もう一度抱きしめて……

星河琉嘩

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第5章

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「すっごく、恥ずかしいんだけどっ!」
 実家の柚子の部屋に芽依が様子を見に来ていて、その芽依に話す柚子は元気な時の柚子となんら変わらなかった。
 あの日から段々と、元気を取り戻しつつあった柚子は、芽依に話していた。
 まだ19歳。もうすぐ二十歳になる柚子だが、産婦人科は恥ずかしい場所だったようだ。
「検診があんなに恥ずかしいとは思わなかった!」
 芽依はその話をニコニコして聞いている。柚子が元気に話しているのが嬉しいのだ。

「柚子。階下したまで聞こえるわよ」
 母親がお茶とお菓子を持って来た。
「芽依ちゃん。わざわざありがとうね」
「おばちゃん」
「明日には寮に戻るの?」
「はい。明日また講義あるんで」
「頑張ってね」
「はーい」
 母親はそう芽依に言って階下に戻って行く。
「大学はどうするの?」
 その事に「う~ん……」と頭を傾げる。
「復学はする予定ではいるの?」
「分からない」
 柚子の中ではまだ何も決まっていない。とりあえず、お腹の中の子のことしか考えていない。
「零士さんは?」
 あの夜、電話があってから毎日のように電話がかかってくる。
 明るい声で柚子を気遣ってくれる。
 リハビリがどのくらいかかるのかは分からない。だけど無理をしているのではと思う。
 今回のことで年末にやる予定だったライブは中止になった。待ってるファンの為にも無理をしてでもリハビリをしている。柚子はそう確信していた。



     ◇◇◇◇◇



 バタンっ!
「はぁ……、はぁ……、はぁ……」
 跪く零士にリハビリのスタッフが駆け寄る。
「大槻さん!無理し過ぎです!」
「……いや、大丈夫。早く、元に戻らなきゃ……」
 そう言ってまた立ち上がる。暫く眠ったままだった零士は、目覚めて次の日にはリハビリが始まった。無理をしてでもリハビリをこなさなきゃいけないと、躍起になる。
 ファンのみんなを不安にさせてる。それは勿論のこと。そして柚子に会いに行きたいと、それを力にしてリハビリに向き合っていた。
 何より早く柚子の元へ行かないと、話さなきゃいけないことがある。急がなきゃいけないと。

 病院には零士の両親や兄弟が集まる。事務所のスタッフも集まる。メンバーも勿論、集まってくる。
 事務所の社長には、柚子のことを話していた。ここを退院したら柚子に会いに行くと。ダメだと言われてもそうすると。
 親にも柚子という存在がいることを話していた。誰よりも大切な存在だと。
 親は裕士から話を聞いていたから驚くことはなかった。だがそれよりも驚いていたことは、柚子の腹の中にいる子の事だった。
 まだ本人からは何も聞いてはいない。湊から聞いただけだったが、湊が嘘を言う訳がない。

「はい。今日はここまでにしましょう」
 リハビリスタッフがそう言うと、零士は病室へと戻される。
「もう少しやっていたいんだが」
「ダメです」
「早く復帰したいんだ」
「退院はもう目の前ですよ。焦らなくとも大丈夫です」
 スタッフはそう言うと病室まで着いてくる。目を離すとリハビリ室に行こうとするから、こうして病室までスタッフが着いてくる。
 零士は諦めて病室へと戻った。

(会いたい……)
 隣に柚子がいないことは、とても寂しく辛い。
「早くこの腕に……」
 病室の窓から外を眺めながら、ポツリと呟いた。
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