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第5章
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お腹の中の赤ちゃんは成長を止めることなく、大きくなっていく。
柚子の状態がこんななのに、どうするべきかと悩ませている両親。妊娠していることを理解してるのか、それすら分からない。
そして、相手の親にも知らせるべきかと考えている。
夕方、湊から零士が目覚めたことと、柚子の妊娠のことを本人に伝えた事を聞いた。
「あなた」
柚子が部屋に戻り、リビングで両親が話をしていた。
「柚子、どうしたらいいかしら……」
「子供のことか?」
「ええ」
「本人はなんて?」
「何も」
「そうか」
父親はそれ以上、何も言わなかった。その姿を見て母親は何も言うことはなかった。父親が何か考えてることを知っていたからだった。
ただ黙ってそこにいた。
◇◇◇◇◇
バタンとトイレから出た柚子は部屋に戻る。
零士との電話の後、吐き気がしてトイレに駆け込んでいた。それまでも何度もそういう状態になってはいた。
(……え?)
頭の中が覚醒していく。
モヤがかかったような記憶が鮮明になっていくのを感じていた。
机の上に置かれたままのエコー写真に気付いてはっとする。
「私……妊娠して………?」
口にするとそれが現実なのだと気付かされる。
「もしかしてそれを知って……?」
湊が知らない訳がない。母親は湊に話しているのだ。それを湊は零士に言わない訳がない。零士に文句を言いに行ったのだ。
エコー写真を手にしてそれをじっと見つめる。片方の手はお腹に触れていた。
「ごめんね……。こんな私で……」
気付かずにいたこと。精神的なショックで、まともではなかったこと。自分のことしか考えてなかったこと。
「私、ちゃんとするから……」
エコー写真を胸に抱き締める。
「守るから……」
涙が一筋、頬を伝った。
◇◇◇◇◇
2階の部屋からリビングへと降りて行く柚子は、リビングでお茶を飲んでいた両親に声をかけた。
「お父さん。お母さん」
その声に振り返り驚く。てっきりもう寝てしまったのかと思っていたふたり。柚子がそこに立っていたことに驚いたのだ。
「どうした?」
父親が柚子に言う。心なしか表情が違うと感じた。
「私……、この子、産みたい」
「柚子」
「頑張るから……、元の私に戻るから……、この子……」
少しずつ話す柚子に母親は近付いて抱き締める。
「簡単なことじゃないのよ?」
「うん……。それでも産みたい」
「柚子」
低い声が聞こえる。父親の声は兄と同じように低い。
その低い声が昔から好きだった。
「零士くんを連れて来なさい。まだ無理でもちゃんと」
「お父さん……?なんで、名前?」
母親を見ると母親は笑っていた。
「すべて知ってる。あなたの相手があの零士くんだってこと。湊のお友達の零士くんだって」
「知って……たの?」
「ずっとね」
「お母さん……」
涙が思わず流れる。その涙を母親は拭った。
「お母さんになるんでしょ?お母さんは簡単には泣かないわよ」
「うん……っ」
柚子は今までの胸の中にしまい込んでいた想いを、すべて吐き出すかのように母親の胸の中で泣いていた。
そんな光景を父親は黙って見ていた。
柚子の状態がこんななのに、どうするべきかと悩ませている両親。妊娠していることを理解してるのか、それすら分からない。
そして、相手の親にも知らせるべきかと考えている。
夕方、湊から零士が目覚めたことと、柚子の妊娠のことを本人に伝えた事を聞いた。
「あなた」
柚子が部屋に戻り、リビングで両親が話をしていた。
「柚子、どうしたらいいかしら……」
「子供のことか?」
「ええ」
「本人はなんて?」
「何も」
「そうか」
父親はそれ以上、何も言わなかった。その姿を見て母親は何も言うことはなかった。父親が何か考えてることを知っていたからだった。
ただ黙ってそこにいた。
◇◇◇◇◇
バタンとトイレから出た柚子は部屋に戻る。
零士との電話の後、吐き気がしてトイレに駆け込んでいた。それまでも何度もそういう状態になってはいた。
(……え?)
頭の中が覚醒していく。
モヤがかかったような記憶が鮮明になっていくのを感じていた。
机の上に置かれたままのエコー写真に気付いてはっとする。
「私……妊娠して………?」
口にするとそれが現実なのだと気付かされる。
「もしかしてそれを知って……?」
湊が知らない訳がない。母親は湊に話しているのだ。それを湊は零士に言わない訳がない。零士に文句を言いに行ったのだ。
エコー写真を手にしてそれをじっと見つめる。片方の手はお腹に触れていた。
「ごめんね……。こんな私で……」
気付かずにいたこと。精神的なショックで、まともではなかったこと。自分のことしか考えてなかったこと。
「私、ちゃんとするから……」
エコー写真を胸に抱き締める。
「守るから……」
涙が一筋、頬を伝った。
◇◇◇◇◇
2階の部屋からリビングへと降りて行く柚子は、リビングでお茶を飲んでいた両親に声をかけた。
「お父さん。お母さん」
その声に振り返り驚く。てっきりもう寝てしまったのかと思っていたふたり。柚子がそこに立っていたことに驚いたのだ。
「どうした?」
父親が柚子に言う。心なしか表情が違うと感じた。
「私……、この子、産みたい」
「柚子」
「頑張るから……、元の私に戻るから……、この子……」
少しずつ話す柚子に母親は近付いて抱き締める。
「簡単なことじゃないのよ?」
「うん……。それでも産みたい」
「柚子」
低い声が聞こえる。父親の声は兄と同じように低い。
その低い声が昔から好きだった。
「零士くんを連れて来なさい。まだ無理でもちゃんと」
「お父さん……?なんで、名前?」
母親を見ると母親は笑っていた。
「すべて知ってる。あなたの相手があの零士くんだってこと。湊のお友達の零士くんだって」
「知って……たの?」
「ずっとね」
「お母さん……」
涙が思わず流れる。その涙を母親は拭った。
「お母さんになるんでしょ?お母さんは簡単には泣かないわよ」
「うん……っ」
柚子は今までの胸の中にしまい込んでいた想いを、すべて吐き出すかのように母親の胸の中で泣いていた。
そんな光景を父親は黙って見ていた。
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