来たぞー」
そんな声が外から聞こえる。荷物を部屋に置いた沙樹は外に出る。別荘の玄関前に、白いファミリータイプの車が置かれている。その車から零士と柚子が降りて来た。
「沙樹ちゃん。大きくなったなぁ」
零士は沙樹にそう言うと、沙樹は頭を下げる。
「今、何歳だ?」
「15」
輝が横から言う。
「てめぇに聞いてねぇよ」
笑いながら輝に言う零士は柚子と一緒に荷物を持って別荘の中へと入って行く。
「子供どうした?」
庭に戻って来たふたりに崇弘が聞く。
「柚子のオフクロさんが預かってくれてる。たまにはゆっくりしておいでーって言われた」
ふたりには1歳になる女の子のさくらがいる。
「湊は?」
「研修医だからな。忙しいと」
「最近、会えてねぇな」
「会いたいなら病院行ってくれば?」
「嫌だ。病院嫌い」
子供のように言う崇弘を見て笑うメンバーたち。つられるように柚子も沙樹も笑った。
「柚子ちゃん、結局大学はどうしたの?」
「あ──……」
言葉に詰まった柚子は考え込んでいた。
「そろそろちゃんと考えなきゃとは思ってるんです……。けど……」
まだ答えが決まっていない柚子。子供が出来る前に、柚子は大学を休学していた。それは柚子の意志ではなく、家族の判断。更に妊娠したことによって復学が難しくなった。
「産まれたら復学しようかと考えてたんだけど……」
体調が思わしくなく復学は先延ばしになった。
「地元に家建てて正解だわ」
そう言って柚子に麦茶を渡す。
「ん?」
「色々とな、あんだよ」
零士の柚子を見る目はとても優しかった。そんなふたりは沙樹にとって羨ましい光景だった。
(あんなふたりになりたい)
柚子とは小学校四年生の時にこの別荘で会った。その時にはもうふたりは付き合っていて、その雰囲気が子供心に憧れを抱かせるものだった。
沙樹はふたりのようになりたいと、子供の時から思っていた。そしてそうなりたい相手は崇弘だった。
だけど、沙樹にも分かっている。10も離れた兄の友人と、そんな関係になれる筈はないと。それでも沙樹は崇弘が好きだった。
子供の頃は憧れなのかと思っていた。けど、成長するにつれそれが単なる憧れではないことを痛感する。
バンドの活動が忙しくなり、なかなか会えない時期が増えていくと、寂しさが付きまとっていた。更に零士が刺された事件によって活動は休止状態になったそんな時でも、メンバーに会うことは出来なかったのだ。
沙樹はメンバーの連絡先を知っている。時折、メッセージアプリで近況を崇弘に送っていたが、忙しかったのか返ってくるのは5通に1通返ってくる感じだった。
零士が目覚めてからもなかなかバンドは再開出来なかった。その様子も崇弘から時々送られてくる感じだった。
「零士さんはもう大丈夫なの?」
崇弘の隣に座って、零士の様子を見ていた沙樹はそう聞いていた。
「ほぼな」
零士は腹部を刺された。復帰出来たのは奇跡的なことだったらしい。刺し傷は一ヶ所。それに加えて致命傷となる場所からズレていたからどうにか助かった。それでも数ヶ月、意識はなかった。意識が戻らなかったのは、精神的なものが関係していたのではないかと回りは言っている。
そういう話も崇弘から聞いていた。輝は決して話してはくれなかった。だから輝は沙樹が事件のことを知ってるとは思っていない。
「沙樹」
輝が沙樹にジュースを持ってきた。
「ほら」
「ありがと。輝お兄ちゃん」
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