もう一度抱きしめて……

星河琉嘩

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番外編

その後のふたり…… 2

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 柚子を迎えに行った俺を罵ることも責めることもしなかった、柚子の両親。むしろ、俺の身体を気遣ってくれていた。
 マンションに柚子を連れてくることも、快く了解してくれた。
 本当に厳しい人たちなのかと疑問に思う。
 だけど、親父さんの第一印象は凄ぇ怖い。

「ぎゅってして……」
 柚子に言われてソファーに横になっていた柚子を抱き上げる。
(細い……)
 元々細い子なんだけど、こんなにも細くなってしまった。その原因は俺にあるんだよな。

「ちゃんと食えよ」
 食べれないことを知っていてもそう言ってしまう。
「ごめんな」
 そう言うと「なんで」と返ってくる。
「なんで零士さんが謝るの?」
「こんなに痩せてしまったのは俺に責任があるだろ」
 別れることしなきゃここまで痩せないだろう。
「零士さんのせいじゃないのに……」
 少し不貞腐れた柚子が、妙に可愛くて。
 ソファーに座らせてそのまま抱き寄せ柚子にキスをする。

 こんなに可愛い子はいない。こんなに愛する人はいない。
 誰よりも大切な人──……。




     ◇◇◇◇◇



 それから決めなければいけないこと、考えなければいけないことが山積みになっていた。
 


「記者会見?」
 事務所で優樹菜に言われた。
 今回、俺が刺されたこともそうだけど、柚子と結婚するのならそういうのをちゃんとしておいた方がいいと考えているのだろう。
「柚子ちゃんを守る為にもちゃんとしとかないと」
(確かにそうかもしれない……)
 優樹菜の言うことは分かる。
 柚子を守る為に出来ることをしよう……。



     ◇◇◇◇◇



「この度はファンの皆様、スタッフの皆様にご迷惑とご心配をおかけして申し訳ございません」
 ホテルの宴会場を貸し切り、事の発端と真相を話すべく記者会見を行っている。同席したのは崇弘と事務所の社長、そして弁護士だった。
 今回のことは流石に法的手段を取らなければいけない為、弁護士がついていた。
 たくさんの記者たちを前に、どこから説明すべきかと悩んでいた。出来れば柚子のことは隠しておきたいところだが、それは無理と言えよう。

「零士。平気か?」
 隣に座ってる崇弘が言った。
 俺は黙って頷く。
 今回の記者会見で柚子のことを話すということを、柚子は理解してくれている。
 今日は実家にいてもらってる。

「まずは退院おめでとうございます」
 そう言った記者の方に俺は目線を向ける。
「今回、どうしてこのようなことが起こったのか説明出来る範囲でお願いします」
「今回俺を刺した子は、デビュー当時から俺のファンの子だったようで、思い詰めての行動だったようです」
「それはネットニュースで話題になっていた女子大生と関係ありますか?」
「はい。ネットニュースの通りです。俺はその女子大生とずっと交際をしていました。それをファンの子の間では有名だったようで、彼女を特定して接触を図っていたようです」
「犯人とREIJIさんの恋人はご友人ということですか?」
「……少なくとも彼女の方はそう思って過ごしていたようです」
「犯人はそう思っていないと?」
「直接俺が聞いたわけではないですが、彼女に何度か被害を与えていたようです」
 質問が、苦しい。
 柚子のことをあまり話したくはない。だが、そうもいかない。
 これが、柚子を傷つけることにならないといいが……。

「犯人に対して何か行動起こしますか?ファンの子なんですよね?」
 そういう質問もあった。
「そういう質問はご遠慮願います」
 弁護士の方が、捜査に支障が出そうな質問は一切受け付けないというスタンスで、答えさせなかった。



    ◇◇◇◇◇



 記者会見終了後。俺は柚子に電話を入れた。
「柚子?」
『お疲れ様』
 そう聞こえる声がとても愛しい。
「本当にお前のこと、話しても良かったのか?」
 柚子に起こったことを話すのは気が進まなかった。
 ゆりえの差し金で柚子が強姦レイプされ、さらに拉致され暴行。そんな目にあってるのに、それを全国の電波で俺が話すことが辛かった。
 そういうことがあったと、はっきりとは言わなかったが、被害があったと言うこともツラい。
『ん……。話さなきゃ、曖昧な会見になったでしょ』
 電話の向こうでギュッと唇を噛み締めてるのが分かった。
 辛い思いをしてる。それでも俺の為に話してもいいと言ってくれた。
 話すことでどれだけ傷つくか俺には計り知れない。

「柚子……」
 抱きしめたい。今すぐ……。
 その想いを押し殺して、俺はホテルを出る。


 事務所に立ち寄った俺を待っていたのは他のメンバー、そしてスタッフたち。
「零士」
「お疲れ」
 輝と真司は俺にそう言う。
 随分と心配をかけてしまっている。
「れいちゃん、大丈夫?」
 奥から優樹菜が出てきてそう俺の顔を覗く。
「また呼び方……」
「え?」
「やめろよ、それ」
「あ……。また言ってた?」
「言ってたねぇー」
 真司はニヤニヤとこっちを見てる。
 何を考えてるんだか。
「もう、仕方ないじゃないの。産まれた時から一緒なのよ!」
 本当にそうだ。優樹菜とは産まれた時から一緒で、家もすぐ近くでよく一緒にいた。
 今更、呼び名を変えろというのは無理かもしれない。

「今日はもう帰りな。スケジュール、空いてんだろ」
 輝は俺に言うと、社長も帰れと言う。
「あ、社長」
「なんだ?」
「今度、彼女を連れてきます。結婚するんで」
 社長に向かって言うと社長は驚きの顔を見せる。
「早いんじゃないのか?相手、まだ大学生だろ」
「そうも言ってられないんです」
「ん?」
「子供が産まれるんで」
 そう言うと驚いた社長が更に驚いた。
「子供!?」
「はい」
「え、え、え、それは本当にお前の……っ」
「俺の子ですよ。彼女は俺しか見てないんで、他の男の子ではありえないんですよ」
 そう言うと社長に背を向けて駐車場に向かった。
 今頃、パニックになってる社長に優樹菜が詰め寄られてるだろう。
(悪ぃな、優樹菜)
 そう思いつつも、早く柚子の元へ行きたくて車のエンジンをかけた。
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