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第5章
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「──……え?」
零士の耳に入って来た言葉に頭が真っ白になる。
何も考えられないくらいの衝撃だった。
(柚子が……。妊娠?)
頭が働かない零士に変わって優樹菜が聞いた。
「それ、本当のこと?」
「本当だ」
ずっと体調不良起こしていた柚子は、今思えばつわりだったのだろう。何も食べれなかったのは精神的な問題だけではなかった。それが分かったのは数週間前のことだった。
「──柚子は……?」
「本人は分かってる筈だが……」
「え」
「今また、俺の声も聞こえてない。母親が何度か話しかけてようやく理解するってな感じだから」
零士が刺された事を知ってからまた精神的なショックでまた塞ぎ込んでいた。
妊娠したってことも分かってる筈なのに、その事に触れることはない。
ただ今見えるのは、その場にいない零士だけだった。
「……湊」
何かを思い詰めたような顔をした零士が、親友の名を呼ぶ。
「柚子に……、柚子に会いに行っていいか?」
手が震えてる。必死の覚悟で言ってることが分かる。
だけどそれを止めたのは優樹菜だった。
「ダメよ。柚子ちゃんと会うことは事務所が……っ!」
「優樹菜。誰がなんと言っても、俺は柚子に会う。会わなきゃいけないんだ」
「でも……」
優樹菜の立場も分かる。それでも零士は柚子に会いたいと願ってる。
零士の想いが分かるからか、優樹菜はそれ以上何も言うことは出来なかった。
◇◇◇◇◇
《会いたい》
柚子のスマホにそう連絡が入ったのは零士が目覚めたその夜だった。
部屋の窓から空を見上げていた柚子は、スマホの音にビクッとしていた。
ゆっくりと身体を動かし、机の上に置いてあるスマホを手にする。実家に戻ってきてからあまり手にすることはない。湊から電話がかかってきた時くらいしか触らない。湊から電話が来てもあまり話すこともない。きっと何を話しているのか分からないだろう。
(……え?)
柚子の中の何かが動き出していた。【零】と表示されたメッセージの相手。ずっとずっと会いたかった人。
「うっ………、グスン……」
涙が流れて止まらなかった。
大好きな人。誰よりも傍にいて欲しい人。
「零士さん……っ」
スマホを抱きしめて泣いてる柚子に今度は電話がかかったきた。その音にびっくりして、更にその相手に驚く。
「……もしもし?」
おそるおそる電話に出た柚子にとても大好きな人の声が届く。
『柚子……』
「ん」
『俺……』
零士も先が続かない。それでも一言二言でも声が聞けただけでも柚子は嬉しい。
「零士さん……」
『ん?』
「身体……、大丈夫………?」
柚子は自分のことよりも零士のことを心配していた。
『大丈夫。これからリハビリの毎日だけどな』
リハビリの為にまだ少し入院生活を送らなければいけない。
『柚子……。会いたいんだけど……』
零士の声に「ん」と答える。
『でも、すぐには会えない……みたいで』
「ん」
『必ず、迎えに行くから』
「零士……さん?」
『迎えに行く』
その言葉の意味を、柚子は理解出来たのだろうか。まだ心の方が参ってる柚子に、言葉の意味を理解出来ないのかもしれない。
だけど少し話せたことで、回復していけるのかもしれないと、零士は感じた。
『悪ぃ。消灯時間。もう電話出来ないや』
「ん」
『おやすみ。柚子』
「おやすみ……」
電話を切った後、涙が溢れてきた。止まらない涙を拭うことはしないで、そのまま膝を抱えていた。
(会いたい……)
その想いは強く、柚子の中に根付いていた。
零士の耳に入って来た言葉に頭が真っ白になる。
何も考えられないくらいの衝撃だった。
(柚子が……。妊娠?)
頭が働かない零士に変わって優樹菜が聞いた。
「それ、本当のこと?」
「本当だ」
ずっと体調不良起こしていた柚子は、今思えばつわりだったのだろう。何も食べれなかったのは精神的な問題だけではなかった。それが分かったのは数週間前のことだった。
「──柚子は……?」
「本人は分かってる筈だが……」
「え」
「今また、俺の声も聞こえてない。母親が何度か話しかけてようやく理解するってな感じだから」
零士が刺された事を知ってからまた精神的なショックでまた塞ぎ込んでいた。
妊娠したってことも分かってる筈なのに、その事に触れることはない。
ただ今見えるのは、その場にいない零士だけだった。
「……湊」
何かを思い詰めたような顔をした零士が、親友の名を呼ぶ。
「柚子に……、柚子に会いに行っていいか?」
手が震えてる。必死の覚悟で言ってることが分かる。
だけどそれを止めたのは優樹菜だった。
「ダメよ。柚子ちゃんと会うことは事務所が……っ!」
「優樹菜。誰がなんと言っても、俺は柚子に会う。会わなきゃいけないんだ」
「でも……」
優樹菜の立場も分かる。それでも零士は柚子に会いたいと願ってる。
零士の想いが分かるからか、優樹菜はそれ以上何も言うことは出来なかった。
◇◇◇◇◇
《会いたい》
柚子のスマホにそう連絡が入ったのは零士が目覚めたその夜だった。
部屋の窓から空を見上げていた柚子は、スマホの音にビクッとしていた。
ゆっくりと身体を動かし、机の上に置いてあるスマホを手にする。実家に戻ってきてからあまり手にすることはない。湊から電話がかかってきた時くらいしか触らない。湊から電話が来てもあまり話すこともない。きっと何を話しているのか分からないだろう。
(……え?)
柚子の中の何かが動き出していた。【零】と表示されたメッセージの相手。ずっとずっと会いたかった人。
「うっ………、グスン……」
涙が流れて止まらなかった。
大好きな人。誰よりも傍にいて欲しい人。
「零士さん……っ」
スマホを抱きしめて泣いてる柚子に今度は電話がかかったきた。その音にびっくりして、更にその相手に驚く。
「……もしもし?」
おそるおそる電話に出た柚子にとても大好きな人の声が届く。
『柚子……』
「ん」
『俺……』
零士も先が続かない。それでも一言二言でも声が聞けただけでも柚子は嬉しい。
「零士さん……」
『ん?』
「身体……、大丈夫………?」
柚子は自分のことよりも零士のことを心配していた。
『大丈夫。これからリハビリの毎日だけどな』
リハビリの為にまだ少し入院生活を送らなければいけない。
『柚子……。会いたいんだけど……』
零士の声に「ん」と答える。
『でも、すぐには会えない……みたいで』
「ん」
『必ず、迎えに行くから』
「零士……さん?」
『迎えに行く』
その言葉の意味を、柚子は理解出来たのだろうか。まだ心の方が参ってる柚子に、言葉の意味を理解出来ないのかもしれない。
だけど少し話せたことで、回復していけるのかもしれないと、零士は感じた。
『悪ぃ。消灯時間。もう電話出来ないや』
「ん」
『おやすみ。柚子』
「おやすみ……」
電話を切った後、涙が溢れてきた。止まらない涙を拭うことはしないで、そのまま膝を抱えていた。
(会いたい……)
その想いは強く、柚子の中に根付いていた。
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