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第5章
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優樹菜が零士の実家に顔を出すと、零士の母親が慌ただしくしていた。
この家はいつもバタバタとしている。それに加えて今は零士のことで余計にバタバタとしていた。
「優樹菜ちゃん」
零士の母親は顔色が悪くなっていた。相当、疲れているのだろう。もしかして眠れてないのではと心配になる。
「おばちゃん。眠れてる?」
優樹菜の言葉に微かに笑う。その笑いが無理に作ってる気がして優樹菜は苦しくなる。
産まれた時からこの家に出入りしている優樹菜にとって、零士の母親は実の母同然なのだ。
「れいちゃんはまだ……?」
毎日のように病院へ行くが、まだ眠ったままだった。
あの事件からもう二週間は経っている。本人が目覚めようとしないのかもしれないと、優樹菜は思ってしまうくらい。
傷は深かったが、手術は成功して後は目覚めるのを待つだけという状態。病院の方でもいつ目覚めるかは分からないらしい。
「優樹菜」
大槻家の長女の沙理が顔を出す。もう嫁に行ってる沙理は、母親が心配でこうして実家に戻ってきている。
沙理は8歳の男の子の母親だ。そう見えないくらい美貌の持ち主だ。
「お母さん、少し身体悪くしてる」
そう聞いたのは、零士のことがあってだろう。精神的に追い込まれているのかもしれない。
「零士はまだ起きないの。昨日も病院行ったけど、まだ……」
毎日、沙理は母親を連れて病院に行く。
「あの子……、大丈夫……よね……」
いつも気丈な沙理の声が震えてる。5歳年上のこの沙理も祐士同様、末っ子の零士が可愛くて仕方ない。
もういい歳した大人だから子供の頃のような可愛がりはしないけど、とても大切な弟なのだ。
優樹菜と沙理が話してる間も、何かを忘れようとするかのように零士の母親は動き回っていた。
「お母さん、少しは落ち着きなよ」
そういう沙理に振り返ることなく、動き回ってる。そんな零士の母親を見ていてなんとも言えない気持ちでいっぱいになる。いつも優しくパワフルな零士の母親は、今日はいつもと違う。いつもと変わらず、動き回ってはいるがやはり違うのだ。
~♪~♪~♪
優樹菜のスマホが鳴る。事務所からかなと思ってスマホ画面を見ると【湊】の文字。
その字を見ると今でもドキドキする。
出るのを躊躇っていると、沙理が「出なよ」と言ってくれる。
「もしもし……?」
『優樹菜。零士は?』
湊の声もまだ沈んだままなのを感じる。
「まだ覚めないの……」
『そっか……』
「どうしたの?」
他に言いたいことがあるのだと感じ取った優樹菜は、話をするように促す。それでも躊躇っている湊に電話越しに気付く。顔は見てなくも気付いてしまうのは、やっぱり優樹菜が湊を忘れられないから。
「湊?」
どうも歯切れが悪い。はぁ……とため息を吐いた優樹菜は立ち上がって「今から会おう!」と言った。
「おばちゃん、また来るね!」
そう言って零士の家を飛び出した。
湊と落ち合った場所は、高校時代によく一緒に来ていた公園。児童公園とは違って近所の人たちが散歩したりテニスコートやグラウンドがあるから運動したりするような公園。その1画に噴水などもあってよくその噴水広場にあるベンチに座って話をしていた。
この日もベンチで湊が来るのを待っていた。
「久しぶり」
電話で何度か話したことあっても、実際に会うのは高校卒業してから初めてのことだった。
高校の時よりも痩せて大人っぽくなった湊を見て、胸の奥がきゅ~となった。でもそれよりも湊の顔色があまりよくない。やっぱりみんな、零士が心配で眠れない日を送っているんだ。
実際、優樹菜もそうだ。
心配な思いに重なって、マスコミの対応などにも負われる日々。零士が入院している間のBRの活動調整なども全て優樹菜が請け負っていた。
年末にはライブを控えていたが、この状態じゃ無理だと白紙に戻った。
「顔色、よくないね」
優樹菜がそう言うと、湊は優樹菜の隣に座った。
「俺よりお前だろ」
そう言われた。自覚はないが、優樹菜も相当顔色がよくない。メイクで誤魔化してるが、クマは隠しきれてない。
「湊。なんかあったでしょ」
噴水の方を見て優樹菜が言う。湊はどう言おうか迷ってる感じだった。
「零士は……、起きると思うか?」
悲しい声だった。そんなことは起こっては欲しくないと願ってる。誰もが願ってる。
「目、覚めてくれねぇと……、柚子が……」
いつでも思うのは妹のこと。付き合ってる高校生の時からそうだった。よく湊は柚子の名前を出した。初めは「誰?」と頭にきてたが、よくよく聞くと妹だという。
その妹のことをとても大切にしてることを付き合い出してから知った。
「相変わらずのシスコン」
「煩ぇよ……」
いつもならもっと語尾の強い言い方をする。だが、今日は違った。
「なんで柚子ちゃんの名前出てくるの?別れてんだよ?」
「不合意でな」
お互い納得していない別れだった。零士から柚子に言ったことだけど、零士は事務所から言われたことだ。本心は別れたくなかっただろう。
「別れたことでふたりがメチャクチャになってるだろ」
柚子も零士も心がおかしくなっている。零士は自分を保つ為にアルコールに逃げた。柚子は実家に逃げた。
ふたり共、一緒にいるからバランスを保ててる状態なのだ。
「零士に会わせろ。言いたいことがある」
真っ直ぐ優樹菜を見て言った。その目に優樹菜は抗えなかった。
この家はいつもバタバタとしている。それに加えて今は零士のことで余計にバタバタとしていた。
「優樹菜ちゃん」
零士の母親は顔色が悪くなっていた。相当、疲れているのだろう。もしかして眠れてないのではと心配になる。
「おばちゃん。眠れてる?」
優樹菜の言葉に微かに笑う。その笑いが無理に作ってる気がして優樹菜は苦しくなる。
産まれた時からこの家に出入りしている優樹菜にとって、零士の母親は実の母同然なのだ。
「れいちゃんはまだ……?」
毎日のように病院へ行くが、まだ眠ったままだった。
あの事件からもう二週間は経っている。本人が目覚めようとしないのかもしれないと、優樹菜は思ってしまうくらい。
傷は深かったが、手術は成功して後は目覚めるのを待つだけという状態。病院の方でもいつ目覚めるかは分からないらしい。
「優樹菜」
大槻家の長女の沙理が顔を出す。もう嫁に行ってる沙理は、母親が心配でこうして実家に戻ってきている。
沙理は8歳の男の子の母親だ。そう見えないくらい美貌の持ち主だ。
「お母さん、少し身体悪くしてる」
そう聞いたのは、零士のことがあってだろう。精神的に追い込まれているのかもしれない。
「零士はまだ起きないの。昨日も病院行ったけど、まだ……」
毎日、沙理は母親を連れて病院に行く。
「あの子……、大丈夫……よね……」
いつも気丈な沙理の声が震えてる。5歳年上のこの沙理も祐士同様、末っ子の零士が可愛くて仕方ない。
もういい歳した大人だから子供の頃のような可愛がりはしないけど、とても大切な弟なのだ。
優樹菜と沙理が話してる間も、何かを忘れようとするかのように零士の母親は動き回っていた。
「お母さん、少しは落ち着きなよ」
そういう沙理に振り返ることなく、動き回ってる。そんな零士の母親を見ていてなんとも言えない気持ちでいっぱいになる。いつも優しくパワフルな零士の母親は、今日はいつもと違う。いつもと変わらず、動き回ってはいるがやはり違うのだ。
~♪~♪~♪
優樹菜のスマホが鳴る。事務所からかなと思ってスマホ画面を見ると【湊】の文字。
その字を見ると今でもドキドキする。
出るのを躊躇っていると、沙理が「出なよ」と言ってくれる。
「もしもし……?」
『優樹菜。零士は?』
湊の声もまだ沈んだままなのを感じる。
「まだ覚めないの……」
『そっか……』
「どうしたの?」
他に言いたいことがあるのだと感じ取った優樹菜は、話をするように促す。それでも躊躇っている湊に電話越しに気付く。顔は見てなくも気付いてしまうのは、やっぱり優樹菜が湊を忘れられないから。
「湊?」
どうも歯切れが悪い。はぁ……とため息を吐いた優樹菜は立ち上がって「今から会おう!」と言った。
「おばちゃん、また来るね!」
そう言って零士の家を飛び出した。
湊と落ち合った場所は、高校時代によく一緒に来ていた公園。児童公園とは違って近所の人たちが散歩したりテニスコートやグラウンドがあるから運動したりするような公園。その1画に噴水などもあってよくその噴水広場にあるベンチに座って話をしていた。
この日もベンチで湊が来るのを待っていた。
「久しぶり」
電話で何度か話したことあっても、実際に会うのは高校卒業してから初めてのことだった。
高校の時よりも痩せて大人っぽくなった湊を見て、胸の奥がきゅ~となった。でもそれよりも湊の顔色があまりよくない。やっぱりみんな、零士が心配で眠れない日を送っているんだ。
実際、優樹菜もそうだ。
心配な思いに重なって、マスコミの対応などにも負われる日々。零士が入院している間のBRの活動調整なども全て優樹菜が請け負っていた。
年末にはライブを控えていたが、この状態じゃ無理だと白紙に戻った。
「顔色、よくないね」
優樹菜がそう言うと、湊は優樹菜の隣に座った。
「俺よりお前だろ」
そう言われた。自覚はないが、優樹菜も相当顔色がよくない。メイクで誤魔化してるが、クマは隠しきれてない。
「湊。なんかあったでしょ」
噴水の方を見て優樹菜が言う。湊はどう言おうか迷ってる感じだった。
「零士は……、起きると思うか?」
悲しい声だった。そんなことは起こっては欲しくないと願ってる。誰もが願ってる。
「目、覚めてくれねぇと……、柚子が……」
いつでも思うのは妹のこと。付き合ってる高校生の時からそうだった。よく湊は柚子の名前を出した。初めは「誰?」と頭にきてたが、よくよく聞くと妹だという。
その妹のことをとても大切にしてることを付き合い出してから知った。
「相変わらずのシスコン」
「煩ぇよ……」
いつもならもっと語尾の強い言い方をする。だが、今日は違った。
「なんで柚子ちゃんの名前出てくるの?別れてんだよ?」
「不合意でな」
お互い納得していない別れだった。零士から柚子に言ったことだけど、零士は事務所から言われたことだ。本心は別れたくなかっただろう。
「別れたことでふたりがメチャクチャになってるだろ」
柚子も零士も心がおかしくなっている。零士は自分を保つ為にアルコールに逃げた。柚子は実家に逃げた。
ふたり共、一緒にいるからバランスを保ててる状態なのだ。
「零士に会わせろ。言いたいことがある」
真っ直ぐ優樹菜を見て言った。その目に優樹菜は抗えなかった。
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