85 / 104
第5章
16
しおりを挟む
バサバサ……ッ!
柚子は手にしていた教材を落とした。
テレビから流れてきた速報を耳にしたのだ。
(……なに?どういうこと?)
実家の自分の部屋。何気なくつけたテレビから流れた速報。
──本日正午、BLUE ROSEのREIJIがファンの女性に腹部を刺されるという事件が起きました──
アナウンサーの声が耳から離れない。
動けなくなっていた柚子に気付いたのは、洗濯物を取り込んでいた母親。
「柚子?」
柚子の部屋から流れるテレビの音に驚いていた。
「柚子!」
柚子を振り向かせると顔面蒼白で、生気がない。柚子を抱きしめ、子供の頃のように背中を擦る。
そうするしか出来なかった。
◇◇◇◇◇
「……れい……じさ……」
うわ言のように零士の名前を呼ぶ。毎晩、そうやって目が覚める。
目が覚めてはそこにいないことに落胆する。
テレビで見た報道は嘘であって欲しいと願う。
だけど、毎日のように報道されてる。それを見る度に苦しくなる。
毎日毎日、祈ってる。
零士が無事でありますようにと。
零士の回復を誰よりも祈ってる。
零士と別れて2ヶ月以上は過ぎた。季節はもう秋の始まりに差し掛かっていた。
柚子の様子は相変わらずで、だけどアパートにいた頃よりも自分の回りのことや教材を開く時間が増えてきた頃だった。
そんな頃に零士の事件が起きたのだ。
「……んで?なんでなの?」
テレビで報道される度に呟く。
呟いてることにも柚子は気付かないくらいに、無意識だった。
夜。部屋でポツンとしていると、湊から電話が入る。湊からは定期的に連絡が入る。
実家に戻って来てから暫くは、湊からの電話が鳴っても出ることはなかった。だが数日たつ頃には、ちゃんと電話に出るようになった。
この夜の湊からの電話を恐る恐る出た柚子。声が震えていた。
『……しもし?』
だが、それ以上に湊の声が震えてる。
事件当日は湊からの電話はなかった。というよりは出来なかったのだろう。そんな湊が柚子に連絡してきたのは、事件があってから一週間経った頃だった。
「お……兄ちゃん?」
湊の声が震えてるから、何かあったのかと不安になる。なかなか話をしない湊に柚子は何度か呼び掛ける。
『……柚子』
漸く柚子の名前を呼んだ湊の声は、震えたままだった。
『零士のこと……、知ってるか?』
事件のことを言ってるであろう言葉に柚子は「……ん」と答える。
スマホを持つ手が震えてる。
『アイツ……、腹に結構な傷負って……、とりあえず命は助かったんだが……、まだ………意識が戻らない』
話ながらも震える湊の姿が見えるようだった。柚子も聞きながら震えてる。
湊も柚子も、大切な存在である零士を失いたくないのだ。
『でも!アイツは頑張ってるから!』
自分に言い聞かせるように大きな声を出した湊に、柚子は「うん……」と答えるしかない。
「お兄ちゃ……っ、病院、連れて……行って……」
絞り出すように声を出した柚子は、湊にそうお願いをした。
『……会えねぇぞ』
「分かってる。それでも傍に……いたい………」
柚子の声を聞いて、湊は黙った。痛いくらい、柚子の気持ちを分かっていたからだ。
『……日曜日。迎えにいく』
湊はそう言って電話を切った。
◇◇◇◇◇
実家に湊が来たのは昼前だった。自分の部屋で落ち着かない様子で座ってる柚子は、震えていた。
「柚子」
「……お兄ちゃん」
不安げな顔で湊を見上げる。ぽんと頭に手を置いた湊は、微かに笑った。
「行くぞ」
ゆっくりと柚子を立ち上がらせる。掴んだ腕が細くて湊は驚愕する。
(こんなにも細くなって……)
湊は柚子の事を思って胸が苦しくなる。実家に戻ってきてもこんなにも細いまま。兄としてはとても辛く苦しかった。それはきっと、両親も同じだろう。
「母さん。ちょっと柚子、連れていく」
キッチンにいる母親にそう告げると、柚子を連れて家を出る。車の助手席に座った柚子は、シートベルトをする。
ちゃんと自分でシートベルトが出来たことに湊は安堵した。
「じゃ行くぞ」
エンジンをかけ、車を走らせる。カーステレオからはラジオが流れている。そのラジオのリクエストにBRの曲が流れてくる。その曲を聴いて、自然と涙が出てくる。
「大丈夫……よね?」
不安そうに言う柚子に湊は答えられなかった。
柚子は手にしていた教材を落とした。
テレビから流れてきた速報を耳にしたのだ。
(……なに?どういうこと?)
実家の自分の部屋。何気なくつけたテレビから流れた速報。
──本日正午、BLUE ROSEのREIJIがファンの女性に腹部を刺されるという事件が起きました──
アナウンサーの声が耳から離れない。
動けなくなっていた柚子に気付いたのは、洗濯物を取り込んでいた母親。
「柚子?」
柚子の部屋から流れるテレビの音に驚いていた。
「柚子!」
柚子を振り向かせると顔面蒼白で、生気がない。柚子を抱きしめ、子供の頃のように背中を擦る。
そうするしか出来なかった。
◇◇◇◇◇
「……れい……じさ……」
うわ言のように零士の名前を呼ぶ。毎晩、そうやって目が覚める。
目が覚めてはそこにいないことに落胆する。
テレビで見た報道は嘘であって欲しいと願う。
だけど、毎日のように報道されてる。それを見る度に苦しくなる。
毎日毎日、祈ってる。
零士が無事でありますようにと。
零士の回復を誰よりも祈ってる。
零士と別れて2ヶ月以上は過ぎた。季節はもう秋の始まりに差し掛かっていた。
柚子の様子は相変わらずで、だけどアパートにいた頃よりも自分の回りのことや教材を開く時間が増えてきた頃だった。
そんな頃に零士の事件が起きたのだ。
「……んで?なんでなの?」
テレビで報道される度に呟く。
呟いてることにも柚子は気付かないくらいに、無意識だった。
夜。部屋でポツンとしていると、湊から電話が入る。湊からは定期的に連絡が入る。
実家に戻って来てから暫くは、湊からの電話が鳴っても出ることはなかった。だが数日たつ頃には、ちゃんと電話に出るようになった。
この夜の湊からの電話を恐る恐る出た柚子。声が震えていた。
『……しもし?』
だが、それ以上に湊の声が震えてる。
事件当日は湊からの電話はなかった。というよりは出来なかったのだろう。そんな湊が柚子に連絡してきたのは、事件があってから一週間経った頃だった。
「お……兄ちゃん?」
湊の声が震えてるから、何かあったのかと不安になる。なかなか話をしない湊に柚子は何度か呼び掛ける。
『……柚子』
漸く柚子の名前を呼んだ湊の声は、震えたままだった。
『零士のこと……、知ってるか?』
事件のことを言ってるであろう言葉に柚子は「……ん」と答える。
スマホを持つ手が震えてる。
『アイツ……、腹に結構な傷負って……、とりあえず命は助かったんだが……、まだ………意識が戻らない』
話ながらも震える湊の姿が見えるようだった。柚子も聞きながら震えてる。
湊も柚子も、大切な存在である零士を失いたくないのだ。
『でも!アイツは頑張ってるから!』
自分に言い聞かせるように大きな声を出した湊に、柚子は「うん……」と答えるしかない。
「お兄ちゃ……っ、病院、連れて……行って……」
絞り出すように声を出した柚子は、湊にそうお願いをした。
『……会えねぇぞ』
「分かってる。それでも傍に……いたい………」
柚子の声を聞いて、湊は黙った。痛いくらい、柚子の気持ちを分かっていたからだ。
『……日曜日。迎えにいく』
湊はそう言って電話を切った。
◇◇◇◇◇
実家に湊が来たのは昼前だった。自分の部屋で落ち着かない様子で座ってる柚子は、震えていた。
「柚子」
「……お兄ちゃん」
不安げな顔で湊を見上げる。ぽんと頭に手を置いた湊は、微かに笑った。
「行くぞ」
ゆっくりと柚子を立ち上がらせる。掴んだ腕が細くて湊は驚愕する。
(こんなにも細くなって……)
湊は柚子の事を思って胸が苦しくなる。実家に戻ってきてもこんなにも細いまま。兄としてはとても辛く苦しかった。それはきっと、両親も同じだろう。
「母さん。ちょっと柚子、連れていく」
キッチンにいる母親にそう告げると、柚子を連れて家を出る。車の助手席に座った柚子は、シートベルトをする。
ちゃんと自分でシートベルトが出来たことに湊は安堵した。
「じゃ行くぞ」
エンジンをかけ、車を走らせる。カーステレオからはラジオが流れている。そのラジオのリクエストにBRの曲が流れてくる。その曲を聴いて、自然と涙が出てくる。
「大丈夫……よね?」
不安そうに言う柚子に湊は答えられなかった。
0
お気に入りに追加
32
あなたにおすすめの小説
【完結】【R18】男色疑惑のある公爵様の契約妻となりましたが、気がついたら愛されているんですけれど!?
夏琳トウ(明石唯加)
恋愛
「俺と結婚してくれたら、衣食住完全補償。なんだったら、キミの実家に支援させてもらうよ」
「え、じゃあ結婚します!」
メラーズ王国に住まう子爵令嬢マーガレットは悩んでいた。
というのも、元々借金まみれだった家の財政状況がさらに悪化し、ついには没落か夜逃げかという二択を迫られていたのだ。
そんな中、父に「頼むからいい男を捕まえてこい!」と送り出された舞踏会にて、マーガレットは王国の二大公爵家の一つオルブルヒ家の当主クローヴィスと出逢う。
彼はマーガレットの話を聞くと、何を思ったのか「俺と契約結婚しない?」と言ってくる。
しかし、マーガレットはためらう。何故ならば……彼には男色家だといううわさがあったのだ。つまり、形だけの結婚になるのは目に見えている。
そう思ったものの、彼が提示してきた条件にマーガレットは飛びついた。
そして、マーガレットはクローヴィスの(契約)妻となった。
男色家疑惑のある自由気ままな公爵様×貧乏性で現金な子爵令嬢。
二人がなんやかんやありながらも両想いになる勘違い話。
◆hotランキング 10位ありがとうございます……!
――
◆掲載先→アルファポリス、ムーンライトノベルズ、エブリスタ
性欲のない義父は、愛娘にだけ欲情する
如月あこ
恋愛
「新しい家族が増えるの」と母は言った。
八歳の有希は、母が再婚するものだと思い込んだ――けれど。
内縁の夫として一緒に暮らすことになった片瀬慎一郎は、母を二人目の「偽装結婚」の相手に選んだだけだった。
慎一郎を怒らせないように、母や兄弟は慎一郎にほとんど関わらない。有希だけが唯一、慎一郎の炊事や洗濯などの世話を妬き続けた。
そしてそれから十年以上が過ぎて、兄弟たちは就職を機に家を出て行ってしまった。
物語は、有希が二十歳の誕生日を迎えた日から始まる――。
有希は『いつ頃から、恋をしていたのだろう』と淡い恋心を胸に秘める。慎一郎は『有希は大人の女性になった。彼女はいずれ嫁いで、自分の傍からいなくなってしまうのだ』と知る。
二十五歳の歳の差、養父娘ラブストーリー。
先生!放課後の隣の教室から女子の喘ぎ声が聴こえました…
ヘロディア
恋愛
居残りを余儀なくされた高校生の主人公。
しかし、隣の部屋からかすかに女子の喘ぎ声が聴こえてくるのであった。
気になって覗いてみた主人公は、衝撃的な光景を目の当たりにする…
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
【R-18】悪役令嬢ですが、罠に嵌まって張型つき木馬に跨がる事になりました!
臣桜
恋愛
悪役令嬢エトラは、王女と聖女とお茶会をしたあと、真っ白な空間にいた。
そこには張型のついた木馬があり『ご自由に跨がってください。絶頂すれば元の世界に戻れます』の文字が……。
※ムーンライトノベルズ様にも重複投稿しています
※表紙はニジジャーニーで生成しました
冷酷無比な国王陛下に愛されすぎっ! 絶倫すぎっ! ピンチかもしれませんっ!
仙崎ひとみ
恋愛
子爵家のひとり娘ソレイユは、三年前悪漢に襲われて以降、男性から劣情の目で見られないようにと、女らしいことを一切排除する生活を送ってきた。
18歳になったある日。デビュタントパーティに出るよう命じられる。
噂では、冷酷無悲な独裁王と称されるエルネスト国王が、結婚相手を探しているとか。
「はあ? 結婚相手? 冗談じゃない、お断り」
しかし両親に頼み込まれ、ソレイユはしぶしぶ出席する。
途中抜け出して城庭で休んでいると、酔った男に絡まれてしまった。
危機一髪のところを助けてくれたのが、何かと噂の国王エルネスト。
エルネストはソレイユを気に入り、なんとかベッドに引きずりこもうと企む。
そんなとき、三年前ソレイユを助けてくれた救世主に似た男性が現れる。
エルネストの弟、ジェレミーだ。
ジェレミーは思いやりがあり、とても優しくて、紳士の鏡みたいに高潔な男性。
心はジェレミーに引っ張られていくが、身体はエルネストが虎視眈々と狙っていて――――
王女、騎士と結婚させられイかされまくる
ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。
性描写激しめですが、甘々の溺愛です。
※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる