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第5章
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バサバサ……ッ!
柚子は手にしていた教材を落とした。
テレビから流れてきた速報を耳にしたのだ。
(……なに?どういうこと?)
実家の自分の部屋。何気なくつけたテレビから流れた速報。
──本日正午、BLUE ROSEのREIJIがファンの女性に腹部を刺されるという事件が起きました──
アナウンサーの声が耳から離れない。
動けなくなっていた柚子に気付いたのは、洗濯物を取り込んでいた母親。
「柚子?」
柚子の部屋から流れるテレビの音に驚いていた。
「柚子!」
柚子を振り向かせると顔面蒼白で、生気がない。柚子を抱きしめ、子供の頃のように背中を擦る。
そうするしか出来なかった。
◇◇◇◇◇
「……れい……じさ……」
うわ言のように零士の名前を呼ぶ。毎晩、そうやって目が覚める。
目が覚めてはそこにいないことに落胆する。
テレビで見た報道は嘘であって欲しいと願う。
だけど、毎日のように報道されてる。それを見る度に苦しくなる。
毎日毎日、祈ってる。
零士が無事でありますようにと。
零士の回復を誰よりも祈ってる。
零士と別れて2ヶ月以上は過ぎた。季節はもう秋の始まりに差し掛かっていた。
柚子の様子は相変わらずで、だけどアパートにいた頃よりも自分の回りのことや教材を開く時間が増えてきた頃だった。
そんな頃に零士の事件が起きたのだ。
「……んで?なんでなの?」
テレビで報道される度に呟く。
呟いてることにも柚子は気付かないくらいに、無意識だった。
夜。部屋でポツンとしていると、湊から電話が入る。湊からは定期的に連絡が入る。
実家に戻って来てから暫くは、湊からの電話が鳴っても出ることはなかった。だが数日たつ頃には、ちゃんと電話に出るようになった。
この夜の湊からの電話を恐る恐る出た柚子。声が震えていた。
『……しもし?』
だが、それ以上に湊の声が震えてる。
事件当日は湊からの電話はなかった。というよりは出来なかったのだろう。そんな湊が柚子に連絡してきたのは、事件があってから一週間経った頃だった。
「お……兄ちゃん?」
湊の声が震えてるから、何かあったのかと不安になる。なかなか話をしない湊に柚子は何度か呼び掛ける。
『……柚子』
漸く柚子の名前を呼んだ湊の声は、震えたままだった。
『零士のこと……、知ってるか?』
事件のことを言ってるであろう言葉に柚子は「……ん」と答える。
スマホを持つ手が震えてる。
『アイツ……、腹に結構な傷負って……、とりあえず命は助かったんだが……、まだ………意識が戻らない』
話ながらも震える湊の姿が見えるようだった。柚子も聞きながら震えてる。
湊も柚子も、大切な存在である零士を失いたくないのだ。
『でも!アイツは頑張ってるから!』
自分に言い聞かせるように大きな声を出した湊に、柚子は「うん……」と答えるしかない。
「お兄ちゃ……っ、病院、連れて……行って……」
絞り出すように声を出した柚子は、湊にそうお願いをした。
『……会えねぇぞ』
「分かってる。それでも傍に……いたい………」
柚子の声を聞いて、湊は黙った。痛いくらい、柚子の気持ちを分かっていたからだ。
『……日曜日。迎えにいく』
湊はそう言って電話を切った。
◇◇◇◇◇
実家に湊が来たのは昼前だった。自分の部屋で落ち着かない様子で座ってる柚子は、震えていた。
「柚子」
「……お兄ちゃん」
不安げな顔で湊を見上げる。ぽんと頭に手を置いた湊は、微かに笑った。
「行くぞ」
ゆっくりと柚子を立ち上がらせる。掴んだ腕が細くて湊は驚愕する。
(こんなにも細くなって……)
湊は柚子の事を思って胸が苦しくなる。実家に戻ってきてもこんなにも細いまま。兄としてはとても辛く苦しかった。それはきっと、両親も同じだろう。
「母さん。ちょっと柚子、連れていく」
キッチンにいる母親にそう告げると、柚子を連れて家を出る。車の助手席に座った柚子は、シートベルトをする。
ちゃんと自分でシートベルトが出来たことに湊は安堵した。
「じゃ行くぞ」
エンジンをかけ、車を走らせる。カーステレオからはラジオが流れている。そのラジオのリクエストにBRの曲が流れてくる。その曲を聴いて、自然と涙が出てくる。
「大丈夫……よね?」
不安そうに言う柚子に湊は答えられなかった。
柚子は手にしていた教材を落とした。
テレビから流れてきた速報を耳にしたのだ。
(……なに?どういうこと?)
実家の自分の部屋。何気なくつけたテレビから流れた速報。
──本日正午、BLUE ROSEのREIJIがファンの女性に腹部を刺されるという事件が起きました──
アナウンサーの声が耳から離れない。
動けなくなっていた柚子に気付いたのは、洗濯物を取り込んでいた母親。
「柚子?」
柚子の部屋から流れるテレビの音に驚いていた。
「柚子!」
柚子を振り向かせると顔面蒼白で、生気がない。柚子を抱きしめ、子供の頃のように背中を擦る。
そうするしか出来なかった。
◇◇◇◇◇
「……れい……じさ……」
うわ言のように零士の名前を呼ぶ。毎晩、そうやって目が覚める。
目が覚めてはそこにいないことに落胆する。
テレビで見た報道は嘘であって欲しいと願う。
だけど、毎日のように報道されてる。それを見る度に苦しくなる。
毎日毎日、祈ってる。
零士が無事でありますようにと。
零士の回復を誰よりも祈ってる。
零士と別れて2ヶ月以上は過ぎた。季節はもう秋の始まりに差し掛かっていた。
柚子の様子は相変わらずで、だけどアパートにいた頃よりも自分の回りのことや教材を開く時間が増えてきた頃だった。
そんな頃に零士の事件が起きたのだ。
「……んで?なんでなの?」
テレビで報道される度に呟く。
呟いてることにも柚子は気付かないくらいに、無意識だった。
夜。部屋でポツンとしていると、湊から電話が入る。湊からは定期的に連絡が入る。
実家に戻って来てから暫くは、湊からの電話が鳴っても出ることはなかった。だが数日たつ頃には、ちゃんと電話に出るようになった。
この夜の湊からの電話を恐る恐る出た柚子。声が震えていた。
『……しもし?』
だが、それ以上に湊の声が震えてる。
事件当日は湊からの電話はなかった。というよりは出来なかったのだろう。そんな湊が柚子に連絡してきたのは、事件があってから一週間経った頃だった。
「お……兄ちゃん?」
湊の声が震えてるから、何かあったのかと不安になる。なかなか話をしない湊に柚子は何度か呼び掛ける。
『……柚子』
漸く柚子の名前を呼んだ湊の声は、震えたままだった。
『零士のこと……、知ってるか?』
事件のことを言ってるであろう言葉に柚子は「……ん」と答える。
スマホを持つ手が震えてる。
『アイツ……、腹に結構な傷負って……、とりあえず命は助かったんだが……、まだ………意識が戻らない』
話ながらも震える湊の姿が見えるようだった。柚子も聞きながら震えてる。
湊も柚子も、大切な存在である零士を失いたくないのだ。
『でも!アイツは頑張ってるから!』
自分に言い聞かせるように大きな声を出した湊に、柚子は「うん……」と答えるしかない。
「お兄ちゃ……っ、病院、連れて……行って……」
絞り出すように声を出した柚子は、湊にそうお願いをした。
『……会えねぇぞ』
「分かってる。それでも傍に……いたい………」
柚子の声を聞いて、湊は黙った。痛いくらい、柚子の気持ちを分かっていたからだ。
『……日曜日。迎えにいく』
湊はそう言って電話を切った。
◇◇◇◇◇
実家に湊が来たのは昼前だった。自分の部屋で落ち着かない様子で座ってる柚子は、震えていた。
「柚子」
「……お兄ちゃん」
不安げな顔で湊を見上げる。ぽんと頭に手を置いた湊は、微かに笑った。
「行くぞ」
ゆっくりと柚子を立ち上がらせる。掴んだ腕が細くて湊は驚愕する。
(こんなにも細くなって……)
湊は柚子の事を思って胸が苦しくなる。実家に戻ってきてもこんなにも細いまま。兄としてはとても辛く苦しかった。それはきっと、両親も同じだろう。
「母さん。ちょっと柚子、連れていく」
キッチンにいる母親にそう告げると、柚子を連れて家を出る。車の助手席に座った柚子は、シートベルトをする。
ちゃんと自分でシートベルトが出来たことに湊は安堵した。
「じゃ行くぞ」
エンジンをかけ、車を走らせる。カーステレオからはラジオが流れている。そのラジオのリクエストにBRの曲が流れてくる。その曲を聴いて、自然と涙が出てくる。
「大丈夫……よね?」
不安そうに言う柚子に湊は答えられなかった。
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